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第12話 【嫁候補の魔法授業】

 

 魔王軍のサーリセイナとのお見合いが始まった。


 始まったのだが……。


「…………」


「…………」


 俺もサーリセイナも沈黙したまま見つめ合っているだけで、本当のお見合い状態だ。


 考えてみれば当たり前の話だが、ボッチの俺に初対面の女の子とスムーズに話せるようなコミュニケーション能力があるわけないのだ。


「えっと、その……御趣味は?」


「アトゥム」


「アトゥムちゃん」


 仕方なく定番の趣味を聞いたら両親から残念なものを見るような視線が飛んで来る。


 仕方ないだろう!


 他に話題が思いつかなかったんだよ。


「その、わたくしは魔法について興味があって……」


「ほぉ」


 しかしサーリセイナの答えに俺は目を輝かせる。


 確かに俺はボッチかもしれないが、同時に魔法オタクでもあるのだ。


 そしてオタクとは自分の専門に関してはとっても詳しいのだ。


「ちなみに得意属性とかは?」


「あ、はい。わたくしは……土属性が得意属性になりますわ」


「ほぉ」


 まさか得意属性まで一緒とは。


「今のレベルはおいくつで?」


「……まだ6です」


「ほぉ」


「頑張ってはいるのですが、ハーリットでも土属性は不遇属性と言われているので、あまり有用なレベル上げが出来ないのです」


「それなら、こういうのはどうかな?」


 俺は自分の掌の上に土属性の魔力の塊を出して、それをクルクルと回して見せる。


「まぁ、アトゥム様はとても器用なのですね」


「属性のレベル上げにはこれが1番だよ。同時に魔力制御も鍛えられるし」


「ほぉ」


「……なるほど」


 俺はサーリセイナに説明したつもりだったのだが、近くで聞いていた老人と女性が興味深そうに自分の掌に魔力の塊を作り出して不器用に回転させ始めた。


「えっと、えっと……」


 サーリセイナもモタモタと魔力を掌の上に作り出し、それをのろのろと回転させ始める。


「最初はゆっくりでいいよ」


 俺は魔力を回転させるサーリセイナの手を取って魔力制御の補助をして手助けをする。


「あ」


 俺が魔力の動きをサポートしているからか、サーリセイナの掌で土の魔力がゆっくりとではあるが綺麗な円運動で回転を始める。


「アトゥム様、凄いですわ!」


「サーリセイナも筋は悪くないよ」


「わ、わたくしのことはセイナとお呼びください。近しい者はそう呼ぶので」


「お、おう。わかったよ、セイナ」


「ほほぉ」


「頑張って、アトゥムちゃん」


 俺とセイナが良い雰囲気になったのを悟って両親から声援が入る。


 普通に邪魔だから黙っていてくれないかな。






 そうして属性のレベル上げをしながら話をしていたのだが、気が付けば日が暮れ始める時間になっていた。


「それでは我々はこれで失礼するとしよう」


「……失礼する」


 その時点で老人と女性は帰り支度を始めていたのだが……。


「あれ? セイナは?」


「…………」


 セイナだけは何故か居座っており、帰る準備をしていない。


「何を言っておる。彼女は貴公が魔王軍と敵対しない為のストッパーとしてここに来ているのだぞ。便宜上、お見合いと言っていたが、彼女は今日からここに住むことになっておる」


「え? そうなの?」


 まさかの出会って初日に同棲である。


「そういう約束だったからな」


「良い子が来てくれて嬉しいわ♪」


「おうふ」


 まさかいきなり同棲とは思っていなかったが、既に両親は了承済みだった。


「そ、その、不束者ではありますが、よろしくお願い致します」


「は、はい。こちらこそ、よろしく」


 こうしてセイナは俺の家に住むことになったのだった。


「言っておくが、まだ同居の段階だからな。いきなり手を出そうとするなよ」


「あ、はい」


 女性にギロリと睨まれて、まだ夫婦どころか恋人ですらないのだと思い知った。


 とりあえずセイナを仲良くなって普通に会話が出来るようになることを目的にすることになった。




 ◇◇◇




 セイナが我が家に来てから1週間が経過した。


 セイナは本当に良い子だったのだが、やはりまだ気を使っている時期の為かお客様という雰囲気は崩せていない。


 実際にセイナも気を張っている状態だし、もう少しリラックス出来る方法を考えたのだが……。


「つまり村の中で家を借りて結婚前提の同棲をしたいと?」


 そこで俺は今の家を出て村に新しい家を用意する案を提案してみた。


「急に同棲になった上に相手方の両親と同居って二重に緊張するんじゃないかと思って」


「……2人っきりになって我慢出来るのかい?」


「自慢じゃないが俺にセイナに手を出せるほどの度胸はまだない」


「本当に自慢じゃないわね」


 とりあえず今はセイナに少しでもリラックス出来る環境を用意するのが先決だと思った次第。


「ちなみに言っておくけど、この村に同行して来た2人はまだ村に滞在していて監視も続けているからね」


「……知ってる」


 あの老人と女性の姿は俺の疑似眼球でも確認済みだ。


「この監視の視線も緊張を強いる要素の1つだよな」


「ちゃんとアトゥムちゃんに気に入られてストッパーになれるかどうかは魔王軍にとっても重要な話だからね」


「…………」


 多分それだけではなく、俺の強さの秘密の一端でも探ってくるように言われているのだろう。


 だから、まだ合成属性はセイナに見せることなく、普通に属性のレベル上げを手伝っている段階だった。






 そうして村の中に俺とセイナの家を確保することになったのだが……。


「あの、生活費とかは大丈夫なのでしょうか? わたくし、あまり手持ちがないのですが」


「大丈夫、大丈夫。こう見えても俺はAランクの冒険者だから。稼ぎもそれなりにあるし、数年は遊んで暮らせるだけの蓄えもあるから」


「まぁ、そうなのですね」


 実際、俺の資金は潤沢だし、両親に魔法学校の授業料を返済したがまだまだ余裕がある。


 というかオークロードの討伐金は普通に家を一軒買える金額だった。


 今は借りるだけなので全く問題なかった。


 そうして俺とセイナは2人で暮らすことになった。




 ◇◇◇




 流石に最初の夜は緊張して眠れなかったが、それから1週間も経てば少しは慣れて来る。


 セイナは掃除、洗濯、料理とほぼ完璧だったし、俺も母に仕込まれているので全く生活は問題なかった。


 それに俺の両親に気を使わなくて良くなってことでセイナの重圧は少しだけ軽くなったのか、セイナに自然な笑顔が増えた。


「…………」


 まだ監視はいるみたいだけど。


「セイナ」


「!」


 俺は勇気を出してセイナを抱きしめるとセイナは緊張で身を固くしたが……。


「大丈夫だ。俺はセイナの敵じゃない」


「あ」


 俺が優しく背中を撫でるとセイナはゆっくりと力を抜いていった。


 俺はボッチだが、流石にセイナとスキンシップを取った方がいいというのは分かるし、もっと親しくなるまでは手を出してはいけないということも分かる。


 そしてセイナの目的は俺と親しくなってストッパーになること。


 その為にも俺の抱擁は受け入れるべきで、そういう理性が働いていることも――今はそれで良いと思う。


 俺がちゃんとセイナを好きになると同時に、セイナにも俺を好きになってもらわなければいけないのだから。


 その為にも、こういうスキンシップは大事なのだと思う。


 ボッチだからなんとなくそう思うだけだが。


(というかボッチという言い訳もそろそろ禁止だな)


 俺は他人とコミュニケーションを取らないことをボッチだからと自分に言い訳していたが、そろそろそれも打ち止めにしなくては。


 ちゃんとセイナと向かうことにボッチだからなんて言い訳は通用しないし――邪魔なだけだ。


「…………」


 それにしても――セイナは本当におっぱいが大きい。


 こうして抱き締めているだけで俺に柔らかい感触が当たって、とても気持ち良いです。


「……そろそろ寝ようか」


「あ、はい」


 セイナは俺の欲望に気付いたかもしれないが、まだ――もうちょっと早い。




 ◇◇◇




 セイナの魔法が趣味という言葉は真実だったらしく、俺が教えたレベル上げを行った結果、セイナの土属性のレベルは急速に上がり始めた。


「凄いですわ! もうレベル8になってしまいました」


 土属性のレベルが上がったセイナははしゃいでいたが、俺としてはそろそろ次のステップに進みたいところだ。


「よく頑張ったな。だが、そろそろレベルが上がりにくくなって来た頃だろう。息抜きに他の属性のレベルを上げてみないか?」


「え? ですが成長限界があるので一極集中で上げる方が正しいのでは?」


 どうやら魔王軍――ハーリットでも成長限界の話は出ているらしい。


「まぁ、息抜きだから。試しに水属性の訓練をしてみないか?」


「そう……ですわね」


 セイナは言われた通り、水属性のレベルを上げる為に試行錯誤し始めた。


 よしよし。


 これで監視さえいなくなればセイナに木属性を教えて上げることが出来るぞ。




 ◇◇◇




 どうやらセイナは俺と同じく土4、水3、風2、火1という割合の魔力を持っているらしく、水属性は比較的早く習得することが出来たが、風属性や火属性は苦手のようだった。


 だが、俺がセイナの手を取って補助してやると風属性や火属性も何とか習得することが出来ていた。


「…………」


 最初は緊張していたセイナだが、最近はこうして手を繋ぐことにも慣れて来たようで緊張は薄れているようだ。


 偶にしているスキンシップの抱擁も最近は安心して身を任せてくれるようになった。


 そしてセイナと一緒に暮らし始めてから2ヵ月程。


 今日は雰囲気も良く、俺もセイナも良い感じに気分が昂っている気がする。


 そうして、ふとセイナに視線を向けるとばっちり視線を絡み合い……。


「セイナ」


「アトゥム様」


 お互いの名前を呼びながら顔を近付けていき、やがて唇が重なった。


 後はもう雰囲気に流されるまま俺はセイナを抱きしめて、そのままベッドの上に優しく押し倒していった。






 事後。


 俺は裸のセイナを抱きしめながら1人で反省会を行っていた。


 俺にとってもセイナにとっても初めての経験だったが、その行為が上手く出来たのかは――自信がない。


 だが、それは今は重要ではない。


 問題は俺とセイナが一線を越えて、それを監視している奴らも察知していたことだ。


 正直、俺はセイナの素晴らしいプロポーションの身体に夢中になっていたが、それでも事後になって監視の視線が消えていることには気付いていた。


 どうやら監視は俺とセイナがちゃんと一線を超えるかどうかを確認するまで行われる予定だったらしい。


 そして無事に一線を越えたことを確認して――監視は引き上げていったようだ。


(傍迷惑な出歯亀どもだ)


 これでセイナに合成属性を教えることが出来るし、恋人や夫婦になることにも支障はなくなった。


 とりあえず今はセイナの素晴らしい身体を抱きしめて、その感触を楽しむことにした。




 ◇◇◇




 翌日。


 俺が目を覚ますと……。


「お、おはよう……ございます」


 先に目を覚ましていたセイナが毛布で裸の身体を隠しながら顔だけを出して、恥ずかしそうに挨拶をして来た。


 なにこのかわいいいきもの。


「おはよ」


 俺は猛烈に萌えながら、毛布事セイナを抱きしめて挨拶を返したのだった。






「おめでとう、アトゥムちゃん♪」


「…………」


 久々に実家に寄ったら開口一番に母に祝福された。


「母さんも出歯亀?」


「まさか。監視が引き上げたみたいだから、そういうことだろうと思っただけよ」


「……知ってたんだ」


「監視の目的を考えれば、ね」


 なんとも下世話な話だが、俺とセイナが一定以上に親しくなったと判断したのかねぇ。


「はぁ。まさか、この歳で孫の顔を見ることになるとは思っていなかったわ」


「いや、まだ出来てないから」


「時間の問題でしょう?」


「…………」


 俺もそう思うので視線を逸らす。


「今日寄ったのは、そろそろセイナに合成を教えようと思うんだけど、どうかな?」


「良いと思うわ。監視も引き上げたみたいだから秘密が漏れる心配もないしね」


「やっぱそこなんだ」


 まぁ、俺も監視が引き上げたことで秘密を共有する気になったんだけど。


「それじゃ帰ってセイナを仕上げちゃうね」


「ええ、楽しみね」


「…………」


 とりあえずセイナが何処まで行けるかどうかは彼女次第だ。






「あ。おかえりなさい」


 家に戻るとセイナが照れながらも挨拶してくれる。


「ただいま」


 俺は挨拶を返しながらセイナを正面から抱きしめる。


「……まだ恥ずかしいですわ」


「……そうだな」


 これから秘密を共有するわけだが、その前に――そろそろ、ちゃんと伝えておかなければいけない。


 こういうのはなぁなぁにしてしまうと後々に大変なことになると前世の書物で学んだ。


 だから俺はセイナと正面から向き合いながら……。


「セイナ、好きだよ。愛している」


「あ」


 愛の告白をすると、セイナの顔が真っ赤になった。


 胸部装甲は立派だが、セイナはまだ16歳らしく、色々なところが未成熟なのだ。


「嬉しいですわ♡ わたくしもアトゥム様のことをお慕いしております」


「ありがとう。それじゃ今日から俺達は……恋人だな」


「はい♡」


 まだセイナは仕事の面が強いかもしれないが、そこは俺が頑張って口説いて行くしかない。


「それで、折角恋人になったんだから、そろそろ秘密の1つでも共有しようと思うんだけど、良いかな?」


「秘密、ですか?」


「魔法の面白い使い方、とかね」


「はぁ」


 唐突に魔法の話に移ったのでセイナは困惑している。


「よろしいのですか? 恐らく、わたくし達は監視されていると思うのですが」


「ああ、それなら昨夜の内に引き上げたよ」


「…………え?」


 セイナは監視が付いていることには知っていたようだが、それが昨夜の時点で引き揚げたことは知らなかったようだ。


「その、俺達がそういう関係になったから、これ以上の監視は必要ないと判断したみたいだ」


「さ、昨夜のアレですか」


 またセイナの顔が赤く染まる。


「つ、つまり、アレも見られていわけでか?」


「基本的に毛布の中だったけど、何をしていたかは把握されていたと思う。途中で視線が消えたから最後までは見られていなかったと思うし」


「~~~っ!」


 セイナの顔が羞恥に染まって益々赤くなる。


「落ち着け、落ち着け」


 俺はセイナを抱きしめて背中を撫でて宥める。


「はふぅ。はふぅ」


 セイナは深呼吸をして、なんとか気持ちを落ち着けようとしていた。


 そうして暫くは俺に抱き締められたまま深呼吸を繰り返していたのだが……。


「あれ? ということは監視が引き上げたから秘密を共有することになったのですか?」


「……そういう一面もあるな」


「ひょっとして、その秘密というのは重要度の高い秘密なのでしょうか?」


「まぁまぁ高いかな」


 話を上の方に持っていけば緊急会議が開かれるくらいには。


「わたくしは諜報課に所属していると言っても、殆ど所属しているだけという立場でした。今回のお話も偶々条件に一致しただけで、わたくし自身が優秀ということではありませんでしたわ」


「ん?」


 唐突に語り出したセイナに困惑する。


「そんなわたくしに秘密を話してもよろしいもですか?」


「まだセイナとは一緒に住み始めて2ヵ月程度だが、俺はセイナに俺のお嫁さんになって欲しいと思っているからな。その為には秘密はない方がいい」


「アトゥム様」


 なんかセイナが凄く感動しているような気がする。


「わたくし、軍の人達にも秘密は洩らしませんわ」


「……ありがとう」


 俺は再びセイナを抱きしめたのだった。





※ここでいうボッチを脱却するとは、友達が出来てボッチでなくなるということではなく、ボッチであることを言い訳にしないことです。

この時点で友達は出来ていないですが、アトゥムはボッチから脱却完了です。

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