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お話199  ありがとう

 ナイトプールのテラスで乾杯し、大人の時間が始まった。

 グラスを傾ける色っぽい服装の恋人たちは、煌びやかなライトアップの雰囲気に酔いしれて、今夜はへべれけになる気とヤル気を満々に杯を重ねている。

 うるうたんもうーこちゃんもゴリさんもおへそ丸出しのセパレートな格好で、周囲の野郎どもの視線を釘付けにしていた。

 しきりに声をかけてくる男たちをスルーし、カクテルを酌み交わしては気勢をあげている。

 リゾート地だけあって酒盛りの遂行を止められるはずもないが、それゆえ俺は介抱役として控えめにいただくつもりだ。

 時折吹き付ける風が気持ちいい。この子たちが杯を重ねるのは道理であろう。


「なんというか、こういうしゃれた場所で九介といるのは不思議な感覚だ」

「合コンの幹事でこんなラウンジあったんよね」

「そんな洗練された空間にキューちゃんがいる場違い感……あたしはかえってほっとしてるんだけど」


 小さい子のからかうような台詞で二人の美人さんが顔を見合わせる。

 そして一斉にこちらを向いて吹き出していた。

 

 南国リゾートを模倣した空間は若い連中で溢れかえっている。

 小僧の当方はうーこちゃんの言葉通り、居心地はあまりよくない。

 一方恋人たちは開放感にさらされてガールズトークはさらに弾んでいるようで、目の前のはしゃぎっぷりを見るに、さすがに女の子だなあと思う。

 変人を受け入れる懐の深い生き物とて、年相応の嗜好というやつを実感して忸怩(じくじ)たる思いにとらわれた。

 やはりおっさんロマンだけでは片手落ちというものだ。

 これからはデートをするにも相応の計画を練らねばなるまい。


 スパイシーな肉料理やお魚などの品目を奪い合うようにもふもふし、幻想的な風景のなかでわが膝上を奪い合い、煽って笑って飲んで騒ぐ宴で三人のテンションはすでに最高潮になっている。

 そこには牙を研ぐ雄たちが出張る隙はない。

 男として認識される俺のほうも動作の決定権はなく、引っ張ぱられてはチューされ馬乗りで抱きしめられたり、まさにおもちゃの様相だ。

 彼女たちが楽しそうで嬉しそうなのを見守って満足していたので、第三者から突き刺さる視線をスルーした。


「きゅすけ~」


 ナニの誘いを口走るうるうたんの口をふさぐ。

 馬乗りの眼鏡っ子から唇で蓋をされる。

 笑い上戸の小さい子から頭をばんばん叩かれる。それぞれ程よく酔ってきた。

 撤退の頃合だ。

 立ち上がってうーこちゃんを支える。ポニーテールを揺らしてふらふらする色白娘に駆け寄ろうとする見知らぬ男、長い髪を風になびかせた麗しい黒髪の美人さんにも狩人が近寄る。

 だがいずれも一瞥すら与えることなく、肘鉄を食らわしてこちらに寄ってきた。


「つまんないの。もう尻軽しないのかあ」

「うちがああいうのに引っかかることは以前もこれからもないよ!」

「私と五里くんをふらふらさせる程の男は自ら切った。もうビッチ扱いはさせない」


 お酒の香りと女の子の匂いに纏わりつかれながらも、予約してあるホテルの部屋に向かう。

 その道すがらでさえ誘いの声をかけられる彼女たちの見目良い姿は、このリゾート地にあっても突出していたといえる。

 

 夜景の見えるファミリータイプの四人部屋に辿りついた。

 和洋室の作りになっているも、おねむに使うのは二つあるベッドになるであろうことを考えると、敷布団の出番はないだろう。


「じゃーんけん」


 色っぽい格好の酔っぱらい娘たちがわーきゃー騒ぐなか、俺は眺望を満喫できるバスルームにてお湯を張った。

 酔いどれでお風呂は危険だと考えたが、どうしても譲らないという主の意見で従が折れた形になる。

 俺はほぼしらふなので事故に至ることはないだろう。


「うちが一番だっ」

「せいぜい溺れないよう気をつけろ」

「最初だからって根こそぎしないでね!」


 脱衣所からうるうたんの剣呑な台詞とうーこちゃんの妬み声がする。

 ゴリさんが飛び跳ねているような気配がした。

 腕組みをしながら浴槽のお湯の流れを見ていると、ほどよいへべれけで興奮したのか、ポニーテールの眼鏡っ子が俺の名を呼びながら扉を開けて飛び込んできた。


「てや!」

「おほっ」


 軽快にジャンプしてきた乱入者を受け止める。

 見れば彼女は髪を下ろして眼鏡もない。毛髪にはそれぞれパーソナルカラーがあって、この子の場合は深い度合いのアッシュブラウンというのだそうだ。

 黒い髪のうるうたんや、アッシュベージュのうーこちゃんのほぼ間に属する色とでもいおうか。

 以前にいとこの広から教授してもらったことで見知った次第だ。


「あー、これって夜景が見えるお風呂なんだあ」

「ロマンですなあ」


 ゴリさんが大きな窓から広がる絶景に気付いた。

 こちらとしても当然感じるものがあってそれに見入る。

 眉が濃く長い髪のこの子の横顔はうるうたんにけして劣らず、鼻筋が整った南方系の美人さんである。

 よくもまあここまで色っぽくも綺麗になったものだ、と相手の火照った頬を見ながら他人事のように感慨にふけった。

 お湯を掬い取った色白娘がにっこり笑って俺を見上げ、水滴を飛ばしてくる。


「これからは態度で示すよ!」

「え?」

「八べえみたいに言い訳しないんだ」


 セパレートの上を脱いだ彼女は下着をつけていなかった。

 想像以上に豊かな胸を弾ませて密着してくる。


「だけど愛の誓いは高言しなきゃ」


 嫣然と微笑みながら、慣れた所作でボトムも脱ぎだした。


「うちを見つけてくれてありがとう。余所見を何度も許してくれてありがとう。そしてそんなうちを受け入れてくれて……もう、それしか言えないけど……ありがとう」


 俺も頷くことしかできなかった。多くの言葉は必要ないだろう。

 一糸まとわぬゴリさんの白くなめらかな肌は綺麗で、煩悩より感動を呼び覚まされた。柔らかく肉感的な肢体を抱きしめる。


「八べえも脱ぐんだぜ」

「お風呂だしね」

「さてさて」


 ゴリさんが感極まって赤くなった面持ちをやらしい表情に一変させた。

 何かを思いついたようだ。


「うちもロマンを見ようっと」


 広い浴槽に身を投げた濃い眉の美人さんが、両肘をついて外を窺う。

 必殺の体勢は見慣れていたと思っていた。だが真っ裸のそれはさすがに衝撃にすぎた。

 以下の媚態は省略せざるを得ない。





「お先にいただいたよー」


 湯上り玉子肌のゴリさんが酔いの抜けた足取りで、ベッドの上で話し込んでいたうるうたんとうーこちゃんのもとへ向かった。

 俺は酔いではない何かを抜かれて賢者気分でそれに続く。

 じゃんけんでお風呂の順番が決まっていたのか、次は自分だとばかりに小さい子が俺を脱衣所へ連れて行こうとした。

 満足気にもうひとつのベッドへ寝転がるゴリさんをよそに、うるうたんが続いてついてくる。


「邪魔だよ?」

「さすがに何回もこれを風呂に付き合わせるわけにはいくまい?」

「敗者は黙って従ってよねー」

「五里くんが三回するなら私も三回だ。だがさすがの変態も九回は無理だろう」


 恐ろしい奉仕回数を口走る痴女が、にやりと悪い笑みを浮かべて髪をかきあげる。

 互いに酔いどれなので論争はいい加減に、そのまま三人で脱衣所へなだれ込もうとした。


「閉めるな!」


 扉の外へ締め出そうとする可愛い子と、それを開けようとする美人さんがいがみ合う。


「きゅ~すけー」


 珍しい助けを求める声に、俺は締め出したうーこちゃんを制して泣き虫を中に迎え入れた。

 うるうたんが俺に抱きつきながらむううと唸る。

 二人きりを邪魔された彼女が嘆息した。


「そうやって甘やかすから、このでか尻おばさんは性懲りもなく浮気をするんだよ」

「ふん、私が九介を困らせるほど余所見したのはただの一人だけだ。拡大解釈で人を尻軽呼ばわりはいい加減やめてもらいたいな」

「純情系ビッチの請負はやめたのね」

「彼との恋をビッチだというのならもうそれは終わったことさ。他の男など私の眼中にはないし、これだけにやらしいというのなら尻軽には値しない」

「理論武装だ!」

「小賢しいのは君だろ!」


 ぐぬぬぬと睨み合う横で、当方は諦めよく寝間着のジャージを脱ぎだした。

 はいと両腕を上げたうーこちゃんの意図を察し、そのシャツをめくりあげる。


「九介、なぜ小さい色気なしの服から脱がしているんだ!」

「嫁の特権さ」

「くそくそくそっ」

「うるうたんはしたない」


 歯噛みして涙ぐむ美人さんは酔ったせいか子供そのものだ。

 バスルームに入り、ガラス一面の夜景におおーっという感慨を放ったうーこちゃんが泡立ての用意を、うるうたんがシャワーを手にした。

 小さいながらもひきしまった裸、出るとこ引っ込むとこ秀逸で抜群のスタイルの裸、双方の動きで当方の動きも一部が活発になっている。


「洗いっこしましょー」

「その態勢は泡仕事そのものなのでやめて下さい」

「いーじゃんか、キューちゃん専用の風俗――」

「やめんか」


 風呂いすに座る俺の目の前で女の子座りしたうーこちゃんに、年上の美人さんがシャワー器具でぽかりと叩く。うへっというリアクションを聞いた。

 譲らないショートボブの子が前を死守し、不承不承ながらも背中を流し始めたうるうたんに挟まれて、とりあえずなすがままにさせていた。


「伝えたいことがあれば今言っちゃえば?」

「ん?」


 わが体を手洗いする小さな痴女が、後にいるうるうたんに声をかけた。

 俺は黙って聞いていた。


「五里さんがすっきりした顔になっていたように、妾としてあらためてぶちまけておきたいことがあるんでしょ?」

「鋭いというか機敏というか」

「正妻の寛容さで許してあげるのだよ!」

「……ならここは甘乗っかりさせてもらおう」

 

 うるうたんが苦笑した。うーこちゃんの手の動きで声が漏れそうになるも、後にいる年上の恋人がぎゅっと抱きしめてくるのに反応してさらに動悸が速くなった。

 豊かな双丘を押し付けられて逆に無表情になる。防衛本能というやつだ。


「悔しい」

「ハイ」

「嫁は私だった。それが自業自得で今は妾だ」

「ハイ」


 首をきめられて揺さぶられているのは、返事を求めてのことだろう。

 逆らわずに肯定しておいた。


「だが九介が一番を決めてくれたおかげで、私は決心することができた。いつまでもふらふら余所見の尻軽から抜け出すきっかけを与えてくれた。君は一度決めたことは頑固に守り通す男だ。捨てるという言葉は絶対に吐かない、という信念に救われて、今もこうさせてもらっている」

「……」


 思わず自分自身に何様だと悪態をついた。うーこちゃんはキューちゃん様だと笑っている。 既視感を覚えたがすぐに忘却した。


「もうすでに五里くんから聞いた言葉なんだろうけど、私も言わせてほしい」


 肩ごしにうるうたんの綺麗な面がにゅっと伸びてきた。

 ささやく彼女の吐息が熱い。


「私が望めばいつだって受けとめてくれる。許してくれる。もはや優しいとか寛容とか懐が深いのを飛び越えて、天井知らずのバカだ」

「すばらしい褒め言葉だねえキューちゃん」

「はあ」


 モジャさんと同じことを言う。皆そういう認識なのだろうか。

 うーこちゃんが前から、うるうたんが後ろから、抱擁のサンドイッチになった。

 心頭滅却。


「ありがとう九介、愛しているよ。ありがとう」


 昂ぶりながら、しかし堂々としたの愛の告白は自然にすぎた。

 それでも背中から美人さんの動悸が伝わってくる。


「俺も好きですようるうたん」

「うん」

「あたしもキューちゃんを愛してるよ!」


 負けん気を発揮して小さい子が密着しながら声を張る。

 甘い台詞がバスルームに飛び交った。


「くどき文句のバーゲンセールだな」

「キューちゃんは軽々しくそいういうことは言わないんだけどね。二度目かな?」


 ふうと息をついて圧し掛かるうるうたんと、ちゅっちゅを繰り返すうーこちゃんの迫り具合で、浴室はさらにむせかえるような熱気に包まれた。

 汗まみれになったので再度の洗いっこに移行する。


「ってか、尻軽ビッチ卒業宣言だね!」

「そういうことにしておくさ」


 うるうたんがやれやれと肩をすくませながら立ち上がる。

 胸部と臀部の豊かさは目を見張るほどで、あらためて見る裸の神々しさに目を奪われた。うーこちゃんが何度も舌打ちをしていた。


「あーあ。キューちゃんが元気になっちゃった」

「当然だ。君に劣る心の部分を補う、私の最大の武器だからな」

「あたしが見てもいい体してるもんねえ。このでか尻ならどんな男だって」


 恋敵の大桃にぺちぺち触れるうーこちゃんはかなり悔しそうだ。

 造形美が揺れて、洗えという無言の誘いに気付いた俺はボディスポンジを手に取った。

 余所見や浮気をこなして経験したぶん、尻具合やら醸し出す色気は以前より倍加した気がする。

 見られたり他の男に触られたりして開発されたというべきか。

 その恩恵を受けられる当方は、ただいま緊張しすぎの一部をうーこちゃんに弄ばれながら、実際にもみもみさすさすと遠慮のないおさわりを展開している。


「よし綺麗になった」


 泡を洗い流し終えたうるうたんが、腰のくびれに片手を当てて、後ろ向きのまま造形美を見せ付けるモデル立で秀麗な横顔を見せている。

 ええシリしてまんなあ、という感慨が頭をよぎった。おっさんが放つ関西弁にならざるを得ないすばらしい物体であった。


「あいてててて」

「見すぎ!」

「そこつねらないでうーこちゃん」

「ぷ」


 うるうたんが堪えきれず吹き出した。歯軋りが聞こえてきそうにプンスカする小さい子から逃れるべく立ち上がる。

 逃がさじと美人さんもくっついてくる。ドタバタする浴室の様子を感じたのか、扉を開けてポニーテールの眼鏡っこが顔を見せた。


「うちを呼んだ?」

「お呼びでない。むちむちは引っ込んでろ」

「でか尻さんはおねむしててねー」


 扉の押し合いへし合いが始まるのを横目に、俺は再度浴槽に身を沈める。

 等分の働きは八方美人の義務である。

 少しだけでも体を休めておこう。今夜は徹夜になるだろう。

次回は12月1日更新になります

そしてお話200ということで、最終話です



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