第8話 【オークロード討伐戦(笑)】
俺は無事にCランクに昇格することが出来た。
「君って実力的にはAランクで良いと思うのよね。冒険者にもスキップ制度を採用すれば良いのにね」
受付嬢はそんなことを言っていたけど。
スキップ制度というのは要するに飛び級のことで、実力に見合ったランクに採用するという制度のことだ。
冒険者ギルドは段階的に上がっていくという過程を大事にしているとかでスキップ制度は採用されていない。
まぁ、俺としてはランクなんてどうでも良いんだけど。
ただ収入は増えたので家にお金を入れられるようになったのは良かった。
俺を魔法学校に通わせる為に結構なお金が掛かった筈だし、それを少しでも返せるのは良かったと思う。
『親が子供の為にお金を出すなんて普通のことなんだから気にしてくていいのに』
母はそう言っていたが、子供1人を魔法学校に通わせるのは少なくない負担だった筈なので受け取ってもらった。
「…………」
そもそも稼いだところでボッチの俺には使い道とかないんだよね。
「君って実際のところ、どのくらい強いの?」
「さぁ? 母さんには勝てる気しないけど、それ以前に比較出来る知り合いもいないから分からないな」
自分がどれくらい強いのかと問われても、そんなの俺に分かる訳がない。
少なくとも母が俺の完全上位互換という事実は間違いないけど。
「とりあえずCランクで苦戦することはなさそうね」
「そうな」
Cランクの依頼は日帰り出来ないのでポツポツとしか受けていないが、そういう道中以外で苦労した経験はない。
そうして俺が受付嬢を話していると、にわかに冒険者ギルドの騒がしくなって来た。
「なんだ?」
「さぁ? ちょっと話を聞いてくるわ」
受付嬢は俺から離れて情報を集めに行く。
今日は特にやることもないし帰ろうかとも思ったのだが……。
「不味いことになったわ」
直ぐに受付嬢が戻って来て青い顔をしながら俺に凶報を告げて来た。
「大規模依頼が発令させたわ」
「……レイド?」
「高難易度の大規模依頼よ。Dランク以上の冒険者は強制参加になるわ」
「マジかぁ~」
帰ろうと思っていたところに、まさか強制参加の依頼である。
「内容は街の近くの森にオークロードが確認されたわ。最近は森でオークの出現が多くなっていたけど、まさかロードが生まれていたなんて」
「それって不味いの?」
「不味いなんてものじゃないわ! 巣の規模にもよるけど最低でも数千から数万規模のオークが森から溢れるのよ! これは明らかにSランク案件だわ」
「うぇ~」
オークが数千から数万も森から出て来る光景を想像してしまった。
「直ぐにでも周辺の街から冒険者が召集されるわ。君も暫くは家に帰れないと思って」
「……勘弁してくれ」
暫くは家に帰れないと分かって俺は深く嘆息するのだった。
◇◇◇
オークロード討伐戦。
周辺の街からも冒険者が召集され、森に現れる無数のオークを討伐しなければならない。
オークの討伐難易度はDランクだが、集団になればゴブリンと同じように難易度が爆上げされる。
オークの集団の討伐難易度はBランクと言われている。
おまけにボスのオークロードは最低でもAランクと言われていて、成長具合によってはSランクに届くと言われている。
その日、俺は1人で森に入って次々に現れるオークを狩っていた。
俺だけでなく他の冒険者パーティも森に入っている筈だが、森の広さとオークの数に対して冒険者の数が少ないので、俺の割り当てられた地点には他に冒険者がいない。
俺は淡々とオークを処理しながら――以前に母と交わした会話を思い出していた。
『ねぇ、アトゥムちゃん。雷ってかなり速いわよね?』
『そうだね。ほぼ光速だからね』
『お母さんね、その速さを何かに利用出来ないかって考えてみたの』
『…………え?』
『具体的には雷属性の魔力を全身に纏っておけば、雷程ではないけど、かなりの速度で移動出来るようになったわ♪』
『そ、そうですか』
あまりの無茶な理屈に俺は唖然としたことを覚えている。
しかし、その無茶をやってのけるのが俺の母という人間なのだ。
実際に母は雷速と名付けられた魔法によって超高速移動を可能にする絶技を簡単に身に着けてみせた。
無論、並の魔力制御では到達出来ない超高難易度の複雑な魔法なのだが、母は笑顔で俺にそれを伝授しようとしてきた。
結論から言えば、俺はなんとか雷速を習得することには成功したのだが、まだまだ完成とは言えない練度なので切り札の1つとしてまだ練習中の魔法となっている。
俺は今、その雷速を使って森を縦断しながらオークを刈り取っている。
魔石は俺に付随する疑似眼球に任せているが、既にかなりの数のオークを討伐済みだ。
「いてて……」
だが雷速はかなり制御が難しい魔法なので、少しでも制御をミスると俺自身が纏った雷でダメージを受けてしまう。
俺は一旦休憩にして光属性の回復魔法で自身を回復させる。
(回復魔法がなかったら、あんな無茶な特訓出来ないよなぁ)
逆に言えば、回復魔法があったから俺は母から無茶な特訓を課せられた訳である。
(にしても本当にオークの数が多いな)
既に俺だけで千以上のオークを狩った筈だが、俺が担当しているのは森の極一部だ。
それで、この数が出現するのだから総数は確かに数万に上るだろう。
(俺は兎も角、他の冒険者は大丈夫なのかね)
ランクの高い冒険者パーティなら大丈夫だとは思うが、大半の参加者はCランク以下のパーティだ。
オークの2~3体なら余裕だろうが、数十匹も同時に相手をするとなると余裕は吹き飛ぶ。
(まぁ、俺が助けて回るって訳にもいかないし、どうにかするだろ)
俺は気にするのを止めて自分ことに集中することにした。
大規模依頼となると作戦期間は長期を予定されている。
俺が1日目を終えて冒険者ギルドに帰還すると、そこは死屍累々の状況が広がっていた。
「随分と苦戦しているようだな」
「あ、お帰りなさい」
馴染みの受付嬢を見つけて話し掛けると慌てて挨拶をして来る。
「オークロード討伐戦ですからね。休みなく戦わされた冒険者は疲労困憊ですし、怪我人も少なくありません。君は大丈夫ですか?」
「まぁ、適度に休憩は取っていたし、今更オークに苦戦することもないからな」
雷速の練習をしていたので魔力は消耗しているが、逆に言えばそれだけだ。
「明日も早いみたいだし、休ませてもらうぞ」
「あ、はい。どうぞ」
流石に今の環境ではベッドで休むなんてのは優遇されているAランクくらいなので、俺は空いているスペースに毛布を敷いて、そこで横になることにした。
◇◇◇
オークロード討伐戦2日目。
目を覚ました俺は水魔法で顔を洗ってから身だしなみを整え、森に出発することにした。
(今日も多いな)
俺は相変らず雷速を使ってオークを仕留めていくが、その数は昨日から全く減ったようには見えない。
(俺だけで千匹を倒している筈なんだがな)
他の冒険者の成果など知らないが、このままでは長期間拘束されることになる。
(……家に帰りたい)
この日もオークを千匹くらい倒したが――焼け石に水という言葉が頭に浮かんだ。
◇◇◇
1週間経っても状況は変わらなかった。
いや、冒険者側の疲労が溜まってきているし、加速度的に怪我人も増えているので戦力は激減している。
完全にじり貧だ。
(さっさとオークロードを倒さないと冒険者の方が限界を迎えるぞ)
長期の依頼を前提に集められた冒険者だが、休みなく戦い続ける状況では体力も気力も持たない。
「オークロードの討伐は進んでいるのか?」
俺は馴染みの受付嬢に聞いてみるが……。
「Aランクのパーティが複数で対応していますが、未だにオークロードの元に辿り着けていません。オークが多過ぎて突破出来ないんです」
返って来たのは芳しくない報告。
「そこで君にお仕事のお願いです」
「……Aランクパーティの為に露払いをしろって?」
「お願いします。今のところオークの討伐数では君が断トツのトップなのです」
「集団行動とか苦手なんだけど」
なんせボッチなもんで。
でも、このままじり貧な状況で拘束され続けるのも困るので、仕方ないので引き受けた。
作戦前にAランクの冒険者パーティとも顔合わせが行われた。
Aランクは計15名で、1つのパーティに5人の割合だ。
(あ、潔癖さんもいる)
そして当然のように潔癖さんも居て、この人もAランクとして参加していたらしい。
「おいおい。こんなガキが役に立つのかよ」
Aランク冒険者の中には俺を年齢で侮る者もいたのだが……。
「この子は白銀のアルメリアの息子よ」
「なっ! あの白銀の息子だと!」
何故か潔癖さんが母の名前を出して黙らせていた。
「あんまり母さんの二つ名を広めていると怒られるぞ」
「ひっ! だ、黙っていてよね」
「…………」
そんなにビビるのならやらなきゃいいのに。
そうして作戦開始の時間になったのだが……。
(あんまり切り札を見せたくないんだけど、加減している余裕もないしね)
俺は雷速を発動させた。
◇◆◇
作戦開始から1秒でアトゥムは周囲に居た数十体のオークを仕留めた。
「遅れずについて来いよ」
そしてAランクの冒険者達に告げると超高速で移動を開始した。
唖然とするAランク達だったのだが……。
「急ぐわよ!」
潔癖に促されたAランク達は急いで後を追っていく。
雷速は単純に超高速で移動するだけでなく、雷属性の魔力を全身に纏っているので触れただけでオークなどは感電して死ぬか、もしくは炭化して死ぬことになる。
それが秒間数十匹のペースで行われているのだから、Aランクの冒険者とはいえ付いて行くのがやっとだった。
そして誰もが思ったことを1人が呟く。
「もう、あいつがオークロードを倒せば良いんじゃね?」
「「「…………」」」
それは、その通り。
オークを倒しながらAランクでもついて行くのがやっとという速度で移動出来るのなら、オークロードくらい簡単に倒せる気がする。
そうしてAランク冒険者達が、やっとアトゥムに追いついた時、全ては手遅れとなっていた。
周囲には普通よりも巨体なオークが何体も倒れており、その中心では巨大なオークが身体の半分を炭化させて息絶えていた。
そして肝心のアトゥムはというと、困った顔で立ち尽くしていた。
「こ、これがオークロードじゃないよな? ちょっと大きいオークだよね?」
「「「…………」」」
勿論、周囲に転がっているのはオークジェネラルと呼ばれる王の側近であり、中心に入るのはオークロードだった。
「なんか、もう……最初からあいつ1人で良かったんじゃね?」
Aランク冒険者は全員がうんうんと頷いたのだった。
◇◇◇
「違うんだよぉ。オークロードって、もっと特別な特殊個体だと思ってたんだよぉ。あんな、ちょっとだけ大きいオークが王だなんて思わないじゃん。俺のせいじゃないんだよぉ」
「はいはい。君はBランクに昇格だからね」
俺がオークロードを倒した結果、森での騒ぎは収束したのだが、俺は無条件でBランクに昇格になってしまった。
試験すら無用で、俺をCランクのままにしておく方が問題となったらしい。
「それで来月にはAランクだからね。準備しておいてね」
「勘弁してくれ」
どうやらオークロードを単独で倒すような奴をAランク以外にしておくのが問題らしい。
手順を大事にする冒険者ギルドなので一気にAランクには出来ないが、1ヵ月の期間を置いてAランクに昇格させるようだ。
「母さんが考案した魔法が強過ぎたんよ。俺のせいじゃねぇんだよ」
俺は雷速でちょっと触れただけなんよ。
まさかオークロードまで触れただけで死ぬとは思わないじゃん。
「アルメリア様って本当に凄いのね」
「そうなんだよ! 母さんがおかしいだけで俺は悪く……」
「アトゥムちゃん?」
「…………」
背後から聞こえて来た声に俺はピシリと固まる。
「何日も帰って来ないから心配して迎えに来たのに、どういうことかしら?」
「ち、ちなうんです、おかあさま。おれはわるくな……」
「こっちにいらっしゃい」
「あぁ~!」
そうして俺は迎えに来た母にドナドナされて長々と説教される羽目になったのだった。
◇◇◇
翌日。
「父さん、どうして空って青いんだろう?」
「アトゥム、お母さんを怒らせるのは止めておいた方が良いぞ」
「…………はい」
現実逃避していた俺は父に諭されて素直に頷いた。
母からのお説教は、それはそれは辛い時間だった。
泣いて謝っても許してくれなかった。
「というか連絡もなしで大規模依頼を受けるなんて、お母さんじゃなくても心配するに決まっているだろう」
「だって強制参加だったんだもん。連絡する時間もなかったんだよぉ」
「手紙も送る時間もなかったのか?」
「あ」
そうだね。電話もない世界だから直接帰るしかないと思い込んでいたけど、手紙という手段があったね。
「……忘れてた」
「アトゥムは年齢の割にしっかりしていると思っていたが、うっかりするところがあるな」
「サーセン」
手紙という手段については思いつかなかったんだよ。
「お母さんは帰って来ないお前を、それは心配していたんだぞ。それでもお前を信じて待っていたんだが……」
「あぁ~……」
それで、あの場面に遭遇したら――キれるわな。
「後で、もう1回謝っておきます」
「そうしなさい」
なんとなくだが、俺は母の愛を感じたのだった。
◇◇◇
「さて、アトゥムちゃん」
「はい」
俺は今日、母に庭に連れ出されていた。
「オークロード討伐戦では雷速を使っていたそうね」
「あ、はい」
俺の切り札ではあるが温存している場合じゃなかったんだよ。
「ちょっとやって見せなさい」
「うん」
俺は母に言われて雷速を使用する。
もう何度も実戦で使って来たので大分慣れてきており、一瞬で母の背後に移動して……。
「はれ?」
気付いたら母は居なくなっていて……。
「うぅ~ん。まだまだ魔力が荒いわね。それだと自爆ダメージも受けてしまうでしょう?」
「…………」
気付いたら背後を取られていた。
確かに母の雷速は乱れもなく綺麗に制御されており、これなら万に一つも自爆ダメージを受けるなんてことはないだろう。
というより俺より圧倒的に速いんですけど。
「それじゃ久しぶりに特訓をしましょうか」
「…………はい」
それから俺は1ヵ月間、母にみっちりと雷速の訓練を受けることになったのだった。
◇◇◇
母に雷速の訓練を受けた結果……。
・アトゥム
土属性 レベル10★
重属性 レベル5
水属性 レベル10★
清属性 レベル4
木属性 レベル9
風属性 レベル8
氷属性 レベル7
火属性 レベル6
雷属性 レベル10★
天属性 レベル1
光属性 レベル8
なんか雷属性がカンストして上位属性の天属性が出現していた。
「あら。アトゥムちゃんも天属性が出たのね」
「…………」
母はとっくの昔に雷属性をカンストさせて天属性を出していたようだ。
「天属性は広範囲に雷を落としやすくなる属性で、雷属性の魔力も制御しやすくなるわよ。良かったわね」
「あ、はい」
この常に俺の1歩先を行く母をどうにかしてくれないだろうか。




