第11話 マンドラゴラ
その日も順調に探索を重ねた俺たち。1つの『宝箱』の解錠に成功し、中身を手に入れることができた。中に入っていたのは単なる草の束のようだったが、ゲル子に聞いたら貴重な薬草が入っていることもあるというので持って帰ることにした。どうせかさばるもんじゃないしな。
俺たちが第9階層の階段を降りた時、ゲル子の様子が急におかしくなった。
「クルクさん、ここ……ここ、わたし知ってます!」
そういって走り出すゲル子。
「おい、危ないぞ。進むのは罠を確認してから………」
「この感じ、わたし、知ってるんです………!」
必死な様子で先に進みたがるゲル子を抱えるようにして止める。ゲル子は強いのでモンスターに遭遇してもめったなことはないと思うが、遺跡の中はどんな罠があるとも限らない。たちの悪いものだと転移の罠なんてものもあるので、うっかり踏んだ瞬間離れ離れになることもありうる。
「ゲル子落ち着け。どちらにしろ今日はこの階層を調べるんだ。俺が罠を確認するから、少し待て」
頭を抱きしめてそういってやると、ゲル子はやっと落ち着いたようで大人しくなった。
偵察がてら少し先まで罠を確認したが、たいしたものはなさそうだった。乗ると開く落とし穴が1つ見つかったぐらいだ。念のためゲル子に位置を教えてから、慎重に進む。
この階層は今までとは違って、最初の部屋以外は床が土に埋もれているようだ。その地面には草も生えていて、まるで遺跡の中に原っぱがあるような不思議な感じだった。そういえば遺跡は地面の中なので太陽なんかはないんだが、不思議といつも日が差しているかのように明るい。ひょっとしたら、光の魔法かなにかがかかっているのかもしれないな。
いくつかの部屋を抜け、かなり奥まで進んだと感じた時、いきなり視界が開けた。これまでとは違うだだっ広い空間。そこにあったのは木が生い茂る森の風景そのものだ。目の前の不可思議な様子に思わず息をのむ。
「ここ、木まで生えてるのかよ」
「遺跡の中には岩山も海もありますよ」
本当か、それ……。とんでもないワンダーランドだな、遺跡ってやつは。
俺たちは周囲を警戒しながら、遺跡の中の森に踏み込んでいった。木々の間をくぐりぬけて進んでいくと、がさがさと低木の繁みが揺れて変な魔物が飛び出した。人間みたいに手足のある形をしているが、頭のあたりには根菜の葉のようなものが生えた妙な魔物だ。全体的なイメージとしては、植物の根っこが人間のような形をしているもの。それが何匹もあらわれて、俺たちの周りを囲んでいる。
「あれはなんだ?植物なのか?」
「あれはマンドラゴラですよ。植物の形の魔物ですね」
マンドラゴラは小さな体で俺たちに向かってこぶしを構えている。なんだかすごくやる気のようだ。植物のくせに、ずいぶん好戦的なんだな。
「気をつけてください、マンドラゴラは深手を負うと叫びます」
「叫ぶ………のか?」
「ええ、それによって死すらも考えるほどの精神的ダメージを負うことがあるとか……」
「そんなにすさまじい声なのかよ」
「マンドラゴラが叫びそうになったら耳をふさぐことをお勧めします」
見た目はかわいいといえなくもないんだが、面倒な相手なんだな。
俺は投げナイフでマンドラゴラを牽制し、少し距離をとって戦うことにした。ゲル子はスライムの形に戻り、マンドラゴラを包み込んだまま酸で溶かすつもりのようだ。なるほど、飲み込んでしまえば叫ぶこともできないわけだ。
ゲル子に一体ずつ飲み込まれ、順調に数を減らしていくマンドラゴラ。これは俺たちの圧勝かと思われたが。
『あ、しまった……』
一匹を飲み込んだまま近寄って来たもう一匹を取り込もうとして、空振りしてしまったゲル子。その隙にゲル子が飲み込んでいたほうのマンドラゴラももがいて脱出してしまった。体中を焼け爛れさせたままゲル子から距離を取り、俺の方に向かってくるマンドラゴラ。俺は慌ててそいつに投げナイフを放つ。ナイフはマンドラゴラの体に命中したが、威力が足りなかったのかマンドラゴラは倒れなかった。
マンドラゴラが息を吸い込むような動作をする。やばい、こいつ、叫びそう。
慌てて耳をふさごうとするが、手に投げナイフを持ったままだったので一瞬タイミングが遅れてしまった。そして、マンドラゴラの甲高い声が俺の耳に届く。
『この人、痴漢です------------------!!!』
な………なんだと?!
『この人にお尻触られました!痴漢です!』
「だ、誰がおまえの尻なんか触るか!というか、植物なら尻なんかないだろ!」
『クルクさん、話しても無駄です。マンドラゴラには自我がありませんので』
いや、嘘だろ。自我のないやつがこんなこと叫ばないだろ。
『ちかーーーーん!!この人、痴漢よーーーーーーーーーーー』
「ええい、おまえはいい加減黙れ!」
腹立ち紛れにマンドラゴラの頭上からかかと落としを喰らわせる。ゲル子の攻撃でかなりのダメージを食らっていたせいか、マンドラゴラは「げぺ」という変な声を出した後、あっさり昇天した。
「…………ふう、これで静かになったな」
と思った途端、今度は別のマンドラゴラが叫び出す。俺が今までナイフで相手をしてた一匹だ。
『やっぱり、私の体だけが目当てだったのねーーーーーーーーーー!!!』
「おい、今度はおまえか!」
『私の身体なら好きにしていいわ!!だから……だからあの子だけはーーー!!』
「おまえの身体なんぞいらんわ!」
『クルクさーん、意味分かって言ってるわけじゃないから、話しかけても無駄ですよぉ』
仲間の叫びに反応したのか、他のマンドラゴラも次々に叫び出す。
『こんなブラックな職場、もうやめてやるーーーー!』
『夫を返しなさい、この泥棒猫ーーーーーー!!』
『こんなしょっぱい味噌汁を作って、わしを殺すつもりかーーー!』
『わたしの為にあらそわないでーーーーーーー!!!』
『おっぱいのペラペラソース!!!!』
一部意味のわからない叫びもあるが、うるさい上にセリフがウザイことこの上ないので、非常にストレスがたまる。
「おい、ゲル子、これどうしたらいいんだ?」
『とりあえず、全部倒すかわたしたちが目の前からいなくなれば叫ぶのをやめます』
あたりを見回してみれば、叫びにつられたのかマンドラゴラの数はいっそう増えている気がする。これを全部倒すまで延々叫びを聞くとか、確かに死にたくなるって気持ちは分かる。
『あなたを殺して私も死ぬわーーーーーーーーー!!』
「もう我慢できん、ゲル子、撤退するぞ」
『わかりました』
俺たちは叫び続けるマンドラゴラを蹴飛ばし、耳をふさいでその場から逃げだした。




