第24話 闇商人来る
そんな風に二人(二匹?)と楽しく過ごしながら数日が過ぎ、俺は再び実家を訪ねることにした。俺が実家を出てからというもの、なかなかタイミングが合わずファーラさんと会うことができなかったんだが、先日服を入手した際にこっそり母さんに予定を聞いておいたんだ。
闇商人のファーラさんは普段は町に拠点を構えているが、仕入れの為に定期的に遠出をする。年に数回ほど、俺たちのように盗品を扱う者や食い詰めた旧家などを訪れては珍しいものを安く仕入れているらしい。
そんな商売をしているからか彼女は非常に情報通で、それなりの金を払えばうまい儲け話や憲兵の動向なども教えてくれる。うちの実家でも彼女と取引をするため、そして情報を得るために彼女の来訪を歓迎している。最近ひとり立ちしたばかりの俺は直接取引をできるほどの力はないが、改めて顔つなぎしておいて損な相手ではないはずだ。
決して下心から会いたいというわけではない。決して。
お留守番になると分かっているからかゲル子と花子はあまりいい顔はしなかった。
「野菜も服も、十分あるけど?」
花子の言葉に、俺は指を立てながらチッチッと舌打ちする。
「実家とは、物資を手に入れるためだけの場所ではないのだよ」
「ふーん?じゃあ、何ができるの?」
「もちろん魔石とお金を交換したり、生活に必要な物資を買ったりもするが…一番大事なのは交流だよ」
「交流?」
「そうだ、他の人間とお話をして、情報を手に入れたりするんだ」
「ふーん……」
兎にも角にも何とか説得して、家を出る。2、3日中には戻ると言い置いて。
ファーラさんは母さんやアマナの手料理を食べるのをいつも楽しみにしているから、夕食は一緒に摂ることができるだろう。場合によっては泊っていくかもしれないし、そうすれば話をする時間はたっぷりある。以前に遺跡で手に入れたイヤリングも持ってきたから、うまく二人になれた時はプレゼントするつもりだ。小さくてかわいらしい宝石はファーラさんには少し子供っぽいデザインかもしれないが、きっと喜んでくれるに違いない。
実家のアプーの木は小さな実を膨らませ始め、さわやかな風に濃い緑の葉をそよがせていた。扉を開けようとして、裏から小さな水音が聞こえているのに気づく。耳を澄ますと、わずかに布が擦れるような音も聞こえる。
掃除でもしているのか・・・・・・?いや、これは体を拭いている音か。
そう気づいて、思わず唾を飲み込んだ。今の季節、日中は日差しが強いから、外に出るとそれなりに汗をかく。外を歩いてきたファーラさんが汗を流してさっぱりしたいと思ってもおかしくはない。何年も前、まだ俺が小さい頃にファーラさんがうちの家で汗を拭いているのを偶然見たことがある。裏庭で修行中に音がしたので部屋をのぞいたら、そこにはたわわな果実が実るパラダイスがあった。あの時はまだ純情な子供だったから、びっくりしてすぐ目をそらしてしまったが、今となっては惜しいことをしたと悔やまれる。
今の俺は未熟なあの頃とは違う。こんなめったにないチャンス、隅々まで目に焼き付けておかねばもったいない。普段ゲル子や花子の体はさんざん見ているわけだが、だからといって見なくてよいというわけではない。巨乳は別物。毎日パンで腹を膨らませることができたとしても、目の前に極上のご馳走があればやっぱり味わってみたいものなんだ。
音を立てぬよう忍び足で窓に近づき、そっと中をのぞく。わずかに開いたカーテンの隙間からちらちらと肌色のものが見えるが、角度が悪くはっきりとは見えない。なんとかもう少し見えないものかと背伸びしたりかがんだりしていると、中の人が動く気配があった。
やばい、ばれたか?
勢いよくカーテンが引き開けられ、反射的に身を翻して物陰に隠れようとした俺の首根っこをたくましい腕がつまみあげる。
「なんだクルク、お前も一緒に洗ってやろうか?」
「うへ」
俺を捕まえたのは、俺の3倍はあろうかという、筋骨隆々の大男。獣系の魔物の血でも引いてんじゃないかってぐらいの野生的な面構え。・・・・・・・・俺の親父だった。
「いやあ、さっぱりした後の一杯はうまいな!」
そう言いながら、獣のような風貌のおっさんがバケツのような特大のコップでギフ酒を飲み干す。口の周りの無精ひげに泡がまとわりつくのを、器用に舌を伸ばして全部舐めとっては満足そうに喉を鳴らしている。
「昼間っから飲んでると、母さんが怒るぞ」
「ほんの一杯だって、一杯だけ。ここ何日も、酒なんてまったく飲めなかったんだからな」
親父は普段、遺跡に出かけては宝探しにいそしんでいる。最近は俺の行っている近くの遺跡よりも、少し離れた稼ぎのいい遺跡に行くことのほうが多いようで、連続して何日も家を空けることが多かったようだ。稼ぎがいいということはそれなりに危険度も高いんだが、親父の強さはべらぼうなのであまり心配することはない。
「ところで、母さんは?」
「ああ、今お客さんが来ていてな。保管庫に案内して、鑑定してもらってるところだ」
「え?それって・・・・・・ファーラさん?」
俺が身を乗り出すと、親父は腕で口元をぬぐってから答える。
「あの胸のでかい姉ちゃんは、夏風邪だとかでお休みだそうだ。今日来てるのは代理人だな」
「代理人・・・・・・」
せっかくプレゼントも持ってきたというのに、肝心のファーラさんがいないとは。がっくり。
そんなやりとりをしていると、玄関先から話し声が聞こえてきた。
「では、今回はこれぐらいで。また次回、お願いします」
初めて聞く声だが、なかなか落ち着いたトーンの女性の声だ。ファーラさんの代理人という人だろうか。
「よろしければ、この後一緒にお食事はいかがですか?こんな田舎ですから、たいしたものはありませんけど」
「いえ、お気持ちだけで結構です。では」
母さんが夕食を勧めたが、あっさり断られたようだ。その声音もちょっと事務的というか、ファーラさんに比べるとフレンドリーさが足りない。
家の窓から外を眺めると、帰っていく「代理人」の姿が見えた。すらりと細身のズボンを履き、肩の上まで切りそろえた銀髪と片眼鏡。中性的な美人ではあるが、胸は小さそうだった。悪くはないが、やっぱり俺はファーラさんのほうがいいかも。




