第18話 【世界の敵ルート突入!】
セイナの隣の家に住んでいたという少年――所謂、幼馴染が現れたことには少し驚いたが、セイナがキッパリと俺を選んでくれたので俺の心は平穏を取り戻した。
まぁ、セイナも奴とは子供の頃に交流があっただけで、それほど親しくはなかったという話だから当然か。
向こうはセイナが好きだったみたいだが、普通に考えて好きな子に意地悪して気を引こうとしても心証が悪くなるだけで逆効果だ。
セイナにとって、あの少年は子供の頃に隣の家に住んでいた少年以外の関係ではなかったということだ。
そうして昨夜もたっぷりと愛し合って遅くに起き出した俺達は実家に呼び出された。
困惑しながら母の家に向かった俺達は、母の家で隊長と呼ばれていた男が深刻な表情で待ち構えていたことに更に困惑した。
「それで何の用なのかしら、隊長さん」
どうやら話があるのは母ではなく、この男のようだ。
「……残念です、アルメリア様」
「どういう意味かしら?」
母もまだ話を聞いていなかったのか、隊長の言葉に困惑を隠せない。
「我々があなたの存在を傍観出来ていたのは、あなたが驚異的な力を持ちながらも中立の立場を守っていたからです」
「そうね」
「だが、あなたは中立などではなかったのですね」
「……どういう意味かしら?」
「…………」
隊長は苦悩するように頭を振りながら、ゆっくりと語り出す。
「数日前、ライドキア王国の王族が1人の少年を捉えました。その少年は……魔王軍からの脱走兵でした」
「あ」
思わずという感じでセイナが声を上げるが、俺も同時にセイナの幼馴染の少年であると察しがついた。
「ライドキア王国の王族が尋問を行った結果、その少年が語ったことは……あなたと御子息の伴侶が魔王軍の密偵だったという事実です」
「…………」
苛烈な拷問を受けたのだろうが、そんなに簡単に口を割るなよ。
「アルメリア様、あなたは中立の立場ではなく、その立場は魔王軍に近い」
「……だから?」
「っ!」
強気に見えても、やはり母が怖いのか母の問いに身体を震わせる。
「国の上層部では弁明の機会を与えると言っています。どうか出廷してご自身の潔白を証明して頂きたい」
「それはつまり、私に夫を捨てて国の奴隷になれということかしら?」
「…………」
そう。隊長が言っているのはそういうことだ。
「それしかないのです! もう、あなたは人類の裏切り者として断罪を受ける立場なんだ! それなら魔王軍の密偵を処分して潔癖を証明し、人類側として魔王軍と戦うしかないではありませんか!」
「だって。どうする、アトゥムちゃん」
「論外だな」
第1にセイナを切り捨てるなんて論外だし、第2に国の奴隷になるのも論外だ。
「そもそも出廷とか言っているが、念の為とかで魔封じの首輪をつける気なんだろ? どう考えても自分達の安全を確保したいって思惑が透けて見えるね」
「ねぇ。無駄なのにね」
「…………」
ここでやっと隊長は気付いたらしい。
俺と母がとっくにキれているということに。
「隊長さんには残念なお知らせだけど、この国は今日でお仕舞いよ」
「そうだね。とりあえず馬鹿な提案をして来た上層部には消えてもらわないと」
「待っ……ぎゃっ!」
俺達を止めようとした隊長が悲鳴を上げて倒れる。
「折角、穏便な方法を模索していたのに……台無しだわ」
「件の王族もキッチリ始末しておかないとね」
こうなればもう穏便だなんだと言っていられない。
人類の敵ルートには入ってしまったが、最悪の人類壊滅ルートだけは避けないと。
「とりあえず、この国を壊滅させれば……他の国は怖がってちょっかいを掛けて来なくなるかしら?」
「やってみるしかないね。駄目ならもう2~3国、消えてもらうしかないね」
もう魔王軍がどうとか関係ない。
家族の平穏を護る為、こちらにちょっかいを掛けて来ないように――徹底的に恐怖を植えつけて、やるところまでやるしかない。
◇◇◇
その日、母の爆魔法によって王都は壊滅し、空にはキノコ雲が立ち上った。
ついでに大量の兵士が集められて大軍が攻めて来たが俺の天魔法で雷乱舞して壊滅した。
死者の数は――数千万人に及ぶとされている。
「ハーリット国は魔王軍なんと呼ばれているけど、実は王にたいした力はなくて魔王なんて存在しなかったんだけどねぇ」
「わたくし達、魔王認定されてしまいましたね」
父とセイナは乾いた笑いを漏らしながら、そんなことを話している。
「それでライドキア王国の王族はどうなったのかしら?」
「きっちり零魔法で仕留めて来たよ。護衛を一緒にね」
零魔法というのは俺の氷属性がカンストしたことによって出現した新しい――超広範囲殲滅魔法だ。
・アトゥム
土属性 レベル10★
重属性 レベル8
水属性 レベル10★
清属性 レベル8
木属性 レベル10★
樹属性 レベル8
風属性 レベル10★
音属性 レベル7
氷属性 レベル10★
零属性 レベル5
火属性 レベル9
雷属性 レベル10★
天属性 レベル8
光属性 レベル10★
命属性 レベル6
影属性 レベル8
爆属性 レベル6
この魔法――零魔法は対象の熱を奪う魔法であり、熱を奪われた対象は例外なく凍り付いてしまう。
恐ろしいのは、その範囲であり、この魔法は術者を中心に凍り付く対象が存在すれば伝染してドンドン拡大していってしまう。
魔力さえ無尽蔵なら冗談抜きで世界を滅ぼせる魔法ということだ。
流石の俺と母でも世界を滅ぼせるほどの魔力はないので今は精々1国が限度だが、その零魔法で元凶のライドキア王国の王族と護衛を氷の彫像に変えてやった。
今後、永久に溶けない氷の中で過ごすことになるだろう。
下手に触ろうとすれば伝染して熱を奪われて凍り付くので冗談抜きで永久に氷像のままだ。
「各国の反応はどんな感じかしら?」
「まぁ、普通に考えて自国に爆魔法や天魔法を使われたくないだろうから連日会議が活発化しているね」
「見せしめというのなら零魔法の方が分かりやすいのよねぇ」
「……氷像が残るからね」
でも、あの魔法は伝染するから目撃者を残しにくいのが欠点だ。
◇◆◇
会議は踊る。
「何処の馬鹿だ! あんなバケモノどもにちょっかいを掛けた間抜けは!」
「原因はライドキア王国の王族だ。既に始末されているがな」
「あの大馬鹿共がぁ!」
されど進まず。
「冗談ではないぞ! 国を1日で、いや、魔法1発で滅ぼすような化け物などどうしろというのだ!」
「死者の数は数千万以上だぞ! あの攻撃が我が国に向けられたらと思うと夜も眠れん!」
相手が魔王軍なら対処のしようはあった。
確かに魔王軍は脅威だったし、戦えば大きな被害が出ていただろう。
だが全ての国が力を集結すれば確実に勝てる相手だった。
対して今回の相手は――そんな生ぬるい相手ではないのだ。
「既に1国が滅ぼされた。今まで大人しくしていた相手の逆鱗に触れたということだ。愚かなことだ。眠れる竜は起こさず眠らせておくから安全なのだ。態々起こして逆鱗に触れるなど……正気ではない」
「とにかく、情報が必要だ。証人を連れて来い」
「はっ!」
そうして会議室に連行されて来たのは――隊長と呼ばれていた男だった。
「さて。今回の件の引き金を引いたのは君だったな。どういうことか聞かせてもらおうか」
「…………はい」
項垂れていた隊長は意気消沈したまま頷いた。
「我が国の上層部は、想定が甘すぎた。それに自分達に都合の良いように考えすぎていた。彼らは流石に彼女が……アルメリア様が人類を敵に回してでも抵抗するとは思っていなかったのでしょう。魔封じの首輪を用意してアルメリア様を自分達に都合の良い戦力として利用しようとしていました」
「それが魔法1発で壊滅か。笑えんな」
本当に、誰からも笑い1つ漏れない。
「問題なのは彼女達が何処までやるつもりなのかということだ」
「本気ならもう2~3国は滅ぼされているだろう。つまり、まだ交渉の余地はあるということだ」
「私は……アルメリア様という女性を知っています」
隊長を苦悩するように発言する。
「彼女は……交渉など望んでいない。単純に各国が彼女を恐れて馬鹿なことをしないように釘を刺しているのです」
「……つまり?」
「私は確信している。彼女は交渉役の人間など派遣されて来たら、その者達を皆殺しにした上でその国を滅ぼすでしょう」
「…………」
「そうして誰もちょっかいを掛けて来なくなるまで、それを繰り返すのです」
「…………」
「彼女と交渉がしたいなら勝手にすると良い。次に滅ぼされるのは、その国でしょうから」
「「「…………」」」
会議室はシンッと静まり返る。
「……ドラゴンの方がまだ交渉の余地がありそうだな」
「ははっ。ドラゴンは意図して国を滅ぼしたりしないからな」
「脅威度はドラゴンよりも遥かに上だな」
「それで、どうするのだ?」
「「「…………」」」
再び会議室が静まり返る。
「不干渉を……貫くしかあるまい」
「だが、それで納得するか?」
「納得しない者は……処刑してでも黙らせるしかあるまい」
「国が滅ぶよりマシだな」
交渉の余地のない国を滅ぼす化け物。
アルメリア達は各国に代表者達からそう認識されたのだった。
◇◇◇
国を滅ぼした割に俺達の生活は平和そのものだった。
「あなた、ありがとうございます」
「ん?」
「ハーリット国は長期の戦争状態から解放されましたわ。それに原因だったライドキア王国の王族も居なくなって、これからは平穏に暮らせると思いますわ」
「そうだと良いなぁ」
確かに戦争状態は解除されたが、それで平穏になったのかというと少し疑問だが。
「勿論、分かっていますわ。大変なのは、これからですもの」
だがセイナの方もちゃんと分かっているようだった。
大陸の中で1国家として歩み出すのはこれからで、その道のりは決して平たんな道ではないということに。
「ですが、それはハーリット国の上層部が悩みならが解決していくこと。今は戦争状態が解除されたことを素直に喜ぶべきですわ」
「……そうだな」
まぁ、それはこれから時間を掛けて解決していく問題だ。
俺達が関与することではないだろう。
ちなみに、あのセイナの幼馴染だった少年は拷問を受けて重傷ではあったが生きてはいた。
あの王族を始末する際に見つけたので最低限の治療をした後に諜報課の奴らに引き渡しておいた。
勝手に国外に出たことに加え国にとって重要な秘密を漏らしたことで、これからは平穏な暮らしは待っていないだろうけど……。
「生きていただけで十分ですわ」
セイナは生きていただけ幸運だったと思っているようで、それ以上の感情はないようだ。
やはり幼馴染と言っても幼少期の行動が重要で、良い思い出がなければ好きにはなって貰えないのだと悟った。
「セイナ」
「はい、あなた♡」
俺がセイナを抱きしめると、セイナは身体から力を抜いて身を任せて来た。
そうして俺は今夜もセイナをベッドの上に優しく押し倒すのだった。
◇◇◇
俺や母は確かに世界の敵として認定されたかもしれないが、それはあくまで国の上層部の決定であって一般市民にとっては他人事だ。
つまり村での生活には特に変化がなかったし、街に行っても騒ぎが起きることもない。
敢えて言うなら王都が壊滅したことは噂になっていたが、それもやはり普通に暮らす人々にとっては他人事だったのだ。
「人類絶滅ルートに入らなくてよかったわぁ」
「……そうだね」
母はそんなこと言っているけど、必要となったら――この人はやる。
人類の存続よりも家族の幸せを優先する人なのだ。
伊達に各国の上層部から魔王と呼ばれていない。
「それはお母さんだけじゃなくてアトゥムちゃんも含めての名前でしょ?」
「……認めたくない」
俺が魔王と呼ばれているなんて認めたくない事実だ。
「そもそもハーリットは魔王軍なんて呼ばれているのに、どうして魔王が居ないんだよ」
「魔王軍なんて呼び名は人間が勝手に言い出したことだもの。ハーリットからすれば唯の風評被害よ」
「そうですわね。50年前なら兎も角、今のハーリットの代表は穏やかな方ですし、とても魔王と呼ばれるような方ではありませんわ」
「むぅ」
それで俺が魔王と呼ばれるなんて、やっぱり納得いかない。
「まぁ、その内噂も鎮火するわよ」
「そうかなぁ」
魔王と呼ばれている俺達の話が75日程度で鎮火するとは思えないんだけど。
寧ろ、100年は語り継がれそうだ。
「ところで、アトゥムちゃんの属性レベルは今どんな感じなのかしら?」
「俺? 俺は今……」
・アトゥム
土属性 レベル10★
重属性 レベル8
水属性 レベル10★
清属性 レベル8
木属性 レベル10★
樹属性 レベル8
風属性 レベル10★
音属性 レベル8
氷属性 レベル10★
零属性 レベル6
火属性 レベル9
雷属性 レベル10★
天属性 レベル8
光属性 レベル10★
命属性 レベル7
影属性 レベル8
爆属性 レベル7
「こんな感じだけど」
「なるほど、なるほど。次は火属性がカンストしそうね」
苦手な属性の為、他よりは時間が掛かったがやっとカンスト出来そうなのだ。
「良いわね。零属性みたいなのを期待しているからね♪」
「……うん」
俺としても、あれは殺傷力が高過ぎて物騒だと思うのだが、どうやら母は気に入ったらしい。
まぁ、爆魔法とかクレーターしか残らないしね。
「こういうのをどうにかする時も便利なのよねぇ」
「……そうだね」
俺達の周囲には複数の黒ずくめの者達が氷像となって固まっている。
各国の上層部は表立って俺達と敵対しないことを選んだようだが、裏ではこうして暗殺者を送り込んでくるようになった。
母は家の付近まで来たら排除する方針だが、そうじゃない時は見せしめに氷像にすることを選ぶ。
相手はプロの暗殺者だが、その表情は恐怖と苦悶に満ちており、俺が見てもこうはなりたくないと思う。
(これなら抑止効果もある……かな?)
誰であってもこうはなりたくないだろうけど、プロの暗殺者となれば仕事を断るという選択肢はないのだろう。
「これでは、わたくしはうかうか出歩くことも出来ませんわ」
「そうねぇ。セイナちゃんはもう少し自衛手段を充実させる必要があるかしら」
「頑張りますわ!」
「…………」
俺から見てセイナは既に十分に自衛出来るだけの力はあるが、それでも1人で出歩かせるのは少し不安に感じる。
俺の心の平穏の為にもセイナにはもう少し1人で出歩くのを自重してもらうことにしよう。




