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×××を討つにおいて 〜神託が抽象的すぎて最早無茶振りながらも、低空飛行で頑張る勇者たち〜  作者: 飽きがこないタルトのルセット


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8/17

疑惑

この世の悲劇を終わらせる。そうは言っても具体的に何をするかを、イーズは考えていなかった。


それは魔物を退治して回りたいとか、似たような被害者を支援したいとか、そういう話で間違いないかな。リュカがそう言っていたので、恐らく今回のような壊滅は悲劇にあたるのだろう。被害者という言葉が出てくるくらいだ。とは言えイーズは村の壊滅を悲劇だとは思わなかった。


イーズは散々殺してきた。食べるためだったり、食べるつもりはなくても自衛のためだったり、魔物なり動物なり沢山殺してきた。猪や熊とやり合ったりして、傷の箇所がほんの少しズレていれば死んでいたであろう怪我をしたこともある。生きて小屋に戻っても、何日も熱と傷の痛みが引かず死を覚悟したこともある。死は常に近くにあった。


懸命に生きていれば報われたり天寿を全うできるわけではないことを、イーズは知っている。魔物や動物たちも必死に生に喰らいつき、そしてイーズに殺されてきた。


村の惨状を見た時も、村人たちがそちら側になっただけだと思った。常にイーズの近くにあったそれは、彼らの近くにもあって当たり前だ。神父に関しても残念に思いはするものの、理不尽な死だとは思わなかった。


そこまで考えて、イーズはふと疑問を抱いた。何故あそこまでの惨状になっていたのかと。村にいた魔物はイーズが1人で切り抜けられる程度だった。いくらイーズより慣れていないと言っても、村の男たちが集まって戦えばあそこまでの被害にはならないはずだ。それともイーズが想定しないほどの不運やらが重なり合えばああなるのだろうか。そしてそうかあの少年がそれを知っているのか、と思い至り、後学のために是非聞きたいと思った。


イーズは件の少年とリュカのいる2人部屋に向かい、ドアを開けようとして失敗した。ドアノブはガチャガチャを音を立てるだけだ。そう言えば外から鍵を開けるのはどうすればいいのだろうと考えていると、答えが出るより先にリュカが現れた。


「おはようイーズ、こういう時はドアを3回叩くんだ。軽くだよ、軽く。いや違う掌底じゃない、こう!」


朝一番でリュカの指導を受けることになり、イーズは昨日言われた通り素直に従った。


「あいつは?」

「起きてるよ。幸い昨晩のことは憶えていないみたいだ。優しくできる?」

「向こうから危害を加えてこないなら。俺も訊きたいことがあるんだ」

「無遠慮になりそうだな……直接彼にじゃなくて一度僕に耳打ちしておくれ。うまい感じに訊き直すから」


少年は穏やかな様子で笑顔を浮かべていた。人懐っこい雰囲気のある幼なげで中性的な顔立ちだ。彼の投げたランプで額を切ったイーズからすると非常に違和感のある佇まいに見えた。


「初めまして。僕はユノといいます」

「イーズだ」

「イーズですね」


昨晩と同じようなやり取り。錯乱する前の会話も憶えていないらしい。


「ええと、イーズが僕を助けてくれたんですよね? リュカさんが僕の恩人だって。でもその、すみません。僕、何があったのかよく分からなくて」


あまりに辛いことがあると、脳がそれを受け入れられずに忘れてしまうことがあるという。リュカは恐らくそれだろうと見当がついたが、イーズには不可思議だ。


「その……色々と忘れてしまっているようなんだ。名前は思い出したようなんだけど、家族のこととか、自分がどうやって暮らしてたかとか。例の村のことは何も憶えていないって」

「そうか。それなら特に話すことはないな」

「言い方!」


ユノはイーズをじっと見つめている。イーズがそれに気付いて視線を返すと、サッと逸らされた。イーズは不意に、ユノに対して妙な感覚を覚えたが、その正体は分かりそうにはなかった。


「すみません、助けられたことも憶えてなくて」

「いや。助けたというか、ついでみたいなものだから気にしなくていい」

「イーズ、気にしなくていい、だけでいいよ」


ユノは俯いて何かを考えているようだった。困り顔、真顔、苦虫を噛み潰したような顔を1人で賑やかに繰り返している。なかなか表情豊かな人物のようだ。


「あの……まったく憶えていないわけじゃないというか、でも自分でもよく分からなくて」

「いいよ、何でもいいから言ってみて」

「多分その時に誰かに言われた言葉があって、それが妙にこびり付いてるんです。前後の文脈も、どういう状況だったのかも分からないけど。イーズの知りたいことに関係してるかも分からないです」

「それで、なんと言われたんだ」

「お前だけは見逃してやる。いつか私と同じになるから、って」


なんなんでしょうね、とユノは首を傾げた。イーズとリュカは顔を見合わせた。


「ありがとう。目覚めたばかりで沢山話してもらってすまなかったね」

「いえいえ」

「ところで、よければ朝食を一緒に食べないかい。食欲があればだけど」

「いいんですか?」

「もちろん。けどその前にお風呂に入っておいで。身体の洗い方は憶えてる?」

「それくらい分かりますよ! そっか、何日か入ってないんですもんね、そうします」


イーズが荷物の中から着丈の合いそうな服を探して渡してやると、ユノはそれをじっと見つめた。どこかで見たことがあるような、と呟いたが、特に深くは気にならなかったようで早足に浴場に向かった。


「イーズ、確認したいんだけど。その場にいた魔物を挙げていってくれるかい」

「オーク、ゴブリン、フェザーウルフ、スナグマ、アンバーマンティス。このあたりか」

「火を使う魔物がいない。イーズが気付いた頃には大火だったんだよね?」

「どこかの家の火が燃え移ったものだと思っていたんだが」

「田舎の村と言っていたけど、家はそんなに密集してるのかい? 住民たちが全体に燃え広がるまでにまるで避難できていないのも不自然だ。それに大火なら火か水の属性がある魔物以外寄ってこないはずだ。イーズが挙げた魔物の群れがいるのもおかしい」


リュカは神託の内容を頭の中で復唱した。巨悪を討ち滅ぼし世界に平和をもたらすのだ。巨悪という言葉を使っている以上、倒すべき相手がいるのだろうと思っていた。村を壊滅させるような事態を引き起こす者がいるのなら、まさしくそれを巨悪と呼ぶべきなのではないか。確証はないがそんな気がした。


イーズも多少は腑に落ちた。魔物による壊滅を悲劇だとは思わず、また人々を魔物から助けることも命のやり取りに横槍を入れるようでやりたくはないと思っていた。しかし人為的に作られた状況下で互いにぶつけられ合うというのは、なるほど確かに悲劇と呼べなくはないか、そう考えた。


であれば、と2人の視線がかち合った。


「僕らのすべきことが見つかったかもしれないね」

「……そいつを追うことに得はあるのか」

「損得の話じゃないよ。神託に従うって決めたんだろう?」


イーズは今更になって、余計なことを始めてしまったかもしれない、と少しばかり後悔した。

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