第64層目
男は誰しも潜在的に厨二病患者である(断言)。
たまたま俺はそれが発現しただけに過ぎず、相棒だって厨二病の素質はきっとある。
というか、先祖代々脈々と受け継がれてきた古武術流派の次期後継者って時点で素質しかないだろ。
中学の頃にそうやって俺に力説されていた時と同じように、ゲッソリした顔をしながら相棒が復活する。
「カルマが厨二に戻ったのは悲しいけど、後で叩いて直すからいいとして」
昭和の家電じゃないからその拳は下に下ろそうな。
間違っても俺に振り下ろすなよ???
「これからどうしますか、秋音先輩」
「2人が復活したら最終層まで降りるつもりだ」
「モンパニの終息条件である最終ウェーブのダンジョンボスを討伐した以上、ここに長居する必要はないからな」
「それなら後続に来るらしい掃討部隊に任せればいいじゃないっすか」
「却下だ」
「アキちゃんが文武常道のクランリーダーと喧嘩してしまって...」
「バッチバチに喧嘩してたもんねー。そのせいで加勢に来るの遅れちゃったし」
「ホオヅキ、それは言わないでくれ……」
何やってんだ姉御は……。
「仕方ないだろ。行けるメンバーだけでも2人の加勢に行くべきだと言っているのに、どうせくたばってるなんて言って話を聞かないのだから」
えぇ……俺ら死んだ扱いされてたの?
こんな頑張ってたのに???
「カルマ、嘘つけみたいな顔してるけど、僕らのことを知らない人からしたら、2人だけで1週間以上も防衛戦できてるとは普通思わないよ」
「それはそうかもしれねぇけどよ……」
「カルマさん、普通防衛戦ってそのダンジョンと同じランクの人達がレイドを組んで、なおかつ数日かけて事前準備してから臨むものですよ?」
「かーさん達は準備はしてたかもだけど、それでも陣地形成とかは1からでしょー?」
「ウチらもあーちゃんが生きてるって言ってたの、割と半信半疑だったよ」
「下層で溢れているであろうモンスターたちの姿が一向に見えないなどの状況証拠から、お二方の生存は理解していましたが、まさか五体満足とまでは正直思ってませんでした」
いやまぁ、俺らが割とおかしいのは分かってるぜ?
容量無限の時間停止収納。
本体スペックから多少劣るも24時間休憩なしで動ける分身が3人。
傷ついても即死じゃなければ直ぐに傷が癒える前衛。
極めつけは数十体纏めて薙ぎ払える範囲火力。
……うん。
羅列してみたら割とおかしかったわ。
「その感じですと納得いただけたようですね」
「えぇ、まぁ……一応は」
「元々今回の件は、私たちが所属する天下布武のメンバーがカルマさんたちに対して、悪意のある嫌がらせを決行したことが原因でもあります」
「あーちゃんはその件も含めて怒ってたからね。そんな時に命懸けで防衛戦してくれてる2人が死んじゃってるって言われたらねー?」
「えっと、クランリーダーさん生きてます……?」
おずおずと相棒がホオヅキさんに尋ねる。
分かるぜ相棒。
俺も安否が気になる。
「んー、たぶん?」
えぇ……。
「腐ってもCランクだからちゃんと生きてる。憎たらしいことにな」
「ただ私のソウル込みで股間を蹴り上げたから、将来家系が存続できるかは知らん」
わーお。
想像しただけで痛い……。
姉御のソウル、勧善懲悪は自身が敵とみなした対象に弱点を1箇所付与する。
姉御は基本的に頭部に弱点を付与する事で、俺や相棒を強制気絶させることが多い。
あの相棒が気絶する程の威力が出るコンボを男の弱点に食らった以上、再起は不可だろう……。
なむなむ。
「そんなわけで私たちを止められる方が居なくなったので、半ば無理やりここに来たわけで……」
「このまま帰還したら、下手すると2人の手柄を横取りされかねん」
「それこそ2人がしっぽ巻いて逃げたので、代わりにボスを討伐してモンパニを沈静化させたとかな」
「ボス素材もないのにどうやってそれ証明するんすか……」
「さぁな?だがそれをやりかねない程、相手さんは2人が気に入らないようだ」
「「えぇ……」」
流石にドン引きである。
出る杭は打たれるとはよく言うが、流石に必死すぎるだろ……。
「2人は知らないかもだけど、女性冒険者たちの間で人気なんだよー?」
「それこそサズキさんはファンクラブとやらがあるらしいですし、どうやらそこも気に食わないみたいでして……」
「あー、そこら辺はまぁいつものやっかみなので……」
「ごめんね、カルマ」
「いや、相棒はなんも悪くねぇだろ」
「まぁ羨ましい気持ちは分からんでもないが、その分相棒が苦労してきたのも知ってるしな」
「ありがとう、カルマ」
「ほんとうにご迷惑をかけてすみません。兄が帰還次第、今回の件は伝えさせていただくので、これ以上酷いことにはならないかと……」
クチナシさんから気になるワードが出たが、一旦放置してこっちを先に伝えないとな。
「いえ、そのお兄さんとやらには伝えなくて大丈夫です」
「こういった輩は上から言われると余計見えないところで悪さするので、現状のままで大丈夫です」
「それはいったい……」
「こんなくだらないことをしている奴らの程度なんて知れてるんで、すぐに何も言えなくなりますよ」
「それに、俺たちそんな奴らに構ってるほど暇じゃないんで」
「カルマの言い方はちょっとアレですけど、実際僕たちにとってこの程度障害にならないので、無理にクチナシさんたちの立場が危ぶまれることはしなくて大丈夫ですよ」
「そういうことです。姉御から聞きましたけど、クチナシさんたちもそれなりにやっかまれてるんですよね?」
「そーだね。ウチらとしては仲良くしたいんだけどねー」
「でしたら無理して危ない橋を渡る必要はないですよ」
「ただ、もし心苦しいとかあるようでしたら姉御を助けてあげてください」
「そうですね。その方がよっぽど僕たちの助けになります」
「わかりました、お気遣いありがとうございます」
「かーさん、さーさんありがとね!」
「話は纏まったな?」
咳払いをしてから姉御が話を仕切り直してくれたので、素直に頷く。
「まぁ色々と理由はあるが、ぶっちゃければ2人の功績を掠め取られるのが気に入らん」
「なので最下層の帰還箱から帰還し、誰がこのモンパニを解決したのか知らしめるぞ」
「うす!」
「はい」
「はーい!」
「わかりました」
んー、返事ひとつでここまで個性的になるとは……。
まぁ、冒険者なんてそんな個性派連中ばかりか。




