13話 小さな冒険者 〜コインが導く出会い〜
イベェールの町。
その中央には、一本の大きな木が立っている。
決して、空へ届くほど高い木ではない。
だが、太い幹から伸びた枝々は四方へ大きく広がり、豊かな葉を茂らせている。
――イベェランダの木。
この町、イベェールの名前の由来であり、町はこの木を中心に発展してきた。
木の下には広場があり、ベンチや露店が並ぶ。
町の人々にとって、そこは待ち合わせ場所であり、憩いの場でもあった。
昼も近くなり、朝市の屋台は店じまいを始めている。
一方で、これからがかき入れ時だと忙しくしている店からは、食欲をそそる良い匂いが漂い始めていた。
玄斎は広場のベンチに座り、じっとステータスを見ていた。
【ステータス】
名前:石動 玄斎
種族:人族
レベル:15
HP:320
MP:180
筋力:85
耐久:72
敏捷:64(+1)
魔力:38(+1)
精神:91
スキル:
身体操作、魔力操作
EXスキル:《酒呑童子》
〈喰らう〉突進、水属性耐性
〈???〉
〈???〉
〈???〉
――――
【身体操作】と【魔力操作】を押してみる。
【身体操作】
{自身の身体を自在に制御する能力。
力、速度、重心、呼吸などを最適化し、身体能力を最大限に引き出す。}
【魔力操作】
{自身の魔力を自在に制御する能力。
魔力の流れや出力を精密に調整し、魔法の威力や精度を高める。}
この二つのスキルが自分にある意味は、玄斎にもなんとなく理解できた。
もといた世界で、血反吐を吐きながら修練した肉体修練。
そして、術を駆使するために長い間、練り上げた氣の操作。
それが、反映されたのではないだろうか。
その割に魔力の数値が低いのは、玄斎が術を苦手とし、体術に偏った戦い方をしていたことが、そのまま数値に表れているのだろう。
そう考えると、自分の考えが正しいように思えて、玄斎は少し微笑んだ。
『玄斎よぉ、お前ぇ、修験師が殴り合ってどうするよ。俺らの本領は法術だぜ』
師匠のぼやきが聞こえてくるようだった。
そして、EXスキルを見る。
――《酒呑童子》。
闇修験師を生業としてきた玄斎には、よく知った名前である。
鬼の棟梁。
始まりの鬼。
言い伝えで聞いた、鬼の名前。
その名前が、この異世界で。
なにより、スキルという己の力として現れたのか。
…《酒呑童子》を押してみる。
《酒呑童子》
{喰らい尽くすもの}
漠然とした説明の答えを求めるように、続けて〈喰らう〉を押した。
〈喰らう〉
{魔物を喰らうことで、その魔物が持つ力の一部を取り込む。
取り込める力は、魔物の性質や強さによって異なる。}
…魔物を食べると、その力を取り込める…?
あまり常識から逸脱した説明に悩んでいた玄斎だが、突如、答えを得ぬままステータスをスッと閉じた。
玄斎はギルドから出たときから、何者かが後をつけてきているのに気づいていた。
敵意を感じなかったのでそのままにしていたのだ。
その者がこちらに近づいてきた。
だが少し離れたところで立ち止まる。
自分に話しかけるのを躊躇っているようだ。
気づいていないふりをしていた玄斎は、助け舟を出すように、その者と視線をあわせた。
向こうも気づいてくれたとわかったのか、ペコリと頭をさげて走ってくる。
「ズテーン!」
そして盛大にコケた。
「チャリーン」
コケた拍子に腰にあるポーチが開いて、中から銅色のコインがコロコロと転がる。
その音を聞いた瞬間、転んだ者はがばっと頭を上げて、コインの行方を真剣な目で追う。
コロコロ⋯
コロ⋯トンッ
玄斎の靴にあたって止まった。
コインを拾う。
その光景を見ていた転んだ者は最初、驚きの表情を見せたが、すぐに気恥ずかしそうな笑みを浮かべて立ち上がった。
パンパンと服についた汚れを払っている『子ども』に玄斎は近寄り、コインを差し出す。
ギルドからつけていたことは問わずに
玄斎はただ、「大丈夫か」と言った。
「はい!すみません、ありがとうございます!」
屈託のない明るい笑顔で、コインを両の手のひらで受けて答える。
玄斎はこの子どもに見覚えがあった。
先日の戦いのおり、ガルドと共にいた子どもだ。
互いを守り合う姿は、今も鮮明に覚えていた。
「あの…この前はありがとうございました。あっ、ゴブリン集落の討伐作戦に参加してまして、助けてもらいました」
「大盾をもったガルドなる戦士の側にいた者だな。覚えておるよ。ガルドは残念であった」
「はい…」
子どもは涙をこらえながら、ガルドのこの町での働き、自分への施しや優しさ、最後の弔いの様子などを教えてくれた。
「すみません、自己紹介がまだでした。ボク、ニコルといいます」
「玄斎だ」
玄斎は、この町のギルドで最初に身元を調査されたときに、石動玄斎と名乗ったのだが、この世界では、名字を使えるものは貴族と王族だけだと教えられ、玄斎とだけ名乗ることにした。
「ゲンサイさん⋯なんか不思議な名前ですね」
そういいながら、ニコルは手のひらを上に向けて差し出した。
玄斎はその手のひらの上に、自分の手のひらを重ねるようにそっと乗せる。
これがこの世界の挨拶らしい。
自己紹介するものが、手のひらをさしだし、されるものが手のひらを被せて受ける。
最初にギルドで教えられたことの一つだ。
あらためて、玄斎はニコルを見る。
身長125~130cmくらい。
髪は首あたりの銀色で、頭半分を覆うような帽子を被っている。
目は顔の割には大きめで、鼻はちょこんと小さい。
子どもだ。
だが、服装は革製の胸当てに、腰にはポーチが複数あり、冒険者のような大人びた感じをしている。
中性的だが、ボクというから男の子だろう。
見られていることにちょっと気恥ずかしさを感じたのか、帽子を小さな手でクイッと深めに下ろした。
そして深めにおろした帽子から、大きな目で見上げながらニコルは申し訳なさそうに言う。
「あの〜…ゲンサイさん、おりいってお願いがあるのですが〜」
玄斎は、ニコルが冒険者ギルドから話すタイミングを伺いながらつけてきた理由をようやく聞くことになった。




