第23話 森の泉で
ロリポリと戦っているうちに泥だらけになってしまったので、俺たちは探索を早めに切り上げて水浴びをすることにした。先日ゲル子が狩りに出た際に森の中で泉が湧いているのを見たというから、今日はそこに行ってみるつもりだ。
硬く茂った草を踏みしめながら、いつもとは違う道を歩く。濃い木々の影に覆われて日光が直接肌を焼くことはないが、地面からこもったような熱気が伝わってくる。普段は日の高い時間に帰ってくることが少ないので気付かなかったが、この辺りは昼と夜の気温差が大きいんだろう。
邪魔な低木の枝を払い段差を飛び越えながらしばらく森の中を歩いていると、壁のように垂直に土が盛り上がり、行き止まりになっている場所に出た。土壁は花子の背丈の倍ほどの高さがあり、見える限りずっと先まで続いている。苔むして完全に緑に覆われてはいるが、大昔に作られた土塁のようにも見える。もっとも、こんな森の奥深くにそんなたいそうな人工物があるとは思えないが……
「道を間違えたのか?」
「いえ、この先です」
そういってゲル子が体を崩し、蛇のようにするすると壁をのぼった。俺も土壁の出っ張りにつま先を引っ掛け、飛び上がるようにして壁を越える。続いて花子が真似しようとしてずり落ちたので、俺とゲル子で引っ張り上げてやった。
「ありがと」
花子の体は人間部分も小さく軽いが、花の部分は肉の重みをほとんど感じない。人間の重心はだいたい腰の下あたりにあると思うが、アルラウネの場合はみぞおちあたりになるんじゃないだろうか。ひょっとして重心が高いから体のバランスが悪くてよく転んだりぶつかったりしてるのかな……?いや、単に不注意なだけだな、あれは。
壁の上に上ると、すぐ向こうに降りられる下り坂があった。坂は傾斜がきついが、先ほどのような垂直ではない。坂はそこそこの長さがあり、下の地面は俺たちが先ほどいた場所よりもいくぶん低い位置になっているように思われる。坂の向こうにも先ほどと同じく木々が茂っているが、その合間からきらきらしたものが洩れているのは、水面に反射した太陽光だろうか。
先にゲル子が坂を下り、花子を脇に抱えるようにして俺が後に続く。下に降りるとすぐ、木々の隙間から水面が広がっているのが見えた。
泉は湖と言うほど大きくはないが水は淀んでおらず、澄んで美しかった。そのまま飲めるかどうかは分からないが、服や身体を洗う分には問題なさそうだ。俺は靴を脱ぎ、つま先を水に浸した。ひんやりと心地よい感覚が足先から上に伝わっていく。俺が促すと、花子も同じように根の先を水に入れた。
「五臓六腑にしみわたるわね」
ふいーと気持よさそうな息を吐き出しているが、ひょっとして「飲んで」いるんだろうか?俺も手のひらに少し掬い、舌先をつけてみる。違和感は感じないから、少なくとも即効性の毒には侵されていないだろう。
肌にからみつく服を脱ぎすて、全身を水に浸す。べたべたとまとわりついていた湿っぽいものが洗い流されていく。息を止めて頭の先まで潜らせ指で髪をすくと、間に挟まっていた砂がざりざりと水中に放出されていった。
「ゲル子、洗ってやろうか」
声をかけると、俺のすぐ目の前にピンク色の塊がざぶんと飛び込んできた。跳ね飛ばされた水が顔を直撃し、反射的に目をつむる。手でぬぐいながら目を開けると、既に人型に戻ったゲル子が嬉しそうに胸のあたりに寄り添っていた。
水を吸ったゲル子の肌はひんやりぷるぷるしていて、磨くとキュッと音がしそうだ。汗をかかないせいかあまり汚れている感じもないが、いろいろなところの弾力を楽しみながら全身を一通りこすってやる。ゲル子は「はふー」と満足そうな声を出すと水母のように丸く広がり、ぷかぷか水中を漂い始めた。
「花子もどうだ?」
根の先で水をかき回して遊んでいた花子にも同じく声をかける。
「洗うぐらいひとりでできるんだけど」
そんな素直じゃない返答をしながらもさっと服を脱いで泳ぎ寄ってくるあたり、まんざらでもないらしい。背中側から手をまわして抱えてやると、一瞬びくりとしてから、力を抜いて俺にもたれかかってきた。俺も体は大きいほうじゃないが、こうやって並んでみると花子の小ささを実感する。どこもかしこも細くて華奢なつくりだ。腕の中でもぞもぞ動く姿は捕まえられた小動物みたいで、いたずらしたくなるような嗜虐心をそそる。
俺は花子の光沢のある金髪を水の中で梳いてやった。俺の髪と同じく中に砂が入り込んでいたが、もつれて引っかかる様子もなくさらさらと指の間を通って行く。手触りのよさを味わうようにたっぷり時間をかけて梳いてやった。続いて、うなじから肩にかけて白い肌をこすってやる。ツルツルした質感のゲル子の肌とは違い、人の肌に近いがきめ細やかですべすべしている。体の表面は柔らかいが中に芯のある硬さで、変な話だが紛れもなく「人」の体だと思った。体温は少し高めで、触れているところからじんわりぬくもりが伝わってくる。
背中を一通りこすってやってから、手を前に回す。みぞおちの辺りから上に向かって撫で上げると、ふにゅっと柔らかい場所が手に当たる。あるかないか分からないぐらいの小ささだが、とろけるように柔らかい。肌は果物にミルクをかけたような甘い匂いがする。ゲル子のぷりぷりした弾力もいいものだが、体温があることも相まって生々しさが興奮を誘う。
(これはこれで、アリだな)
指の間を開き、あえて敏感な突起を避けるようにして脇から胸の中央に向かってゆっくり撫でる。ほとんど抵抗もなく指の先が柔肉に埋まってしまうような感覚だ。
壊れやすい物のようにそっと撫でさすり、じっくり柔らかさを堪能する。指の間にときどき硬いものが擦れる感触があり、そのたびに花子が軽く身をよじるが、腕の中から逃げ出すほどの力ではない。
調子に乗ってねちっこく触りまくっていたら、「同じとこばっかり」と抗議された。
「気持ちいいもんで、つい。もうちょっとだけ頼むよ」
耳元で囁くと、「ほんとにちょっとだけだからね」と呟く声が聞こえた。特に怒ってはいないらしいな。
その後、俺は自分の欲求が満足するまで花子の胸を堪能した。残念ながら触っただけなので一部満足していない欲求もあるわけだが、そっちは後でゲル子に満足させてもらおう。
俺に弄ばれた花子は疲れたのか体から力が抜けているが、何やらブツブツ言っているところを見ると、まだまだ元気ではあるらしい。声が小さくてよく聞こえないが、また俺への抗議でもしているんだろう。
「さて、じっくり洗ったし、そろそろ行くか」
俺が花子から体を離そうとすると、小さくすらりとした指が俺の手首をつかんだ。
「結局一部しか洗ってないでしょ」
いやまあ、そうなんだけど。楽しめるところは全部洗ったんで、俺としては満足だ。
「おまえの下はどうやって洗うのか構造的に違いすぎてよく分からない。花弁とかとれちゃいそうで怖いから、自分で洗っておきなさい」
「花弁は髪の毛みたいなところだから、脆そうに見えて意外に丈夫なの。とれてもまた生えるし」
俺はむしられた花弁がにょきにょき再生する図を想像して、なんだかシュールだと思った。
ご要望に応えて、花そっくりの下半身も一通り洗ってやることにした。左腕で細い胴体を支えて人の形をした腰の部分から右手を下に滑らせる。花弁の中に手を入れるとびくりと体をこわばらせて、息を呑む音が聞こえた。指の感触を頼りにあちこちまさぐってやる。白く華奢な肩がぴくぴくと震え、俺の太ももの辺りに蔦が巻きついてくる。痛いのか気持ちいいのかよく分からない反応だが、嫌がっていないのならたぶん気持ちいいんだろう。
「ねえ・・・・・・アレ、しないの」
幾分うわずったような声で花子が囁く。アレの中身は明確じゃないが、なんとなく最初に会ったときの『採蜜』を指しているような気がした。呼吸が浅くなっているのか、短い息遣いが何度も聞こえた。
「アマナは回復したし、売るとお前の存在がバレそうだし。無理に採る必要はないかな」
答えると、花子は「そう・・・・・・」とだけ呟いた。心なしか、残念そうな響きにも聞こえる。
「でもまあ、いざって時の回復用に少しあると嬉しいかな。知っての通り俺は強くないから。でも、花子とはもう仲間だから、嫌なものを無理やり採る必要はないと思ってる」
そういうと、花子は俺の腕を握る指にきゅっと力を入れた。
「ちょっとなら、採らせてあげてもいいよ。乱暴にしたらだめだけど、クルクのこと嫌いじゃないから」
花子にしては珍しく、甘えるような声だ。俺にとっても損はないし、してもいいというものをしない理由もない。俺は花子を岸に上げ、水を払い、以前にしたように、でも以前よりも優しく花弁の中に頭を差し込んだ。中はくらくらするような強い花の香りで満ちていた。
以前よりも俺に対する信頼があるからか、花子の反応は実に素直だった。ときどき洩らす声はまるで人間の嬌声のようで、蜜の効果でただでさえ昂っている俺の精神が少し危うくなりかけた。危うくなったところで、相手が植物ではそれ以上どうしようもないわけだが。つい悪ノリして「こんなに蜜を出してはしたない」といじめたら、泣きそうな表情になったが、いっそう大量の蜜を出してくれたので内心は向こうも喜んでいるに違いない。
たっぷり採れた蜜は皮袋に入れて持ち帰ることにした。次回採る機会があるかどうかは花子の機嫌次第だから、大事に保管しておくにこしたことはない。
気づけば、日が落ちて辺りは暗くなり始めていた。ゲル子がそばにいるので危険は少ないが、冷えると風邪を引くかもしれない。俺と花子はすでに乾いている体に洗いそびれてしまった服を着込んだ。ゲル子を呼ぶと、いつのまに捕まえたのか大きな魚を抱えて岸に上がってきた。体が水を吸っていつもより膨れているようだが、乾けばまた元に戻るだろう。
服が洗えなかったのは少し残念だが、すごくさっぱりした気分だ。しばらくは暑い季節が続くから、遺跡帰りにまた行くのもいいな。
俺たちは家に戻り、ゲル子の獲物を焼き魚にして食べた。魚は少しだけ生臭かったが、花子が出してきた香草をかけるといい具合に深みのある味わいになった。お腹がいっぱいになったらすぐ眠くなったので、ゲル子と花子に挟まれる形で3人で並んで寝た。ああ、いい一日だったなあ。
花子とラブラブ回。




