11話 新たな冒険者 〜仮のギルド証〜
あの惨劇の夜から、四日が過ぎる。
その間にガルドの葬儀が執り行われ、多くの村人が参列した。
彼の人柄と功績を物語る、静かな葬列だった。
あの惨劇の後、玄斎はゴールドランク冒険者のソニアに誘われ、彼女たちとともにイベェールへ帰還することになった。
イベェールに到着した玄斎は、ギルド長の取り計らいで、ギルドに隣接する宿舎に泊まれることになった。
まずは井戸の水で長旅の汚れを洗い流し、支給された清潔な上下の服に着替える。
使い古しではあるが、前のぼろ布とは比べものにならない。
さらに靴も渡され、生まれて初めて履いた玄斎は、その快適さにすっかり気に入った様子だった。
そして今日。
玄斎は冒険者ギルドの二階にある執務室へ呼び出されていた。
応接のソファに座る玄斎の前で、ギルド長のガイゼルが渋い顔をして腕を組んでいる。
五十を過ぎた厳つい顔立ちだが、どこか人情深さがにじむ。
「『ゲンサイ』…だったな。話を聞けば聞くほど、頭が痛ぇ。まるで吟遊詩人の与太話だぞ」
ガイゼルはこめかみを押さえながらぼやいた。
玄斎は静かに答える。
「証拠はないが、信じてもらうしかどうしようもない」
経緯を一通り話したが、信じろという方が無理のある話だろう。
「まったく……昔の勇者譚に出てくる神の使いじゃあるまいし」
ガイゼルは肩を竦め、口元を歪めながらも少し茶化すように言った。
「ほう、俺の他にも異界から渡ってきた者がいたのか」
玄斎は興味を覚えたように返す。
「吟遊詩人どもがよく謳う定番でな。
どこからともなくやって来た、神が遣わした勇者様が魔王を討ったってやつさ」
「なるほど」
玄斎は少し考え込み、視線をガイゼルに戻す。
そのとき、扉が静かに開き、受付嬢ノーマが資料と茶を運んできた。
玄斎の前に茶を置き、少し躊躇いがちに微笑む。
ガイゼルは肩を竦める。
「まあ、飲めや。難しい話は茶がうまいうちに限るってな」
香ばしい茶の香りと、甘味料と乳を混ぜた柔らかな味わいに、玄斎は思わず「うまい」と声を漏らした。
その素直さに、ノーマはほっと息をつき、少しだけ目を細める。
「さて、本題だ」
ガイゼルは調査書をひらひらさせながら、玄斎を見据える。
「〈血斧王〉バルグロスと〈雷禍のメイジ〉グルザム。
あの二匹を討伐したのはお前だって報告が上がっている……事実か?」
「らしいな」
玄斎は肩を竦めた。
「……はあ、まったく。見たことのねぇ魔法やスキルばかり使いやがって。
で、お前は一体何者なんだ?」
「俺は来た世界では闇修験者を生業としていた」
「やみ……しゅげんしゃ?」
「人ならざるものを討つ業を持った者のことだ」
「冒険者みたいなもんか?」
ガイゼルは頭をかきむしり、大きな溜め息を吐く。
「ノーマ、これじゃ報告書にゃ通せねぇよな」
「……難しいと思います、ギルド長」
「だよなぁ……。しかもだ、〈血斧王〉には金貨三百枚、〈雷禍のメイジ〉には八十枚の懸賞金が掛かってたんだ。
お前がやったことになりゃ、払わにゃならん」
「懸賞金はいらん。ガルドの縁者たちにでもやってくれ」
「……くっ」
ガイゼルは鼻を鳴らして顔を伏せる。
「お前なあ……そういうことをさらっと言われると、余計に厄介なんだよ」
しばらく沈黙が流れる。
ノーマは手元の書類に視線を落としながら、佇んでいる。
やがてガイゼルは机を軽く叩いた。
「よし。とりあえず数日は村を出るな。俺が上に話を通してみる」
「わかった」
「それとノーマ、ゲンサイを正式に冒険者登録してやれ。
仮のギルド証を貸したまんまじゃ締まりが悪い」
「はい、ギルド長」
ノーマが玄斎を案内して部屋を出ると、執務室にはガイゼルの深いため息と、微かに聞こえる嘆きが残った。
「……胃薬……もう無ぇじゃねぇかよ……」
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