ノア・ロ・ルキについて①夜闇の豹の一族
ブラッドからの助言に納得した私は、ルキファミリーに焦点を絞っていくことにした。「カードの特性を熟知する」という言葉も聞き逃さなかったので、さっそく潜入調査を始めている。
暗い部屋の中で姿見の前に立ち、目を閉じて自分に魔法をかける。キラキラとした光が私を包んだ。
私が前世から継承した魔法スキルのひとつ、変装。
『変化、組み換え、成長、想像』
魔法の術式を終えて目を開けると、鏡の中には20代半ばのきつい美女が映っていた。目元を強調した派手なメイクをしている。綺麗にカールさせた金髪が、豊かな胸周りを彩っていた。
私は指を鳴らして、着ている寝間着を深いルージュ色のドレスにかえる。肩口と胸元が大きく開いた、夜会用の派手なドレスだ。肩には白いファーを巻く。もともとの悪役顔に、過激なドレスはよく映えた。
今の私では魔力量が足りず、自分からかけ離れた人物には変身できない。衣類は母のクローゼットから借りている。
17歳で死んでしまったので、自分の成長した姿は思い描くしかないため、今回のモデルは母である。しかし、あまり母に似せるのも申し訳ないので、少し自分の面影を残した。
鏡に手をついて自分の姿を眺める。
「・・・今回はこの歳まで生きられるかな」
しばらく鏡の自分と見つめ合い、ため息をついて一歩離れた。
ルキ家の当主、ゴードン・ロ・ルキには5人の子どもがいる。三人の息子と二人の娘。
長男 11歳のジェシー。
次男 8歳のライアン。
長女 6歳のアンジェラ。
三男 5歳のノア。
次女 3歳のマーゴ。
ジェシーとライアン、アンジェラについては、すでに調査済みだ。
ジェシーは、ファミリーの次期当主として底知れぬ暗い雰囲気を持っており、カリスマ的なオーラで周囲から一目置かれている。業務全般を学んでいるようだが、主に娼館や踊り子、芸者などに関わる業務を行なっていた。娼館の女たちが群がるような美少年である。年齢にそぐわない色っぽさから、彼と目が合うと人が倒れるという噂が流れている。11歳の若さで末恐ろしい限りだ。
ライアンは、ジェシーとは対照的に明るくて快活な性格。同性から好かれるタイプで、ファミリーからの信頼が厚い。飲食業や密造酒なんかの業務について、教育を受けていた。家族に対する忠誠心が一番強く、まさしくルキ一族の男児という感じである。
アンジェラはルキ一族には珍しい、銀髪・すみれ色の瞳を持つ美少女だった。長身で身体能力が高く、年上の男たちを幾度となく薙ぎ倒しているよう。用心棒や喧嘩の仲裁など、荒っぽいことを任せていくのだろう。
そして本日、潜入調査を行う三男のノアは5歳。私のひとつ上だ。次女のマーゴは3歳とまだ幼いので、年齢的にはノアが私に一番近い。そして、ノアはカジノ経営に携わっていた。
実を言うと、私は自分の選択に自信を失いかけていた。今までの調査から考えて、デ・マルコ一族を自分の味方にできるとは到底思えない。彼らは血の繋がりが強すぎる。子どもたち全員が、幼いながらに経営に携わっている。完全な一族経営、英才教育である。
・・・しかし!始めてしまったものは仕方ない!
そう自分を奮い立たせて、私は自分の子供部屋から抜け出すと、父の書斎に忍び込んだ。目的は壁にかかっている空間転移の地図である。地図上の決められたポイントに転移してくれる魔法アイテムだ。魔法で各所にレールを引き、少ない魔法量で目的地まで移動する事ができる。現代でイメージするとしたら、電車の駅に近い。使用するには複雑な魔法術式を解除する必要があり、利用できる人間は限られている。そして4歳の私は解除方法を知らないが、17歳の私は知っていた。
レイムーン領の南にあるキシェラ区には川が流れており、トーラス橋がかかっている。カジノはこの橋の近くに位置していた。地図に描かれた橋を指で2度叩くと、空中に魔法陣が浮かび出てきた。ロックがかかっている魔法陣は赤く光っている。私は解除するために魔法陣に触れて、式を組み替えていく。解除できると、魔法陣は青く光って大きくなった。
私は目を閉じる。ピカっと強く光を感じて、体の正面に重力がかかった。内臓が浮かぶ感覚と胃のむかつきが起きるが、一瞬で落ち着いた。
目を開けると、私はカジノの入り口に立っていた。あたりが騒がしい。すっかり夜もふけているが、キシェラ区は賑わっていた。パルと呼ばれる、魔法で作られた丸い光の球体が、そこかしこでふわふわと浮いている。
私はかかとの高いヒールを踏み鳴らして、カジノ スピネルを見た。私と同じように着飾った男女が、カジノの中に入っていく。
ここで言うスピネルは、コーラル王国の神話に出てくる、運命の女神が持っているとされる針のことだ。赤い宝石でできており、その針が振れる方向に幸運が訪れると言われている。尖晶石で作られているから、そのままの名前がついたとも語られている。
ルキ一族が経営する合法カジノ スピネルは、白く荘厳な造りをした建物だった。運命の針を象った白亜の像が入り口に置かれている。古代ローマ風の大きな支柱を、大きなパルが揺れる光で照らしていた。光は虹色に変化し、時折パルからは金粉が吹き出している。実に豪華で派手派手だ。
「・・・よし。準備はオーケー」
その派手さに若干気圧されながら、私は気合を入れた。




