表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

143/148

第143話 王都の下水道トンネル、そこはスライムの繁殖地

「アッハッハッハッ、シャベル、お前やるな。あのギルド長が頭を抱えるって、中々見れるもんじゃないぞ? まぁあのままギルド長執務室にいたらどんなとばっちりを喰らうか分からねえから逃げてきたが、スゲー楽しかった」

そう言いシャベルの背中をバンバン叩く白金級冒険者エステバン。周囲の冒険者たちはめったに見る事のないエステバンの楽しげな様子に、「隣にいる男は何者だ?」と噂し合う。


冒険者ギルド本部のギルド長執務室を後にしたシャベルとエステバンは、シャベルの受注した下水道のスライム退治の依頼を受ける為、王都の大通りを王都下水道管理局に向かい歩いていた。


「しかしシャベルがエリクサーを薬師ギルドに持ち込んだ張本人だったとはな、あの話は冒険者ギルド本部でも結構な噂話になったんだよ。エリクサーの発見自体話題性が高いんだが、それがオークションじゃなく薬師ギルドでの販売だろ? 確か値段は過去のオークション価格の平均だったか、高いと見るか安いと見るかは人それぞれだろうけど、結局のところ金持ちにしか手が届かないってな」

「あぁ、あのエリクサーは王家に献上する事になった。はじめはライド伯爵領の薬師ギルドセルロイド支部から売り出されたんだが、高位貴族家からの圧力が酷かったようでな。これが王都の薬師ギルド本部から売りに出されたのなら違ったのかもしれないが、地方ギルド支部と侮る貴族家が多かったんだろう、ライド伯爵家も辟易としていたとの話だったな」

シャベルの話に口を開いて呆れるエステバン、貴族の横暴は何度も目にしてきたが、売りに出されてるエリクサー購入に圧力を掛けるとはどういう事なのか。


「それってのはあれか? 購入が決まったエリクサーを横取りしようとかって連中が多かったとか」

「少し違うな、購入者が決まったのなら入金と引き換えに受け渡せばいい。支払いが遅れるようなら購入権が流れるようにすればいいしな。

だが貴族たちは“値引きしろ”、“タダで寄越せ”とかいう意味の分からない要求をする者ばかりだったらしい、ライド伯爵家と薬師ギルドセルロイド支部の関係者もこれにはまいったと言っていたよ。結局騒ぎを治めるために王家に献上してしまえという事になってな、出品者である俺はその付き添いだな」


シャベルの話に乾いた笑いを浮かべるエステバン、白金級冒険者である彼は貴族の横槍や横暴を何度も経験しており、知った事ではないとばかりに要求を蹴飛ばした事は一度や二度ではなかったからである。


「まぁ、貴族社会も大変だよな、ライド伯爵家はご愁傷様って奴だ。でもそれじゃエリクサーの支払いはどうなったんだ? 流石にシャベルから取り上げたら、醜聞なんてもんじゃないぞ?」

「それは大丈夫だ、ライド伯爵家が購入してくれた。支払いは薬師ギルドの口座に振り込まれている」

シャベルの返答に違和感を感じたエステバンは、その疑問を素直にシャベルへぶつけるのだった。


「ん? なんでシャベルが薬師ギルドの口座を持ってるんだ? お前、テイマーっていってなかったか?」

「それは俺が薬師ギルドの正規会員だからだな。職外薬師っていってな、調薬系スキルがなくてもポーションを作れれば薬師ギルドに入れるんだ。

俺は今でこそ金級冒険者なんて大層なことになっているが、ハズレスキル<魔物の友>持ちの俺がここまでくるのは並大抵じゃなかったってことだ」

シャベルの言葉に冒険者ギルドの受付ホールでの騒ぎを思い出したエステバン。

“そういえば受付ホールの冒険者たちがスライムとビッグワームしかテイムできないハズレスキルとか言っていたよな?”

冒険者の上澄みである金級冒険者がスライムとビッグワームしかテイムできないという矛盾、エステバンは改めてシャベルにその事を聞いてみるのであった。


「なぁシャベル、受付ホールで冒険者連中が“スライムとビッグワームしかテイムできないハズレスキル<魔物の友>持ちが金級冒険者になるのはおかしい”とか騒いでいたが、あれってどういう事なんだ? 俺はテイマーのことを全く知らないからシャベルから“やりようによっては他の魔物も<テイム>できる”って言われて納得しちまったが、正直言ってよく分かってねえんだ」

そう言い肩を竦めるエステバン。シャベルはこの気さくな高位冒険者に、“白金級冒険者であってもその地位に驕ることなく知らないことを素直に聞く事が出来るなんて、やっぱり白金級冒険者になるくらいの人は凄い冒険者なんだな”と感服するのだった。


「そうだな、まぁ普通はテイマーについて詳しくなくても仕方がない、冒険者ギルドでは自らの力で戦う者が尊ばれる傾向があるし、そうした者からすればテイマーは魔物に戦わせて自分は安全な場所に引っ込む卑怯者とみられている。自分で戦う力もないハズレ戦闘職って言うのがテイマーに対する一般的な見方だ。

その中でもさらにハズレといわれる<魔物の友>スキルについてはほとんど知られてないと言ってもいい。

エステバンは貴族の間でウルフ種を飼う事が流行っているって話を聞いたことがないか? ウルフ種を幼獣のころから飼育することで<テイム>スキルがなくとも<テイム>する事が出来るようになるって話なんだが」

「おぉ、知ってる知ってる、俺の知り合いの貴族がウルフ種を飼っていてな、自慢げに見せびらかされたことがあったぞ。「男ならやっぱりグラスウルフだろう」とか言ってたか、目茶苦茶毛並みが良くて、「これ別物だろう」って反論したもんだ」

エステバンはそう言い腕組みをしながら頷きを見せる。シャベルはブラッシングしている時の白銀の事を思い浮かべ、その貴族もグラスウルフとよい関係を築けているのだろうと目を細める。


「<魔物の友>を持つテイマーの<テイム>は、要するに<テイム>スキルがない者の<テイム>と一緒なのさ。スキルにより強制的に従わせる事が出来ない、つまり一般的なテイマーのように魔物を弱らせて支配下に置く事が出来ないんだ。

でも<テイム>により魔物と意思の疎通を取る事は出来る。相手がこちらに対して敵意を持たない魔物であればテイムは可能、その代表的な魔物がスライムとビッグワーム、アイツらは基本的に周囲に対し敵対行動をとらないからな」

シャベルの話に顔を顰めるエステバン、そんなスキルに何の意味があるのかと理解に苦しむ。


「これだけを聞くと何の役にも立たないハズレスキルだと思うかもしれない、実際俺も初めの頃はテイマーとしての自分に何の期待もしていなかったからな。だが様々な経験を積み、<魔物の友>というスキルを知っていくうちにそうではないという事に気が付く事が出来た。このスキルは文字通り“魔物と友達になる”スキル、友達となった魔物と意思の疎通を取ることの出来るスキルなんだとな。

そしてテイム魔物であるスライムとビッグワームとの間に深い絆を築く事が出来た時、驚くような現象が起きた。スライムとビッグワームが進化したんだよ、冒険者ギルドでも進化したスライムとビッグワームの話なんか聞いたこともないと驚いていたよ。

俺が金級冒険者になれた理由は、家族に恵まれたから、この一言だろう。従魔であるスライムとビッグワームは、俺の大切な家族だからな」

そういい笑顔を見せるシャベルにエステバンは理解する、この男は従魔というパーティーメンバーとの信頼を築き上げることで、なるべくして金級冒険者になったのだという事を。

シャベルたちはその後たわいもない話や互いの冒険譚を語りながら、王都の街を進んでいくのであった。


「懐かしいな、ここに来たのは授けの儀が終わって見習い冒険者として登録してた頃以来か? 見習いの頃は街の外の依頼が許されてなかったからな、討伐依頼はこのスライム退治しかなくてよ。

でもそのうち依頼を受ける訳じゃなければ問題ないって事に気が付いてよ、ゴブリンやホーンラビットを解体所に納品するようになって、グラスウルフを納品したときはギルド長に目茶苦茶怒られたっけな~、あの人昔から変わらねえんだよな」

王都下水道管理局の建物の前で懐かしげに目を細めるエステバン。人に歴史あり、シャベルは“白金級冒険者のエステバンにもそんな時代があったのか”と、驚きの表情を向ける。よく聞けば昔からギルド長に迷惑を掛けていたという話なのだが、シャベルはその事に気付くことなく尊敬の眼差しを向ける。


「誰かいるか、スライム退治の依頼を受けてきたんだが」

「あん? 何だ、ようやく来たのかよ。最近の冒険者はやれ汚いとかスライム退治は冒険者の仕事じゃないとか言って全然依頼を受けないどころか、いざ依頼を受けてきてもいい加減な仕事ばかりしやがって。指定範囲のスライムは汚水の流れを詰まらせているスライムが一番の対象で、壁にへばりついているスライムを倒しても流れの改善にはつながらないってことを分かってるんだろうな?

いくら汚れ仕事だからっていい加減な仕事はギルドの報告して・・・えっ? なんでこんなところに白金級冒険者の“雷剣のエステバン”様が? ちょっと、所長ー!! 大変です、白金級冒険者“雷剣のエステバン”様がお越しです、今すぐ来てください!!」

エステバンの姿を認めるや慌てて上司の下に向かう王都下水道管理局の職員。


「なぁエステバン、騒ぎが必要以上に大きくなっているように思うのは俺の気のせいか?」

「仕方がねえだろうが、白金級冒険者ともなると、あちこちで冒険譚が囁かれるようになっちまうんだからよ。ただ普通に仕事しているだけなのにやたら称賛されるのは、結構恥ずかしいんだからな? 俺はそこまで高尚な人間じゃねえって言うのに」

そういい額に手をやるエステバンに、“有名人は大変なんだな”と改めて住む世界が違うのだと納得するシャベル。するとそんな彼らの下に先程上司を呼びに行った下水道管理局の職員が、やや興奮した顔ででっぷりとした太鼓腹の男性を連れて戻ってくるのだった。


「これは高名な白金級冒険者“雷剣のエステバン”様にお会いできるとは、私はこの王都下水道管理局の責任者で所長のテムズ・レイノルドと申します。それで一体どういったご用件でしょうか、内密のお話しでしたら所長室の方へご案内を」

「イヤイヤ、期待してもらってるところすまないが、特に緊急性のある事態とか俺が直接動かなきゃならない何かがあってって訳じゃねえんだ、俺がここにいるのはたまたまでな、うちのギルド長にこいつの世話を頼まれちまったんだよ。

紹介するわ、こいつは金級冒険者のシャベル、ライド伯爵領で活躍している冒険者なんだが、所用で王都に来ていてな。シャベルはこれまで下水道というものを見たことがないらしくてな、下水道を詰まらせるほどスライムが繁殖する現場というものが理解できないって事で、スライム退治の依頼を受けたらしい。ただ金級冒険者がスライム退治の依頼を受けるって事でちょっとした騒ぎになっちまってな、俺にしっかり見張っておけとギルド長から言われちまったんだよ。

ギルド長には借りばっかりあるから少しでも返しておかねえと後が怖いだろう?」


エステバンの言葉に「「あぁ、そういう事ですか」」と納得する所長と職員、どうやらエステバンがやらかすことは有名な話なのだろうと、シャベルはギルド長に同情の念を抱く。


「金級冒険者のシャベルだ、これがギルドカードになる。ギルド受付でスライム退治の簡単な説明は受けてきたんだが、詳しく教えて欲しい。スライムの処分については何か規制や制約はあったりするのか? ただスライムの数を減らせばいいのか、討伐方法に関して条件があるのかによって作業工程を練り直す必要があるんだが」

職員の男性はシャベルの物言いに若干の違和感を感じるも、エステバンが連れてきた冒険者という事で丁寧に仕事内容の説明を行う。


「討伐方法に関してこちらから指定するといった事はありませんが、下水道施設を傷つけたり弱らせる可能性の高い討伐方法は止めていただきたい。補修が必要になるような事態を引き起こした場合は修理費用の請求を行いますのでご注意ください。

それと先程も言いましたが、スライム退治の目的はスライムの数を減らして汚水の流れを改善することです。排水路のスライムを退治することが主になるという事をご理解ください」

「分かった、それでは作業範囲を教えて欲しい。それと誰か証人となる者を付けてもらえると助かる。俺のやり方はかなり特殊でな、作業を終えたと口で説明しても理解してもらえないと思うんだが」


「それでしたら私が一緒に参りましょう。私でしたら作業範囲の説明も現場で出来ますし、問題も起こりにくいでしょうから。所長、それでよろしいでしょうか?」

「あっ、あぁ、よろしく頼むよ。作業が終わったらエステバン様方を所長室にご案内してもらえるかな? シャベル様は下水道自体見ることが初めてという話だし、ぜひ感想を聞かせてもらいたい」

そう言い右手を差し出すテムズ所長にエステバンは仕方がないといった表情で握手を交わす。


「では参りましょうか、構内は暗くなりますので足元にご注意ください」

下水道管理局職員の男性はそう言うと部屋の棚に置かれたランタン型の照明の魔道具を手に取り、エステバンとシャベルを案内して下水道出入口へと向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ