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第27話 クルクの恐れるもの

自分の棲家に戻るや否や、ピンク色の塊に勢いよく体当たりをかまされた。おかえりなさいを連呼しながら全身に絡み付いてくるソレを、なんとか顔の辺りだけひっぺがす。


「ぷはっっ・・・・・・窒息するだろうが!!」

『ご、ごめんなさ~い』


俺に怒られてくんにゃり萎れるゲル子。ほんの数時間置いていっただけなのにこの反応は大げさだとは思うが、それだけ想われているのだと思えばそんなに悪い気もしない。


「いいこにしてたか?」

『はい、いい子で待ってました!』


誇らしげに体を伸ばす姿に返って不安を感じる気もするが、特に部屋が荒らされている様子もない。勝手なことをすることもなく、おとなしく待っていてくれたんだろう。よしよし。


「ところで、花子は?」

「・・・・・・ここにいるわよ」


ふいに俺の背後から声がかかる。完全に油断していたので、不覚にも驚いてしまった。慌てて振り向けば、小さな頭の上に籠を乗せて立っている花子がいた。


「暇だったから、晩御飯のおかずを採って来たのよね」


ふふん、と得意げに口の端を上げる花子。それを見て、ゲル子がしゅるしゅると体をくねらせる。


『そ、そういえば、わたしは何も用意していません・・・・・・』

「いつ帰るかはっきり言ってなかったんだし、気にするな。花子はありがとな」


花子の頭を撫でてやると、「感謝しなさい」などと生意気なことをいいつつもまんざらでもなさそうに眼を細めた。


「今日は、時間があったからちょっと遠出したのよね。前に泉で水浴びしたでしょ。あのあたりを調べてたら、洞窟なんかがあってさ・・・・・・」


撫でられて得意になったのか、今日の「大冒険」を語る花子。


「一人で行ったのか?野犬や狼なんかもいるから、気をつけないと駄目だぞ」

「野生動物は状態異常攻撃に抵抗力がないからね。襲われたって楽勝よ」

「ああ、あの甘ったるい息か」


アルラウネは状態異常を起こさせる吐息を吐くことができる。俺も一度食らってぶっ倒れたのを思い出した。時間が経てば治るようだが、まともに吸い込むと立ち上がれなくなるぐらいの代物だ。遺跡の魔物には効かない相手も多いらしく、普段はほとんど使っていないのですっかり忘れていた。


「まあ、集団で襲ってくるやつもいるだろうから気をつけろよ。ところで、何を採って来たんだ?」

「すっごく美味しいものよ」


そういいながら差し出した籠の中にびっしり詰まっていたのは・・・・・・・・・


「うげげっっ!!ぎゃーーーーーーーーーーーー」

「ちょっと、何すんのよ!」


見た瞬間、あまりのおぞましさに、思わず花子の手から籠を叩き落としてしまった。床の上に籠から飛び出て色とりどりのソレが撒き散らされ、その惨事に気温が高いにもかかわらず俺の全身にぞわぞわと鳥肌がたつ。その禍々しいものをひとつほっそりした指で拾い上げた花子は金髪をさらりと揺らしながら小首をかしげた。


「そ、それを俺に向けないでくれ・・・・・・」

「なに、その反応」


顔をそむける俺に向かって、ソレを摘まんだまま近づく花子。距離を取ろうとじりじり後退する俺。


「ほれほれ」

「うわああああああ やめろぉぉぉぉぉお」

「ほれほれ」

「いやああああ やめてえええええ」

『クルクさんをいじめちゃだめですよ』


俺を追い詰める花子の悪魔のような所業はゲル子の触手によって中断される。ピンク色のぷにょぷにょの中に飲み込まれ、酸でドロドロに溶かされたソレをみて俺はやっと正面に向き直った。


『悪者はもう退治しましたよ』

「ありがとう、ゲル子。花子、お前は悪魔だ」

「なによ、たかがキノコじゃないの」

「おいお前、その名を口にするな!悪いことが起こるぞ」


何を大げさなと冷めた目を向けてくる花子だが、俺にとっては生き死ににかかわるレベルの一大事だ。名前を呼ぶのもおぞましいソレは、俺にとっては鬼門。何をもってしても接触を避けなければならない存在なのだ。


「毒なんかないわよ」

「そういう問題じゃないんだ」


食べる食べられないの問題じゃない。生理的に駄目なんだ。理由はよく分からん。でもとにかく駄目なんだ。アレだけは。


「今晩食べるものがなくなっちゃったじゃないの。どーすんの」

「実家から少し保存食をもらってきたから、それで。あと、アマナがつくった何かがある」


そう言ってバスケットを見せると、すかさずゲル子が中を覗き込んだ。




アマナが作ってくれたのは、甘いおやつだった。どうやって作ったのかは不明だが、果物の汁が入っているんだろう、甘酸っぱい。赤くて透明でプルプルしている。


『わたしに似てますね』


確かに俺も思ったけど、それをいうな。食べづらくなるだろ。


見た目はともかく、舌の上でひんやりプルプルしているのが心地よい。暑い季節にぴったりの食べ物だな。ゲル子は味はともかく食感がいたく気に入ったようで、嬉しそうに体を揺らしながら食べている。花子は何も言わないが、少しずつ味わうように食べて、食べ終わると残念そうな顔をした。3人で食べたから1人あたりの量が少なくなってしまったが、好評だったようで何よりだ。また実家に帰ったとき作ってもらおう。


おやつを食べ終わってから、二人に近々町に行くつもりだと話した。約束なので、二人も連れて行くつもりだ。もちろん、魔物だとばれないようにしなければいけない。事前に人間の世界について勉強させておく必要があるな。

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