第45話 幕間:新人いびり?
「花子、花子、一大事ですよ」
「どうしたの?ゲル子。また食べ残したお肉にカビが生えてるの?」
「そんな些細な問題ではないのです!」
こちらをご覧あれ、そう言ってゲル子は布団の中を指差す。そこにいるのは、クルクとシャルム。クルクはシャルムの豊満な胸に溺れんばかりに顔をうずめ、二人とも妙に幸せそうな顔をして眠っている。
「あー、分かってたけど、大きいの好きだからね・・・・・・」
花子は自分の絶壁を眺めながらため息をつく。いくら頑張ったって、これ以上は成長しないのだからどうしようもない。
「あのポジション!本来なら、クルクさんの枕になるのはわたしの役目なんですよ。クルクさんもゲル子のぷにょぷにょがきもちいいって言ってくれてたのに。それを、あんな新参者にむざむざと奪われるなんて、ムキーーーー!!」
「怒ってるのって、ソコなわけ?」
なにやらプライドがかかっているようなのだが、生憎とスライムの気持ちは花子には分からない。
「ここはあれしかありません!」
「あれ?」
「師匠がいつか言っていた・・・・・・『新人いびり』というやつです!」
「新人いびり・・・・・・具体的にはどうやったらいいの?」
花子の質問に、ゲル子が得意げに答える。
「靴にとがったものを入れたり、大切な衣装を破いたりするのです」
「でも、シャルムが今着てるのってゲル子の服だよね。破っちゃっていいの?」
「うう・・・・・・それは・・・・・・クルクさんに怒られるからダメです」
せっかくの名案が通らず、くんにゃり垂れるゲル子。
「でもでも、まだいびりのバリエーションはあるのですよ!花子、手伝ってください」
「あーはいはい」
【食事中】
「いやあ、シャルムの作ったメシはうまいなあ。俺は簡単なものしか作れないから有難い」
「美味しいご飯はご奉仕の基本でございます、ご主人様」
「いや、奴隷ごっこはしなくていいから」
「実際のところ、一人暮らしが長いので自炊には慣れているんだ。そんなに凝ったものは作らなかったんだけどね」
そういいつつも、品数こそ多くはないが味付けは上品で盛り付けも美しい。いそいそとクルクにお代わりを差し出す姿は元が男とは思えないほどの女子力の高さだ。
しかし、そんな和やかな食事風景のなかで、おもむろにゲル子がきりっと顔を引き締め立ち上がる。
「なんだい、このしょっぱいスープは!わたしを殺す気かい?!」
「・・・・・・ゲル子、お前は味が分からないだろ」
すかさず突っ込みを入れるクルク。
「スライムってひょっとして塩をかけると縮んだりするんだろうか???」
シャルムは、謎に包まれたスライムの生態についてもっと調べてみようと思うのであった。
【掃除中】
シャルムが楽しそうに鼻歌を歌いながら掃除をしている。
「いろいろ家事をやってもらっちゃって悪いな。うちの連中と来たら、家事はさっぱりだから助かる」
「いやいや、自分の家でやってたのと同じだからね。たいしたことはないよ」
「ゲル子なんて、整頓と混沌の違いが分からないぐらいだからなあ・・・・・・。やる気はあるみたいなんだが、片付けてるのか散らかしてるのかよく分からない」
話している二人の後ろにそっと近寄っていく花子。
「あらシャルムさん、こんなにほこりが残っていてよ」
そう言いながら棚の上に手を伸ばしてしゅーーっと・・・・・・ガツン、ガシャン。
「こら、花子!また何か壊したのか?掃除の邪魔するなよ」
「あ、いいよいいよ、手を切っちゃうからそのままで。破片は私が拾っておくよ」
怒られて、部屋の隅できのこのようにうずくまっている花子であった・・・・・・。
【昼寝】
「ゲル子、ゲル子」
「なんでしょう?クルクさん」
「昼寝するから枕になってくれ」
自分はお役御免になったわけではなかった!ゲル子の心に喜びが溢れ、思わずクルクの首にぎゅうぎゅう巻きついてしまう。
「ぐえ・・・・・・ゲル子、窒息するって」
「クルクさーん、わたし・・・・・・わたし、捨てられるんじゃなかったんですね!」
「なんでお前を捨てるって話になってるんだ?」
だって、もっといい枕が見つかったのかと思ったんですよ・・・・・・そういってくにゃりとうなだれるゲル子。クルクは後頭部の下で柔らかくなったゲル子を撫でてやる。
「だって、だって、クルクさん、あの金色頭を飼うことにしたじゃないですか」
「いや、シャルムは俺が飼ってるつもりはないんだけど」
「最初はつるぺたの人間だったのに、いつの間にやらクルクさん好みのぼいんぼいんの魔物になって帰ってきてるし!わたしたちはもういらないのかと、気が気じゃありませんでしたよ」
そういってクルクにすがりつくゲル子。
「いや、たしかにぼいんぼいんにはなったけど・・・・・・シャルムは魔物じゃないぞ?」
「魔物ですよ」
「ゴウプ族は角が生えてるけど、人間なんだよ」
「ゴウプというのはあの広場でみたやつでしょう?確かに外側は似てますけど、あれには核がありませんでしたから。別物です」
「ちょっと待てよ。シャルムには魔石・・・・・・核があるってのか?」
「ええ、まあ。前はなかったんですけどね。今は感じられますよ」
ゲル子の返答に、クルクはそれでも納得いかず頭を捻る。
「何の魔物か知りたいなら、師匠のところに行きましょうよ。種族の鑑定石があると思います」
「え、アムネイアのところに行くのか?いや、ちょっとそれはなあ・・・・・・」
以前のやり取りを思い出してしり込みするクルク。
「まあ、それはどうでもいいんですよ。問題は、誰がクルクさんの枕になるかということです!」
「ゲル子よりいい枕があるわけないだろ。高さも硬さも好みに調節してくれるし、形も俺の頭にジャストフィットだ。おまけに、夏場は水につけておくとちょっとだけ冷たさが持続する」
ゲル子を枕として使い慣れたクルクは、当然という顔でその利点を並べ立てる。
「クルクさああああん、そこまで評価していただいてわたし、とっても嬉しいです!わたしはクルクさんの専用枕ですから!これからも末永く使ってやってください」
嬉しさに身をプルプルふるわせるゲル子。花子はそんなゲル子を物陰からそっと見守り、「よかったね」と穏やかな顔で呟くのであった。




