第19話 【魔王対勇者】
今日も今日とてセイナと共に属性レベルに励んでいたら……。
「あ」
声に反応してセイナの方を見たら、その手に雷を纏っていた。
「あなた、雷属性が出来ましたわ!」
「おぉ。やったなぁ」
俺は相当時間が掛かった雷属性だが、どうやらセイナはセンスが良いようだ。
それとも、やはり雨属性を先に取得していたから、やりやすかったのだろうか?
「よしよし」
「~♪」
俺はセイナの頭を撫でて褒め称えた。
そうして愛する妻とイチャイチャしていたのだけど……。
「む」
俺が偵察に飛ばしていた疑似眼球が侵入者の存在を察知した。
「無粋な」
「あなた?」
「客みたいだから、ちょっと追い返してくる」
「あ、はい。お義母様にも伝えておきますね」
「……頼む」
母が必要とは思えないが、念の為に報告だけでもしておいてもらう。
俺が村の外に出ると1人の青年が歩いて来るのが見えた。
その恰好は軽装ながらも剣士だ。
「お前が魔王か?」
「…………は?」
俺は確かに各国の上層部に魔王認定されているが、面と向かって魔王と言われたのは初めてだ。
「嬉しいぜ。お前みたいな奴が現れてくれてな」
「どういう意味だ?」
「強くて悪い奴が現れてくれないと俺が活躍出来ないだろう」
「悪い奴?」
「何百万人も虐殺した奴が悪くないわけないだろ」
「…………」
それは、そう。
「魔王軍なんて奴らもいたが、あいつらはそう呼ばれているだけで唯の人間だった。あんな奴らを倒しても誰も俺を英雄だと認めてくれないからな」
「……英雄になりたいのか?」
「いいや。俺は勇者だ」
「…………」
なんか痛い奴に会ってしまった。
「折角ファンタジーな世界に生まれ変わったのに、このまま悪役も居ないまま終わりかと焦ったぜ」
「お前っ……!」
こいつも転生者か。
「だが、これでやっと始められる。俺の勇者ストーリーをな!」
「……死ね」
俺は自称勇者とこれ以上会話をする意味を見出せなくて、奴に雷を落として直撃させた。
普通なら、これで身体が炭化してしまうのだが……。
「あははっ! 良いぜ、流石は魔王だ! そう来なくっちゃな!」
「…………」
こいつピンピンしてやがる。
よく見れば、この自称勇者は膨大な魔力を纏って俺の魔法を防御していた。
基本的に魔力には物理的な作用はないし、物理的な防御力もない筈だが、なんらかの方法で防御力に変えたのだろう。
(ちっ)
俺は内心で舌打ちして次の魔法の準備を進め……。
「おらぁっ!」
「っ!」
自称勇者が剣で斬りかかって来たので、咄嗟に雷速に切り替えて攻撃を回避する。
「本気で行くぜ!」
(こいつっ……!)
俺は雷速で距離を取ったというのに、その雷速の速度に付いて来やがった。
そして連続で斬りかかって来るのを疑似眼球の動体視力を上げて必死に回避する。
「痛っ……!」
だが全てを回避することは出来ず、自称勇者の剣が俺の肩口を切り裂いて血が溢れる。
俺は負傷した肩を抑えて回復魔法を使って血を止めながら後退するが、その後退を許さずに自称勇者が距離を詰めて来る。
(こいつ、魔法使いとの戦いを熟知してやがる)
魔法使いと戦う場合、距離を取るのは愚策。
接近して魔法を使う暇を与えずに連続攻撃することがセオリーとされている。
そういう意味では自称勇者は基本に忠実な戦い方をしていた。
こちらとして厄介なこと、この上ないが。
俺は雷速で後退しながら魔法を放とうとするが、自称勇者は雷速並の速度で追従して来て魔法を妨害してくる。
お互い雷速並の速度で移動しているので村からドンドン離れていく。
そして追いつかれると剣で連続攻撃を仕掛けて来るので、動体視力を上げた疑似眼球で攻撃を回避するが……。
「ちぃっ!」
全ては回避しきれずに身体を斬られて負傷して回復魔法を使う羽目になる。
(くそっ。気に入らねぇ)
俺が魔法を使う隙を探る為とはいえ後退して逃げている形になっているのが気に入らない。
攻めの姿勢を取れないのが屈辱だった。
「流石魔王だぜ! こんなにしぶとい奴は久しぶりだ!」
「…………」
なにより自称勇者が一方的に楽しんでいるのが気に入らない。
俺は木属性、氷属性、影属性で槍を作って撃ち出すが、どれも避けられてしまう。
(避けられない攻撃……爆魔法!)
範囲攻撃の爆魔法で攻撃する。
流石に母のように核兵器並の威力と範囲ではないが、避けるのは不可能は範囲魔法だ。
これは確かに避けられなかったが――中央を突っ切って来やがった!
(こいつ……火属性か!)
その魔力の性質を見て俺は奴の魔力が火属性であることを悟った。
(つまり、この異常な速さは火魔法の身体強化か)
あれは使用者のエネルギーを燃焼させて限界以上の力を引き出す魔法だが、代償に術者の体力を大幅に消費する欠点があった筈。
日課のランニングで俺もそれなりに体力はある方だが、それでも火属性の強化なんて使えば1分も持たない。
なのに、自称勇者は大量の汗をかきながらも息1つ乱していない。
(この体力お化けが!)
どういう鍛え方をして来たのか知らないが、こいつは無尽蔵の体力を持っているらしい。
いよいよ打つ手がなくなって来て、俺は咄嗟に自爆させる目的で火魔法を放つが――当然のように中央突破して突っ切って来る。
(くそっ。こんなことなら火属性と光属性を合成して熱線魔法でも開発しておくんだった)
今、必要なのは回避出来ない速度の攻撃だ。
俺は後悔するが、この場で合成なんてしている時間も余裕もない。
そうして、いよいよ自称勇者の剣が俺の喉元に迫り……。
「ぐぁっ!」
咄嗟に放った魔法が自称勇者を後退させた。
「てめぇ、何をしやがった!」
「…………」
俺自身が何をしたのか分からなかった攻撃だが、その攻撃には自称勇者を後退させるだけの力があったようだ。
よく見ると自称勇者の身体には小さな穴が空いており、その穴の周辺は焦げている。
(まさか……)
俺は自己投影で自分のステータスを素早く確認する。
・アトゥム
土属性 レベル10★
重属性 レベル8
水属性 レベル10★
清属性 レベル8
木属性 レベル10★
樹属性 レベル8
風属性 レベル10★
音属性 レベル8
氷属性 レベル10★
零属性 レベル6
火属性 レベル10★
日属性 レベル1
雷属性 レベル10★
天属性 レベル8
光属性 レベル10★
命属性 レベル7
影属性 レベル8
爆属性 レベル7
(日属性、これか!)
火属性がカンストして上位属性として追加された日属性のお陰で高速の攻撃が出来るようになったのだ。
日光の属性は光の側面もあり、それを一点に収束させてレーザーのように撃ち出していたようだ。
いくら雷速並の速度で動けても光速の攻撃は見切れない。
「ちぃっ! 勝負はお預けだ!」
自称勇者は未知の魔法を警戒したのか雷速並の速度を生かして逃走を開始する。
「逃がすかよっ!」
俺は覚えたての日魔法で光速攻撃を仕掛けようとして……。
「ぐぁっ!」
自称勇者が足をレーザーで貫かれて転倒する。
「はれ?」
俺はまだ攻撃していないんですけど?
「詰めが甘いわねぇ、アトゥムちゃん」
そして当然のように現れる母。
「…………」
その背後には申し訳なさそうな顔で佇むセイナもいる。
「ずっと見ていたけど、もうちょっと上手く立ち回らないと駄目よぉ。確かに強敵だったかもしれないけど勝てない敵ではなかったわ」
「あ、はい」
恐らく本当に危ない時には助けに入ってくれるつもりだったのだろうが、そうなるまでは様子を見る気満々だった。
そうでなければセイナの申し訳なさそうな顔に説明がつかない。
「でも火属性をカンストさせて上位属性を出したのはお見事だったわ。いくら雷速並の速さで動けても光速の攻撃は避けられないもの」
「……どうも」
当然、俺が日属性を発現させたことを知っていたし、なんなら自称勇者を止めたのは母の日属性だった。
この短時間で自分の火属性をカンストさせて日属性を出しやがった。
「さてと」
そうして母は自称勇者の方へ向かって歩き出す。
「くっ! 今度は魔女か!」
自称勇者は足を引きずりながら逃げようとしているが、そんなことより……。
「え? 母さんって魔女なんて呼ばれているの? それだと俺が魔王で、なんかコンビみたいで嫌なんですけど」
俺が魔王で母が魔女だと、なんかコンビにされているみたいで嫌。
俺は巨乳美少女のセイナの方が良い。
「どういう意味かしら?」
「ひぃっ!」
母に睨まれて縮み上がる。
我が家のヒエラルキーは――以下略。
「お待たせしたわね」
俺にきっちりお仕置きをしてから母は自称勇者の前に立つ。
「く、来るなぁっ!」
自称勇者は剣を振り回して母を遠ざけようとするが――大魔王からは逃げられないのである。
「誰が大魔王なのかしら?」
「ごめんなさい、お母様!」
俺は速攻土下座で謝った。
我が家の――以下略。
「考えてみれば、別に君に聞きたいこととかないのよねぇ。だから、これでサヨナラよ」
「待っ……!」
自称勇者は咄嗟に引き留めようとしたが、母の零魔法によって熱を奪われ――あっという間に氷像に変わる。
自称勇者の呆気ない最期だった。
「なるほど。相手が火属性なら零魔法は有効だったのか」
使える属性が多いことは俺の利点ではあるが、多過ぎる選択肢から最適解を選択するには経験が必要になる。
俺も母のように属性の相性を見極められるようにならなくては。
自称勇者の始末が終わり家に帰って来ると……。
「あなた、大丈夫でしたか?」
一緒に帰って来たセイナが俺の怪我を心配してくれた。
「ああ、負傷は戦闘中に回復魔法で治したから問題ない。体力も命魔法で回復させたから減っているのは魔力くらいかな」
とは言っても俺の魔力量なら明日には回復しているだろう。
「ごめんなさい、あなた。わたくし、見ていることしか出来ませんでした」
「まぁ、母さんに止められたら誰も手出しは出来ないからな」
「それでも、ごめんなさい」
セイナは本当に申し訳なく思っているようで、しょんぼりした顔で俺に頭を下げる。
「それなら、お詫びをしてもらおうかな」
「あ」
俺がセイナを抱きしめると、セイナは素直に俺に身を任せて来る。
そのまま情熱的なキスをすると、セイナは精一杯俺に応えようと舌を絡めて来た。
唇を離した時、セイナの目はトロンと呆けており、もう準備は出来ているようだった。
「んぅっ♡ あなたぁ、まだお昼ですのにぃ」
俺はセイナをベッドの上に押し倒すと、その素晴らしいおっぱいを堪能させてもらうことにした。
◇◇◇
翌日。
俺が目を覚ましてもセイナはなかなか起きて来なかった。
昨夜は遅くまでセイナとお楽しみをしていたので、流石のセイナも疲れて深く眠りに就いているようだ。
(最高だった)
昨夜のセイナが乱れる姿と、その素晴らしいおっぱいを思い出してニヤニヤしていると……。
「あんまり女の子に無理をさせちゃ駄目よぉ」
「…………」
唐突に現れた母に顔がスンっとなる。
「昨日は久しぶりに命の危機を感じたから、生存本能が刺激されて雄の一面が強く出ただけだよ。普段はあんなに無理をさせてないし」
「本当に?」
「…………」
本当は定期的にセイナのおっぱいに夢中になっているけど、セイナも悦んでいるので止めようという気にならないのだ。
「仲良くやっているみたいで何よりだわ」
「……どうも」
何をしに来たのやら。
「昨日のことで考えたのだけど、世の中にはまだまだ私達の知らない強い人がいるみたいね。私達は十分に強いと思うけど、別に世界最強って訳ではないし」
「そうだね」
そう。俺達は世界最強を目指しているわけではないので、そういうハングリーさが足りないのだ。
もしも、そういう風に世界最強を貪欲に目指している者がいたら、俺達では手も足も出ないかもしれない。
そして、そういう奴ほど表舞台には上がって来ない。
世界最強となる為に煩悩を切り捨てて、欲を出さずに自分の修行に専念しているからだ。
そういう奴らに対抗する為には同じステージに立たなければいけないのだけど……。
「母さんは別に世界最強になる気はないんでしょ?」
「当然ね。家族を護る為に家族を切り捨てるなんて本末転倒だわ」
「だよね」
俺も母も家族を切り捨ててまで世界最強になるつもりはないのだ。
「だから今の内に方針だけでも決めておきましょう」
「方針?」
「極論すれば、私達は生き残りさえすれば勝ちなのよ。無理に相手を倒す必要はないわ」
「そうだね」
俺達の目的は勝つことではなく生き残ること。
これには全面的に賛成だ。
「但し、ハーリット国のように専守防衛に徹して相手が諦めるまで待つというような消極的な姿勢は取らないわ。相手がいつ諦めるかなんて分からないもの」
「……そうだね」
それは確かにそう。
ハーリット国は攻勢に出た場合、周辺国が一気に攻勢に出る危険があったから迂闊に動けなかったという面もあるけど、俺達の場合は一気に攻勢に出て相手を叩き潰して――心を折った方が早い。
「だからと言って無理に攻勢に出る必要はないわ。専守防衛に徹する気はないけど、先制攻撃はしない。そういう方針で行きましょう」
「了解」
とりあえずの方針は定まった。
そうして俺と母の意思を統一したところで……。
「うぅ~ん」
ベッドの上の毛布が盛り上がってセイナが目を覚ましたようだ。
ベッドの上で身を起こしたセイナは腕を上げて伸びをして身体を揺らしてストレッチをしている。
それから全裸のままベッドから降りて――タンスにパンツを取りに向かう。
「…………」
俺はそんなセイナに見惚れていたのだが、気付けば母の姿が消えていた。
まさに神出鬼没である。
「あ、やだ。見ないでくださいませ」
セイナは俺の視線に気付いたのか、慌てて腕で裸を隠してパンツを穿こうとしている。
「ミテナイヨ~」
肉眼では目を逸らしたが、疑似眼球ではしっかりと目に焼き付けておいた。
今日も魅力的なおっぱいだぜ。
その後、セイナが作ってくれた朝食兼昼食を御馳走になる。
別に俺は家事は妻の仕事などと言うつもりはないが、セイナは良妻賢母を目指しているので基本的に料理はセイナがやってくれる。
実際、俺よりもセイナが作ってくれる料理の方が美味いし。
掃除や洗濯――特に重労働になりやすい洗濯は俺の方が割合を多めにしているが、魔法があるので苦にならない。
男は外で稼いで女は家を守る、というのも1つの形だが、俺は偶にしか稼いで来ないので暇だし、セイナが苦労しているのを見ているだけというのも性分じゃない。
「美味い!」
とりあえず、俺はセイナが作ってくれたご飯を褒めちぎったのだった。




