第14話 【家族でお出掛けする】
事件なんて唐突に起きるものだ。
だが、今回のこれは唐突に起こったのではなく、正確に言うなら既に起こっていたのだ。
「お久しぶりです、アルメリア様」
唐突に訪ねて来たのは母の知り合いの隊長と呼ばれていた男だった。
「お久しぶりね。今日はどうしたのかしら?」
「実は確認したいことがありまして」
「何かしら?」
「ここから南方200キロの地点に荒野が広がっているのは御存じでしょうか?」
「……シラナイワ」
あ。これはあれですわ。
母が爆魔法の実験に使ったという荒野のことですわ。
「そうですか。そこで唐突に大爆発が起きて、とてつもなく巨大なクレーターが出来ていたのです。我々はその事件について調べていました」
「そう。大変ね~」
凄い。完全にしらばっくれる気だ。
「今回の事件、特に魔王軍の関与がないかを調べているのです。流石に魔王軍の本拠地とは距離が離れていますし関係ないと思いたいのですが、何分相手は魔王軍ですから」
「そうねぇ~。魔王軍の仕業かもしれないわねぇ~」
この母、全く関係ない魔王軍に責任を押し付ける気だ。
まぁ、今更魔王軍の責任になったところで関係性は変わらないだろうし、魔王軍としても文句は言って来ないだろう。
「ちなみにアルメリア様は今回の事件にどのような魔法が使われたと思われますか?」
「そうねぇ。やったのはきっと超天才の凄い魔法使いね! 使われたのは凄い魔法だと思うわよ!」
「…………」
母よ。自画自賛したい気持ちは分からないでもないが、それは自白というものだぞ。
「そ、そうですか。大変参考になりました。ありがとうございます」
「いいえぇ~♪」
隊長は汗をダラダラ流しながら帰っていった。
そうだよね。母がやったと疑っていなきゃ、こんなところまで来ないよね。
しかも母がやったと確信出来たとしても、あんなことをしでかす相手と敵対なんて出来ないからね。
必死に取り繕って知らないふりをするしかないよね。
◇◆◇
「ぶはぁっ!」
隊長と呼ばれていた男は村から離れると、やっと大きく息を吐き出した。
「団長。あれは……」
「言うな!」
同行者は訪ねるが、隊長は強い口調で止める。
「あれが魔法を使って行われたという事実と、その犯人と思われる人物は特定出来たのだ。同時に絶対に敵対出来ないという事実も、な」
「……そうですね」
核爆発に匹敵するような爆発を魔法で起こせる人物と誰が敵対したいと思うだろうか?
下手をすれば――いや、下手をしなくても国が亡ぶ。
「あれが王国に王都に向かって放たれたらと思うと頭が痛い。犠牲者は数百万人か? 数千万人か?」
「冗談抜きで、そのくらいの犠牲者は出そうですね」
彼らは実際に爆心地に行って、その爆発の規模を確認しているのだ。
王都を丸ごと巻き込んで完全に廃墟に出来るレベルの範囲のクレーターを。
あんな魔法が王都に向かって放たれれば王都に居る人間は1人も助からない。
「たった1人の魔法使いに一喜一憂することになるなんて。団長、騎士団の存在意義とはなんなのでしょうか?」
「その魔法使いが機嫌を損ねて暴れ出さないようにご機嫌を取ることだ。敵対したら100%勝てないからな」
「……そうですね」
団員は深く嘆息した。
「そういえば、その魔法使い様の御子息がお見合いをして結婚前提の同棲を始めたそうです。御子息は既にAランクの冒険者ですし、孫までとんでもない魔法使いにならないと良いですね」
「……そうだな」
その結婚前提の嫁候補が今、急速に成長している最中なのだが、それは騎士団が関与する話ではなかった。
◇◇◇
「母さん、流石にやり過ぎだったんじゃない?」
例の隊長が帰った後、俺は母に苦言を呈しておく。
「だって暇だったんだもの。アトゥムちゃんはセイナちゃんとイチャイチャしているし、お母さんを放置するからこうなるのよ」
(面倒臭い彼女か)
息子が嫁候補とイチャイチャしているなら、自分も旦那とイチャイチャしていればいいのに。
「むぅ。やっぱり手塩にかけて育てた息子をお嫁さんに取られるのは複雑なのよ」
「そ、そうですか」
なんとなく思っていたけど、やっぱり子離れ出来ない人になってる。
「でもセイナちゃんも可愛いのよねぇ。息子も可愛いけど娘も欲しかったのよぉ」
「あ、はい」
それを当の息子に相談されても困るんだけど。
「あ、お帰りなさい」
家に帰るとセイナが属性レベル上げの最中だった。
「ただいま」
頑張っているセイナの頭を撫でてから俺はセイナの正面の席に着く。
「お義母様はお元気でしたか?」
「相変わらずだった。元気過ぎる」
「あはは……」
母のことは魔王軍でも有名だったらしく、流石のセイナも乾いた笑いを浮かべている。
それはそれとしてセイナの属性レベルは大分上がって来た。
・セイナ
土属性 レベル9
水属性 レベル6
風属性 レベル5
火属性 レベル4
木属性 レベル6
氷属性 レベル3
「そろそろ土属性がカンストしそうだなぁ」
「そうですね。確か地属性が出るのですよね?」
「……俺は重属性が出たけどな」
「はい?」
「重属性。対象の重さを重くしたり軽くしたり出来る属性だな」
「…………」
「ちなみに重属性と風属性を併用することによって空を飛ぶことも出来る」
「えっと、あの……」
どうやら驚き過ぎてセイナの語彙が消失してしまったらしい。
「ついでに言うと俺はまだ小走り程度の速度しか出せないが、母さんはかなりに速度で飛べるぞ。飛行魔法と言っても良いレベルだな」
「飛行……魔法」
暫く考え込んでいたセイナなのだが……。
「わたくしも空を飛びたいですわ!」
色々な疑問よりも空を飛びたいという願望が勝ったらしい。
「うんうん。それじゃ土属性がカンストしたら重属性が出るようにイメージしておこうな」
「はい!」
セイナは意気揚々と頷いたのだった。
◇◇◇
その日、俺がちょっとした用事で家を空けてから家に戻ると……。
「それで、同棲生活はどんな感じかしら? アトゥムちゃんはどんな感じ?」
「あ、はい。アトゥム様はとっても頼りになりますわ、お義母様」
何故か家には母が来ていてセイナとお喋りしていた。
俺は思わず咄嗟に隠れてしまったのだが、この母、何をしに来たんだ?
「違う、違う。聞きたいのは……夜の生活の話よ。あの子はちゃんと優しくしてくれる?」
「えっと、その……はい」
唐突に下世話は話を始めた母にセイナは頬を赤く染めながらも頷く。
「やっぱり、おっぱいに夢中な感じかしら? セイナちゃんは私より大きいものねぇ」
「そ、そう……ですね。アトゥム様は……おっぱいが大好きですから。毎回、わたくしのおっぱいに夢中になってくれて……」
(~~~っ!)
俺は隠れたまま頭を抱えてしゃがみ込む。
何の話をしてるんだ!
男がおっぱいが好きで何が悪いんだ!
あの素晴らしいセイナのおっぱいを前にしたら夢中になるのが当然だろ!
「それで毎回おっぱいを弄りまわされてアンアン言っているんだ?」
「は、はい。気付いたら声を我慢出来なくなっていて、わたくしったらはしたない声を……」
「まぁ♪」
良いじゃねぁかよ!
可愛い恋人がエッチな声を上げている姿を見て興奮するなんて当り前じゃねぇかよ!
俺は夜はエッチなセイナが見たいんだよ!
「くす。真っ赤になって可愛いわねぇ。やっぱり息子も良いけど娘も良いわねぇ」
「あ、ありがとうございます、お義母様」
「ねぇ、そこに隠れているアトゥムちゃんもそう思うわよね?」
「え?」
「気付いていたなら言えよな!」
「あ」
俺が姿を現すとセイナは真っ赤になり、恥ずかしそうに顔を逸らした。
「くすくすくす」
「……何しに来たんだよ、母さん」
本当に何しに来たんだ、この母。
「セイナちゃんと2人でお話したかったのもあるけど、どうせなら皆で一緒にお出掛けしないかと思って誘いに来たのよ」
「お出掛け?」
近くの街にでも出掛けるのだろうか?
「目的は商業国家と言われるトワイメイスよ。あの国には色々なものが売っているらしいからねぇ」
「……国をまたいで買い物に行くのかよ」
なんか壮大な旅行計画を聞かされたんですけど。
「そんなに遠いなら移動だけで数週間は掛かるぞ」
「そこは私達の飛行魔法を応用すれば、何か乗り物でも作れないかしら? アトゥムちゃん、何か考えて頂戴」
「……無茶ぶり」
「今日もセイナちゃんのおっぱいに埋もれながら考えておいてねぇ~」
「……余計なお世話だよ」
でも今夜もセイナのおっぱいには埋もれる予定だけど。
夜。
俺は事後、セイナのおっぱいに埋もれながら考えた。
(あぁ~、セイナのおっぱい気持ち良い……じゃなくて)
おっぱいに埋もれながら考え事っておっぱいのことしか考えられないんですけど?
乗り物なんて適当な車輪の付いた物を重魔法で軽くして風魔法を推進力にすれば良いだけじゃね?
(もうこれで良いかな)
そう思って俺は安らかに眠るセイナのおっぱいに顔を埋めたまま眠りに就いた。
◇◇◇
翌日。
俺は適当な箱に車輪を付けて、それに乗ってみた。
重魔法で軽くして風魔法で推進力にして出発。
「おぉ~」
基本は低空飛行で地面スレスレを浮いているが、偶に地面に接触するので車輪が支えになってくれる。
意外なことだが制御がしやすいので、これなら俺でも40~50キロくらいのスピードが出せそうだった。
「もう、これでいいじゃね?」
「悪くないけど、もうちょっと乗り心地が良さそうなスペースが欲しいわね」
「……いつから見てたの?」
いつの間にかいた母に尋ねる。
「アトゥムちゃんが頑張っていたから見守っていたのよ。ねぇ?」
「あ、はい。素敵でした」
いつの間にかセイナまでいるし。
どうやら母の音魔法で隠密していたらしい。
「音魔法だけじゃなくて影魔法も併用して隠れていたのよ」
「また無駄に高度なことを」
俺は呆れながらもリクエスト通りに座るスペースにリラックス出来る椅子を設置してみる。
流石にリクライニングチェアとはいかないが、座っても疲れない程度の椅子には仕上げておかないと。
「そうよねぇ。セイナちゃんの柔らかいお尻に傷が付いたら大変ですものねぇ」
「……そうだよ」
まず思いついたのはセイナの柔らかいお尻を保護しなくてはならないということだったが、どうして母に見破られているんだか。
セイナはおっぱいも素晴らしいが、お尻も柔らかくて触り心地が最高なのだ。
◇◇◇
3日程で移動用の乗り物を完成した。
動力なんて付いていないし、俺と母の魔法を頼りに動く乗り物だが、重要なのはセイナが座ってもお尻に負担がないという点だ。
「あ、凄く柔らかいですわ」
「お見事ね、アトゥムちゃん」
「こんなの良く作ったなぁ」
こうして4人で乗り込んでも問題はなさそうだ。
「それじゃ俺は左側を担当するから、母さんは右をお願いね」
「分かったわ」
そうして俺と母は同時に重魔法を行使して乗り物の重さを軽減、後に風魔法を推進力にして発進した。
「へぇ~。結構スピードが出るんだなぁ」
父は意外な速度に感心していたが……。
「あ、アトゥム様、速過ぎませんか?」
セイナにとっては未知の速度で不安になったらしい。
「この程度の速度なら完璧に制御出来ているから問題ないぞぉ」
「風魔法で風壁も張ってあるから風圧も感じないしねぇ」
「最初の時、飛行魔法で風壁を忘れて大変なことになったからなぁ」
「懐かしいわねぇ」
あの時は大変だった。
錐もみしながら地面に落下して、母が助けてくれなかったら大怪我しているところだった。
「ところでこれ、屋根とかないけど雨が降ったらどうするんだい?」
「え? 普通に水魔法で遮断するから問題ないけど?」
「そうよねぇ」
雨も風も魔法があれば問題ないのである。
「こういう母子だから、常識だけは忘れないようにね」
「はい、お義父様」
何故か父とセイナは頷きあっていた。
この乗り物、正確には地面を走っているわけではなく浮いているので道を無視して直線距離を移動出来る。
だから目的地までの道のりを爆走していた。
そうして時速60キロ程で数時間ほど突き進んだ結果……。
「今日は、この辺りで良いかしら?」
「そうだね」
大体、目的地までの中間地点まで進んだので、今日はここで野営をすることになった。
「ここで野営をするのですか? わたくし、荷物を用意していなかったのですが、どうすれば良いのでしょう?」
「大丈夫よぉ~」
母は笑顔でそう言って――影収納から荷物を取り出した。
「泊まる場所も作っちゃうね」
俺は俺で土魔法で簡易的な家を作り出す。
そうして4人で家に入って台所で料理を作り夕食を食べた。
「あれ? この家って、わたくしの実家よりも広くて快適なのですが……」
「考えたら負けだよ」
途中、セイナが何かを思いついたが、父がフォローしたので事なきを得た。
そうして2組に分かれて就寝することになったのだが……。
「セイナ」
「あ、駄目ですわ。今、この家にはお義父様とお義母様が……あぁっ」
俺はふかふかのベッドで情熱的なキスをしながらセイナを押し倒した。
セイナが抵抗してきたのは、とても短時間だった。
◇◇◇
翌朝。
(にやにや)
「…………」
朝食の席にはニヤニヤする母と、真っ赤な顔で必死に顔を逸らしているセイナがいた。
「まぁ、アトゥムも若いからな」
そして何故か父が理解を示していた。
「普通なら野営ですることじゃないんだが、この家の環境だからなぁ」
家は俺の土魔法で作ったし、見張りは疑似眼球が担当している。
「それじゃ出発しましょうか」
「そうだね。家を崩すよ」
俺は土魔法で作った家を解体して地面に戻した。
「あぁ。勿体ないですわ」
その際に何故かセイナが嘆いていたが、今のセイナなら同じことが出来そうだと告げると凄くやる気になっていた。
後は影収納で家具を常備しておいたり、清魔法で綺麗な水を出せると生活感が増す。
「うん。そこまでいくともう野営じゃないね」
父が呆れていたが、家は快適な方が良いに決まっている。
「そうよね。快適な方が良いわよね」
「うんうん。魔法で快適に出来るなら快適にするべきだよね」
「あはは……」
俺と母は快適派だったが、何故かセイナは乾いた笑いを漏らしていた。
そうして再び乗り物を影収納から取り出して出発した。
この感じなら今日中には目的地に着くかな?




