第57層目
半魚人共が引き返して30分程が経過した。
俺と相棒は携帯食料でカロリーを補給してから、いつでも動けるように体を冷やさないようにしている。
姉御たちも各々、食事を取ったり装備の調整などをしているところだ。
「そう言えば姉御、他に援軍は来ないんすか?」
「ここが不人気ダンジョンすぎてな、私ら以外に16層目以降に到達している冒険者が居なかったんだ」
「だから今頃全力で降りてきているだろうが、少なくとも後3、4日はかかるだろう」
「なるほどっす、なら今から援軍が来ることは期待できないわけっすね」
「残念ながらそうなるな」
「それじゃあ、アイツらは俺らで処理しないといけないわけっすね」
引き返す前とは異なり、統率が行き届いた進軍を行う半魚人共が遠くに見える。
ざっくり見積もって1万前後くらいか?
「なんだ、怖気付いたか?」
「まっさかぁ、手柄取られる心配がなくて嬉しいくらいですよ」
「なぁ、相棒?」
「ふふっ、そうだね」
「倒した後の素材全然回収できていないし、その上美味しいところまで持ってかれたらやるせないしね」
「だよなぁ?」
「つーこって、3日どころか今日中に終わらせようぜ、相棒」
「了解、そろそろベッドで惰眠を貪りたいしそうしようか」
「んじゃ姉御方、ラストスパートといきましょう」
俺が振り向いて声をかけたタイミングで、脳内に今聞きたくない声が聞こえる。
『これより、英雄選定を再開する』
はいはいはいはい、嫌な予感が鳴り止まなかったから分かってましたよ。
どーせ、英雄選定が来るだろうってさ。
つーかそれよりも今、再開っつったか?
「カルマ、今のって」
「そうだな、いつもと違って開始じゃなくて再開だったな」
「だが、俺らは先月の選定はちゃんと終わらせてる、どういう事だ?」
「簡潔に説明するから、よく聞け2人とも」
「うす」
「はい」
「選定に失敗した者が出たダンジョンに、選定を受ける資格を持つ冒険者が居る際、稀に前回の選定内容が再開される時がある」
「どうやら、溢れが発生する前に挑んだ冒険者の中に資格を持つ冒険者がいたんだろう」
「そしてその冒険者が失敗してしまったんですね」
「おそらくな」
「Eランク以下で英雄選定が発生すること自体稀だからな...基本的には」
「今回みたいなモンパニ形式の溢れに対応出来ず、呑み込まれるのが容易く想像できる」
「つまるところ、今回の溢れは起きるべくして起きた」
「それはそれとして、俺たちは眠れる獅子を起こしてしまったわけっすね」
「ただ不思議なのは、なぜこのタイミングで選定が再開されたかですよね」
「さぁな、選定自体が珍しい現象なんだ」
「再開なんてもっと珍しいもん、ダンジョン学者先生方でも分からんさ」
「そういうも...」
「ねー!みんなあれなんだと思う?」
俺らが今回の選定について考察しているところに、ホオズキさんの声が届く。
天の眼ではまだ見えないが、併用している熱感知スキルが半魚人共とは異なる2つの大きな反応を訴えている。
「考察大会はここまでか」
「姉御!詳しくはよく見えないっすけど、奥に大きな反応が2つあるっす!」
「分かった、恐らくその2体が2人の選定対象だろう」
「カルマ、選定対象以外は私たちで相手をする。分身達を借りてもいいか」
「うっす、戦闘スタイルは1号は大雑把な俺で2号は集中してる時の俺っす」
「把握した、周りのお供を倒したらすぐ向かわせる」
「それじゃあ行ってこい」
「あいさ」
「はい」
「ねーねー、さーくんは空走れるんでしょ?」
「あっ、はい」
「なら私達があのウツボみたいなデカいやつのとこに送ってあげるね!」
「いいよね、とかちゃん!」
「そうですね、きっとお二人の戦場まで私たちのバフとデバフは届かないので、せめて送り届けることをさせて下さい」
「ありがたいっす、助かるっす」
「んじゃ相棒、いつも通りで」
「分かったよ、カルマ」
いつものように相棒におぶわれながら、嫌な予感がするので空間魔法で相棒から剥がれ落ちないように固定しておく。
「相棒、俺はいつでもいいぜ」
「分かったよ、僕も大丈夫ですのでお願いします」
「それじゃあ、とかちゃんいくよー!」
「ソウルアップ!バイブスアップ!メンタルアップにダブルアップ!」
「おまけにー!ソウル!人生楽しく生きていく!」
「ありがとう、ホオズキちゃん」
「ではお2人を運びますね、ソウル!頽風の導き」
クチナシさんのソウルの宣言が聞こえた次の瞬間、俺たちは背後から押し寄せる暴風によって氷壁の上から吹き飛ばされていた。
やったね!
お手軽落葉体験だ!
なんて言ってる場合かよ!!!
「あああああああ、あいい、あいぼー!!!!」
「歯食いしばって耐えてね、カルマ」
「駆け跳ねるよ!」
相棒は風に煽られながらも器用に姿勢を整え、天の道で生成した地面を一歩ずつ確実に踏みしめて、減速しないように跳ねて駆けていく。
周りの景色がありえん速度で過ぎ去っていくなか、熱感知スキルの反応にどんどん近づいている。
はてさて、ウツボみたいなデカいやつってなんだろうな?
Side クチナシ
どんどん小さくなっていく2人を見送りながら、最終防衛ラインをアキちゃんの指示のもとみんなで構築していく。
「それにしてもホオズキちゃん、アキちゃん」
「なにー?」
「どうしたクチナシ」
「2人は英雄選定の開始宣言、聴こえた?」
「んーん、ウチは聴こえてないよー」
「私も同じくだ」
「やっぱりそうなんだ、私も聴こえてないんだ」
「大丈夫かな、2人とも」
「ふっ、あいつらなら大丈夫だ」
「2人揃っていれば、本気のハルさんに遜色ないからな」
「はる兄さんに?なら大丈夫だね、とかちゃん!」
「そうね、お兄ちゃんと同じくらい強いなら大丈夫かな」
「じゃあ、そんな2人が楽できるように分身さんたちをすぐ送ってあげないとだね」
「だね!頑張ろうね1ちゃん、2ちゃん!」
防衛陣地を構築していた1号さんと2号さんが、ホオズキちゃんの声掛けに合わせてポーズを取る。
カルマさんが戻ってきたら、どこで分身の子たちを創造できるようになったか聞こうっと。
私たちも2人だとダンジョンの攻略が厳しくなってきたからね。




