第46話 幼き日のあこがれ
俺の家にシャルムが居候しはじめて数日。病み上がりの体なので外に出すことは避けてしばらく留守番させていたんだが、本人が大丈夫だと言い張るので一緒に遺跡探索に連れていくことになった。
「遺跡に無断で入るのは違法行為だけど、いいのか?」
「この間もやったんだから、いまさらだと思うよ」
「あれは人助けが目的だったけど、今度は盗掘だぞ?神様が怒るんじゃないか?」
俺の言葉にシャルムが首をかしげ、豊かな金髪からはみ出た角を撫でながら問いかける。
「神様ってさ、やっぱり怒るんだろうか」
「私はずっと神様がいると信じてた。今でも神様はいるんじゃないかという気がしてる。でもね、ロータム光司の姿を見て思ったんだ。彼の神は偽物で、自分の信じる神は本物って本当に言い切れるのかって。彼はね、以前は私より熱心に光の神を信仰していたんだよ」
俺は柱の少女をうっとりと眺めるロータム光司の姿を思い出した。最後まで自分の神を信じて死んでいったあいつは、あれでも幸せだったんだろうか。
「私たちの心は弱い。何かにすがらなくてはすぐに不安定になってしまう。柱の少女の存在は、光の神では埋められなかった彼の心の隙間を満たしてくれるものだったんだろうと思う。例えそれが本当は自分の願望の投影でしかなかったとしても」
長い指先が黄金色の髪をかき上げると、広い額とくっきりした眉が露出して大人っぽい雰囲気が増す。
「私も彼も自分に都合のいい神の姿を勝手に思い描いていただけなのかもしれないと思ってね」
そう言うとシャルムは愛用の杖を掲げて見せる。森の中に落ちていたのをゲル子が見つけて拾ってきたものだ。
「光の神はゴウプ族を許さない。魔物を許さない。さて、『変わって』しまった私はまだ『神の奇跡』が使えると思う・・・・・・?」
シャルムが静かに詠唱を始めると、杖の先には光が宿りはじめた。
「・・・・・・力の質が変わってしまったみたいで、制御が難しいな。でも発動はできそうだよ」
人数が4人に増えたことで、戦闘は今までよりも安定した気がする。防御に優れたゲル子が最前衛、
攻撃力のあるシャルムも前衛寄りで戦ってもらっている。俺と花子は後衛だ。
花子の「ばぁん」はやり過ぎると魔力切れで目を回すので実戦投入は出来ていないが、自分で試行錯誤したのかいつのまにか新しい技を編み出していた。
「さーて、『ブクブク』しちゃうよーー!」
そんな言葉とともに、花子の小さな手のひらが水をすくうような形で顔の前に持ち上げられる。くちばしのように突き出した唇から息が吐き出されると、手のひらの上に無数の泡が生じ、宙に浮かんだ魚型の魔物めがけて飛んでゆく。
この『ブクブク』、当たっても全くダメージはないものの、皮膚から体内に浸透して状態異常を引き起こす。アルラウネの状態異常ブレスに最近取得した水魔法?の複合技のようだ。ブレスよりも射程が長く、打ち出す方向を制御できるので仲間にも当たりづらいのが特長。見ているとふわふわして簡単に避けられそうに思うんだが、量が多いから見た目よりも命中率は悪くない。
『ブクブク』に当たった魔物は体を震わせて落下し、そこにゲル子とシャルムの追撃が入ってあっさり魔石になった。『ブクブク』が与える効果は睡眠、麻痺、毒などがあるそうだが、実際は花子の体調と気分によってムラがあるようだ。魔物にも耐性を持ってるやつがいるので、全てに効果があるわけじゃないが、うまく決まれば戦闘が楽になる。
「クルクさん、宝箱ありましたよー」
「はいはい、今開けるから触らず待ってろよ」
「触らず待ってます!」
ゲル子は最初の頃、いきなり蓋を開けようとして爆発の罠にひっかかったことがある。箱の中身も消し飛んだけどゲル子自身も半分吹き飛んで痛い目にあったから、それ以降は勝手にこじ開けようとしたりはしない。核が無事なら体は再生はできるんだが、半分もなくなると完全に戻るまでには時間がかかるようだ。
鞄から道具を取り出して、手と目と勘で中を探りながら鍵を外す。
「入ってたのは昔の硬貨だな。価値はそれなり」
「きらきらしてますね」
「不思議とサビてないんだよな」
「きれーい、一個ちょーだい!」
「何に使うんだよ」
こういうのは愛好家もいるから売却すればいい小遣いになる。鞄にしまっておこう。
「こっちにももう一つ箱があったよ」
「ほほう、どれどれ」
そっちにはよく分からないデザインの像が入っていた。見た目はイリル銀製っぽいから潰せば素材としての価値はありそうだが、美術品としての価値はどうだろう。人型にしようとしたのは感じ取れるが、子供が作ったみたいにぐちゃぐちゃな造形だ。失敗作だろうか。
「ちょっとわたしに似ていますよ」
「そうだな、攻撃受けた時のゲル子に似てるかもな。欲しいなら持っててもいいぞ」
その後も出てきた魔物としばらく戦って、宝と魔石で荷物が増えてきた頃、花子が疲れたと文句を垂れ始めた。俺は疲れても花子に体液をもらえば元気になるんだが、さすがに花子は自分の回復はできないらしい。当たり前か。それができたら自分で唾液飲み放題だもんな。
「よし、じゃあこの辺で帰ろうか」
「歩くのかったるーい。おんぶして」
「自分で歩かないなら置いてくぞ」
けちー、と言いながら小走りで走ってくる花子。なんだ、元気じゃないか。
「この間みたいに騎獣がいれば移動が楽なのにな。身軽なやつなら遺跡の中にも連れて行けそうだし」
「騎獣ってなに?」
「大型の獣を訓練して、背中に乗ったり荷物を運ばせたりするものだね。戦闘用の騎獣を乗りこなす騎獣士っていう戦士もいるんだよ」
シャルムの説明に花子がふんふんとうなずいている。
「騎獣士か。小さい頃はあこがれたっけな」
「男の子の夢だよね。でも騎獣はすごく高いから個人が買うのは難しい。この間乗ったのも、教団の所有だよ」
「そうだよなあ」
戦闘用の騎獣に乗れる身分というと、兵士でも指揮官クラスかエリートぐらいだな。都で凱旋パレードがあると庶民でも見ることが出来るんだが、乗っている人も騎獣もきりっとかっこよくて英雄っぽいので大人にも子供にも大人気だ。
そんな話をしていると、ゲル子が身をかがめてすすすと近寄ってくる。
『さあ、クルクさん、どうぞ』
「どうぞって何だよ」
『クルクさんの夢をかなえるべく参上しました』
スライムライダー・・・・・なんだかかっこ悪い。好意を無駄にして申し訳ないが、丁重にお断りする。
「そういえば花子、転移の腕輪はどうなんだ?ちょっとは溜まったか?」
「うーん、石1個分ぐらい」
「それが使えるようになると帰るの楽なんだけどなあ」
そういってぺろりと腕をまくって見せる。腕輪には魔石を10個はめられるようになっていて、魔力の充填状況に合わせて石が1つずつ光るようになっている。花子がはめ始めてから5日ぐらい経ってるが、まだ1個だけか。先は長いな。
「というかね、これ、シャルムがつけてた方がいいんじゃないの」
「ああ、言われてみればそうか」
「転移の腕輪?」
シャルムに充填式転移の腕輪の説明をしたら、使い捨ての転移の腕輪の価値を知ってるからか、目を丸くして驚いていた。




