第22話 たくらみ
花子が仲間になってからは遺跡にも3人で揃って行くようになった。これまで通り俺とゲル子だけでも別段不足は感じないが、花子をのけものにすると涙目で追いかけてくるのでどちらにしろ連れて行かざるを得ない。ゲル子はどちらかというと俺から離れることを嫌がるが、花子は寂しがりなのか一人にされるのを嫌がっているらしい。
遺跡の攻略は今のところ15階層目まで進んでいる。ここまでくると浅い階層を最短距離で飛ばしても日帰りで行き来するのはしんどくなってくる。だから最近は日をまたいでも引き返さず、2日に1回ぐらいのペースで家に帰ることにした。日をまたぐと今まで進んできた階層が変化してしまって帰りの道のりが地図なしになってしまうが、階層ごとに出てくる魔物の強さは大体決まっているらしいというのが実感できているので多少の冒険はしてもいいかなって判断だ。
「おい、1匹そっち行ったぞ」
「たぁーーー!あれ??あわわわわ」
鞭のようにしなる花子の触手の間を潜り抜け、メタリックに光る球体が地面の上を回転しながら進んでいく。球体は人の体よりも幾分大きく、空振りして無防備になった花子の体を軽々と弾き飛ばす。花子はきりもみ回転しながらしばらく宙を泳ぎ、黒々とした地面に頭から突っ込んだ。
「おい、大丈夫か?」
突っ込んでくる他の数匹をナイフで牽制しながら、土に埋もれた花子に声をかける。
「見ての通りぜんっぜん大丈夫じゃないわ!」
「OK、平気そうだな」
今戦っている『ロリポリ』は楕円形の体をした多足の虫の魔物で、背中側の甲殻が硬く、身体を丸めて体当たりで攻撃してくる。動きは単純だが攻撃が通りにくく、先程から俺のナイフも弾かれてばかりだ。同じ階層には他にもグランドイーターという地面を掘って進む魔物がいて、そのおかげか土は柔らかく、歩きにくいが転んでもあまり痛くはない。地面から引き抜かれた花子の顔は土で真っ黒に汚れていたが、たいした怪我はなさそうだった。
根を突っ張るようにして体を起こし、反撃とばかりにロリポリに蔦を叩きつける花子。しかし、敵の固い体にはかすり傷ひとつつかない。アルラウネは元々魔物としては非力な部類だが、花子は小柄な分だけ普通よりも力が弱いのかもしれない。
「むうう」
『では、ここはわたしが』
攻撃を弾かれてむくれる花子の横を、すばやくゲル子がすり抜けて敵の体にへばりつく。丸まったロリポリの隙間から液体のようにするすると腹側に入り、しばらくして全身が見えなくなったと思った途端、
『こうやるといいんです』
そんな声と共にロリポリの背殻の継ぎ目から多数のピンク色の棘が一斉に飛び出す。その姿はまるで背中から派手な背びれを生やしたかのようだ。ピンク色の棘はロリポリの背中を穴だらけにしてからずるりと溶け、地面に落ちてひとつの丸い塊になった。
「外側は硬いですけど、中は柔らかいです。お腹の辺りにいくつか小さな穴があるので、そこから中に入れますよ」
丸い塊はしばらくもごもご動いた後、愛らしい少女の姿をとり、屈託のない笑顔を俺と花子に向ける。その全身は虫の体液で黄緑色に濡れているが、本人は特に気にした様子もない。
「効果的な攻撃方法だとは分かったが、ちょっと俺には難しいようだ」
「・・・・・・あたしも」
ゲル子は他のロリポリたちにも飛びかかり、先程と同じような方法で3匹ほどあっさり倒してしまった。状況的に不利と感じたのかどうかは分からないが、残りのロリポリはその間に転がりながらどこかへ去り、いなくなってしまった。
それなりに実戦経験も積んで自分では多少強くなった気持ちでいたものの、相変わらず俺の戦闘力はゲル子に遠く及ばない。花子と比べれば単純な物理攻撃では俺が少し上だと思うんだが、アルラウネである花子は状態異常を起こす攻撃が出来るから、相手によっては俺よりも有利だ。俺が弱いのは今に始まったことじゃないから特に落ち込むわけでもないが、せめて足手まといにはならないように何かしら工夫はしたいな。
倒したロリポリの死骸が消え、土の上に魔石が残る。ロリポリの石は灰色がかった地味な色合いなので、普通の小石に紛れたら探すのが大変そうだ。ゲル子は指の形に整えた触手を可憐な少女の顔にあてて、魔石を拾う俺の体をじっと見つめている。
「そういえば、クルクさんってたまにわたしの体の中に入って遊ぶじゃないですか」
「ん・・・・・・?あ、ああ」
「アレ、気持ちいいんですよね?」
何のことかと思ったが、あれか。あれだな。こんな明るいうちから、しかも身内とはいえ人前で話す話題でもないが、ゲル子にその辺の常識とかデリカシーを求めても無意味だと俺は知っている。
「まあ、ゲル子の気持ちいいとはちょっと違うだろうが、気持ちいいからやっていることではあるな」
俺がうなずくと、ゲル子は視線を俺の腰の辺りに落とし、言葉を続ける。
「ロリポリの体に侵入してて思ったんですけど、体内って狭くてじめじめしてて、意外と快適なんですよね」
「ふ、ふーん・・・・・・そうなのか」
俺としては虫の体内なんて想像するだけでおぞましい限りだが、ゲル子にとってはそうでもなかったらしい。この辺はスライムと人間との好みの差だろうか。
「で、思ったんですけど、クルクさんの体内に入ったらもっと気持ちいいんじゃないかと」
「はい?」
「狭くてじめじめした体内で、クルクさんのぬくもりに包まれる喜びをですね・・・・・・」
「ちょっと待て」
可憐な少女を模した顔に恍惚とした表情を浮かべ、ゲル子がじりじりと近づいてくる。頭の中は猟奇的な想像でいっぱいになっているだろうことは容易に予想される。俺は体内がむずがゆくなったような気がして、思わず両手で「入り口」をふさいだ。
「スライムの発想って理解しがたいわね・・・・・・」
花子が呆れたように呟き、頭を抱える。
「ちょっとだけ。ほんの先っぽだけでいいですから」
「い、いいわけあるかーーーー!!」
ゲル子が変な趣味に目覚めてしまいそうだ・・・・・・余計なことを忘れるまで、あの倒し方はしばらく禁止だな、禁止。
ゲル子「クルクさんの中、すごくあったかいナリ・・・・・・」という展開はありませんが、次回ぐらいにちょっとムフフ展開を入れられる予定。
ゲル子のセリフですが、スライム状に近いときは『 』、人間状のときは「 」にしています。ただ、当人(当スライム?)は話している最中にも感情によって姿を変えたり、人間形態でも伸び縮みしたりします。




