第40層目
Side サズキ
カルマが持ってきたバカンスセットを片付けて、僕らは15層へと降りた。
僕らの前にこの階層に訪れた同業者の姿は見えず、ボス部屋へと続く扉を照らす篝火も赤く燃え上がっている。
「どうする、相棒」
「サクッと挑むか?」
「そうだね、お昼休憩とかはさっき取ったし、少しだけ体を解したら挑もうか」
「りょか」
緩くストレッチから始めて、いつもの軽い組手まで終わらせる。
最近は分身達も一緒に体を解しているけど、君たちは別に必要ないよね?
カルマが創造した時点で、最初から全力で動けるのに…
まぁ真面目な2号が他の2人を巻き込んでるんだろうけどね。
「そろそろ行こうか、相棒」
「ん、僕はいつでもいいよ」
装備の最終点検をお互いにすませ、扉を開ける。
黒く染まった空間を潜り抜け、視界が開けると、このダンジョンで始めて感じる真夏の日差しに、瞼が焼けそうになる。
「ヒュー、常夏のビーチと言ったところか」
「短期決戦で済ませないと熱中症が怖いね」
「まぁ手筈通りにやれば問題ないさ、任せたぜ相棒」
「任せてよ、相棒」
日差しに慣れた瞳に、海から上がってきた半魚人達が映る。
さっきまでの階層で見慣れた姿の中に、一回り大きい個体を見つける。
あの個体が僕の標的だね。
「じゃあ行ってくるね」
「おうさ、全力で行ってこい」
半魚人の群れへと駆ける。
「ソウル、鬼人化」
身体中に力が漲り、額に角が顕現する。
さぁ、破壊衝動に呑み込まれる前に終わらせよう。
鬼に喰われる覚悟はできたかい?勇者
走りながら群れの中心でこちらを見据えるデカブツに、囮スキルを込めた視線でガンを飛ばす。
それに応えるようにデカブツが長剣の柄で盾を叩き、こちらを挑発してくる。
いいね、いいよ、その挑発。
安心してね、ちゃんと乗ってあげるよ。
「鬼神変化、風神雷神」
「風雷混合ーー嵐鎧」
周りの半魚人の動きを全て無視して、一直線にデカブツの元へと駆け抜ける。
「暴風の壊脚」
身に纏う嵐を右脚に集約し、デカブツを蹴り上げる。
ギリギリで僕の蹴りを盾で防ぐけど、勢いを殺し切ることができずに宙に浮き上がる。
天の道で追いかけて、無防備なその体をさらに上空へと蹴り上げる。
ここら辺でいいかな
「タイプ:アイス、モード:フィールド」
「タイプ:スペース、モード:ロック」
「タイプ:カオス、モード:アイスコロッセオ」
カルマ達の声が聞こえると同時に、僕の足元を起点に氷の床が生成される。
そのままバスケコート1面分まで床が広がると、3階建ての建物くらいの高さまで氷壁が伸びる。
突然、自身の周りが氷の舞台に囲まれたことに驚いたデカブツが、辺りをやたらめったらに攻撃しているけど、氷が欠ける様子は見えない。
足場が滑ることがないことから、氷をベースに空間を固定しているのかな?
お陰で全力で踏ん張ることができるから有り難いね。
僕が足場を確認していると、この闘技場から出られないことを理解したのか、デカブツがこちらに剣を向けてくる。
「無駄な足搔きは終わったみたいだね。――じゃあ、殺ろうか」
左腕に巻き付けた鎖を解く。
「炎付与――炎鎖」
白炎に燃え上がる鎖を操り、一直線にデカブツへと振るうけどあっさりと盾で防がれる。
流石にこの程度の攻撃なら防いでくるみたいだね。
鞭を引き戻したところを隙と思ったのか、デカブツがこちらに詰めてくる。
それと同時に、水でできた槍が数本こちらに飛んでくる。
引き戻した鎖を振るって水槍を迎撃すると、デカブツが目の前で剣を振りかぶっていた。
この程度の速度なら欠伸をしながらでも避けられるけど、ここは敢えて迎撃しようか。
「鳴無流――鉄穿鬼」
こちらに真っ直ぐ振り下ろしてきた剣の側面から手刀を突き込む。
鉄を穿つという技名に恥じず、剣の中程から先を突き折る。
折れたことで急に軽くなった剣に振り回されて、デカブツが体勢を崩してこちら側に倒れてくる。
ちょうどいい位置に首が来てくれたので、鎖でそのまま締め上げる。
デカブツは折れた剣と盾を捨てて、苦しそうに鎖を外そうと腕を振り回して藻搔く。
「これは興味深いね。てっきり鰓呼吸がメインだと思っていたけど、地上ではちゃんと気道を使って呼吸をするんだね」
藻搔くデカブツの爪でこちらの腕が抉れるけど、そもそも燃え上がる鎖で半ば炭化しているし今更かな。
それに身に纏っている嵐鎧のおかげでその爪も削れていってるし、何なら雷で痺れたのか体が痙攣し始めた。
「このまま窒息するまで締め上げてもいいけど、今の僕は優しいから終わらせてあげるよ」
藻搔く腕の力が弱まった瞬間を見逃さず、デカブツを投げ飛ばす体勢に移る。
そのまま一本背負いの要領でデカブツを投げ落とすと、鎖で拘束された首が衝撃で折れたのか変な方向に曲がる。
びくりと一際大きく痙攣したあと、そのまま黒い煙となって消えていった。
「ソウル、人化」
んー、Eランクとはいえ中ボスはこんなものなんだね。
微妙に不完全燃焼気味だけどまぁいっか、デザートが来たしね。
大きく伸びをしながら背後を振り向けば、多分カルマに飛ばされてきたであろう1号が、頬を引き攣らせながらこちらを見ている。
1号がこちらに来たということは、向こうはもう終わったのかな。
じゃあ遠慮なくこの衝動を発散させてもらおう。
僕が元に戻った腕の感覚を確かめている間に、向こうも諦めたのか気配を薄めていく。
どうやら隠密スキルに加えて空間魔法を使って、完全に姿を眩ませたみたいだね。
じゃあ後の先を取ろうか。
目を閉じて触覚に神経を集中させる。
いくら姿と音を消そうとも、攻撃に移行する際に発生する振動までを消すことは、今のところできないみたいだからね。
だから空気の揺れを感じた方に拳を振るえば…このように1号の脇腹を殴り飛ばせるわけだ。
なぜわかったとばかりに1号がドン引きしているけど、こればっかりは経験としか言えないからね。
君が限界を迎えるまで付き合ってもらうよ。




