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第49話 忘れられた使命

 転移の腕輪で飛んだ先は、物が山のように積まれた倉庫のような部屋だった。扉には鍵がかかっていたが、内側からは簡単に外すことができるようだ。俺たちが廊下に出ると、隣の部屋の前に立っていたフィーレが手招きして、俺たちを隣の部屋に導いた。


 入ってみて気づいたが、この部屋はアムネイアの部屋だったらしい。ということは先程までの倉庫に入っていたのは、アムネイアの作品なんだろうか。


「もっと早く来てくれると思ったのに、ずいぶん遅かったのね」

「充填まで半年って言ったのはアムネイアだろ。むしろ早いと驚けよ」

「それもそうね」


 ゲル子と花子がそれぞれ『師匠』にお土産を手渡す。花子のほうはあまり大きくするなと注意しておいたので、通常の3倍ぐらいのサイズにとどめた野菜だ。


「でも、来てくれてちょうどよかったわ。聞きたいことを思い出したのよね」

「俺のほうも、一応聞きたいことがある」

「じゃあ、そちらの話から聞いてあげましょう」


 俺は隠れるように後ろに立っているシャルムをアムネイアの前に押し出した。


「あら?その金髪の彼女はひょっとして・・・・・・」

「アムネイアも以前会ったことがあるよな。あのあと、あの『石』でこうなったんだ」

「その経緯は聞いたわ。ふうん、あの金髪の美形クンが・・・・・・攻だと思ってたのに、完全に女の子になってるのね。おっぱいめっちゃ大きいし」


 わきわきと指を動かすアムネイアに身の危険を感じたか、シャルムがまた俺の後ろに隠れる。俺より背が高いから、隠れきれてないけど。


「まあ、性別の件もそうだが、種族も変わってるからな。知っての通り、元が光の教団に所属してたんで、このままだといろいろ不都合がある。戻せるなら戻したい」


 アムネイアは眉間にしわを寄せ、うーんとうなる。


「『賢者タイムの石』の効果は私でも変えられない。元々、自分で制御できない能力で作ったものだからね。普段作れるレベルの魔道具はそれよりもずっと次元の低いものだし」

「なんとなくそんな気はしてたけどな」


 つらい思いしただろうから、駄目元で戻してやれればいいなーと思っただけで。


「私としても、TSモノはそれほど趣味じゃないし、元の美形クンに戻してあげたいんだけどね」

「言ってる意味はよく分からんが、とにかく無理なのは分かった」


 他に戻る方法があるのかもしれないが、しばらくは今のままの姿でいさせるしかないだろうな。


「戻れないなら、一応種族鑑定させてもらえるか?そっちも変わってるみたいだからさ」


 アムネイアがうなずくと、ケロッパがソファーの後ろからのそのそ出てきて緩慢な動作で六角形の石を吐き出した。


「なんだケロッパ、今日は妙に大人しいな」

「最近なんやら、夢見が悪うて・・・・・・」

「少し顔色が青いですね」


 青い・・・・・・のか?カエルの顔色なんて俺には分からん。というか、ゲル子はなぜ分かるんだ。


「夢見っていうが、魔物は眠らないんだろ?」

「アムやんに雇われるとき、三食昼寝つきって条件やったんや。権利は行使せんと勿体ない」

「必要ないのに、無理に昼寝しなくたっていいだろ・・・・・・」


 俺たちがそんな馬鹿話をしている間、シャルムは粘液でぬめぬめ光る六角形の石に手をかざしていた。それを覗き込んでいたアムネイアが結果を告げる。


「うーん、『タングリスニ』」

「タン・・・・・・なんだそりゃ?」

「さあ、聞いたことないけど。魔物の種類なんじゃないかしら?」

「ゴウプ族じゃないんだな」


 俺のほうを向いてアムネイアが自信ありげにうなずく。ゲル子と花子に目をやるが、二人とも聞いたことはないという風に首を振った。


 しかし、ゴウプ族だと思っていたら、本当に魔物だったとは・・・・・・知らない間に人間やめちゃってたわけで、シャルムとしてはずいぶんショックなことだろう。そう思ってシャルムに視線を向けたが、シャルムは不思議そうにはしていたものの、それほど落ち込んでいる様子もなかった。


「大丈夫、なんとなくそんな気もしていたから。今さらだよ」


 そういって俺に笑顔を向けてくるシャルムは健気だ。


「シャルム・・・・・・後で服いっぱい買ってやるからな。角が隠れるフードも」

「あー!ずるい!あたしたちのも買ってよ!!」

「お前らはもう持ってるだろ・・・・・・」


 ずるい、ずるいと言いながらしがみつく花子をひっぺがす。


「まあ、一見魔物に見えないのはいいけど、別のトラブルもあるかもね」

「そうだ、アムネイアさんはこの街には詳しいのかな」

「え?そうね、生まれ育った場所だし、表も裏もそれなりには詳しいつもりだけど」

「奴隷を扱う店があれば教えてほしい」


 シャルムの言葉に俺は一瞬目が点になったが・・・・・・。


「そ、そうか、ロータムに誘拐された人たちが流されてるかもしれないんだな?」

「いや、そちらは・・・・・・残念ながら既に無駄だと判明している」


 そう言って眉根を寄せるシャルム。『残念ながら』ということは、それより悪い結末だったことが分かったってことだろう。俺のところに来るまで何日かかかったようだが、ぼろぼろになりながらも調査はしていたってことか。


「単に、この姿でいるのなら奴隷になるほうが目立たないと思ってね」

「俺はオーナーになるのは嫌だぞ」


 別に奴隷制度が悪いって思ってるわけじゃないけど。俺は本来そういうのを持てるような身分じゃないし、形式だけとはいえ仲間を奴隷に落としちまうのは、なんだかな。


「うーん、要するにトラブルを避けるためにも、ゴウプ族の奴隷に見えたほうがいいってことかしら」

「そうだね。街中でゴウプ族が自由の身というのは不自然だし、変に注目を集めれば調べられて実は魔物だと分かってしまう可能性もある。奴隷らしく手枷ぐらいはつけたほうがよいだろうかと思ってね」

「なるほど、それなら・・・・・・」


 アムネイアはそばに控えていたフィーレさんに合図を出し、隣の部屋から何かを持ってこさせた。シャルムの前に差し出された「それ」は、小さな棘が植えつけられた黒い皮製の輪っか。中心部には以前のシャルムの目の色に似た青い石が嵌められている。


「なんだ、そりゃ」

「ぱっと見で正式な奴隷契約をしてるかどうかは分からないわけだし、それっぽく見えればいいんでしょ?首輪つけてれば、飼われてる感じじゃない?」

「うーん、でもな・・・・・・」

「ちなみにこれ、ちょっとだけ魔力回復を促進する効果もあるの」

「なんだ、その無駄な高性能」

「とある人の依頼で作ったんだけど、先方の事情で売れなくなっちゃった不良在庫なのよねー」


 アムネイアが首輪を差し出すと、シャルムはそれを受け取り首に嵌める。サイズは合わせたようにぴったりだ。別にそういう趣味はないんだが、柔らかい女の肌にゴツい首輪が食い込むのはなんか背徳的な感じがしてそれはそれでごにょごにょ。


「すごい、見た目より重さや擦れがなくて、まるでつけていないみたいだ」

「性能はともかく、装着感にはこだわったからね」

「そんなもの作るより、俺に強い武器でも作ってくれよ」

「あなたには転移の腕輪をあげたでしょ?こっちも商売だから、そうそうサービスできないの」


 商売・・・・・・ってことは、今までもらった分も代金を請求するってことか?


「あらら、そんな不安げな顔しちゃって。大丈夫、お金少ないの分かってるから。ただちょっと、今までいろいろあげた分、労働で返してくれてもいいよね?」

「よーし、腕輪も首輪も返す。花子、シャベルも返せ」

「えーー、やだよぉ」


 しぶる花子から『ガチムチ君』を奪い取る・・・・・・ぶへ、顔に『ばぁん』してきやがった。


「そんなに警戒しないでいいのよ。たいした事ではないのだから」

「お前の頼みなんてろくでもなさそうだ。作品のモデルになれとか言いそうだからな」

「あらあら、そういうのも悪くないけど。まあ、シャルムさんが元に戻ってからね」


 ・・・・・・シャルムが元に戻ったら何させる気だ。


「頼みたいのはそういうことじゃないのよ。まあ、世界のためになること?じゃないかと思うんだけど」

「世界のためになること?ずいぶんスケールのでかい話だな」


 自慢じゃないが、俺は自分の国からは出たことがないし、国内も全部を知ってるわけじゃない。海の向こうに他の大陸があることは知ってるけど、いくつ国があるのかもよく分からないぐらいだ。


「念の為聞いておくけど、あなたは前世の記憶がないのよね?」

「ほとんどない・・・・・・ってのが正確なところだな」

「自分が何か使命を持っているというのは?」

「いや、全く覚えがない」


 前世があったことは覚えてる。でも、詳細は覚えてない。たまーに何かがひらめくことはあるといえばあるんだけど。


「私には、使命があるのよ。いえ、ある『らしい』の。そのために神様がこの地に私を送った」

「『らしい』って、アムネイアも記憶が飛んでるのか?」

「いいえ、忘れたんじゃなくて、聞きそびれたのよ。いろいろ事情があって」


 なんで使命とやらを聞きそびれるんだ。結構重要な話なんじゃないのか、ソレ。


「まあ、ともかく、この年になるまでそんなことは忘れて面白おかしく暮らしていたわけだけど」

「忘れるなよ!神様が泣いてるぞ」


 転生の記憶がまるっとなくなってる俺が言えた義理じゃないかもしれないが。


「まあねえ、そうね。でも、あなたという転生者に会ったじゃない?それで、目的達成のために、他の転生者を手伝えみたいな事をいわれたのは思い出したわけなの」

「俺たちのほかにも、その、転生者ってのがいるってことか?」

「そのはずだけれどね」


 他の転生者を発見すれば、神様とやらに命じられた「使命」ってのも分かるんだろうか。使命が共通じゃなくて、一人ひとつって可能性もなきにしもあらずだが。でも、手伝えといわれたのなら、何らかの共通項はあると考えていいように思う。


「『使命』を果たさないとどうなるんだ?」

「分からない。でも、ろくなことにならないってのがお約束じゃないかしら。例えば、世界が滅ぶとか」

「おいおい、世界がどんだけ広いのか分かってるのか?」


 町ひとつ、国ひとつ滅ぼすのだってよっぽどの兵力をもってしなければ成し遂げることはできないんだ。世界中を滅ぼすなんて方法があるとは思えない。それこそ、神様の力でもなければな。


「そんな物騒なことはないかと思ってたんだけどね。ここのところの異変続きを見てると、どうにも不安になって」

「異変?」

「あら?気づいていなかった?人里離れた場所に住んでると、情報にうといのね」


 そういって説明を始めたアムネイアの話を聞いて・・・・・・俺たちは皆頭を抱え込むことになった。何しろそれは、遺跡の外で魔物が起こしたと思われる襲撃事件が頻発しているというものだったから。

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