第58層目
Side カルマ
風に煽られながらも相棒は走り続け、進軍する半魚人共の上を通過した頃、ホオズキさんが言っていたデカいウツボの半魚人が見えた。
それらは今までの半魚人よりも倍以上大きな体躯をしていた。
それらは、片やウツボのように太く長い首を持った魚頭。
片や海蛇のようにしなやかに長い首を持った魚頭。
それらは自身の体躯と変わらない大きさのトライデントを片手に持っている。
ダゴンとハイドラを目撃した冒険者達はSANチェック、成功で1d4、失敗で1d20...ってか?
「あれはダゴンとハイドラ...でいいのか?」
「んー、データベースだともっと大きかったはず」
「それこそ氷壁と変わらないくらいだったかな」
「ならダゴンJrとハイドラJrってところか」
「そうなるかな?」
「相棒、通常のダゴンとハイドラでいいんだが情報持ってるか?」
「一応はここのダンジョン調べてた時にオマケ程度にね」
「ダゴンとハイドラなら、Bランクダンジョンでボスになる事があるね」
「パワータイプのダゴンと、魔法と物理半々のハイドラのはず」
「なら分担は相棒がダゴンで、俺がハイドラだな」
「そうだね、それが丸いかな」
「あっ、あとはもしかしたらハイドラは邪眼系のスキル持ってるかも」
「マジか、系統は?」
「確か恐慌系統と熱線系統だったはず」
「ならなるべく目は合わさずに、ビームは避けるだな」
「他にはあるか?」
「ごめん、これで全部かな」
「謝る必要は無いさ、むしろ警戒事項や役割分担できただけ十分」
「それじゃあ、そろそろ殺り合いますか」
「そうだね」
作戦会議を終え、ダゴンとハイドラの真上に空間魔法で生成した床の上に並び立つ。
目を閉じて大きく息を吸い、深呼吸をする。
意識を深く深く沈め、集中力を高めるいつものルーティン。
「ソウル、極限集中、起動」
「ソウル、鬼人化」
「チャキチャキ片すぞ、相棒」
「もちろん、僕が先に終わらせてカルマを手伝いに行くよ」
「言ったな?じゃあ先に獲物を倒した方が今日の夕飯代持ちな」
「分かった、ホオズキさん辺りがきっと打ち上げしようって言いそうだから負けられないね」
確かにあの人なら言いそうだな、余計負けられなくなった。
「それじゃあ相棒、準備はいいか」
「もちろん、いつでもどうぞ」
「ならいくぜ、狩りの時間だ」
2人同時にそれぞれの獲物に向けて、一直線に落下していく。
自由落下に身を任せている俺と異なり、相棒は天の道を悪用してどんどん加速していく。
ならば俺はジャンプでショートカットを...と言いたいところだが、せっかく物理法則が味方してくれているのに、それをみすみす捨てるなんてもったいない。
ダゴンの方から身体の芯に響く轟音がこちらに届く。
どうやら相棒はもう衝突したみたいだな、なら俺もそろそろ策を実行するか。
愛刀に切断の呪いを込めた狐火を纏わせ、大上段に構えながら落ちる。
ハイドラがこちらの軌道上にトライデントを置いて串刺しにしようと構えているが、そんなことお構い無しに落下する。
さぁ、その槍は俺の呪いに勝てるのか?
こちらにトライデントを突き出す動きに合わせて一閃。
刀を振り抜いた反動に逆らわず身を翻してさらに一閃。
地面が目の前に迫って来たのでジャンプで背後に回って、背中に生えてた羽に一閃。
計三閃したところで呪いの炎が消えたので、連続ジャンプで距離を取る。
ハイドラの方を見れば、トライデントは三又の部分と柄の中間、持ち手で3分割されており、背中を抑えて蹲っていた。
ハイドラの右側の地面に羽が片方落ちていることから、片翼にすることに成功したと思われる。
まぁそもそも、あのサイズの羽で4m弱の身体が浮くとは思えないから、片翼にする意味があったかは微妙だけどな。
隣からは鈍い打撃音に雄叫び、笑い声などが聞こえてくるのに対し、こちらはあまりにも静寂としていた。
恐慌系の魔眼の可能性を考慮して、天の眼による俯瞰視点で観察する俺。
こちらの刀を脅威とみなしたのか、警戒してジリジリと後退するハイドラ。
初撃での優位を維持し続けたいところだが、ぶっちゃけここまでの連日の戦闘で刀にだいぶガタがきている。
トライデントと羽を切れたのは良かったが、そんな硬いもん切ったせいであと5回も切れれば御の字といった具合だ。
そのため警戒されている現状、無理に詰めることはできない。
...アドバンテージ埋められる前に広げるか。
「英霊喚起」
「英霊模倣」
神話生物には神話の神様をぶつけようか。
「タナトス」
前回隠密スキルで無理やり呼び出した時と異なり、今回は殺戮手段で呼び出したので性能が上昇してるようだ。
前回同様、狐火の青い炎を纏った氷の大鎌に加え、俺の周囲を衛星のように小鎌が5本ほど周回している。
姿の変わったこちらにより警戒を強めているが、全力全開の隠密を見破れるかな?
隠密スキル起動。
合わせて空間魔法による認識阻害開始。
このままだと砂浜の足跡から位置を特定されるので、辺り一帯に水と氷の混成魔法による霧を生成。
熱感知スキル起動。
対象把握、こちらを見失って辺りをキョロキョロしているな?
好都合だ。
羽を切断した右側から回り込むようにして距離を詰める。
ハイドラまで残り30mといったところで直感スキルから警告。
ジャンプで霧の外に飛び出すと、霧の中を矢鱈滅多ら飛び交う赤い筋が眼下に見えた。
魔眼は熱線系か...ちと面倒だな。
身を焦がす熱い視線(物理)は勘弁願いたい。




