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闇修験 石動玄斎の異世界紀行 〜こっちでは冒険者稼業で食っていく〜  作者: 黒木吼


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9話 始まりの一歩

〈血斧王〉バルグロスは右手を切り落とされ、錯乱していた。


その様子を見ていた――〈雷禍のメイジ〉グルザムが、慌てながら雷撃の呪文を玄斎に向けて唱え始める。


しかし玄斎は、じっとグルザムを見据えたまま、魔法が完成するのをあえて待った。


やがて、魔法陣が闇色に輝き、グルザムは勝利を確信する。

しかし次の瞬間、玄斎はすっと一指印を結び、低く真言を唱えた。

「サリ」


――するとグルザムの魔法は、まるで風に消されたかのように発動しなかった。


それは、先程玄斎が唱えた真言の効果だった。

術を封じる力を持つ真言。それがこの世界の魔法にまで干渉していたのだ。


玄斎は低く呟く。

「……この世界の術にも効くか」


どうやら彼は、この異世界においても闇修験法(やみしゅげんほう)が通用するかを確かめていたらしい。


やがて玄斎は、おもむろに言い放つ。

「お前の用は済んだ」


気がつけば、グルザムの背後に玄斎が立っていた。

次の瞬間、手刀が閃く。


グルザムの首が落ちた。

鮮血が飛び散り、空気がかすかに染まる。


取り巻きのゴブリン集団は混乱した。

自分たちの真っ只中に、いつの間にか現れ、グルザムを瞬殺した現実に恐怖する。

逃げ惑いながら、バルグロスの元へと走った。


バルグロスは興奮のあまり息も荒く、血走った目で玄斎を睨みつける。


そして次の瞬間、自分の取り巻きの数体を「血を吸う斧」で斬り殺す。


ゴブリンを斬り捨てた黒い斧は、その全体に及ぶ赤い血管のようなものが薄っすらと輝、激しく脈動した。

すると、切り落とされたはずの右手が、じわじわと復元していく。

――この斧は、斬った相手の生命を吸うことで、持ち主の傷を癒やす効果を秘めていたのだ。


バルグロスは再び蘇った右手を確かめるように、斧を何度も振る。

そのたびに空気が裂けるような音を立て、振動が大地を伝わる。


玄斎は静かに告げた。

「……やはり、お前らは人ではあるまい」


腰帯に括っている符術の冊子をめくり、数枚を破り取る。

一枚を高く放り投げると、「カン」と高い拍子木の音が空気を震わせた。

暗雲が瞬く間に立ち込め、空気が重く、湿った風が巻き上がる。


二枚目を投げると、「カカン」と調子の違う拍子木が鳴る。

突如、強風が吹き荒れ、暗雲が渦を巻き、雷鳴が地響きのように轟いた。


玄斎の視線は、暗雲立ち込める空の渦に向けられている。

両手を大きく広げ、空間に幾重にも線を描くように指を動かす。

指先は微細に震え、見えざる風と雷を手繰り寄せるかのように印を結ぶ。

その動きは、九つの複雑な印を順に結ぶ奥義秘の所作だった。


玄斎は静かに真言を唱える。

「オン・バヤ・ソワカ・フーライ・カーン」


低く、しかし力強い声が空気を震わせる。

天が応えるかのように暗雲の渦が落ち、雷光が走った。


暗雲の渦が次第に巨人の姿を取り、やがて風神と雷神の双神が姿を現す。


符術と真言を組み合わせた奥義――【風雷神顕現】(ふうらいじんけんげん)が発動したのだ。


雷神が背の太鼓を打ち鳴らす。

「ドン! ドン! ドン!」


太鼓の音にあわせ、轟雷が地を震わせる。

『バリバリバリッ!』

『ピシャァァン!』

『ゴゴゴ……ドカンッ!!』

ゴブリンたちを打ち砕く。

取り巻きのゴブリンたちは、たちまち消し炭となった。

玄斎は氣力がかなり削られたのを意識したその直後に、なにか不思議な力の奔流みたいなものが、体の中に流れ込んでくるのを感じる。


空の暗雲と双神は、蜃気楼のように消え去る。

ただ一体、バルグロスだけは意図的に生かされていた。


〈血斧王〉バルグロスは困惑していた。

後ずさる自分の足。今まで感じたことのない感情。


玄斎はゆっくりと口を開く。

「さて……邪魔者は消えた。やろうかね」


バルグロスへと歩を進める。

この世界で、初めて確固たる目的へ向かう歩みを。

一歩、また一歩と、足音が夜の闇に続いた。


読んでいただき、ありがとうございます!!

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