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ヒール二周目なので、知略で完全掌握を目指します!  作者: enu
4歳編 破滅回避作戦
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ルーカディウス・ソレイユ・ヴェルチェ・コーラルについて①次期国王


それは母の一言から始まった。


「いい加減、ミラスター様に会いにお行きなさい」


 あの時の食卓の凍りつきようといったら・・・。

 私はスプーンを持ったまま固まっていたし、父はおろおろとしだすし、兄はことの成り行きを静かに見守っていた。

 それからは母と私の押し問答。あれがダメだ、これが嫌だ。そして最後には父が半泣きになり、その騒動は収まったわけだが。


 結局のところ、妥協案が提示された。

 それは、”ミラとの顔合わせを延ばす代わりに、父に付き添って王宮に出向き、ミラへの拝謁の練習をする”、というものだった。母はかなり不満そうだったが、いきなりミラと会ったら、緊張してまた倒れるかもしれないと涙ながらに訴えたら、さすがに引いてくれた。

 ・・・しかし母様は一筋縄では行かない。いくら私がわがままを言っても許してくれない時がある。前エルチェカ時代の鬼の王族教育を思い出し、私はブルブルと震えた。


 何はともあれ、この機会を活用しなくては。


 ✦ ✦ ✦


 コーラル王国の広大な王宮には、様々な財宝が眠っているらしい。特に興味深いのが、希少な魔法道具だ。王族の血筋には強力な魔力が備わっていることが多く、王宮には様々な魔法道具が保管されているらしい。その一つに『想う円』というものがある。王宮の中庭に面する廊下に設置された、大きな美しい丸窓で、四季の移ろいを記憶している。大人の身長の2倍はある大きな窓から見える景色は美しく、文化人に好まれている場所だ。

 そして、ルーカディウス第一王子のお気に入りの場所でもある。


「・・・君は誰?城に君くらいの年齢の女の子はいないはずだけど」


 ルーカディウス皇太子殿下、愛称ルカ。チョコレート色の髪に碧の瞳を持つ高貴な御方。

 彼は丸窓のふちに置かれたクッションに座り、肩を窓にもたれていた。


「エルチェカ・ベル・レイムーンと申します。殿下にお会いできて光栄です。願わくばお話したいことがあり、このまま拝謁願います」


 私は前エルチェカ時代に叩き込まれた、完璧な淑女のお辞儀をした。

 ルカは眉を潜めると、窓から肩を離して居住まいを正した。


「君はどうしてここにいるのかな。レイムーン公爵家のレディに付き人は?」


「今日は父の仕事についてきました。侍女は連れていません。それは殿下と同じですね」


 私は不敵に笑ってみせた。ルカは不気味な4歳児を見て、かなり警戒心を強めたようだった。


「レイムーン公爵家のご令嬢。君は僕の弟と婚約したと聞いたよ。まだ字も覚えていないような年齢の君が、僕と話したいこととは?」


「字は読むことができます。それと、これから起きる重大な出来事について、殿下に助言することも可能です」


 私は鋭く言い返した。

 ルカは14歳だ。彼からしたら、私はほんの子ども。でもそれを、今から変えていかないといけない。

 私はこれから、自分より4倍以上大きな体の相手に、対等な交渉を持ちかけようというのだから。


「これからこの国で起きる重大な出来事について、いくつか助言させていただきます。お許しをいただければ、お目見得できたお礼に2つお話したいことがあります」


 ルカが疑い深く私を見た。組んだ足を指でトントンと叩いている。


「情報というのはやっかいだ。すぐに事実の確かめようがない。必要なのは信頼と正確さ。君のような子どもの話をなぜ、僕が聞く必要があるんだ?」


「それは、私が殿下と親しくなりたいからでございます」


「・・・まさか、僕と結婚したいということ?」


 ルカが気の抜けたような表情をした。


「レイムーン家はなかなか強欲だな。こんな小さな子どもを送り込んで・・・。僕の弟では満足できないということか」


「いいえ、このことは私の家族とは全く関係がありません。さらにいえば、私は殿下のお妃様にはなりたくありません」


「君はずいぶんとはっきりものを言うのだな」


「どうぞご容赦ください。私の目的はすでに決まってるのです。私の望みはただひとつ」


 私はルカの瞳を真っ直ぐに見た。深く息を吸う。


「私が困った時に助けていただきたい、それだけです」


「・・・・」


 ルカはしばらく黙ったまま私を見ていた。剣呑な雰囲気をまとっている。

 私は、今この時のために準備をしてきた。もし、ここで断られたら・・・。そう思うと、心臓が激しく脈打っている。


「君はずいぶんと横柄おうへいだね。まだ何も貢献していないのに、先に褒美を求めている。君にどのような報奨を与えるかは、この僕が決めることだ」


 ルカの声は、まさしく王族の威厳を放っていた。

 私はルカから目を離さなかった。私には後に引けない事情がある。


「殿下の仰る通り、情報というのはやっかいです。内容を知ってからでないと情報の価値は測れない。しかし、知ってしまえば、知らなかった時には戻れない。交渉の材料にすると、どちらかが不利になる。

ですので、私への褒美については、話を聞いたあとに決めて頂いてかまいません」


 私は小さな手でレモンイエローのドレスを掴み、膝を折って再度礼を取る。


「私の願いを叶えてくださるのであれば、それまでの間は全力で、殿下とこの国のお役に立つ事を約束いたします」


 私が礼を取ったまま、再び静寂が落ちた。一呼吸、二呼吸たっても沈黙が続く。ありもしない時計の針の音が聞こえてきそうだった。


「顔をあげて」


 ようやく静かな声が場を破った。言葉に従っておもてをあげると、ルカが困ったように頭をかいていた。私は思わず目を瞬かせた。


 彼のその仕草が・・・。なんだかとても”普通”に見えたのだ。彼はいい意味で威圧感がない。

 この国で国王・王妃に次いで高貴な御方なのに、目の前の彼はごくごく普通の、真っ当な人間の反応をしていた。


「君の望みを叶えるか決める前に、まずは話を聞くよ。決めるのはそれから。あと、僕から聞きたいことがひとつある」


「どうぞ、ご随意に」


「ここに僕がいると、どうして知っていたの?」


「この魔法道具ーーー『想う円』は、殿下のお母上の持ち物と聞き及びました」


 殆どは、ぜんエルチェカの記憶とゲームの設定から得た知識だった。ルカの母はやまいで若くして逝去している。


「美しくて、とても聡明な方だったとも聞いています」


「そうだね」


 ルカが物思いにふけるように窓を見る。外の木漏れ日が風で揺れていた。


 彼の母は優秀な魔術師の家系だった。王の寵愛を受けて正妃の座についたが、身分は低かったため、その苦労は計り知れない。そして、幼少期にその母を失ったルカも同様だ。


「理由はわからないんだけど・・・ここはなぜか、いつも温かいんだ」


 ルカが私に向き直る。


「さあ、話して」


 私は胸に息を吸い込んだ。


「良いニュースと悪いニュースがあります。ですので、お伝えするのは」


 方向性が違う情報を伝えるときは・・・。


「まずは良いニュースから」







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