第13話 最強とは漆黒の魔力を宿す劇団員なのか
玉座の間が静まり返った。誰も言葉を発しない。貴族達も。騎士達も。国王ですら。
全員が可憐お嬢様を見ていた。
そして。
「――き、貴様ぁぁぁぁぁ!!」
最初に沈黙を破ったのは宰相だった。顔を真っ赤に染めている。額には青筋。肥えた身体を震わせながら怒鳴る。
「無礼にも程があるぞ小娘!!」
唾を飛ばしながら叫ぶ。
「この私を魔物呼ばわりするなど、正気か!!」
玉座の間に怒声が響き渡る。貴族達がざわめいた。当然だった。誰の目にも宰相は人間にしか見えない。少なくとも、この場の誰一人として疑っている様子はない。
そう、ただ一人を除いてわ。
「ふざけるな!」
宰相がさらに声を張り上げる。
「そのような妄言が根拠になるものか!」
そして国王へ向き直る。
「陛下! お聞きになられましたか!?」
脂汗を浮かべながら叫ぶ。
「このような者の戯言をお許しになられるのですか!」
だが、国王は静かだった。
頬杖をついたまま、ただ可憐お嬢様を見ている。疲れているようにも見えた。いや、実際、疲れているのだろう。
王女の件。王妃の件。勇者召喚の後始末。国の運営。そして……魔王。
その上で、この騒ぎである。
「勇者よ」
国王が静かに口を開いた。低い声だった。
「そこまで言うのなら」
一拍。
「何か根拠はあるのであろうな?」
その視線が可憐お嬢様へ向く。俺は思わず息を呑んだ。流石にまずい。そう思った。
だが、可憐お嬢様は少しも動じていなかった。
「あら?」
不思議そうに小首を傾げる。
「皆様にもお分かりいただけるようご説明したほうがよろしいのかしら?」
貴族達がざわつく。騎士達も顔を見合わせる。だが可憐お嬢様は気にしていない。
「では、この鳳凰院可憐がご説明いたしますわ」
ぱたり。扇が開く。
「私、こちらへ参ってから二度魔物というものを拝見いたしましたの」
静かな声だった。
「最初は劇団員のルグニルさん」
さん付けだった。俺は思わず頭を抱えたくなる。
「そして魔喰鳥でしたわ」
可憐お嬢様は続ける。
「そのどちらも、とても禍々しい気配をまとっていらっしゃいましたの」
玉座の間が静まり返る。
「当時の私は最初に拝見したのが劇団員のルグニルさんでしたから、劇団員の方はそういう特徴なのだと思っておりましたわ」
当然のように言う。くの貴族や兵士が何の話をされているのだと困惑した顔をしていた。気持ちは分かる。最初に劇と言った俺でもそう思う。そんな周りの反応を異に介さずにお嬢様は続ける
「ですが後になって悟達から教えていただきましたの」
扇の先がゆっくりと宰相へ向く。
「それは魔物というものなのだと」
静寂。誰も口を開かない。
「ですから」
可憐お嬢様は続ける。
「同じ気配をまとっていらっしゃる以上、その方も魔物なのだと理解してお伝えしたのですけれども?」
一拍。玉座の間に重い沈黙が落ちる。やがて国王が口を開いた。
「それだけか?」
「はい」
即答だった。
その瞬間、宰相の口元がわずかに歪む。勝った、とでも言いたげに。
「ふざけるな!魔物とは特徴的な黒い魔力を宿していることなど誰でも知っておるわ!だがワシにそんなものはない!そのことはここにいる者はもちろんのこと、そこの勇者もいつもいる聖女の小娘、ひいてはあのバカは魔法使いですらワシからそんなもの感じでおらんであろうが!愚か者!!王は根拠を示せとおっしゃったのだ!死罪でもぬるいぞ勇者よ!」
捲し立てて宰相が大声を上げている。確かにそうだ、あの人一倍邪悪な気配に敏感な聖女のエリーはもちろん、魔力には誰よりも秀でているリリィですら一度だってそんなことは言ったりしていない。それは否定するには十分過ぎる根拠だ。
だが、可憐お嬢様は少し困ったように微笑んだ。
「あら」
本気で不思議そうだった。
「それ以上の根拠、と仰られますと難しいですわね」
一拍。可憐お嬢様は少しだけ考える。本当に少しだけ。
そして。
「そうですわね」
ぱたり、と扇を閉じた。
「この鳳凰院可憐がそうだと申し上げておりますことが根拠ですわ」
当然のように言った。まるで『今日は晴れですわね』と言うかのように。
玉座の間が再び静まり返る。俺は思わず天を仰いだ。
ああ、これは本気だ。可憐お嬢様は一切疑っていない。
彼は魔物です。そう言っている。
ただそれだけなのだ。あの鳳凰院可憐がそう言っている。鳳凰院可憐を知る者にすれば、その言葉だけで確かに十分すぎる根拠だ。




