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第15話 【女の買い物って、なんでこんなに長いんだろう?】

 

 今日も不思議な乗り物に乗って目的地まで爆走していると、途中で魔物が出現して襲って来た。


「邪魔よ」


 まぁ、母の雷魔法が直撃して炭化してしまったけど。


「お、お義母様? 今の魔法は一体……」


「唯の雷魔法よ」


「雷……魔法?」


 驚きにセイナは固まってしまったが、俺は乗り物を制御しながらセイナの頭を撫でる。


「雷属性は難しいけど、今度教えてあげるからな」


「はい、お願いします!」


 セイナはコクコクと頷きながら熱意を伝えて来る。


「雷魔法は雷属性がカンストして天属性が出てからが本番なのよねぇ」


「……あんな超広範囲に雷乱舞して何を倒す気なんだ」


 ハッキリ言って天魔法も爆魔法も威力過剰すぎるのだ。


 ドラゴンでも相手にする気なのだろうか?


「ドラゴンは色々種類がいてピンキリなのだけど、近場に居たドラゴンはあんまり強くなかったわねぇ」


「……既に討伐済みでしたか」


 なんということでしょう。


 我が母はドラゴンスレイヤーだったのです。


「空を飛ぶ相手には雷魔法が効きすぎるのよねぇ」


「知らねぇよ」


 そんな常識でしょ、みたいに言われても常識じゃねぇよ。






 そんな話をしながらも乗り物は直進して――途中で雨が降って来た。


「雨って本当に水魔法で弾けるのですね」


 そして雨を弾く水の防護幕を見たセイナが感動している。


「これは簡単な水魔法だよね?」


「そうね。このくらいなら水属性の魔法使いなら誰にでも出来ると思うわ」


「……出来ませんよ」


「「え?」」


 セイナが否定して来たので思わず母と共に注目してしまう。


「知り合いに水属性の魔法使いがいますけど、水を弾く防護壁なんて展開出来ませんわ」


「「こんなに簡単なのに?」」


「……そもそも魔法で防護壁を作るという発想がなかったのだと思いますわ」


「「なるほど」」


 既に俺にとっては常識だが、この世界の人間の発想力では魔法を傘代わりにするという発想が出て来ないのか。


 あくまで魔法は戦闘用という意識が抜けないのだろう。






 快速で走り抜けた結果、夕方には商業国家トワイメイスの首都に辿り着いた。


「それじゃ今日のところは宿に泊まって、明日お買い物に出掛けるとしましょう」


「はい。楽しみですわ」


 やはり女性というのはお買い物が好きなのか、母とセリナは楽しみにしているようだ。


 その日は宿に一泊して明日に備えることにした。




 ◇◇◇




 翌日。


 今日は早速、皆でお出掛けして買い物を楽しむことになった。


「この国は先進国を自称していて、色々な魔法の道具……魔道具が売っているのよ」


 事前に調査していた母の説明を受けながら店を回っていく。


「自称なんだ」


「見てみれば分かるわよ」


 そうして訪れた店の中には……。


「魔力計測計?」


 魔力量を測る計器が販売されていた。


「こんなんで魔力が測れるの?」


「身体の表面から出ている分は、ね」


「……駄目じゃん」


 素人なら兎も角、魔力を制御出来る奴なら身体の表面に出ている魔力は制限出来るので、そんなものは全く参考にならない。


「所詮は自称先進国だからね」


 どうやら魔道具に関してはあまり期待出来ないようだ。


「でも、色々と面白いものが売っているのよねぇ」


 あまり実用的なものは売っていないようだが、それでも面白いと思えるものが売っているようだ。


「わぁ。こんなに小さく出来るんですね」


 セイナはコンパクトに収納出来る野営セットを発見して目を輝かせている。


「わたくし、ハーリットから今の村まで旅をしてきましたけど、野営は荷物が多くて大変だったのですよね。これがあれば楽だったかもしれませんわ」


「うんうん。そうだね」


 内心では影収納があれば不要だと思っていたが、そんな無粋なことは言わなかった。


 セイナが楽しんでいるという事実が重要なのだ、と思う。


「見て見て。こっちは最新の耐熱耐寒ローブですって!」


「そうだね。凄いね」


 父も特に否定はしなかったが、母の魔力制御があれば火魔法や氷魔法を調整して常に適温を保つことなど造作もない。


 勿論、言わなかったけど。


「こっちは最新式の水筒だわ!」


「こっちは新型のテントですよ!」


「「…………」」


 女性陣が楽しそうなので俺と父は黙って見守ることにした。






 女性陣が楽しく買い物するのを見守っていると、ふと魔力計というペンダントが目に留まった。


(魔力計?)


 手に取ってみるとそれは魔力を流すと周囲に波のように拡散していくペンダントだった。


「へぇ~。ソナーみたいなもんか」


 拡散した魔力の波動に反応する場所に魔法使いがいるということだ。


 なかなか面白い商品だと思ったのだが……。


「あれ?」


 商品説明には魔力を拡散するだけの面白グッズと書かれている。


 どうやら発明者が商品の価値に気付いていないらしい。


(なるほど。自称先進国だわ)


 とりあえず俺は母とセイナの分を含めて魔力計を3つ買っておいた。




 ◇◇◇




 それから数日、散々買い漁って満足した母とセイナは影収納に戦利品を収めて帰路についていた。


 初日はセイナも遠慮していたのだが、母に触発されて俺の財布で買い物をすることを覚えたようだ。


(まぁ、良いんだけど)


 どうせ俺の嫁になるのだし、財布の管理をしてもらっても良いし。


 そうして帰路、俺は飛行魔法で乗り物を制御しながらペンダントに魔力を流してソナーを走らせる。


「あら。それは何かしら?」


 それに母が気付く。


「買った。魔力の波長を拡散して魔法使いの位置が分かる魔力計」


「へぇ。お母さんも欲しいわ」


「わ、わたくしも欲しいですわ」


「……どうぞ」


 俺は影収納から取り出した2つのペンダントを2人に渡す。


 買っておいて良かった。


「気が利くわね、アトゥムちゃん」


「ありがとうございます、アトゥム様」


 母は早速ペンダントに魔力を流して拡散させている。


「あら? これ、魔法使いだけじゃなくて魔物の位置も分かるのね」


「へ? あ、本当だ」


 どうやら魔物が体内に持つ魔石にも反応するようで、魔物の位置も分かるようだ。


 拡散する距離は精々半径5キロと言ったところだが十分な索敵距離だろう。


「これは便利ですわ」


 セイナも魔力を拡散させて効果を確かめている。


「アトゥム。お父さんには何かないのかい?」


「……ごめん、忘れてた」


 魔道具って基本的に魔法使い専用なんだよ。


「父さんは何か買わなかったの?」


「……お母さんの買い物が長くて、それどころじゃなかったよ」


「そ、そうなんだ」


 今度、父に何かプレゼントを上げようと思った。




 ◇◇◇




 順調に帰路を消化し、家に帰って来た。


 セイナは楽しそうに買った物の整理をしている。


「~♪」


 セイナは楽しそうだが、お陰に家には一気にセイナの荷物が増えてしまった。


「もう、ここは完全にセイナの家って感じになって来たな」


「はい、そうですわね。実家では、わたくしの荷物って少なかったから嬉しいですわ」


「そうなん?」


 どうやらハーリットでは基本的に農業に従事している者が多数な為、食事は充実しているが嗜好品は貴重だったらしい。




 ◇◆◇




 元々が少数民族だったハーリットは王国という規模ではなく、精々ハーリット国という程度の規模の国になっていた。


 ハーリット国の防衛部隊は今でも精鋭が揃っており、他国の侵略を跳ねのけているが、それは防衛部隊が強さを維持しているからではなく外的要因が理由だった。


 単純に侵略側が惰性で侵略を続けている為、元から防衛部隊を突破出来るとは思っていないのだ。


 だから適当に戦ったら適当に引き上げるだけなので防衛部隊は防衛が出来ているのだ。


 ハッキリ言って今のハーリット軍には50年前の精強さは存在しない。






 現在のハーリット軍、防衛部隊は過酷な訓練によって戦力を維持しているが、50年前に元の不毛の大地に適応していたような生命力の強さは失われていた。


 やはり人間というのは環境に適応する生き物である為、50年も豊かな大地に住めば、その土地に適応してしまうものなのだ。


 今も現地の住人よりは強い生命力を持っているかもしれないが、それはもう殆ど誤差の範囲だ。


 なにより捕虜にした農民と交配して人口を増やした結果、血が薄まってしまったということもある。


 もう今のハーリット国に不毛の大地で生きていけるハングリーさは残っていないのだ。


 それ故、今のハーリット軍の防衛部隊は――層が薄い。


 精鋭なのは第1、第2防衛部隊くらいで、それ以上の防衛部隊は見た目だけの案山子だ。


 だから第1、第2防衛部隊が損害を受ければ補充が出来ずに一気に弱ってしまう。


 それでも防衛部隊が防衛に成功しているのは諜報課の活躍が大きかった。






 諜報課は名前の通り諜報活動によって周辺国にスパイとして潜入して情報を集めるのが仕事なのだが、それに加えてハーリット軍が手に負えないような人材の情報を集めて事前に対処することも大事な仕事だった。


 例を言えば白銀のアルメリア。


 彼女の傍には偶々パーティを組んでいた諜報課の隊員がいたが、彼がアルメリアの夫となることでハーリット国と敵対するという最悪の事態を事前に潰すことが出来た。


 この成果は大きく、本来なら勲章ものの働きだ。


 まぁ、本人としては結婚して尻に敷かれているだけなのだが、そのお陰でハーリット軍はアルメリアと敵対せずに済んだのだ。


 そういう前例があるからこそ、諜報課では精鋭を育てるだけの方針からハニトラ要員を集めるという方針に転換された。


 結果として、それは上手くいき、アルメリアの息子の元に送り込んだ隊員は上手くやって、アルメリアの息子――アトゥムがハーリット軍と敵対する道を事前に潰すことが出来た。


 本人であるセイナはあくまで結婚相手としてお見合いをしただけだが、趣味の魔法も充実しているので幸せな生活を送っている。






「~♪」


 当のセイナは自分の部屋が私物で埋まっていくことに幸せを感じていた。


 ここが明確に自分の部屋なのだということが実感出来たから。


 実家のハーリット国では兄弟が多かったので自分の部屋なんてなかったし、食べ物は充実していたので発育は良くなったが娯楽なんてないに等しかった。


 だから実家で農業をするよりも諜報課に入ったのだが、そこでハニトラ要員として抜擢されてしまった。


(おっぱいが大きかったから……でしょうか?)


 それもあるがハーリット国では珍しく性格が穏やかで美少女だったからだ。


 ハニトラ要員として抜擢されてからは徹底的に磨かれて、完璧な美少女に仕上げられた。


 なにより使命に付いて徹底的にやることを叩きこまれた。


(と言われても、わたくしはアトゥム様に身を任せただけでしたけど)


 諜報課ではアトゥムの性癖までは把握出来なかった為、セイナは生娘の処女のままハニトラ要員として送り込まれた。


 セイナに取って幸運だったのはアトゥムが基本的にボッチで、女の子とどう付き合って良いのか分からなくて手探りだったことだ。


 それはセイナに時間的猶予を与えて、アトゥムがどんな人間なのかを知る時間を得ることが出来た。


 そうして分かったことは、アトゥムは魔法マニアでセイナとは非常に気が合う人間だということだった。


 アトゥムは女の子と話すのは苦手で口下手だったが、魔法の話では盛り上がったし、何よりセイナの容姿や性格は好みに合致していた為に優しく接してくれた。


 そうして2ヵ月も共に暮らしていくことが出来て、ちゃんとセイナはアトゥムという人間を好きになることが出来た。


 あの日、雰囲気に流されたとはいえベッドに押し倒されても身を任せることが出来たのは、その積み重ねがあったからだ。


(こんなことになるなら、お薬なんて拒否しておけば良かったですわ)


 セイナは事前に望まぬ妊娠を避ける為の特殊な薬を飲んでいた。


 それは2年間の間、身体に残留して妊娠を抑制する薬だった。


 あくまでセイナはハニトラ要員であって、初日から身体を求められても拒否出来るような立場ではない。


 セイナはそういう覚悟を持ってお見合いに挑んでいたのだ。


 だから、ちゃんと相手を知る時間を得られたことはセイナにとっても幸運だったし、ちゃんと相手を好きになれたことも幸運だった。


(アトゥム様は……わたくしのおっぱいに夢中ですし)


 実家に居た頃は邪魔でしかなかった大き過ぎるおっぱいだが、こうまで意中の相手を夢中にさせることが出来るというのなら――ちょっとだけ自尊心が満たされた。


 本人としては初めての夜に徹底的な愛撫をされたことではしたない声を上げてしまったことに恥ずかしさを感じていたのだが、アトゥムはセイナに嬌声を上げさせたことを悦んでいて益々夢中になっていた。


 初めての時は勿論、痛かったのだが、事前に愛撫されていたことで十分に濡れていたので我慢出来る痛みだった。


 それから幾度も夜を共にして抱かれて来たが、抱かれる度に声を上げてしまう頻度が高くなっていた。


(だって……気持ち良いんだもの)


 好きになった男に抱かれて、丁寧に愛されて、気持ちよくない訳がない。


「あぁっ♡」


 今夜もはしたない声を上げながら自身の身体に夢中になっているアトゥムを感じて――女としての自尊心が大いに満たされたのだった。




 ◇◇◇




 ハーリット国は思ったよりも大変らしい。


 現在のハーリット国には魔王軍という呼び名に反して圧倒的と言える武力はなく、水面下での諜報活動によってギリギリで支えられている状態だった。


(つっても俺が表立って魔王軍に味方するわけにもいかないしなぁ)


 当たり前だがハーリット国だって一枚岩じゃない。


 俺は確かにセイナを愛しているし、セイナの為なら人間の軍隊を蹴散らすことも吝かではないが――それが誰の思惑なのかということが問題なのだ。


 そもそもセイナは俺がハーリット軍に味方をして人間の軍と戦うことの望んでいるのか?


 勿論、そんな訳がない。


 それを望んでいるのはセイナではなく、ハーリット国のお偉いさんだ。


 それはセイナを使い捨てのハニトラ要員として送り込んだ人物であり、セイナを消耗品としか見ていない奴だ。


 そんな奴の為に働こうとは思えない。


 だから俺は母と同じく基本的には傍観という構えになる。


 こちらにちょっかいを掛けて来たなら容赦はしないが、そうでないなら普通に同棲生活を継続である。


(そろそろ、いいかもな)


 俺とセイナが恋人になって既に数ヶ月。


 俺はもう直ぐ18歳になる。


(いよいよ……プロポーズだ)


 久しぶりに緊張して手足が震える。


 後はタイミングの問題だが……。


「うぅ。アトゥム様ぁ」


「セイナ!?」


 今日は母に呼ばれて出掛けていたセイナが涙目で帰って来た。


「何があった!」


「そ、それが……」


 例え母であってもセイナを泣かすようなことは許さな……。


「お義母様が、わたくしの眼球に針を刺してきて……」


「…………」


 あ。これはあれですわ。


「疑似眼球を作る為に痛みが必要って言われた?」


「うぅ、はい。その疑似眼球は作れるようになったのですが、眼球を針で刺されるのは……怖かったですわ」


「分かる。分かるぞ。俺もやられたから」


「アトゥム様もですか?」


「後で治すって言われてもあれは怖いよな。つい針を目で追っちゃうし、それが迫って来るのは滅茶苦茶怖いし」


「はい。とっても怖かったですわ」


 俺は涙目のセイナを抱きしめて背中を撫でて慰めたのだった。






 だが前衛が出来ない魔法使いにとっては疑似眼球は非常に有用なので、あって損はない。


 セイナは俺と同じくトラウマになったようだが、それでも疑似眼球を作り出して……。


「はれ?」


 3つ目の目にバランス感覚を狂わされてよろめく。


「おっと」


 予想していた俺はセイナを支え、肉眼の両目を手で隠す。


「まずは目を閉じて疑似眼球になれるところから始めよう。人間の眼球って2つでバランスを取っているから3つ目があると混乱しちゃうんだ」


「そ、そうなのですね」


 セイナは目を瞑って疑似眼球の視覚に慣れる訓練を始めた。




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息子嫁の眼球に躊躇なく針を突き刺す姑……
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