第49層目
我らが勇者様の悲しい生態が先生から暴露された気がするが、今は一旦置いておこう...と思ったが、話の流れからして無理か。
「はぁ、ハルさんが酷いシスコンなのは分かりましたが、それがあのおふたりにどう繋がるのですか?」
「今日の顔合わせで、あの2人はなんて紹介された?」
唐突にどうしたんだ?
クチナシさん達は姉御の友人として...そういう事か。
文武常道とも名護弥大生とも紹介されていない。
と言うことはつまり...
「もしかしてクチナシさん達は」
「そうだ、あの2人の所属は天下布武だ」
わーお...
ハルさん、そりゃダメだよ。
天下布武は上位クラン故に、所属する冒険者は最低でもDランク以上だと聞く。
クチナシさん達の感じからして、俺らと同じタイミングでEランクに上がってると思う。
そうなると、天下布武に所属するにはランクが足りていない。
それでも天下布武に在籍しているということは、ハルさんが特例措置かなんかを出してる可能性が高いな。
「それで僕たちとは別ベクトルでクランメンバーからヘイトを買ってしまったわけですね」
「そうなるな」
だからハルさんが居ない日に、会議を設定したわけか。
ハルさんがいたら不測事態が多発しそうな今回の依頼に、大切な妹を参加させるわけがないのだから。
ただまぁ俺個人としては、そんな過保護に冒険者やらせるくらいなら、いっその事辞めさせればいいのにと思うけどな。
クチナシさんにもなんかしらありそうだな。
「という事で日頃の鬱憤を溜めてきた2組に、纏めてお灸を据えるいい機会だと思ったんだろう」
「すまないな、弱みを見せた秋音が悪い」
先生が頭を下げるが、貴方は何も悪くないだろ。
悪いのはやらかした姉御と性根の腐った奴らだ。
「なぁ先生」
「どうした朧月」
「天下布武にカチコミに行きたいからアポ取って貰えないっすか」
「あちゃー」
「んなっ!」
顔に手を当てて天井を仰ぐ相棒と、驚いて目を見張る先生を視界に収めながら、グツグツと煮えたぎる怒りの感情がこの場で爆発しないよう抑制することに意識を割く。
「原因を知った朧月なら言いかねないと思っていたが、まさか本当に言うとはな...」
「聞いてる限りカルマが1番嫌いなタイプですから、こうなるのも仕方ないかと」
「僕だって喜んでカルマに着いていくつもりですし」
俺らからしたら出る杭を打つ意味がわからないからな。
それに俺らがその程度で潰せる相手だと思われているのも癪だ。
たしかにマスクデータとなってるステータスでは劣るかもしれない。
だがそれ以外で劣ってるとは1ミリも思わない。
まぁ流石に、こんなくだらない事に付き合わず、真面目に冒険者してる天下布武の方々には劣るだろうけどな。
そこら辺の分別は付くつもりだ。
...たぶん。
俺が闘志をギラギラと燃え滾らせてると、相棒も静かに闘志を燃やしていたのか、先生に質問を始めた時から発していた圧が1段上がる。
「はぁ...ったくこれだから問題児コンビは」
「せめてハル坊がいる日にカチコミに行け」
「と言うことは先生!」
「あぁ、アポは取っておいてやる」
「ただハル坊は今、先日の琵琶湖で発生した溢れの対処をしているはずだ」
ハルさんも応援に向かってるのか。
なら帰ってくるのは父上と変わらんか?
「だから早くてもアポが取れるのは1週間後だと思っとけ、そしてその間は大人しくしておくこと」
「分かったな?」
「あざっす!」
「分かりました」
「俺も可愛い教え子や娘の幼なじみ達が舐められるのは腹立たしいからか、それくらい協力してやる」
「ただ、2人は悪目立ちした直後に今回のブッチだからな、それなりに荒れることを覚悟しておけ」
「分かったっす」
「まぁ無難に近くのEランクダンジョンの上層を巡って、カチコミが終わった後にどこを攻略するか見繕ってな」
そう言うと先生は少し冷めてしまった紅茶を飲み干して玄関へ向かう。
「それじゃあ、俺は帰る」
「ありがとうございました、万城目先生」
「気にするな、説明責任を果たしに来ただけだ」
「...秋音は俺からコッテリ絞っておく、それで手打ちにしろとは言わんが譲歩はしてやってくれ」
先生はそう言い残して去っていった。
「どうする?相棒」
「とりあえず明後日くらいにDEAのお盆期間が終わるはずだから、そしたらどこのダンジョン行くか選定しようよ」
「どうせ姉御には【半魚人】の攻略が終わるまで連絡つかないだろうし、それが無難かね」
「カルマはなんかリクエストある?」
「あー、強いて言うなら1つの群れが1、2体くらいだといいな」
「最近大雑把に魔法でしか攻撃してないから、そろそろ剣を振るっておきたい」
「いいね、ならその方向でダンジョン探そうか」
「助かる」
「それで、他には何を考えてるのさ」
「今回の件とは別件だよね?」
「...よく気づいたな、相棒」
「実は家に着く前くらいから、直感先生がずっと嫌な予感を訴え続けているんよね」
「それは今も?」
「あぁ、最初はてっきり先生から言われる内容かと思ってたんだが、先生が帰った今も直感先生は警告を続けている」
「それは少し気になるね、どうする?ダンジョンには潜らないでおく?」
「いや、それはまずい」
「たしかに当分潜らなくても問題ないだけの金はあるが、潜らずにいて腕が鈍る方が被害がデカくなる気がする」
「ん、わかった」
「じゃあ、なるべく近場のダンジョンを優先して探すね」
「すまない、頼んだ」
たかが直感スキルではあるが、俺の直感スキルは他の人とは異なるスキルである疑惑が学園時代からある。
それこそ先生曰く、未来予知に近しいと言っても過言では無いくらいには異端なんだよな。
その直感スキルが、嫌な予感を訴え続けている
...何事も無ければいいんだが。




