第71層目
はぁ、とりあえず激重シスコンお兄ちゃんをどうするかは未来の俺……いや、姉御に丸投げするとして、今はクチナシさんへどう返答するかを考えるか。
いやまぁぶっちゃけ、姉御の昔からの友人って時点で人となりは大丈夫だろう。
戦闘面に関しても、生粋のバッファーとデバッファーが居てくれるのは助かる。
ただ、強いて挙げるとするなら――。
「俺らのクランに入りたいのは一旦分かったっすけど、その場合若造の下に就くことになるのと、パーティはどうするつもりっすか?」
この二点が懸念点になってくるだろう。
さて、クチナシさんはどう返答するかね。
クチナシさんは俺からそう聞かれることも想定済みだったのか、特に悩んだ様子もなく口を開く。
「この数日間共に過ごしたことと、アキちゃんが居るからカルマさんがリーダーでも大丈夫です」
「パーティに関しては元々現クランではランク差があって組めていなくて、基本的に二人で潜るか、文武常道の方達と潜っていたので、そこも問題ないかと」
「なるほど」
「それに、今回の件で文武常道の方々と喧嘩したので、恐らく今後は何かと理由を付けて私たちとはダンジョンへ潜ってくれないですね」
「おおぅ……」
「私たち、結局お兄ちゃんの過保護で天下布武に特別に在籍しているので、周りからのやっかみとかが酷くて……」
「ちょうどいい機会なので、カルマさんたちのクランへ移籍させていただけたらと思っています」
うへぇ……これやっぱ厄ネタじゃね?
情にまで訴えて来なくても、主観的にも客観的にも、俺らが創る予定のクランへ移籍してくること自体は構わない。
ただその場合、色々と厄介事も抱えることになりそうだが、そもそも俺らも変に目を付けられているからあまり変わらないか……。
じゃあ少し真面目にやるか。
「分かりました。相棒とも相談しますが、自分たちがクランを創ったら、クチナシさんたちが移籍してくる方向で姉御と話を進めます」
「ただもちろん、天下布武みたいなサポートや環境はないので、そこだけは予めご了承ください」
「もちろんです。ありがとうございます」
お互いに頭を下げ、口約束ではあるが、とりあえず話はまとまった。
それはそれとして――。
「ちなみにっすけど、本音はなんすか?」
俺が問い掛けると、クチナシさんは悪びれた様子で口を開く。
「バレてましたか……」
「もちろん先程話させていただいたことも本音です。ただ、それに加えて、ずっと居心地が悪くて……」
「姉御からも軽く聞いてるっすけど、たしかに針のむしろみたいっすよね」
「あっ、そっちはどうでもいいんです」
どうでもいいんだ……。
「それよりもお兄ちゃんがめんどくさくて……」
「えぇ……」
「そもそも私たちが冒険者になること自体反対だったんですけど、割と強引に押し切って冒険者になりまして」
「わぁ」
「そのせいか絶対自分の創ったクランに所属するように言われて、当時はCランクでしたが、お兄ちゃんを慕ってる方々が沢山いたので、ランクにしては施設も立派だったんです。それで言われるがまま所属しました」
「そうなんすね」
「そしたらお兄ちゃんが新人の私たちの身の丈に余る装備を押し付けてくるし、挑むダンジョンもメンバーも一方的に決めるしで……」
「それは……」
「結果、お兄ちゃんを慕ってる方々が私たちの特別扱いに不満を覚えて付き合いが悪くなってしまって……」
「なので、この際いっそお兄ちゃんから独立したいなと思いまして」
「なるほど、そうだったんすね」
「ただそうなるともれなく、『お前らの創るクランがクチナシさんの安全に足るか試験してやる!』とか言われそうっすね」
「そこら辺大丈夫そうっすかね?」
クチナシさんからの返答はなし。
……というか、なんなら目を逸らされた。
おいおい……可能性あんのかよ。
「多分ほぼ確実に、鬼姑が如く試験するかと……」
おかしいな。
ハルさんって若手のホープで勇者なんて巷じゃ呼ばれてんだけどな……。
聞いてる限り、ろくでもないんだが……。
「万城目先生を特別顧問にしたら甘くならねぇっすかね……」
「多少マシになるかもですけど、ホコリ一つ見逃してくれるくらいかと」
「うへぇ……」
「ハルさんって、聞いた感じかなり先生へ恩義を感じてるっぽかったんすけど……」
「それとこれとは話は別ってやつになるかと」
「すみません、うちのお兄ちゃんがめんどくさくて……」
ほんと面倒くさそうだな……。
俺、一人っ子で本当に良かった。
「いやまぁ、ここまでとなると確かに一旦離れたくなる気持ちも分かるっすよ」
「なんで、何とかなるよう姉御たちも交えて相談するっすから、クチナシさんたちも分かる範囲で教えて欲しいっす」
「分かりました。すみません、助かります……」
「私からの要件はこれだけです。これ以上は帰還して腰を据えて、ですかね」
「分かったっす。それじゃあまだ起きるには早いと思うっすから、戻って寝ててくださいっす」
まだ起床予定時刻まで五時間ほどある。
明日は帰還してからきっと激動だろうから、休める時に休んどくのが正解だ。
俺?
俺はいいんだよ。
今のところ眠気も疲れもないし、最悪1、2号に見張り番を代わってもらって寝ればいい。
そんなことを考えながら素振りを再開するかと思っていると、何やら「フンス!」と気合いを入れたクチナシさんが視界に入る。
「いえ、私も見張り番します! こう見えて夜更かしは得意なので!」
「俺は別に構わないっすけど、明日眠くなって姉御になんか言われても知らないっすよ?」
「大丈夫です! 最悪、不眠デバフを自分にかけるので!」
そう言いながら嬉々とした様子で焚き火台を突ついている。
えぇ……兄妹共々、実はかなりヤバかったりする?
今からでも移籍の件、やっぱ無しでって言うのはダメかなぁ……。




