12話 新たな冒険者 〜ブロンズの証と魂の昇華〜
ノーマは書類を手に、玄斎の前で少し照れくさそうに微笑んだ。
「とりあえず、レベルを教えていただけますか?」
「ん?……レベルとはなんだ?」
「ステータスは?」
「初めて聞くな」
ノーマの微笑みが、こわばった。
玄斎は頬を掻きながら、申し訳なさそうに尋ねる。
「すまん。説明してもらえるか?」
「まず、魔物などを倒すと身体能力や魔力が強くなるのは、ご存じですよね?」
「それは、技が洗練されていくという意味か?」
「いえ……そこから説明が必要ですね」
「すまん」
ノーマは小さく頷き、説明を始めた。
「魔物を倒すと、各種能力や魔力が上昇します。
これは、倒した魔物の魂――ソウルの影響によるものではないか、と言われています。
また、強力な魔物ほど強大なソウルを持っており、それを得ることで冒険者は成長するのです」
玄斎は静かに頷いた。
「ソウルによる能力などの上昇についてですが、倒した魔物のソウルが蓄積して一定の段階に達すると、飛躍的な成長が訪れます。
これを魂の昇華――『レベルアップ』と呼んでいます。
レベルは数値で表されます」
「魔物を倒せば倒すほど、強くなるということか?」
「簡単に言えば、そうです。
でも、弱い魔物を倒しても得られるソウルは少ないので、レベルは上がりづらい……。
いえ、ほとんど上がらないこともあります。
逆に、強力な魔物を倒せばソウルも多く、レベルも上がりやすいのですが……」
ノーマは言葉を濁した。
玄斎は、その先を察する。
「魔物の強さを見誤れば――死ぬ、というわけだな」
「……ですから、冒険者の大半は数人で集まり、『パーティー』を組んで戦います」
ノーマは続けた。
「倒した魔物から得られるソウルは分散されるので、一人で倒したときよりも少なくなります。
ですが、互いにサポートすることでリスクも少なくなりますし、集団の魔物にも対処できます。
結果的には、そのほうが効率的でもあるんです」
「なるほど」
「パーティーについてですが、これも適正な魔物を討伐するという観点から、実力が同程度の者同士で組むのが前提となります。
実力を測る目安としては、先ほどのレベルの数値。
そして、もうひとつ――冒険者ギルドによる『ランク』があります」
ノーマは、
「少々お待ちください」
そう言って席を立つと、奥の部屋から二つのペンダントを持ってきた。
「こちらの銅色のものが、ブロンズランクのギルド証です。
そして、こちらがアイアンランク」
ノーマは二つのギルド証を並べる。
「この上にシルバー、ゴールド、ミスリルと続きます」
玄斎は、自分の首にかけられたギルド証を持ち上げた。
「それは、灰色の仮のギルド証です」
ノーマは説明を続ける。
「このギルド証には《言語理解》スキルが付与されています。
他種族との意思疎通ができない方もいらっしゃいますので、特例として貸し出しているものです。
あと、まあ……多少の……多額……」
ノーマは言葉を濁した。
「とにかく、それなりのお布施を納めれば、教会で『言語理解』という、このギルド証と同じ効果を持つスキルを授かることもできます。
ただ……なかなか普通の方には難しいですね」
ノーマは苦笑した。
そして紙に書きながら、ギルドランクの詳細を説明する。
「ギルドランクについてですが――」
・ブロンズランク レベル1~10
・アイアンランク レベル11~20
・シルバーランク レベル21~40
・ゴールドランク レベル41~70
・ミスリルランク レベル71~99
「冒険者ギルドへの貢献度によって多少の差異はありますが、だいたいこのようになっております」
「レベルは通常、『99』が限界とされています」
ノーマは少しだけ声を落とした。
「ですが、稀に……その限界を突破される方々がいらっしゃいます」
「ほう?」
「そういった方々は――オリハルコンランクと呼ばれます」
「オリハルコン……」
玄斎は顎に手を当てた。
「それは、一握りの強者ということだな」
「そうですね」
ノーマは頷いた。
「オリハルコンランクは、国家に一人……あるいは数人いるかどうかの存在です」
そして、誇らしげに続ける。
「ここアルセリア連王国では、女王陛下の側近――《万象を織る賢者》イリシア様が、その一人です」
玄斎は目を細め、少し考え込んだ。
「なるほど……」
ノーマは受付テーブルに設置されている金属製のプレートを指差した。
その中央には、手のひらで覆えるほどの半球状の水晶が嵌め込まれている。
「こちらは、ギルドに設置されている簡易ステータス測定機です」
「ほう」
「こちらで名前、種族、現在のレベルが測定できます」
ノーマが水晶を指差す。
「この丸いところに触れていただけますか?」
玄斎は言われるまま、軽く指で触れた。
すると――。
金属プレート部分に、文字が浮かび上がった。
【名前:石動 玄斎】
【種族:人族】
【レベル:15】
ノーマは、その表示を見て考え込んだ。
レベル15。
ようやくルーキーを抜け出した程度。
冒険者ギルドに初登録したばかりの人間として考えれば、決して低いレベルではない。
だが――。
先日の討伐作戦で提出された報告書。
そこに記されていた玄斎の貢献度を考えれば、あまりにも低すぎる。
難しそうな顔で測定機を睨んでいると、玄斎が声をかけた。
「なにか、不味いことでもあったかね?」
「……いえ」
ノーマは少し迷ってから口を開いた。
「なんといいますか……先日、ゲンサイさんが冒険者の窮地を救ってくださった際の働きについてです」
「ほう?」
「巨人の召喚による殲滅魔法。
それに、その他にも未知の魔法やスキルを使っていたとの報告がありまして……」
ノーマは測定結果を見つめる。
「このレベルで使えるものではない、と言いますか……」
玄斎は、
「ああ、あれか」
と頷いた。
「先ほど、ここの長にも話したが、もと来た世界では闇修験師――こちらで言う冒険者のような生業で食っておったのよ」
「闇修験師……」
「俺の技は、その闇修験師が使うものだ」
玄斎は少し考えてから続ける。
「あと、巨人というのは『風来神召喚の符術』のことだな」
「符術?」
「あれは俺が師匠から、あの一組だけ受け継いだものだ」
玄斎は懐かしそうに目を細める。
「代々の師匠から弟子へ受け継いできたものらしい。
免許皆伝の証――みたいなものよ」
「では……」
「まあ、あれは一回こっきりのものでな」
玄斎は苦笑した。
「俺の力ではない」
「符術……魔法のスクロールのようなものでしょうか?」
「似たようなものかもしれんな」
ノーマは少し考えた。
「そんな貴重なものを使われたのでしたら……後ほど討伐報酬の査定の際、多少ですが上乗せさせていただきます」
「いやいや」
玄斎は笑った。
「いつかは使ってやろうと思っておったのよ。
さすがは開祖から伝えられてきたというだけある。
使った本人もちと、度肝を抜かれたわ。ははは」
「ご説明ありがとうございます」
ノーマは一礼した。
「それと、スキルについてですが……冒険者ギルドの職員以外の人に、むやみに教えたりはしないでください」
「なぜだ?」
「スキルは多大な強さを与えてくれるものです」
ノーマの表情が少し真剣になる。
「ですが、利用できるスキルを持つ人間を狙った犯罪も、少なくはありません」
「なるほど」
玄斎が頷く。
するとノーマは気を取り直すように微笑んだ。
「それでは――」
少し前かがみになり、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「『ステータス・オープン』って言ってみてください」
玄斎は静かに頷いた。
「ステータス・オープン」
その瞬間――。
「……っ!」
玄斎は、思わずのけぞった。
目の前に、文字や数字が浮かび上がっている。
まるで透明な板に映し出されているかのようだった。
「ふふっ」
ノーマは楽しそうに笑う。
「びっくりさせてすみません。
今度は『ステータス・クローズ』と言ってください」
玄斎は少し身構えながら、
「ス……ステータス・クローズ」
と、恐る恐る口にした。
すると――。
目の前に浮かんでいた文字や数字が、シュッと音を立てるように消えた。
「うふふ……驚かせてすみません」
ノーマは微笑みながら説明を続ける。
「これは『ステータス』という、誰でも使える生活魔法の一つです」
「生活魔法……?」
「はい。
ご自身の現在のレベルや能力、スキルなどを、詳細に確認することができます」
ノーマはそこで一度、言葉を区切った。
「ちなみに、ステータスは本人にしか見えません。
他の人からは見えないようになっています」
「なるほど……」
玄斎は、先ほどまで文字と数字が浮かんでいた場所を見つめる。
自分の目の前にだけ現れた、あの不思議な板。
それを思い返しながら、玄斎は改めて実感していた。
魔法が存在し、レベルやスキルというものが当たり前のように存在する。
紛れもない――異世界なのだ。
「もう一度、ステータスを見ていただけますか?」
ノーマの声が、玄斎の思考を現在へと引き戻した。
「うむ。ステータス・オープン」
【ステータス】
名前:石動 玄斎
種族:人族
レベル:15
HP:320
MP:180
筋力:85
耐久:72
敏捷:64(+1)
魔力:38(+1)
精神:91
スキル:
身体操作、魔力操作
EXスキル:《酒呑童子》
〈喰らう〉突進、属性耐性
〈???〉
〈???〉
〈???〉
ノーマは、ステータスが見切れているであろう辺りから顔を出した。
「なにか説明が必要なところはありますか?」
玄斎は一通り、上から下まで見渡す。
「だいたい……わからないことだらけだな……」
その後、かなりの時間をかけてステータスの説明をしてもらった。
やがて、疲れが見え始めたノーマに、玄斎が声をかける。
「もうひとつ、いいか?」
「はい、なんでしょう?」
「スキル?かね、それが二つあるのだが?」
「スキルを二つもお持ちなんですね」
ノーマは少し驚いたように目を見開いた。
「スキルについてですが、ステータスのスキルが書かれている辺りを触れますと、詳細が別途表示されます」
玄斎はノーマに言われた通り、スキル欄にある《身体操作》と《魔力操作》に触れながら、詳細を確認する。
そして――。
「これが最後の質問だ」
その質問を聞いた瞬間。
明らかに、受付嬢ノーマの雰囲気が変わった。
「EXスキル……というのは?」
ノーマは微笑みながら答える。
しかし、その目の奥には鋭い光が宿っていた。
「オリハルコンランク――レベル99の限界を突破された、一握りの方々」
ノーマは、言葉を慎重に選ぶ。
「そういった方々は、一様にユニークスキル……各々が世界に一つだけのスキルを有しております」
「……」
「そのユニークスキルの有無こそが、オリハルコンへと至る門とも言われています」
ノーマは玄斎を見つめた。
「ステータスでは、それが『EXスキル』として表示されます」
そして――。
冗談めかした笑みを浮かべる。
「……まさか、ゲンサイさん」
一拍。
「持ってたりして?」
その口調とは裏腹に。
醸し出す雰囲気は、先ほどまでとはまるで違っていた。
玄斎はステータスを見つめる。
「うむ。空欄だな」
そう答えながら、表示されているEXスキル――《酒呑童子》をチラリと見る。
そして、静かにステータスを閉じた。
――とりあえず、このスキルは黙っていたほうがいい。
玄斎は、そう判断した。
ノーマは書類をトントンと揃えると、引き出しへしまった。
「では、ギルドへの登録は以上です」
そして、ブロンズのギルド証を取り出す。
「レベル的にはアイアンですが、初登録者はブロンズランクからとなっています」
「なるほど」
「あと、こちらがブロンズのギルド証です。首にかけてください」
玄斎は受け取ったギルド証を眺める。
「ギルド証には言語理解魔法がエンチャントされているほか、身分証明としても使えます。
失くさないようにしてくださいね」
玄斎は仮のギルド証を外し、ブロンズのギルド証を首に通した。
「それでは――」
ノーマは微笑んだ。
「あなたの歩む先が、良きものでありますよう」
そして、冒険者へ向けて言葉を贈る。
「冒険者ゲンサイ様に、神の祝福を」
「ありがとう」
闇修験師、石動玄斎。
この日――。
冒険者ゲンサイとしての、一歩を刻んだ。
---
ゲンサイを見送ったノーマは、ギルド二階の執務室へ向かった。
「どうだった?」
ギルド長ガイゼルは、ノーマにゲンサイの印象などを尋ねる。
「やはり、何も知らないようでした」
ノーマは答えた。
「あながち、彼の言っていたことも本当なのではないでしょうか?」
「……そうか」
ガイゼルは短く返した。
「あと――」
ノーマは、一度言葉を切る。
「あくまでも推測ですが……EXスキル――ユニークスキルを持っているようです」
「EXスキルだと!」
ガイゼルの目が見開かれた。
「オリハルコン……か」
ノーマは息を呑み、言葉を詰まらせる。
「まっ、とにかく今は何も分かんねーんだ」
ガイゼルは椅子に深く腰掛けた。
「ギルドの規定通り、ブロンズから様子を見るしかねーな」
そして窓の外へ視線を向ける。
村の繁華街へ向かう、ゲンサイの後ろ姿。
ガイゼルは、その姿を見送りながら――ポツリと呟いた。
「色々とな……」
現在は、無理なく続けられるペースとして、週1回の投稿を目指しています。
のんびり更新にはなりますが、少しずつ物語を進めていきたいと思います。
気長にお付き合いいただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします!




