第40話 シャルマール・ルーラン
私はとある街の小さな神殿の前に捨てられていた赤子だった。その神殿に使えるルーランという老光使が私を見つけ、拾い上げた。そして、私にシャルマールという名前を与えた。
私は義父への恩に報いるため、子供の頃から光使を目指して必死に勉学に励んだ。私の出自を理由に蔑むもの、妬むものもいた。しかし、持ち前の法術の才能とたゆまぬ努力により、14歳の時に私は若くして光使となることができた。義父は残念ながらその頃には亡くなっていたが、義父のあとをついで光使となれることが私の誇りだった。
15歳にして私は高等法術である≪悪意探知≫≪裁雷≫を取得し、神に愛されたものとして異端審問官の任を授かった。その後は教団より命を受け、各地で任務に当たることになった。任務はどれも厳しいものだったが、一度たりとも弱音を吐いたことはなかった。
異端審問官として異端を狩り、時には人を殺す。異端であれば、女も子供も容赦なく殺した。たとえ、元は親しい友人や尊敬する人物であろうとも。殺してきた人間全てが本当に異端だったのかどうかは分からない。だが、教団に命じられれば疑うことなく殺してきた。
だが、心の中ではずっと矛盾を抱え続けてきたのだろう。気がついたら人を心から愛することはできなくなっていた。どんなに優しくしてくれる人も、命が下れば殺さなくてはいけない。その不安がどこかに付きまとい、心から人と打ち解けることはできなくなった。心の支えは、ただ亡き父の面影だけ。
そんな私が一度だけ、異端を見逃した。どうしてそうしたのかは自分でもよく分からない。魔物二匹を連れた、魔物使いの少年。魔物使いは、邪心に魅入られ、人に災厄をもたらすもの。だが彼によりそう魔物たちは幸せそうで・・・・・・なんだか、義父と一緒にいた頃の気持ちを少しだけ思い出した。
この先にはもっと邪悪なものがいる。それを口実に、目の前の異端を見逃す。そう、ここから先は再び異端審問官としての私となるのだ。躊躇なく敵を殺す、忠実なる神のしもべに。
だが・・・・・・力及ばず泥の上に崩れ折れた私の前に、あの少年はまた現われた。もう忘れろと言ったのに。次に会えば殺すと言ったのに。嫌な思い、苦しい思いをするのは私だけでいい。全てなかったことにして、今までのような生活を続けて欲しかったのに。でも、心のどこかで・・・・・・あたたかいものが生まれるのを感じた。
そして、私は。私を連れて必死に逃げる少年を、最期の力で階下に突き飛ばした。ああ、そんな悲しい顔をしないでくれ。私は満足なのだから。願わくは、君の未来に幸多からん事を。




