第5話 【ボッチは初依頼を受ける】
魔法学校の卒業式。
この日、魔法学校を卒業する俺達には卒業の証として特殊な文様が描かれたメダルが贈られた。
このメダルは魔法学校を卒業した者に配られるものであり、ある一定以上の魔法の実力が認められた証でもある。
ちなみに卒業生の内の3割近くは上位属性に達しており、メダルにはその旨も記されているので就職が有利になるらしい。
俺は残念ながら上位属性に至ることは出来なかった。
・アトゥム
土属性 レベル9
水属性 レベル9
木属性 レベル8
風属性 レベル7
氷属性 レベル6
火属性 レベル5
雷属性 レベル5
光属性 レベル7
卒業時の俺の属性レベルはこんな感じだ。
最後の方は光属性ばかり上げていたので得意属性の土属性ですら9で止まってしまっていた。
最後の追い込みを掛ければ上位属性には届いたと思うのだが、母が容赦してくれなかったのだ。
『冒険者になるのなら上位属性よりも回復魔法を使える光属性が優先よ』
『あ、はい』
そんな感じで回復魔法の習得を優先させたので上位属性に至ることは出来なかった。
こうして俺は無事に魔法学校を卒業して――15歳になった。
「良い。アトゥムちゃん。冒険者にとって1番の敵は油断よ。どんな時も油断だけはしないようにね」
「あ、はい」
そして俺は母から冒険者としての心得を聞かされている最中だった。
「あの、母さん?」
「何かしら? 質問?」
「俺は冒険者にはなるけど、家を出ていくのはまだ先の予定なんですけど」
「…………」
俺は今まで通り冒険者も家から通いでやる予定だったので、特に家を出る予定はなかったのだ。
だから、そんなに熱心に冒険者の心得を語られても――困ってしまうのだ。
「早く言いなさいよ!」
母は照れ隠しに大声で怒鳴ったのだった。
◇◇◇
卒業式の翌日。
俺はいつも通りに早起きして定期馬車に乗って街へと出掛けた。
ここは魔法学校のある街であり、この街で冒険者になるつもりだった。
冒険者になる為には冒険者ギルドというところで登録を行う必要があり、そうして登録する為には大きな街の冒険者ギルドに行く必要がある。
残念ながら俺の住んでいる村では登録出来ないので、こうして大きな街にやって来たわけだ。
(冒険者ギルドって何処にあるんだろ)
もう5年も通って来た街ではあるが、ボッチの俺は魔法学校以外の場所にはノータッチだったので冒険者ギルドの場所を知らなかった。
ボッチの俺が人に聞くとか出来ないし、冒険者ギルドを探して俺は街の中をウロウロと歩き回る羽目になったのだった。
散々歩き回って見つけた冒険者ギルドは剣が交差した看板が掲げられた大きな建物だった。
(これが冒険者ギルドのマーク。オボエタゾ)
俺は扉を開けて中に入ると広い空間に複数の人間がバラバラに集まっていた。
(おっと。疑似眼球を出しておかないと)
母に口を酸っぱくして言われたことだが、冒険者として活動している時は常に疑似眼球を出して警戒を怠らないこと。
実際、冒険者にとって危険なのは親切な顔して近付いて来る人間なのだとか。
ちなみに、この疑似眼球なのだが、母の提案によって目だけでなく耳ともリンクして音を拾えるように改良されていた。
その疑似眼球を1つは俺の背中に張り付けて背後を警戒し、もう1つは周囲を偵察して危険がないか探っている。
俺は基本的に2つの疑似眼球を出して活用していた。
俺のような魔法使いには魔力で作った疑似眼球を認識することも出来るのだが、魔法とは無縁の人間には見ることも出来ないので偵察には便利だった。
そうして周囲を警戒しながら俺は受付に向かって登録に手続きを開始したのだが……。
「うわぁ。またか~」
俺が魔法学校の卒業メダルを提出すると受付嬢が顔を引き攣らせていた。
「また?」
「昨日が魔法学校の卒業式だったでしょ? お陰で昨日は大量の卒業生が登録しに来たから、お腹いっぱいな訳」
「あぁ~」
魔法学校を卒業出来るのが15歳で、冒険者になる為の最低限の年齢も15歳なので、魔法学校を卒業したら次は冒険者というのは定番だわな。
魔法学校の卒業生がほぼ全員が登録しに来たというなら100人くらいは来た筈で、その全員がメダルを提出して来たというのなら――確かに辟易とするかも。
「それじゃ君が持っているメダルの特権に付いて説明するわね」
「特権?」
このメダルには何か特権があるらしい。
「そう。本来15歳で冒険者になった子には見習いとしてGランクから開始になるのだけど、そのメダルを持っている子には2つ上のEランクから開始になるという特権があるの。まぁ、魔法使いに雑用をさせるような勿体ない使い方は出来ないってことね」
「なるほど?」
確かに魔法が使える奴に誰にでも出来る雑用をさせるのは無駄というものだ。
「というわけで君もEランクからスタートになります」
「あ、はい」
正直、急にEランクと言われても困惑しかないのだけど。
そもそも冒険者とはなんぞや? という話なのだけど、冒険者とは街の雑用や旅の護衛などを引き受けることもあるが、基本的には魔物と呼ばれる害獣を討伐することを目的としている。
俺の父が隊長を務める村の自警団も魔物の襲撃から村を護る為に存在しており、魔物の討伐とは危険を伴うものなのだ。
そして父のような優秀な自警団がどの村にも存在するわけもなく、魔物から村を守る術のない人達の為に依頼という形で魔物を討伐することも冒険者の仕事だ。
「それでは早速、依頼を受けますか? とは言っても昨日の時点で魔法学校の生徒が軒並みEランク用の依頼を消化してしまったので、もう依頼は残っていないのですが」
「マジかぁ。ちなみEランクの依頼ってどんなの?」
「基本はゴブリンの討伐ですね」
ゴブリンというのは最下級で最弱と言われている魔物の名前だが、だからと言ってもゴブリンを雑魚と舐めている冒険者などいない。
確かにゴブリンは単独では最弱の魔物で子供並の強さしかないが、ゴブリンというのは基本的に群れる生き物なのだ。
討伐に出掛ければ平気で20~30匹の群れで襲って来るし、そんな数を相手にするとなれば、アッと今に囲まれて――何も出来ないまま蛸殴りだ。
基本的にチームで動く冒険者なら何とかなるかもしれないが、俺のようなボッチにはきつい相手だ。
「一応、同じEランクでウルフの討伐という依頼もあるけど……どうする?」
「ウルフかぁ」
ウルフというのは単純に狼のことではなく、狼と酷似した魔物のことだ。
当然、普通の狼よりも強いし、これもゴブリンと同じように群れる。
「依頼元とウルフの数は?」
「依頼は付近の村からで、10匹前後のウルフに畑を荒らされて困っているという依頼ね」
「……なるほど」
俺は少しだけ考えて……。
「分かった。その依頼、受けよう」
俺は初依頼を受けることにした。
件の村は俺の村と同じく街から馬車で30分程度の距離にあり、俺の村よりも小さく活気のない村だった。
俺は依頼者である村の村長に話を聞きに行くと……。
「早く何とかしてくれ! これ以上、畑を荒らされたら村の住人が食べる物がなくなってしまう!」
「……善処します」
俺は適当に話を聞いてから村の様子を見に行ったのだが、情報通りに村の畑を荒らされているし、村で育てていた家畜は半数が食い殺されていた。
確かに、これでは村人が飢えてしまうし、家畜が全滅した後は村人が襲われるなんてこともあり得そうだ。
「魔物だぁっ!」
そこに丁度良く村人の叫びが聞こえて来て、そちらに視線を向けると――10匹近いウルフの群れが走って来るところだった。
俺は土属性の魔力を行使して地面から土の槍を生やして2~3匹のウルフを串刺してみるが……。
(速いな)
ウルフは想像以上に速くて正確に狙いを付けることが出来ない。
その間にウルフが俺に向かって接近して来て……。
「ギャンッ!」
俺が眼前に作り出した土の壁に激突して悲鳴を上げた。
今の俺のレベルなら強固な壁を作り上げることなど造作もない。
その隙に更に2~3匹を土の槍で串刺しにして仕留める。
(あと半分)
ウルフ達は俺を警戒して距離を取って唸るが……。
(間抜けか?)
俺は木属性の魔力を行使して地面から木の根を生やして全てのウルフを拘束する。
次いで土属性の槍を生やして順々に仕留めていった。
「……ふぅ」
ウルフが全滅したことを確認して俺は一息吐く。
疑似眼球で周囲を確認するがウルフの生き残りはいない。
魔物というのは体内に魔石という石を持っており、その魔石を冒険者ギルドに提出すると買い取ってもらえる。
依頼料と魔石の販売が主に冒険者の収入源だ。
俺は素手で死体に触りたくなかったので土属性の魔力でナイフを作り魔物を捌いて魔石を取り出し、更に土属性の魔力で地面に穴を空けてウルフの死体を埋めた。
普通の動物とは違って、体内に魔石を持つ魔物は毒があって食えない。
魔物の毒性は魔石が生み出していると言われているので、魔石を回収した後なら地面に埋めても地面に影響が出ることはない。
そうして魔物を処置した後に村長に報告に行ったのだが……。
「流石は魔法使い様だ!」
「……ども」
絶賛されたので礼を言っておいた。
その後、依頼完了の書類にサインを貰い――俺は街に帰ることにした。
その後、冒険者ギルドに戻って、サインの掛かれた書類と依頼の完了の報告と、ウルフの魔石を提出した。
「1人でウルフを10匹も倒したの? いい腕してるわねぇ」
受付嬢には感心されたが、こんなところで苦戦するような魔法使いになった覚えはない。
俺は依頼料と魔石を販売した金額を受け取り、冒険者ギルドを後にした。
通常の冒険者なら、この後酒場にでも乗り出すのかもしれないが、ボッチの俺は普通に家に帰ることにした。
そうして帰宅した後に母に成果を報告したら……。
「やっぱり前衛がいないと安定しないかもねぇ」
「……そっすね」
ウルフに接近されて土壁を使わなければいけなかったことを指摘された。
確かに今回はウルフのような雑魚が相手だったから何とかなっただけで、もっと強い奴が相手だったら対処出来なかったかもしれない。
「でも、どうすれば……」
「うぅ~ん。そうねぇ」
母は俺――というより俺の肩に浮かんでいる疑似眼球に視線を向ける。
「疑似眼球に前衛を務めてもらう、というのは無理だとしても一緒に戦うのはどうかしら?」
「どういう……?」
「疑似眼球はアトゥムちゃんの魔力と繋がっているわけだし、疑似眼球から魔法を撃つことも可能だと思うのよ。それならアトゥムちゃんが安全な場所から魔法を撃っているのと同じことだし、敵に接近する必要もないわ」
「な、なるほど?」
要するに疑似眼球を遠隔操作して砲台にしろって話だ。
つまり宇宙世紀のサイ●ミュ兵器みたいに活用しろということだ。
「でも、それって練習が必要になると思うんだけど」
「頑張れ!」
「あ、はい」
やっと魔法学校を卒業して冒険者になったと思ったら、また訓練のお時間です。
◇◇◇
周囲に展開した疑似眼球から魔法を撃てるようになるまで3ヵ月も掛かった。
それでも、やっと2つの疑似眼球をコントロールして魔法砲台として活用出来るようになったと思ったら――母は5つの疑似眼球を展開して自由自在に魔法を放っていた。
「…………」
俺のやることなすこと全部、上位互換になるの止めてくれないかなぁ。
物凄くやる気がなくなるんだけど。
「遠隔魔法、楽しいわねぇ♪」
「……そうだね」
専業主婦の筈の母の手札がドンドン増えているんですけど。
◇◇◇
翌日。
俺は3ヵ月ぶりに冒険者として活動するべく馬車に乗って街までやって来た。
そうして同じく3ヵ月ぶりに冒険者ギルドにやって来たわけだけど……。
「あら。お久しぶりねぇ」
「……ども」
あの時の受付嬢が俺のことを覚えていたのか笑顔で挨拶して来た。
「前に君が仕事をした村から感謝状が届いているわよ。助かったって」
「あぁ~」
あの時のことがきっかけで母にスパルタ訓練を受ける羽目になったので複雑だが、俺の行動が人助けになったのは純粋に嬉しかった。
「今日は仕事するの?」
「何か良いの、あります?」
「そうねぇ~」
受付嬢は少しだけ悩んで視線を特定の方向へ向ける。
「?」
そっちには3人の少年少女が居り、何かを話し込んでいた。
「君が人付き合いが苦手なのは分かるんだけど、ちょっとあの子達とパーティを組んでくれないかしら?」
「えぇ~」
「所謂、初心者パーティってやつでね。つい先日Eランクに上がったばかりなんだけど、あの子達だけで依頼に向かわせるのは不安なのよねぇ」
「……どんな依頼?」
「ゴブリン討伐」
それはEランクとしてはありふれた依頼だった。
「でも場所的に洞窟に入る可能性が高いのよ。ゴブリンは雑魚だけど、狭い洞窟の中だと難易度が上がるから」
「それで俺か」
「ウルフ10匹を無傷で討伐出来る実力があるなら、何とかなるでしょ? お目付け役として付いて行ってくれないかしら」
「……良いけど」
正直、真正のボッチである俺にパーティを組めというのは無茶な話なのだが、なんか本気で困っているっぽいし渋々引き受けることにした。
「俺はアルス。見ての通り剣士だ」
1人は赤毛の少年で、急造の装備で剣士モドキにしか見えない。
「リンネ。格闘家。よろしく」
1人は短い青髪の少女で、手にグローブを装着して戦意を露にしている。
「あ、セーラです。神官見習いをしています」
最後は銀髪の長い髪の少女で、神官服を着ている神官見習いだった。
「神官?」
「あ、神官と言っても魔法は使えません。神にお仕えする身として困っている人を助ける為に冒険者になりました」
「ああ、そう」
志は立派だが、それで冒険者として活躍出来るのかは不明だ。
「俺はアトゥム。魔法使いだ」
今更だけど俺の恰好は普段着に母さんのお下がりのローブを纏っている。
俺が魔法使いだと判断出来るのはローブだけだ。
「それじゃ行くか!」
そうしてパーティのリーダーであるアルスを先頭に目的地に向かって歩き始めた。
受付嬢の予想は当たり、ゴブリンを探して入った森で洞窟を発見、熟考の末に洞窟に入ってゴブリンを退治する羽目になった。
先頭に立つアルスが火の点いた松明を持って進み、その後を俺達3人が1列になって付いて行く。
正直、光属性の魔法で灯りを点けた方が視覚を確保出来るし有利なのだけど、今回の俺はあくまでお目付け役ということで3人の自主性を邪魔しない程度に自重した。
そうして進むこと数分……。
「ギギッ!」
「ギャッギャッ!」
数匹のゴブリンが俺達の前に姿を現した。
「見つけた!」
先頭のアルスは剣を持ったまま突っ込んでいき、逃げ遅れたゴブリンに斬りかかって――キンッと剣が岩肌に当たって弾かれる。
(こんな狭い場所で長剣を振り回すなよ)
明らかに洞窟の中で振り回すには長過ぎる剣だ。
剣の長さは半分で良い。
「どいて! 邪魔!」
そんなアルスを放置してリンネが突っ込んでいき、素手でゴブリンを叩きのめしていく。
「えっと、えっと……えい!」
セーラは戸惑っていたが、倒れたゴブリンに向けてメイスを振り上げてトドメを刺していく。
アルスはそんな状況に呆然と佇んでいた。
「その剣は長すぎる。鞘を持って殴れ」
「あ」
仕方なく俺が指示を出すとアルスは鞘を持ってゴブリンを殴り始めた。
その間も俺は疑似眼球を飛ばして周囲を偵察していたのだが、明らかに普通のゴブリンよりも大きなゴブリンが現れる。
「ホブゴブリン!」
ゴブリンの上位種の登場に先頭で戦っていたリンネが怯む。
しかも洞窟の奥から同じようなホブゴブリンが2体、追加で現れる。
これは流石に3人には荷が重そうなので――土の槍で俺が仕留めてやった。
「「「え?」」」
「お目付け役はここまでだ。さっさと片付けて洞窟を出るぞ」
俺は光属性の魔力で明かりを灯し、疑似眼球で確認出来るゴブリンを次々と仕留めていく。
「「「…………」」」
3人はポカンとしていたが、俺は無視して疑似眼球を洞窟の奥まで進ませて――早々にゴブリンを全滅させて仕事を終えた。




