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クラン 魔を狩りし者へようこそ ~深淵を目指す英雄見習いコンビ~  作者: 鎖月 弥生
第2章 巻き込まれる英雄見習い

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第72層目

 パチパチと薪が爆ぜる音に混じって、網から垂れた醤油ダレがジュッと焦げる音と、香ばしい匂いが辺りに広がる。


 なんだかんだあれから四時間くらい、素振りや魔法の練習、チェスト整理をしながら見張り番を続けていた。


 火の番に関しては何故かクチナシさんがウキウキでやっていたので、チェストから薪をドサッと出しておいて、あとは任せてしまった。


 薪を出した時に聞いたところ、どうやらクチナシさんとホオヅキさんは基本的にこういった見張り番はしない……というより、させてもらえないらしい。


 基本的にダンジョンへ潜る時は安全マージンを取って、文武常道(ぶんぶじょうどう)の同ランク二パーティで潜っているとのことで、そうなると総勢十六人にもなるため、天下布武の二人は見張り番を免除されているそうだ。


 正直に言わせてもらうと意味が分からん……。


 普通、低ランクの安全な内に階段付近で野営や見張り番の回数をこなして、高ランクの過酷な状況下でも休めるよう訓練するもんだ。


 それが免除されているとなると、将来が不安でしかない。


 ほんとに高ランクのクランとその下部クランなのか? と疑いたくもなるが、リーダーのお気に入りの妹となるとこうなるのか……?


 ただ、そのせいでいらん不和が絶対生まれてると思うけどな。


 まぁ俺らの創るクランへ移籍するんだったら、問答無用で持ち回りをさせるから別にいいか。

 俺の分身がいるからやらなくていい訳じゃなく、いるからこそ安定した頭数を担保できると思ってもらわないとな。


 そんなことを考えながら鍛錬していたら、時間はあっという間に過ぎ去り今に至る。


 お腹も空いてきたし、そろそろ朝飯の準備をするか。

 ということで、今は昨日炊いたご飯の残りで焼きおにぎりを作っているところである。


 愛知県民なら味噌だろって言いたい気持ちは分かるが、個人的には砂糖醤油で甘塩っぱくした方が好きなんだよな。


 あと汁物を豚汁にする予定だから、味噌に味噌を合わせるのもどうかと思ったところもある。


 焼き上がったものから皿へ盛り付け、いっぱいになったらチェストへ格納していく。

 時間停止しているとはいえ、盛り付ける時に多少冷めてしまっているから、みんなが起きてきたら再度温めるつもりだ。


「カルマさーん、そろそろお味噌を入れてもいいですか?」


「そうっすね。人参が柔らかくなってたら味噌を溶いて、調理台の方へ移動させておいてほしいっす」


「分かりました。丁度箸で割れるくらいなので、味噌を溶いて移動させておきますね」


「お願いするっす」


 さて、こっちも朝食分は焼き終わって盛り付けも終わった。

 そろそろ分身たちを呼び出して、俺はシャワーでも浴びてくるかね。


 頬当てへ手を当て、三人を呼び出す。


「おはようさん。ある程度分かってると思うが、一応伝えとくな」

「一号はそろそろ相棒を起こしてきてくれ。姉御たちはテントの外から一旦声を掛けるだけでいいや」


 面倒くさそうな顔をしながら、一号が姉御たちの眠るテントへ向かう。


 一号のやつ、相棒の寝起きが悪いから起こすの面倒で、姉御たちを味方にしようとしてんのかよ……。


「二号は俺と交代して、この五日間で消費した作り置きを補填しておいてくれ。できる分で大丈夫だ」


 きっちり敬礼を返した二号は、早速調理場へ向かい、食パンを一気に三斤ほど取り出してどんどんスライスしていく。


 あの感じだとサンドイッチ……いや、ホットサンドにでもするんかね?

 まぁ、生野菜少なめで美味けりゃ何でもいいが。


「三号はそうだな……」

「二号の手伝いをしてやってくれ。ある程度終わったら休んでいいからよ」


 三号のやつ、「終わったら休んでいい」を聞いた瞬間目を輝かせながら二号の所へ行ったけど、そう簡単に解放されないと思うぞ……。


 まぁそれはさておき、分身たちへ指示も出したことだし、俺はシャワーを浴びよーっと。


 直火で焼きおにぎりを作るって決めてたから、絶対汗をかくことが分かりきってたので、鍛錬終わりに汗を拭っただけなんだよな。

 いい加減シャワー浴びてさっぱりしたい。


 そんなことを思いながら、シャワー場として区切った区画へ氷魔法と空間魔法の混成魔法で小屋を建築する。


 防衛戦時に三号が効率よくこの魔法を発動しながら維持する方法を編み出してくれたお陰で、このくらいならちょちょいのちょいである。


 もちろん氷の透明度は皆無にしてあるし、ドアには『使用中』の札も掛けてある。

 いらん事故に気を使うのは面倒だからな。


 最初から避けておくに限る。


 ……と、思ってたんだけどなぁ。


 小屋を建築するついでに作った浴槽で、水魔法で温度調節したお湯に浸かっていると、ドアを開けた寝惚け眼の相棒と目が合う。


「おはようさん、相棒」

「寝惚けてるところ悪いが、そろそろ閉めてくんね?」


「ご、ごめんカルマ!」


 目ん玉飛び出すんじゃないかってくらい目を見開いた相棒が、慌ててドアを思(・)い(・)っ(・)き(・)り(・)閉める。


 結果、ドアどころか壁面にヒビが走り、ガラガラと音を立てながら壁面が半円状に崩れ落ちた。


 …………。


 いや、半魚人共の攻撃じゃビクともしなかったんだけどな?

 まぁあの時と違って俺単体で発動したのと、ゆるっとしたイメージで建築したのはあるが……。


 にしても、こういう時の天の眼(スカイアイ)は不便なんだよな。


 結局上空から俯瞰した視点を得られるとはいえ、あくまで自分の視界だから、途中に天井があればそれ以上上へ行けないし、壁があれば透視できる訳でもない。


 こうやって小屋の中へ居たりすると、外の状況は見えないんだよな。


 今後のことを考えると気配察知系のスキルが欲しいな。

 帰還したら、姉御へ請求した金でスキルオーブ買おうかな……。


 っと、そろそろ現実逃避はやめるか。


 ガラガラという音が止み、一瞬の静寂が訪れる。


 その直後、こちらへ駆け寄ってくる足音が聞こえた。


 外から吹き込む涼しい風が前髪を揺らす中、元凶でありこちらへ土下座する相棒と、音を聞きつけてこちらへ来ていた女性陣と目が合ってる状況に目眩がする。


 逆上せたのかね……んなわけねぇけど。


 とりあえず一つ言いたい。


 中性的イケメン幼なじみに風呂シーン覗かれた上で、先輩たち女性陣に入浴姿見られるなんてどこに需要あんだよ!!!


 せめて逆だろ、相棒!!!

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