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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり

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第144話 王都の下水道トンネル、そこはスライムの繁殖地 (2)

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

魔道具の明かりが灯された地下へと続く階段、空気は湿気を帯び、足音が壁に反響して響き渡る。シャベルはダンジョンとは違う地下構造物の様相に驚き、周囲に視線を走らせる。


「おいおいシャベル、いくら王都の下水道に潜るのが初めてだからってキョロキョロし過ぎだろう。まるで授けの儀が終わったばかりの見習い冒険者の子供みたいだぞ?」

そんなシャベルの様子を眺めていたエステバンは、その金級冒険者らしからぬ少年のような態度にニヤケ顔を浮かべながら言葉を向ける。


「あぁ、悪い。以前ダンジョン都市にいたことはギルド長が話していたと思うが、王都の下水道施設はダンジョンの遺跡風の階層や洞窟風の階層とも違うと思ってな。地下水路を流れる汚水の関係か、空気からヒンヤリとした感じがするだろう? それに靴音の響き方も大分違う、奥に進んだらどんな空間になっているのか気になってな」

まるで初めてダンジョンを訪れた冒険者のように興味深げなシャベルの様子に、変わった奴だと苦笑するエステバン。前を進む王都下水道管理局の職員はこんなところの何がそんなに楽しいのかと眉をしかめると、「足下に気を付けてください」と取って付けたように注意を促す。


「ここが王都地下下水道になります。スライム除去作業を行っていただく場所はここから一キロメートほど進んだ排水路の交差箇所周辺と、右奥に五百メート進んだ地点までとなります」

深い階段を進んだ先は高さ三メートほどの半楕円形のトンネル空間であり、光源はなく、先を照らす物は王都下水道管理局で貸し出されたカンテラのみ。天井の高さ的に振るうことが出来る武器はショートソードか短槍、槍は扱い方次第だが周囲を傷付けないという制約を考えれば選択肢から外れるだろう。

排水路の隣に点検用の通路があるも排水の詰まりの原因となるスライムを除去するには排水路の中に入らなければならず、そうなれば身体に付く臭いは避けられない。排水路の清掃ほどではないものの、冒険者から嫌われる所謂3K仕事であることは間違いない。


「エステバン、王都の見習い冒険者たちは、スライム退治の依頼を受けたときどうやって仕事を熟すんだ? 排水路の中に入って一体一体ナイフで刻んでいくのか?」

「そうだな、今がどうかは知らないが、俺が見習の頃は背丈ほどの棒の先にナイフを括りつけて、簡易的な槍を作って突き刺してたな。スライムは棒で叩いたり突いたりしても直ぐには死なないからな、刃物で突き刺したり切ったりするのが一番手っ取り早いんだ。

それと排水路の中に潜っているスライムはカンテラで照らしても分かり難いだろう? ナイフ付きの棒を何度か潜らせると、傷付けられたスライムが浮いてくるから、それをもう一度突き刺すんだ。ある程度退治したら排水路に入って死んだスライムを通路に上げて、細かく刻んでから排水路に捨てる。後はその繰り返しだな、子供時分に結構大変だと思ったよ」


エステバンの話に驚きの目を向けるシャベル、エステバンは今の話のどこにそれ程驚くところがあったのかと首を傾げる。


「大変な作業じゃないか、王都の見習い冒険者は凄いな。それに排水路の中に入るって、汚泥に足を取られて動きづらかったんじゃないのか?

俺がどぶさらいの仕事をしていた時は、少しの長さでも結構な量の汚泥が堆積していたもんだが」

「いや、排水路の汚泥はそこまででもないぞ? 場所にもよるがいっても精々二十センチメートくらいまでだったな。その代わりにスライムが足に絡まることはよくあったな。怖いのは排水路に窪みが出来ていることがあってな、暗くて見えないから気付かずに足が落ちることがある。そうならない為には排水路を棒で突いて、足下を確認する必要がある。

身の丈の棒とナイフとロープは、スライム退治の必需品だったな。そういえばこの話はしてなかったんだが、シャベルは持ってるはずないか。どうするかな」

エステバンは自身の経験談を話しながら、そうした基本的な準備について何も語っていなかった事に気付き顔をしかめる。シャベルはそんなエステバンに「大丈夫だ、気にするな」と言葉を返す。


「このスライム退治の依頼は、王都の冒険者見習いにとってとても大事な教育の場にもなってるんだな。流石は王都だ、感心するよ」

「はぁ? 何を言ってるんだ? こんなの誰もやりたがらない汚れ仕事だろうが、それが何で冒険者見習いの教育に繋がるんだ?」

突然変な事を言いだしたシャベルにエステバンが聞き返す。見習い冒険者でもスライム退治の仕事は敬遠する依頼、大概は一度か二度体験した後は他の街の雑用依頼を熟すようになるというのに、この依頼のどこに学びがあるというのか。


「だってそうだろう、何も知らない見習い冒険者がこの依頼を受けたらどうなる? 道具もない、知識もない、今の俺のように手ぶらで来たならなおのことだ。そこで事前に情報を集めることの大切さを学ぶ、用意すべき道具、スライム退治の方法、頭を下げ、教えを請い、そうして初めて依頼を熟すことが出来るという事を学ぶ。

そしてこの環境、カンテラなしでは進む事も出来ない地下での作業は、夜間行動の難しさを体験させてくれる。俺もダンジョンに潜っていたから分かるが、地下の閉鎖空間での精神的な疲労は、昼間の野外作業とは比べ物にならない。

下水道は王都の安全な場所でありながら、冒険者として必要な様々な経験を積むことが出来る、これ程素晴らしい依頼は中々ないんじゃないのか?」

皮肉でもなく真面目な口調で下水道のスライム退治依頼の素晴らしさを語るシャベルに、足を止めるエステバンと王都下水道管理局職員。これまで自身の仕事をどこか蔑んでいた下水道管理局職員に至っては、一体何を言っているのか理解出来ないといった表情で呆然とシャベルを眺める。


「具体的な例で言えば、<暗視>や<気配察知>、<索敵>のスキルに目覚める可能性が高いだろうな。これらのスキルはダンジョンに潜る冒険者が比較的目覚めやすいスキルと言われているものだ。

ここに来るまでも幾つかの気配があったんだが、あれはおそらくビッグラットって魔物のものなんだろう? 地下下水道で繁殖する代表的な魔物だったか、この閉鎖的な地下下水道でそうした魔物の気配を探る努力を続けていれば<気配察知>を身に着けることも可能だろうし、<暗視>は言わずもがなだ。

ダンジョンではそうしたスキルのあるなしは生死に大きく関わってくるが、地下下水道ではその心配もない。ただそうしたスキルがあれば銀級冒険者昇格試験での護衛任務で有利に立ち回れる、野営にはもってこいのスキルだからな」

シャベルの指摘、それはこれまでの冒険者活動の中で身に付けた持たざる者の気付き。


「ハハハハ、シャベル、お前ってやっぱりスゲーんだな。テイマーで尚且つ外れスキル<魔物の友>持ちのシャベルが、二つ名持ちの金級冒険者になれた理由が分かったわ。下水道のスライム退治にそこまで意味を見出す観察力と前向きな姿勢、こりゃ勝てねえわ」

そう言い半ば呆れたように笑うエステバン、下水道管理局職員はエステバンの言葉に更なる衝撃を受けるも、自分たちの仕事を全く違う視点で素晴らしいと称賛するシャベルにどうにも言葉に出来ない感情を抱く。それと同時に現場に着いたシャベルが一体何をするのか、高位冒険者の気まぐれに付き合わされているといった負の感情から純粋な好奇心へと気持ちが変化する。


「到着しました、ここが問題の排水路の交差地点です。右の排水路が市街地に続いており、この先で複雑に分岐しています。左は真っ直ぐ進む事で王都の側を流れるオルダス川に辿り着くことが出来ます。

地上出口付近は下水道局の管理施設があり、下水道を使って王都に入り込むことが出来ないようになっています。これは魔物もそうですが、主に犯罪者に対する対策ですね」

下水道管理局職員の話になるほどと納得するエステバンとシャベル。排水路を見れば水面いっぱいに浮かぶスライムの様子に、驚きの表情を浮かべるシャベルと「そうそう、こんな感じだったよな」と懐かしむエステバン。


「これは想像以上だな。排水が流れているのかスライムが流れていいるのか分からない。これじゃスライム退治が常時依頼になるのも納得だ。

それじゃ早速やらせてもらう、天井に薄くなって張り付いてるスライムが落ちてくると思うから気を付けてくれ。<範囲指定:周囲三十メート:テイム>」

エステバンと下水道管理局職員はシャベルの注意に一体何が起きるのかと身構える。シャベルが<テイム>のスキルを唱えた時、下水道の壁や天井に張り付いていたスライムがボトボトと落ち始め、通路や排水路のスライムがモゾモゾと動き始める。


「よし、排水路のスライムたちは右側と左側、それと後ろの排水路を堰き止めてくれ。天多、通路のスライムたちを<統合>してくれるか?」

“ピョンッ、ポヨンポヨンポヨン♪”

シャベルの声に外套のフードから飛び出す天多、触手を伸ばし次々と通路上のスライムを取り込んでいく天多の姿に呆気にとられるエステバンと下水道管理局職員。


「左の排水路がオルダス川に向かう流れだったか、<放水>」

“ザバァーーーー”

左手をオルダス川へと続く排水路に向け<放水>と唱えるシャベル、すると大量の水が宙を飛び、排水路に流れ込んでいく。


「なっ、お前、何をやってるんだ? っていうか水属性魔法使いだったのか? それにスライムが・・・」

エステバンは自分でも何を言っているのかよく分からないといった様子でシャベルに疑問をぶつける。シャベルは「これか? 生活魔法だ。排水路の汚泥の状態が気になってな、水抜きをしているところだ」と言葉を返し排水路に顔を向ける。

釣られたように排水路に目を向けたエステバンと下水道管理局職員は、見る見るうちに水位が減っていく排水路に、言葉を失い視線を張り付ける。


「ほう、王都下水道の汚泥は地方の街の排水路とはだいぶ様相が違うんだな。土が混ざった泥ではなくゴミカスが溜まったものなのか?流入が多過ぎてスライムの分解吸収が追い付かないといったところか、臭いもかなりあるな、これはスライム退治の仕事が嫌われるはずだ」

すっかり水の干上がった排水路に現れた物は長年を掛けて積もった汚泥、その様子を眺めながら自分なりの考察を呟くシャベル。


「状態も分かったし、この汚泥は片付けるか。土・闇、頼んだ。<オープン>」

シャベルの左手に嵌められた指輪が光を放つ、すると水の干上がった排水路に二体の巨大なスネーク系魔物が姿を現した。

二体の魔物は首をもたげ周囲を見回すと、ガサガサと排水路の中を蠢き始める。エステバンと下水道管理局職員が呆然と見つめる中、ひとしきり動き回った二体の魔物は、シャベルの足下に何かをぽろぽろと吐き出すのだった。


「これは、硬貨と短剣、それとネックレスか? エステバン、何か排水路から出てきたんだが、これはどうしたらいいんだ?」

「ん? あっ、あぁ。下水道の中で見つけた物は基本的に発見者の物だな。余程事件性が疑われる物は別としても、その程度であれば問題ない。冒険者が盗賊を討伐した際の対応と一緒だな。

それよりもそいつらは何だ、突然目の前に現れたんだが」


「この二体はそこのスライムと同じく俺の従魔だな、ここに来る途中で話した進化したビッグワームだ。見た目が全く別物になってるからな、スネーク系魔物って事で通している。二つ名の“蛇使い”の由来だな」

そう言い二体の魔物を撫でるシャベルに、顔を引き攣らせるエステバン。


「あとは右側の通路だったな。<範囲指定:前方五百メート:テイム>、排水路のスライムはこっちに集まれ。天多、通路のスライムたちを統合して来てくれ」

“ポヨンポヨンポヨン、シュルシュルシュルシュル♪”

シャベルの指示に嬉しそうに跳ね回り触手を伸ばす天多、排水路の中を次々と移動してくる大量のスライムたち、その様子を呆気にとられながら見つめるエステバンと下水道管理局職員。


「土と闇は通路に上がってくれ、天多は集めた排水路のスライムたちを左の通路から順に統合していってくれ。エステバン、職員さん、お待たせした。スライム退治の依頼は見ての通りだな、王都の下水道の様子はよく分かった、勉強になったよ。それじゃ冒険者ギルドに「あの、シャベルさん、他の箇所のスライムも対応していただくことは可能でしょうか? ここ以外にも流れが停滞している場所がありまして」・・・俺は構わないが、エステバンの方は大丈夫なのか?」

シャベルからの問い掛けに「全く問題ない、むしろあまり早く帰り過ぎるとギルド長に何を言われるのか分からん」と返答するエステバン。シャベルはそれならいいかと下水道管理局職員に了承を示すと、天多がスライムの統合を済ませるのを待ってから下水道の奥へと向かうのであった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 エステバンさんが「お前凄いわ」って感心するのも納得ですね…一つの仕事(しかもいわゆる3Kなお仕事)にそこまでプラスの価値を見出だせるんですなぁシャベル。 しかしこれ、見方を変えた…
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