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第43話 みどりの魔法

 街で変なお嬢様から『転移の腕輪』をもらった俺。必要なものは一通り買い込んだし、いろいろ疲れたので一旦自分の家に帰ることにした。『転移の腕輪』は、俺がつけていても使えるのは半年後ということだから、今のところはまだ使えない。魔力が溜まったら、遺跡で危ない目にあいそうなときに使えればいいかな?その時にあのお嬢様のところに飛ばされるのはシャクだから、自分の家ぐらいは登録しておくか。


 そういえば敵の黒幕っぽいのは潰したわけだけど、結局誘拐された人たちはどうなったんだろう。あいつの言ってた感じでは何人かはあのバケモノの餌になっちゃったんだろうけどさ。生き残った人はいたのかどうか。あの塔の中には人を監禁できそうな場所はなかったから、いるとすれば街の中か。どっちにしろ秘密裏に餌にされることはもうないわけだから、何らかの形でいずれ表には出てくるだろう。その辺はきっとシャルムがうまいことやってくれてるんじゃないかと勝手に期待しておく。


 花子はといえば、あれから本当に畑を作り始めたみたいだ。家の周りをスコップで掘り返して、いろいろ植えては喜んでいる。収穫が楽しみなのか、まだかなまだかなーなんて毎日聞かされるけど、そうそうすぐに育つ植物なんてないんだからな。


 また近くの遺跡探索を再開して、それなりに魔石やアイテムを稼ぎながら過ごして数日。今日はかったるいから休みにしようかななんてゲル子枕に頭を乗せたままでヌルイことを考えていた俺のところに、息せききって花子が駆け込んできた。


「できたーーー できたよーーーー」

「花子、うるさい」

『なにができたんですか?』


 たぶん、また畝が1つできたとかそういう報告だろ。ハマってるのは分かるが、興味がない身からするといちいち細かいことを報告されても反応に困るぞ。


「トマの実ができたよーーーーいえーい」

「・・・・・・はあ?花子、トマは3日前に植えたばっかりだろうが!」


 植えるには季節違いだからやめろって言ったんだけど、どうしても食べたいからって無理やり植えたんだよな。でも季節があってたとしても、さすがにまだ芽も出てないはずだ。


「それでもできたんだもん。ほーら!」

「お、お前、そのでかいのは何だよ!!」


 花子が持っていたのは俺の頭ぐらいあるでっかい果実。形はたしかにトマの実にそっくりだが、普通のトマの実の何十倍かはある大きさだ。


「いやあ、意外と簡単にできるもんだね」

「おかしいだろ。植物系の魔物かなんかじゃないのか?」

『それっぽくないから、魔物じゃないと思いますよ』


 俺の頭の下からゲル子の声が響く。


『花子、それはどうやって作ったんですか?』

「えーとね、こう、種を植えてお水をあげて、早く食べたかったから『大きくなーれ大きくなーれ』って言ってたらすくすく成長した!」

「他の種はどうなんだ?」

「まだ芽が出てないよ。なんか食べたいのあったら、『大きくなーれ』ってする?」


 したら大きくなるのかよ。おかしいだろ。


「じゃあ、ポクイモ。今日食べたいから大きくなるように言ってみてくれ」

「りょうかーい!」


 そこから1ゼッカぐらい二度寝。ああ、ゲル子枕は最高だ。ぷにゅぷにゅして気持ちいいなあ。


「できたよーーーーー」

「・・・・・・は?」

「だから、ポクイモもできたよーーってば」


 ゲル子の感触に後ろ髪を引かれながらしぶしぶ起き上がってみると、そこには大きな玉を転がしながら歩いてくる花子の姿が・・・・・・。


「だから、でかすぎるだろ!」

「いやー、大きいから掘り出すのに時間がかかっちゃったよ。『ガチムチ君』があってよかった」


 おかしい、絶対におかしい。 その後、実際に『大きくなーれ』をする現場を見せてもらったが、花子が手をかざすと本当にムクムク大きくなっていた。


「なんかの魔法の類か?でも、こんな魔法聞いたことがないぞ。だいたい、アルラウネは魔法が使えない魔物なんだし」

「魔法ね、使えるよ。というか、最近なんか使えるようになった」

「え?それ、本当か?」


 見ててね、そういうと花子は俺に向かって人差し指を向けて「ばぁん!」と叫んだ。その瞬間、俺の目の前に水しぶきが散って顔面がびしょぬれになる。


「なんだこれ、水魔法?いや、まて、お前今詠唱してないだろ」

「詠唱ってなに?」

「シャルムとかロータムとかが魔法使う前にごにょごにょ言ってたやつだよ」

 

 無詠唱で魔法を使う。そんなことができるもんなのか?それとも魔法じゃなくて、ゲル子の酸みたいに魔物としての特性なんだろうか。でも、この水こいつの体から出てるわけじゃなさそうだよな。


「他の魔法は使えないのか?例えば火とか風とか」

「よくわかんない」

「じゃあ、これから俺がいうことを繰り返してみろ。いいか?」


≪移り気なる風の女神 優しき吐息を いまここに 送風ブリーズ


 俺が詠唱を終えるとともに、そよそよと風が吹いて花子の前髪を揺らす。


「うつりぎなる・・・・・・えっと、なんだっけ?」


 何回かやらせてみると詠唱はなんとか言えるようになったが、魔法は発動しなかった。


「風の魔法はダメか・・・・・・」

「うん、ダメみたい」

「ところで、威力はどのぐらい出るんだ?攻撃には使えるのか?」

「さあ?今まで畑に水を撒くぐらいにしか使ってなかったから」


 なんで畑に水を撒くのに魔法使うんだよ。横着するんじゃない。


 試させてみたが、頑張れば木の幹に多少の穴を開けるぐらいの威力は出せるみたいだな。あまり魔力の量は多くないのか、撃った後魔力切れで目を回してたけど。


「いつ頃から魔法が使えるようになったんだ?」

「うーん、塔に行って帰ってきた後からかなあ」

「念の為聞いてみるが、ゲル子はなんか変わったことはないか?」

『いえ、わたしは特に・・・・・・魔法も使えないスライムですみません』

「いや、しょんぼりする必要はないから。ゲル子は魔法使えなくても十分戦力だから」


 塔に行った後、ということは、あの花の女神とやらをブッ刺したのが原因かな?特殊な魔物を倒すと能力が増えるとか。そんなことはないか。


 とりあえず、『転移の腕輪』は今日から花子につけさせることにしよう。少なくとも俺がつけているよりは早く使えるようになりそうだ。

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