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異世界お嬢様無双~あの…勇者として召喚されたのは俺なんですけど…~  作者: 芦名 雅


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第4話 最強とは引きずられる聖守護の大盾なのか

 危機は去った。しかし、古代魔法の恐るべき代償は今もなお3人を縛っている。大魔導士リディルと聖女エルフェルは床にへたり込んだまま、指一本動かす魔力すら残っていない。巨体のバルデルですら、呼吸を荒くして膝をついていた。


「ワシはまだいいが、これでは、歩いて街に戻るどころか、この洞窟を出ることすらままならんぞ……」


 バルデルが悔しげに顔を歪める。このままでは、他の魔物が現れた瞬間に全滅だ。それだけは避けなければならない。小林は冷や汗を拭いながら、必死に頭を回転させた。全員を一度に、かつ迅速に運ぶ方法。


 いやそれよりもお嬢様を町まで歩かせるなんてした日にはセバス様はおろか旦那様や大旦那様にどんな目にあわされるか。その時、小林の視線がバルデルの『聖守護の大盾』に留まった。


「なぁバルデル、その盾の大きさなら3人くらいならのれるんじゃないか?」


 小林の提案に、地面に這いつくばっていたバルデルは信じられないものを見る目で彼を睨みつけた。


「おぬし、本気で言っておるのか!? 我が魂、ひいては国王陛下から頂いた『聖守護の大盾』に人を載せて引きずるなど、前代未聞じゃぞい!」


「だから、背に腹は代えられないって言ってるだろ! お嬢様はまぁ大丈夫だろうけど、リリィやエルが狙われたらどうなるかわからない。お前だってそうだろバルデル。何よりお嬢様をこんな汚い地面に歩かせるわけにはいかないんだ!」


 小林は強引に大盾を奪い取ると、手際よく地面に寝かせた。そして、お嬢様が座っている豪華な椅子をスライドさせて中央に載せる。さらに、動けないリディルとエルフェルを、お嬢様の邪魔にならないよう大盾の両端の空きスペースへと慎重に座らせた。


 そして、残された重厚な木製のティーテーブルを洞窟の壁際に寄せようとした。その様子を見た可憐が、美しく整えられた眉を不満そうにひそめた。


「お嬢様大変申し訳ありませんが、これから移動しなければなりません。失礼かと思いますがこちらにお乗りいただけませんでしょうか?」


「まあ、小林。そのテーブルを置いていくというの? そのセットは英国の特注品ですよの?」


「お、お嬢様! 滅相もございません!」


 小林は即座に直立不動の姿勢を取り、滝のような冷や汗を拭いながら必死に頭を下げた。


「いえいえ、これはそのあれですよ。えーっと、お、大道具の方が後で片づけられますので……」


「大道具……?そう、それなら良いのだけれど」


 可憐お嬢様はフンと完璧な動作でそっぽを向いた。ひとまず納得していただけたようで、小林は心の中で激しく胸をなでおろす。だが、本当の地獄はここからだった。


「おい、コバヤシ殿……おぬし、さっきから『お嬢様、お嬢様』と、その娘ばかり特別扱いしておるが……」


「というかサトル、あの子は一体誰だい? ボクたちを『その他大勢』みたいに端っこに追いやるなんて、いい度胸じゃないかい……」


 魔力切れで青白い顔をした大魔導士リディルから、凄まじいプレッシャーが放たれる。


 聖女エルフェルにいたっては、「あの、私、お尻のところが冷たいのですが……」と半泣きだ。国王の盾に直に座っているのであるからだから当然である。


「あー、みなさん! 静かに! 今すぐ出発しますから!」


 小林は言い訳を打ち切り、大盾の縁に取り付けられた革紐を両手でガッチリと掴んだ。


 小林は大盾の縁に付いた頑丈な革紐をガシッと掴んだ。そして、まだ膝をついたまま荒い息を吐いている巨漢の戦士へと鋭い視線を向ける。


「おいバルデル! 泣き言を言ってないで手伝え! お前も引っ張るんだよ!」


「なっ……! おぬし、無茶を言うな! ワシも今、魔力切れなんじゃぞ!」


「く、じゃあお前はついてくるだけでいいよ。んじゃ行こうぜ」


「……はえ?」


 バルデルは呆気にとられた声を漏らした。魔力切れの自分を気遣ってくれたのか、あるいは完全に戦力外通告されたのか。


 戸惑う戦士を置き去りにして、小林は大盾の革紐を両手で限界まで強く握りしめた。総重量は、可憐お嬢様、豪華な椅子、大魔導士リディル、聖女エルフェル、そして大盾そのものの重さを合わせて数百キロ。普通の人間に引けるわけがない。


「ぬんんんんんんんーーーーーっ!!」


 小林の口から、人間辞めかけの咆哮が轟く。バキバキと音を立てて小林の背筋が膨らみ、凄まじい踏み込みによって洞窟の床に足跡が刻まれた。ズ、ズズズ……ズザザザザザァーーーーーッ!!!


 国王陛下直賜の重厚な『聖守護の大盾』が、火花を激しく散らしながら岩肌を猛スピードで滑り出した。あまりの急加速に、大盾の端っこにしがみついていたリディルとエルフェルが派手にのけぞる。直に座っている二人の「お尻」に、地面のガタガタという振動がダイレクトに突き抜けた。


「お、おい! 待ってくれ! ワシを置いていくなーーー!」


 後ろに取り残されたバルデルが、慌てて膝をガタガタと震わせながら、全力で爆走する大盾の後を必死に追いかけ始める。魔力切れの体に鞭打つ巨漢の戦士の姿は、涙を誘うものがあった。


 しかし、中央の豪華な椅子に座る可憐お嬢様だけは違った。


「あら、少し騒がしいけれど、中々の乗り心地ね。」


 可憐お嬢様はそう言うと、いつの間にか手元に用意していた白磁のティーカップを優雅に傾けた。ガタガタと火花を散らして猛爆走する大盾の上、しかも時速数十キロは出ているであろう極限状態である。にもかかわらず、お嬢様が持つカップの紅茶は、まるで時間が止まっているかのように波紋一つ立っていない。


 小林の完璧な重心制御によるものか、あるいは英国特注品のカップの性能か、はたまたお嬢様の超人的な体幹の賜物か。ズザザザザザァーッ! と岩肌を削る轟音の中、優雅に椅子に腰かけるお嬢様は上品に喉を鳴らし、お茶を一滴もこぼさずに飲み干した。


「いたたっ! ……いやいやいや、おかしいだろ!?」


 その様子を真横で直に座りながら見ていた大魔導士リディルが、お尻の痛みに耐えかねて叫んだ。


「なんでこの揺れで一滴もこぼれないわけ!? どんな魔術を使ったらそうなるんだい!?」


「でもリリィ、彼女から魔力は感じませんし先ほどからコバヤシ様とお知り合いのようですからもしかしたら異世界の方なのかもしれません」


 同じくお尻の痛みに耐える聖女エルフェルが涙目で返す。


「なら尚のことおかしいじゃない!?こんだけ揺れてるのにどうしてこぼれないのよーーーー!!」


 洞窟を抜け、森の中を疾走する盾の上からリリィの声がドップラー現象で森の中に響いていた。


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