第1話 【トモダチって都市伝説じゃなかったの?】
※プロローグと同時投降です。
気付いたら俺は3歳の幼児になっていた。
「???」
勿論、最初は状況が分からずに混乱したのだが、どうやら俺は記憶を持ったまま生まれ変わってしまったらしい。
でも、よく分からないけどラッキーと思っておこう。
40代で何も挑戦して来なかったことを深く後悔して死んでしまった身としては、こうして若い――若すぎる身体で再出発出来ることを幸運に思う。
(でも、ここは何処だ? 俺は……誰だ?)
しかし、まずは状況の確認が最優先だ。
そもそも俺は確かに生まれ変わったのだと思うのだが、自分が3歳であることを自覚していたし、それなりの自我は今までもあったのだと思う。
そうして、よ~く思い出してみると……。
「あ」
俺個人の意識としては40歳中盤のおっさんとして車に轢かれて死亡して次の瞬間には3歳の幼児になっていたわけだが、それはあくまで俺としての自我が確立したのは今というだけで、その記憶はちゃんと幼児として連続していたことに気付く。
要するに俺は今40代のおっさんの記憶を思い出したというだけで、ちゃんと3歳の幼児としての記憶も持っていたのだ。
(とは言っても3歳の記憶なんて曖昧なもんだけどな)
一応、言葉は覚えて片言ではあるが喋れるようになっていたようだが、まだ文字の方は習得していない。
そうしてじっくりと思い出していくと父親と母親の顔も思い出せるし、なんなら昨夜のやり取りすらも思い出せる。
そうして暗くなった部屋で俺の母親が――掌から光の光球を放ったことを思い出した。
(魔法だ!)
単純に記憶を持ったまま生まれ変わったのかと思っていたが、どうやら魔法のある世界――異世界に転生していたらしい。
(どこのラノベだよ!)
思わず自分の状況に突っ込んでしまったが、そうとしか思えないので仕方ない。
どうやら、この世界では冒険者という職業が一般的に広まっている世界らしく、俺の両親は元冒険者の夫婦だったらしい。
そして父は剣士で母は魔法使いだった。
父が前衛として母を護り、母は魔法で敵を一掃するというのが基本戦術だったらしい。
無論、父には悪いが俺の興味は魔法一択である。
「ママ。魔法を教えて」
「駄目よ」
早速、母に魔法を教わろうとしたが一刀両断された。
「どうして~?」
我ながら舌足らずな喋り方になってしまうが、まだ3歳なので上手く呂律が回らないのだ。
あざとい訳ではなく。
「うぅ~ん。魔法って身体がちゃんと出来ていない子供の内に覚えちゃうのは、とっても危険なの。魔力が暴走して身体が内側からパーンってなっちゃうのよ」
「こわっ」
子供の内に魔力が暴走すると体が内側から破裂する危険性があるらしい。
「だから、10歳までは我慢しましょうね。10歳になってもまだ魔法に興味があるなら……魔法学校に推薦してあげるから」
「魔法学校!」
この世界にはそういうのがあるんだ!
正直、前世の学校には全くいい思い出がなかった。
うん。俺って小学生から高校まで友達の1人も居なくて――ずっとボッチだったのだ。
流石に社会人になってからは会社の同僚と付き合い程度はあったが、あれが友達だとは思えなかった。
友達ってのは休みの日とかに遊びに行くんだよね?
都市伝説じゃなくて?
「そうよ。アトゥムちゃんが良い子にしていたら魔法学校に行かせてあげるからね」
「わかった!」
言い忘れていたが俺の名前はアトゥム。
鉄腕な感じのロボットではなく、ちゃんと人間であるし――そもそも《ゥ》が間に入っているので違う名前だ。
どうして、こんな名前なのかと思ったが、どうやら過去の英雄の名前にあやかって付けられているらしい。
◇◇◇
10歳になるまで暇になってしまった。
とは言え、このまま惰性で過ごすのでは前世の二の舞だ。
だから母に魔法使いになる為にやっておいた方がいいことを聞いてみた。
「そうねぇ~。基本的に魔法使いは精神統一して魔力の制御能力を上げる鍛錬をするのだけど、アトゥムちゃんにはまだ早いかしらね」
「せーしんとーいつ」
とりあえず座禅を組んで集中してみる。
「…………」
まったく分からん。
「あら。凄い魔力ね、アトゥムちゃん」
「そうなの?」
「ええ。もう初級の魔法使いくらいの魔力があるわよ」
「……すごい?」
「凄い……かな?」
どうやらあんまり凄くないらしい。
3歳という年齢にしては魔力が多いらしいが、それはあくまで3歳にしてはという話だ。
「まりょく、よくわからない」
「……その内、分かるようになるわよ」
本当だろうか?
その魔力とやらを俺は全く認識することが出来ていないのだが。
◇◇◇
分からん。
暇さえあれば俺は精神統一しているのだが、その魔力とやらが全く理解出来ない。
母によると、どうやら俺の魔力は日に日に成長しているらしいのだが、その成長が俺には全く実感出来ない。
(本当に成長しているのか?)
単に母が我が子を煽てているだけじゃないのか?
とは言っても指針になるのは母の指摘だけなので俺は今日も精神統一をしているのだが……。
「アトゥムちゃん、偶には外で友達と遊んで来たら?」
「ともだち?」
それって都市伝説じゃなかったのか?
「とりあえず、外で遊んで友達を作って来なさい」
「…………は~い」
とりあえず頷いておいたものの、とてもではないが達成出来る気がしなかった。
俺が住んでいるのは村と町の中間くらいの大きさの村以上町未満の村? だった。
当然、人口はそこそこいるので俺と同年代の子供もそれなりにいるのだが……。
「…………」
俺はそいつらが仲良く遊んでいるのを遠くから眺めていた。
前世でボッチを極めた俺にとって、友達を作るという任務はベリーハードだった。
遠くから眺めているだけでは、とても達成出来る気がしない。
(お母様、どうすれば良いのですか?)
心の中で母に問いかけてみるが、解決しそうにもなかった。
「ママ、ともだちってどうやってつくるの?」
「声を掛ければ良いのよ」
「……もうてんだった」
そうか。友達を作るには声を掛けなければいけないのか。
これも俺にとっては難易度ベリーハードだな。
数日、頑張ってみたが俺は今世でも友達を作るのは諦めた。
◇◇◇
俺が魔力を認識出来るようになったのは6歳になった頃だった。
ひたすら精神統一を行い、自分の中の魔力を探っていたら、やっと魔力らしきものを見つけて――何とか認識出来るようになった。
母に報告すると……。
「あら、頑張ったわね」
「……うん」
どうやら別に俺が特別早いということはないらしい。
というか魔法使いを志す子供なら皆、5歳くらいには出来るようになるものらしい。
つまり、俺は平均よりも遅かったというわけだ。
ともあれ、やっと認識することが出来た自分の魔力を観察してみる。
「…………」
母は年齢の割には魔力が多いと言っていたが、正直――微妙だった。
確かに俺の身体からは魔力が溢れているのだが、同じく認識出来るようになった母の魔力は――静かで安定していた。
(なるほど。次はあれを目指せば良いのか)
ちゃんと制御された魔力というのは静かで安定しているものらしい。
◇◇◇
俺が思いつくようなことなんて、当然のように他の奴も思いつく。
つまり、俺が母の魔力を見て魔力の安定化を目指したのは、とても一般的なことだった。
ちなみに母曰く、そこまでで出来ていれば問題なく魔法学校でも通用するレベルらしい。
逆に言うと、そこまで出来ていないと魔法学校に入学しても全く意味がないらしい。
(そういうことは早く言ってよ)
母は俺の自主性を尊重したのかもしれないが、危うく魔法学校に入学出来なくなるところだった。
「魔法使いになることだけが人生じゃないからねぇ~」
「…………」
母は呑気に言うが、俺はもう挑戦もしない人生は御免だった。
だから是が非でも俺は魔法学校に入学する為に今日も頑張るのだった。
文字通りに年季が違うのだから母の魔力は非常に安定している。
俺も安定を目指してはいるが、流石に母程の安定度に至るまでには相当な年月が掛かりそうだ。
「アトゥムちゃんは頑張っているわよぉ~」
「……うん」
正直、母にはもうちょっとコツみたいなものを教えて欲しいと思う。
魔力なんて1人1人感覚が違うと言われても、それでも何かアドバイスが欲しいところだった。
「母さん、どう?」
ちなみに6歳になった俺は母の呼び方がママから母さんに変化していた。
「良い感じよ」
「……そう」
ちなみに母は毎回同じことしか言わない。
世の中には才能のある子どもには英才教育を施す親もいるというが、母の教育方針は自由奔放らしい。
俺が本気だというなら応援はするが、本当に応援しかしてくれない。
(魔法学校に期待かな)
どうやら母に指導を頼むのは望み薄っぽいので、魔法学校の教育に期待しよう。
◇◇◇
9歳になる頃には俺は魔力を安定化させる為のコツのようなものが掴めていた。
お陰で俺の魔力はシャボン玉のように安定して身体の周囲に纏うことが出来るようになったのだが……。
「まぁ。凄いじゃない、アトゥムちゃん」
「……ありがと」
それでも、やはり母の魔力に比べると安定性という意味では大分劣っている。
「でも母さんのようには出来ない」
「当然でしょう。お母さんが何年魔法使いをしていると思っているの?」
「むぅ」
やはり年季の差は如何ともし難い。
俺が母と同じ安定性に至るには最低でも20年は掛かりそうだった。
まぁ、母は現在、専業主婦なので真面な魔法使いの修行は行っていないかもしれないが、それでも経験の差があることは事実だった。
「たかが数年頑張っただけのアトゥムちゃんに追いつかれたら、お母さん泣いちゃうわ」
「むぅ」
母はまだまだ若いが、それでも9歳の俺の母親なのでそろそろ30歳を目前に控えている。
やはり母を目標にするというのは少々難易度が高過ぎたらしい。
「母さんって普段はどんな修行してるの?」
「そうね~。特に意識はしていないけど、無意識に魔力を循環出来るようになるのが理想ね」
「無意識に……」
つまり専業主婦になった今でも無意識に修行は続けているということだ。
それは勿論、多分に経験による比率が大きい所業であり、魔力を認識して数年の俺に出来ることではない。
きっと現役の頃の母は寝ても醒めても魔法の修行のことで頭がいっぱいだった時期があったのだろう。
結果として無意識に魔力を循環出来る能力を手に入れたわけだ。
「あれはあれで楽しかったけど、魔法のことしか頭になくて……今思えば自分の幸せについて考えていた方が楽しかったわね」
「幸せ……」
母は20歳前後で俺を産んでいるわけで、父と結婚したのは10代の頃だろう。
その頃には冒険者は引退していたわけだし、本格的な魔法使いの修行も止めてしまっていた筈だ。
それは結婚して子供を産むことの方が、魔法使いとして大成するよりも母の幸せだったからだ。
「母さんの知り合いに未だに冒険者を続けている人っているの?」
「いるわよぉ~。潔癖の二つ名を持つ魔法使いで、その名の通りに未だに未婚で頑張っているわね」
「……潔癖」
「魔法使いとしては大成したかもしれないけど、代わりに婚期は逃してしまったから……会う度に愚痴を聞かされるわね。もうすぐ30歳なのに」
「おうふ」
この世界での結婚観は10代後半から20代前半が良いとされており、出来れば20歳前後で子供を生むのが最適とされている。
そういう世界なので30歳で未婚というのは確かに行き遅れということになるのだろう。
「私も危なかったわ。あそこで踏みとどまっておいて良かった」
「…………」
それは恐らく母の無意識の呟きだったのかもしれないが、当時の母にとっては重要な分帰路があったらしい。
その選択の結果として今があるわけで、その時の選択肢によっては母も行き遅れになっていた可能性が高いようだ。
まぁ、実際に潔癖さんは行き遅れているわけだし、母もそうなっていた可能性が高い。
「父さんと結婚出来て良かったね」
「本当にね」
ちなみに父の方も冒険者は引退しており、今は村を守る自警団の隊長のようなことをやって指導などで稼いでいる。
村の中ではそれなりに高給取りな方で、専業主婦の母と俺を養っても十分なくらいの稼ぎがある。
そもそも冒険者時代に稼いだ金があるので生活には困っていないけど。
ついでに言うと俺が魔法使いになりたいと言ったら露骨にガックリしていた。
男の子なら父のような剣士に憧れるのではないかと思っていたらしい。
残念ながら俺は魔法使いに憧れたので父ではなく母に師事してしまったが。
◇◇◇
俺はついに10歳になった。
そして母と共に馬車で魔法学校の入学手続きに向かっていた。
「母さん、魔法学校って近いの?」
「そうねぇ。隣の街だから馬車を使えば……30分くらいで付くと思うわ」
「……近いんだ」
てっきり遠方にあって寮にでも入ることになるのだと思っていたが、それなら家から通うことは可能だった。
「ちなみに歩いて行くと2時間近く掛かるわね」
「馬車でお願いします!」
俺は母に哀願して定期馬車で毎朝通うことになった。
流石に行き帰りだけで毎日4時間はきついっすわ。
それから魔法学校があるという街に辿り着いたわけだが……。
「こんなに近くに、こんな大きな街があったんだ」
「都会よねぇ~。でも住むなら人の少ない村の方がのんびりと生活出来るのよ」
「……なるほど?」
それから母と一緒に魔法学校へと赴き、入学の手続きと入学金の支払いを済ませた。
「結構、人がいるね」
「入学の時期だもの。この子達もアトゥムちゃんと一緒に魔法学校に入学するのよ」
「へぇ~」
そう言えば周囲には俺と同い年くらいの子供が多かった。
「入学するのに試験とかはないの?」
「受付の人だって魔法使いだもの。ちゃんと魔力を認識出来ているから、最低限の基準は満たしていると判断出来るのよ」
「なるほど」
俺は気付かなかったが、どうやら受付の段階で魔力を審査されていたらしい。
そして問題ないと判断されたから入学を許可されたというわけだ。
「アトゥムちゃん、学校が始まったらお小遣いをあげるけど無駄遣いは駄目よ」
「無駄遣い?」
俺は母の言葉にキョトンとする。
「母さん、そういうのは友達がいて初めて成立する遊びだよ。俺には無用の心配さ」
「そ、そうかしら」
自他共にボッチを極めた俺には本当に無用の心配だ。
「きっと魔法学校に通えばお友達が100人出来るわよ」
「魔法学校のクラスって100人もいるの?」
「……30人くらいかしら」
「別のクラスと交流って難易度が高いよねぇ~」
「…………」
ボッチを極めた俺に流石の母もちょっと引いている。
「とりあえず……卒業までに友達を3人作るのを目標にして頑張るよ」
正直、達成出来る気がしない目標を立ててしまったが、それで母を安心させられるなら――ちょっとは頑張ってみようという気に、ならないこともない気がする。
「おかしいわね。お父さんもお母さんも友達は多い方なのに、どうしてこうなってしまったのかしら?」
「…………」
すみません、前世での拗らせが原因です。




