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クラン 魔を狩りし者へようこそ ~深淵を目指す英雄見習いコンビ~  作者: 鎖月 弥生
第2章 巻き込まれる英雄見習い

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第53層目

 何度か休憩を挟みつつ、時に短いながらも交代で2時間ほど睡眠を取りながら防衛戦を継続している。

 かれこれこのサイクルを3日程度続けているが、未だに半魚人共の勢いは衰えず、終わりが見えなさ過ぎて辟易としてきた。


「カルマ、単調作業に飽きる気持ちは分かるけど、そういう油断が1番危ないんだよ」


「わーってるよ、相棒」

「ただ流石に辟易としてきただけだ」


「ならいいけどっ、ね!」


 投擲スキルの生えた相棒は、今ではバスケットボールサイズの氷の球を半魚人共に投げ込んでいる。

 そのため、着弾時に氷の破片が勢いよく飛び散り、当たり所が良ければそれだけで黒い煙に変えている。


 それなりに下層の個体がここまで上がってきているのか、俺の呪いに抵抗する個体が出現しつつあるから、氷礫(ひょうれき)込みで倒し切れているのは幸いか。


「つか、ふと思ったんだが」


「どうっ、したのっ、さ!」


「いや、相棒がいくら魔法苦手とはいえ、鎖に付与できるならこの氷の球にも付与できるんじゃね?って」


「あっ...」


 投げるのを中断した相棒が、左腕に抱えた氷の球をまじまじと見つめる。

 すると氷の球の周囲を、紫のイナズマがバチバチと音を立てて駆け抜けた。


 物騒になった氷の球を相棒が無言で投げ込むと、今まで飛び散っていた氷の破片に付随して広範囲にイナズマが走る。

 鈍足の呪いを込めた炎に加えて、イナズマで感電した個体は見るも無残にすっころび、後続に踏みつぶされていった。


 ...相棒の方を見れば、向こうもこちらを呆けた面で見ている。


「できちゃった...でも、もっと早く気づきたかったかな」


「まっ、できたに越したことはないから、これで殲滅速度が少しでも増えれば御の字だな」


「そうだね、カルマの呪いに抵抗しつつある個体とかも紛れてきているし、このタイミングで発覚したのは不幸中の幸いかな」


「だな、っても無理はすんなよ」

「いくら魔法はイメージできる限り使用できるからって、限界はあるんだからな」


「カルマにだけは言われたくないっ、かなっ!」


「俺はほら、並列思考スキルで魔法をイメージする思考と休憩する思考で分割してるからさ、疲れたら交代するだけだし」


「そういう問題じゃないと思うけどっ、ね!」

「次っ!」


「残念ながら魔法に関してはホントにそういう問題なんだよな、っと追加分お待ちどー」


 それこそ、極論言うならば脳みそさえ動いていれば、魔法を使い続けることはできる。

 現に俺はチェストを常時使用しているし、分身たちもこの防衛戦中に休むことなく魔法を使い続けている。


 そう言えば俺がチェストを常時発動している思考は、()()()()()()()()()()が、特段不具合がないな...。


 流石にこの防衛戦中に切り替えて不具合が出たら文字通り防衛戦が終わるのでやらないが、終わったら休ませてやるか。



 ―――――



 そんなこんなであれから1時間弱ほど経過した頃、流石に相棒が疲れたのか魔法を具現化するまでに時間がだいぶかかるようになってきた。

 ある意味これが魔法の使用制限みたいなもので、この状態で更に使おうとすると普通に意識が飛ぶ。


「そこまでにしときな、相棒」


「でも、折角倒せる数が増えたのに...」


「そうかも知れないが、トータルで見たらここで無理して倒れるよりも、休憩して再度使えるようになったら使うのが賢い選択だろ」


「っ、そうだね、ごめん」


「大丈夫さ、焦る気持ちも分かるからな」


 もうそろそろこの防衛戦も4日目に突入しようとしているが、一向に数が減ってる気がしないんだよな。

 防衛戦を開始した頃よりも下層の個体が出現しているとはいえ、最後尾が見えているわけでもないし、相棒が焦燥感に駆られるのも分かるってもんだ。


「相棒、先に休憩入りな」

「魔法の使い過ぎによる頭痛もどうせあんだろ」


「バレてた?じゃあお言葉に甘えてもいいかな」


「バレるさ、どんだけの付き合いだと思ってんだよ、ちゃっちゃと仮眠取ってこい」


「分かった、じゃあ2時間くらい任せたよ」


 相棒が氷壁を降りて、砦を維持している3号の隣に設営した仮設の休憩所に向かったのを見送り、天の眼(スカイアイ)を外へと戻す。


 1号たちの混成魔法による氷塊爆撃が今も続いているが、遂にその一撃に耐える個体が見受けられつつある。

 質量攻撃だけじゃだめってことかね。


「1号、2号、試したいことがあるから1度戻ってくれ」


 頷いた2人の眼からハイライトが消え、体から力が抜けたように倒れる。


 これは防衛戦2日目に入った頃、相棒が仮眠中に気づいたことなんだが、どうやらこの分身たちに預けている思考を任意で回収できるみたいなんだよな。


 お陰で意思の疎通が脳内で完結するからすごく楽だ。

 それに、一々消して再創造し直す手間もないしな。


 それはさておき本題を伝えるか。

 多分1号と2号となら、この無茶も現実にできると思うんだよな。


 サクッと作戦会議を終えて2人を元に戻す。

 ニヤニヤと笑う1号と気張った顔をしている2号の間に並び立ち、魔法のイメージを開始する。


 それは常夏の浜辺を暗闇に陥れる、積乱雲の群れ。

 それは周囲の熱気を霧散させる、極度の冷水。

 それは雨水に濡れたものを溶解させる、呪いの酸性雨。


 いい加減鬱陶しくなってきたからな、ここいらで1発かまさせろや。


「タイプ:スペース、モード:フィールド」

「タイプ:アイス、モード:クラウド」

「タイプ:ウォーター、モード:レイン」

「タイプ:カース、モード:アシッド」


「「「タイプ:カオス、モード:キュムロニンバス アシッド レイン」」」


 茜色に俺らを照らしていた光が消え、辺りが暗くなる。

 俺らの前方に、某夢の国がすっぽりと収まるほど大きな積乱雲が出現し、やがて黒いカーテンのように見える密度の雨を降らせた。


 黒い雨粒に触れた半魚人は、雨粒に濡れた箇所が発火し、そのまま身を燃やし溶かしていく。


 うーむ、俺が担当したのは呪いの炎の部分だけだが、イメージよりも凶悪になってねぇか?


 まぁ俺らがこの魔法を受けるわけじゃないし、凶悪なのはいいことか。

 とりあえず魔法の制御権を2号にしてあるから、ある程度はこのままでいいかな。


「よっしゃ、1号!」

「俺と勝負しようぜ!」


 額の汗を拭うふりをして、疲れた感を出している1号に声をかける。


 こっちをチラッと見て疲れたふりを再開する1号に若干イラッとするも、こんな事いつものことなので気にせずに声をかける。

 なんてったって俺が本体なのでね!


「相棒が起きるまでにより多く倒した方が、負けた方に43アイス奢りでどうだ!」


 食いついた!

 チラチラ見る回数が明らかに増えてきたから、もう1手だな。


「なんと今ならキングサイズのダブルだ!」


 かかった!

 仕方ないなみたいな顔をしてこちらに来るが、口元はニヤついてるし鼻の穴も少し広がっている。


 ...俺もこんな顔してんのかな、気を付けよ。


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