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第15話 アマナの熱

俺たちは生い茂る下草を踏みしめ、森の中を歩いた。ゲル子はお土産と称して途中でうさぎを3匹ほど捕ってきた。俺は食べ飽きているが、アマナに渡せばたぶん喜ぶだろうから、ありがたくもらっていくことにした。


森の出口に差し掛かるところで俺は一旦足を止め、ゲル子に「ここまででいい」と伝えた。ゲル子は不承不承といった様子で俺のほうをちらちら見ながらも、近くの茂みの中に消えていった。




実家に近づく前に一応警戒をしてみたが、周囲に爺さんの罠はないようだ。珍しく不在なんだろうか。


家の前にはアマナが大事にしている古いアプーの木がある。少ないながらも毎年実をつけるので、果実酒や砂糖煮にして食べるのだ。今はまだ収穫できる時期ではないが、花が散って小さな実が膨らみ始めている。俺はでこぼこした幹を撫でてやってから、家の扉を開けた。


「アマナ?」


呼んでみたが、アマナが出てくる気配はない。留守にしているのだろうか。名前を呼びながら台所のほうに歩いていくと、母さんが出てきた。


「クルク、どうしたんだい、急に」

「いや、どうもしないけど。魔石を売るついでに、たまにはアマナの飯が食いたいと思って」


そう言ってお土産のうさぎを渡す。


「ずいぶん狩りがうまくなったんだね」

「いやあ……まあ、実戦を経て急激に腕が上がったと言いますか」


ふーん、と胡散臭げな目を向けてくる母さん。やばい、なんかバレてるのか?!


「残念だけど、アマナには会えないよ」

「え?なんで?どっか行ってるのか?」

「今、あの子、熱を出しちゃっててね。自分の部屋で寝てるんだよ」


そういうと母さんは俺も知っている病名を口に出した。昔からこの辺にある病気で、思春期の女の子だけがかかるものだ。2週間ぐらいは高熱が出るが、致死率は低い。一度かかった後はなぜかか再度かかることはない。だから、大人になるための通過儀礼のようなものだという人もいる。


「いつから?」

「3日ぐらい前からかな。思ったより熱が高くて体が消耗しそうだから、今お義父さんが一応お医者様に薬をもらいに行ってね。夜か明日の朝には帰ってくると思うんだけど」


ちょっとした傷薬や体力回復のための薬草は商人からでも手に入るが、さすがに病気の薬は常備していない。医者に症状を話して、薬を調合してもらう必要がある。医者は町にしかいないので、実家からは少し時間がかかる。


「部屋にいるなら見舞いに行ってもいいか?今寝てるかな?」

「男には感染しないといったって、ダメだよ。病気なんだから」

「いやでも、何もできないけど顔見て励ますぐらいは……」

「あの病気は顔にブツブツができるんだよ。あんたに見られたらあの子もいやだろう」


兄妹なんだからいいじゃないかと思うが、母さんは頑固にダメだという。


「まあ、アマナがいないなら仕方ないな。一回帰るか」

「あんた、魔石の清算しに来たんじゃないのかい?」

「まあ、そこまで急ぐようなことでもないし。母さんはアマナについててやってくれよ。アマナのかわいい顔にブツブツが残ったりしないようにさ」

「そうかい……せっかく帰ってきたのに悪いね」


気にするなというようにひらひら手を振る。俺はそのまま家を出ようとしたが、


「あ、そうだ」


という母さんの声で立ち止まった。


「あんた、今遺跡はどのぐらい進んでる?」

「もうすぐ10階層ぐらいかな」


そういうと母さんは目を丸くした。俺の探索が思ったより進んでいるのに驚いたらしい。本当は仲間がいるんだけど、言ってないからな。


「あんたがそんなにできる子なんて思わなかったよ。無理してるんじゃないだろうね」

「とんでもない。まだまだ余裕ですよ」


俺がというより、主にゲル子が、だが。俺のナイフの威力なんてゲル子の酸に比べりゃ蚊が刺したようなもんだしな。でも言ったら情けないから口には出さない。


「ふーん、そんなたいそうな実力者様は、かわいいアマナのために一肌脱ぐつもりはないかい?」

「かわいい妹のためならひと肌でもふた肌でも脱ぎますよ、俺は」


なんなら全裸になってもかまいませんとも。


「アルラウネって魔物の蜜には薬効があってね。滋養強壮、解熱、解毒の効果がある素晴らしいものなんだ。病気そのものが治るわけじゃないけど、それがあればアマナの熱も下がるし体力も回復する。ちょっと行ってとってきてもらえれば嬉しいんだけどね」

「アルラウネ?どんな魔物だ?」

「人間と植物が合体したようなやつだね」


そういわれて思い出したのは、この間のマンドラゴラ。


「それって叫ぶやつ?」

「それはマンドラゴラだろ。違うよ。アルラウネは女の姿をしてるのさ。下半身が花みたいになってる」


ふーん、女なのか。頭の中ではなぜかリボンをつけたマンドラゴラしか思い浮かばないけど。想像力に乏しいな、俺って。


「言っとくけど、アルラウネは一番近い遺跡にはいないよ。ここから湖の方向にずっと進んだところに植物みたいな塔があるだろ。そこにいるのさ」


そういえば、そんなものもあったな。植物みたいな塔というか、塔みたいな植物というか。なんだかよく分からないものだと思っていたが、あれは遺跡だったのか。


「そこの遺跡はちょっと特殊でね。宝箱は出なくて、代わりに希少な薬草なんかが生えてる。マンドラゴラの蜜を採るついでに、その辺の薬草も摘んでくると稼ぎにもなるよ」

「でも魔物は倒すと遺跡に吸収されるだろ。どうやって蜜を採るんだよ」

「それは、生け捕りするんだよ」


生け捕り。それって倒すよりも難易度高くないか?ゲル子に相談してみるか……


「まあ、ちょっと行ってみるよ。アルラウネがどういうやつか気になるし」

「あまり奥に進むんじゃないよ。奥に行くと頭が変になるっていうからね」


奥に行くと頭が変になる遺跡?なんだそりゃ。


俺は台所から小さめの空ビン(採蜜用だ)を借りて家を出た。晩飯は食べ損なったが、アマナが寝込んでるんだから仕方ない。適当に保存食でも齧って遺跡に向かうとするか。



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