ルーカディウス・ソレイユ・ヴェルチェ・コーラルについて②常識人
「ドラゴンの子どもが、5年後にグロリアス山脈で生まれます」
「ドラゴンの子ども・・・?」
この世界にとってドラゴンの子どもというのは特別な意味を持つ。
ドラゴンというのは強大な魔力を持った存在であり、ドラゴンが住み着いた国には未曾有の富と繁栄が訪れると言われている。どの国も喉から手が出るほど欲しがっている存在だ。しかし生体になったドラゴンは気性が激しく、人とは相容れない。そこで重要なのが、生まれたばかりのドラゴンの赤ん坊である。生後1年以内のドラゴンの赤ん坊に触れることができた人間は、そのドラゴンと心を通わせることができると言われている。
「殿下がドラゴンの子どもを我が国の庇護下にできれば、この国は類を見ない発展をするでしょう」
「その情報の出どころは?」
「詳しいことはお伝えできませんが、確かな情報であるとだけお伝えしておきます」
「そのような根拠のない情報を渡されても、僕の方は対処に困る。君の言葉だけで国の軍を動かすわけにはいかない。情報提供者は誰なのだ」
私は目を伏せた。
やっぱりこうなるわよね・・・。
この情報は前エルチェカの記憶に由来している。
「それはお答えできません」
「なぜだ」
「情報提供者を守るためでございます」
今度はしっかりをルカの目を見て答えた。つまりは、私は自分の身を守る必要がある。
「ドラゴンの子どもは、国家間にまたがる重大な事項でございます。情報を提供する側にも危険が伴います」
「4歳の君が、その重要な情報源と繋がっていると?」
「私にできることは情報をお伝えすることだけです。ただし、確かな情報であることは明言させていただきます。殿下がもし、この情報を偽りだと判断し、何も行動を起こさなかった場合、北のパルマ帝国にドラゴンを奪われる未来であることも断言いたします」
「随分な自信だな。この情報に偽りがあった場合はどうするのだ」
「私は何も偽っていません。ドラゴンは今、子どもを育てるために巣を作っている段階です。その情報をパルマ帝国は掴んでいます。そして、我が国に悟られないように細心の注意を払っている」
前エルチェカの記憶では、ドラゴンの子どもはパルマ帝国に奪われている。我がコーラル王国で生まれたドラゴンだったにも関わらず、他国に奪われたのだ。その時の辛酸たるや。
「私の情報を疑うのであれば、グロリアス山脈を捜索してください。ドラゴンの目撃情報を得られると思います。もちろん、パルマ帝国の密偵には十分ご注意ください」
ドラゴンは長寿だ。人間とは時間の流れが違う。巣を作り、卵を生むことは数百年に1度と言われている。
私の情報を生かすか殺すかは、ルカに任せるしかない。情報が正しいかどうかは、調べてくれればわかることだ。
「それから、悪いニュースもお伝えさせていただきます」
「今のは、そこまでいい情報ではなかったように思うが・・・」
「情報の扱い方によりますわ」
淡々と答える私に、ルカはため息を付いた。
「悪いニュースも聞こう」
「3ヶ月後、国庫に保管されている宝杖が盗まれます」
ぴくりとルカの眉が動いた。
「また出どころが気になる情報だ」
「犯人は怪盗ロビンです」
「聞いたことのない怪盗だな」
今は、そうだ。前エルチェカの記憶だと、宝杖を盗んだことで有名になった悪党である。その後、各国を騒がせる大怪盗になった。
私は、深く息を吐いた。
私の手の内は明かした。あとは、ルカの良心を信じるしかない。
ルカが思い悩むようにこめかみを押した。
「エルチェカ嬢、君が情報の出どころを明かしてくれないことについては、疑念が残る。しかし・・・」
情報が正しければ、私は国家の危機を2回防いだだけではなく、莫大な利益をもたらしたといえる。
「今回の情報については、信憑性を確かめさせてもらうよ。そして真実であれば、確かに適切な褒美が必要だろう・・・。もちろん、無条件に叶えることはできないが、妥当な内容であれば君の望みを叶えよう」
その言葉を聞いて、私の胸に得も言われね喜びが湧いた。
「殿下の深い御慈悲に感謝します。然るべき時を迎えるまで、この国と殿下に仕えていくことを誓います」
私は噛みしめるように言葉を発し、再度深く礼を取った。
そんな私を見て、ルカは疲れ切ったように頬をかいた。
直接ルカに会って分かったこと。彼は常識的で誠実な人物だ。突然現れた怪しげな私を、彼は頭ごなしに否定しなかった。信頼するに値する。
私の大切な人リストに彼を加えることを決めた。




