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幻月蝶  作者: こうえつ
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女友達

言葉の難しさに頭を抱える。テレビでもインタビューを悪意で編集すれば、簡単に好感度を破壊できてしまう。この場合も過去の会話録から、今の私の発言を足しこんで、一方目の前の彼氏に「あなたを嫌いでは無い」ことと「ずっとべったりしているのは面倒くさい」この相反する二つの言葉がどちらも本音であることを、どうやって説明したらいいのか?

 どちらも偽らない私の本当の気持ちだと説明し、理解してくれるようにお願いしてはみるが、今まで気持ちが正確に伝わったことは一度もなかった。的に悪く思えてくる反応がくる。

「なぜ分かってくれないんだ!」

 殆どの男が怒り出して、その後にお決まりの言葉。

「怜子は本当に好きになった人がいないから、本当の恋を知らないから、そんなことを言うんだ。恋に落ちたら、いつでも一緒にいたくなる。事実、オレは怜子といつでも一緒にいたい」

「そっか! それが本当なら、私はあんたとは恋に落ちてないってことだね」


 そんな風に一旦心の中で思ってしまうと、目の前の感情は一気に冷め、恋愛という作業をしている感じが強くなり、男と会うのがどんどん面倒になっていってしまう。

 そんなわけで、このパターンになってしまうと、私は彼氏のことを放ったらかしにする。中には辛抱強く「怜子の考え方がおかしい」と、何度も教えようとしてくれる男もいる。それで時々、自分の携帯のメルアドや電話番号を変えなければならないことになってしまう。まことに面倒なことだ……


 世界は表裏一体。誰しも飾り付けた表の姿は、誇らしげに他人に見せつけようとする。けれど、真実である裏の姿は決して見せようとしない。

 自分は醜いものだと自覚している、でも他人には気づかれたくない。

 だから人の真実の姿を知る事は難しいけど、それを覗き見る方法がある。

 世界の表裏と真実を覗き見る方法。SNSもその一つ、匿名であるために必要以上に過激な自分が出てしまう。

「俺はそんな事はない」とお思いのあなたは、駅前の群衆の前で普段のツイートを声にしてみれば、結構ひどいと、自分で感じ取れるだろう。

 あと一つ、真実を知る方法「義理の宴会」。


 私の大嫌いな酔っ払いたちは、真の裏の世界を見せてくれる。

 会社が休みの土曜日に行われるそれは、名目上は有志参加ということになっているものの、本当はほぼ強制参加。

 とりあえず私は二回に一回は理由をつけて、辞退させてもらうことにしている。

 今日は七回目の宴会。出席、欠席を繰り返すのだから、奇数回の宴会には出ないといけない。二回に一回は出ないと決めたということは、二回に一回は出ると宣言してしまったのと同じことになっていた。


 おかしな事だ。他人からよく私は、表と裏の差が少ないと言われる。

 そしてクールであると。どちらも当然誉め言葉ではない。


「少しは空気を読めよ。建前ってあるだろ」って口にする人もいるが私としては

「空気なんて読むものじゃなくて吸うものでしょう? それに建前なんてナンセンス。本音で言い合えばいいのよ」などと、大人気なく口に出して反発してしまう。

 周りに合わせて言いたいことも言わず、作り笑いをするのが大人だと言うならば、私は一生、大人とは認識されないだろう。たとえ自身は満足している人生でも。

 

 折角の土曜日だ。面倒な飲み会に行くくらいなら、ネットで愚痴を言い続けていたかった。でもそれは出来ない。待ち合わせ場所では、夏美が待っているはずだから。

 飯田夏美。私の唯一と言っていい友達。

 親友だけど、性格も外見も私とは正反対な夏美。やせ気味で背が高い私はクールな色合いと動きやすい服が好きで、男の目はあまり気にならない。性格も冷静で男っぽいと言われる。一方、夏美は、背は小さめで色白なポッチャリ体型。可愛らしい服が好きで、フリルがついたピンクの服を年甲斐も無く好んでいる。

 男の目も非常に気にする。表では一見可愛く見えるけれど、それは可愛い振りであって、裏ではちょっとがさつな、私と同じ三十歳を少し越えた典型的な男受けがいい女。


 女が口にする「女友達」など、現実ではできるものではない。

 本来なら私と夏美もそうなのだが、何故か上手くいってしまっている。典型的な同性には好かれないタイプの夏美。私は笑って許すことができた。時々「なぜだろう?」と思うことはある、不思議に夏美には何か他の人とは違う特別なものを感じる。ただのお調子者とは別な、裏の夏美はあるのか、どうかしらないが、私の親友になった貴重な存在であることは確かだ。

 私は敬遠している会社の飲み会だけれど、夏美は皆勤賞だった。

 どうやら出席する社内の男がお目当てのようだが、夏美が飲み会に参加することが、私も飲み会に出席する理由の一つになっている。

 本来ならば男を目当てに行くような会社の飲み会など、夏美一人で行かせておけばいいのだけれど、問題は、飲み会が終わった後のことだった。いや、今考えるのは止めておこう。


 歩いて二十分ほどかかる近くの駅までの道を、マンションを出て歩き出す。夏美と待ち合わせをした駅まで電車に揺られながら、バッグから取り出したスマホでSNSをチェックする。なんか移動時間になにもしないのは、もったいないと思ってしまう。昔は単行本を持ち歩いていたけれど、今はスマホを使うようになった。

 周りの人もスマホを覗き込んでいる。


 既にたくさんのツイートが更新されていて、私が先程までネットに居た痕跡などまったく残っていない。流れていく他人のつぶやきを見ていた。

 後ろから肩をポンと叩かれ、少し高くトロっとした声が私の名前を読んだ。

「あれ? 怜子かなぁ?」

 ポワンとした独特な話し方だ。

 私の会社の同僚であり、唯一の親友に私は振り返る。

「あら、珍しいね。一緒の電車に乗り合わせるなんて。あなたの感覚で言ったら、約束より三十分早く着いちゃう感じかな?」

「いつもより一時間も早く出たの。じゃあ、時間どおりねぇ。あたしってすごーいねぇ」

 スマホをバックにしまう私に、飯田夏美は悪戯っぽい笑みを浮かべた。


 さて、宴もたけなわ、四時間以上も経過して、そろそろ帰りたい私に、夏美の酔っぱらった声が聞こえてくる。

「あは、あはは、おかしい~~それ絶対、すごく可笑しい! あははは。あんた変だよぅ、ね、ね」

 店中に響き渡ってしまいそうなくらい大きな笑い声。その声の主は夏美。酔っ払うとかなりうるさい、面倒な女。飲み屋には一人くらいこんなのがいる。

「部長、それ、それだ! てか、やっぱりあんたへんだよ。あはは、あははははは」

 楽しそうに笑っている、その笑いはいつも不自然で大きく高い。

 義理の会社の宴会には、大声で良く笑う迷惑な女が必ずいるけれど、迷惑な女本人も本当にその場が楽しくて笑っているわけではないように見える。

 場を盛り上げる、自分を印象づける、そんな理由なんだろう。だからつまらないことに意識的に大げさに反応する。

 宴会を盛り上げるためには大事なことかもしれないけれど、私の頭には女の笑い声が貯まり続け、反響を起こしてしまう。



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