第11話 【魔王軍のお見合い相手】
母によって衝撃の事実を聞かされてしまった。
なんと父は魔王軍の諜報員だったらしい。
「ど、どういうこと?」
「魔王軍は基本的には専守防衛の構えだけど、防衛しているだけじゃなくて諜報にも力を入れているのよ。だから多くの人員が各国に諜報員として入り込んでいた訳」
「なるほど?」
「そして、その1人がお父さんだったのよ」
「おうふ」
ということは俺は人間の母と魔王軍の父との間に生まれたハーフだったわけか。
「まぁ、魔王軍と言っても魔物の血が入っている魔族とかではなくて、単に過酷な大地で生きる為に最適化した結果、人間より少しだけ頑丈になっただけなのよ。ちゃんと人間と子供を作れることも証明されているしね」
「そうですねぇ~」
俺が生きた証ですよね。
「というか母さんって、どうやって父さんと知り合ったの?」
「聞きたい!?」
ズイッと俺に迫って来る母。
あ。これはノロケを聞かされる予感。
「お父さんは魔王軍と言っても、こっちの大陸の生まれだから不毛の大地なんて実際には見たこともないらしいんだけど、それでも魔王軍の諜報員として過酷な訓練を受けていたらしいのよ。お陰で前衛として、とても頼りになったんだけどね」
「……それで?」
「お父さんは、この国で諜報員として活動しながら冒険者をしながら過ごしていたのよ。現地の人間として溶け込むなら冒険者になってしまうのが1番だからね」
「まぁ、そうだね」
「そうして冒険者として活躍していたお父さんは、同じく冒険者をしていたお母さんと運命の出会いをして結ばれたのよ」
「……端折り過ぎ」
まぁ、冒険者としてパーティを組んで仲良くなったのだろうなぁ、というのは分かるけど。
「というか父さんって魔王軍の諜報員なんだよね? 母さんと結婚して普通に生活しているけど、仕事はしなくても良いの?」
「何を言っているんだ、アトゥム」
一緒に話を聞いていた父が呆れたように俺を見る。
「お父さんは魔王軍にとって最重要の仕事をしているんだぞ」
「そうなの?」
「ああ。お母さんが魔王軍と敵対しないように頑張っているんだぞ」
「あぁ~」
そうだね。母が魔王軍と敵対なんてした日には、魔王軍だって手に負えなくなるもんね。
「特に今のお母さんはアトゥムのお陰で魔法のレパートリーが増えて……今のお母さんが魔王軍と敵対したりしたら、あっという間に壊滅してしまうからな」
「そ、そうだね」
確かに父は魔王軍にとって重要な仕事をしていたよ。
「それで、ここからが大事な話なんだが……」
「ん? まだ何かあるの?」
「ああ。お父さんはお母さんのストッパーにはなれるんだが、アトゥムのストッパーにはなれないんだ」
「???」
「自覚はないかもしれないが、アトゥムも十分に魔王軍にとっては脅威になりうる力を持っているからな。その力が魔王軍に向かないようにストッパーを付けたいんだ」
「つまり?」
「アトゥムにお見合いの話が来ているんだ」
「ほぉ!」
俺もそろそろお嫁さんが欲しいと思っていたので興味津々に話を聞く態勢になる。
「それで聞きたいんだが、アトゥムはどんな女の子が好みなんだい?」
「おっぱいの大きい子が好みです!」
「…………」
父は沈黙した。
いや、だって大きい子が好きなんだもん。
「くす。やっぱりお父さんの子ねぇ」
母は笑いながら自前の大きなおっぱいを揺らしていたけど、母のおっぱいには興味ないです。
「こほん。まぁ、それも重要だけど、性格とか、そういうのはどうなんだ? お母さんみたいな子が好みとか」
「それはない」
母みたいな子はノーセンキューである。
「どういう意味かしら?」
「いひゃひゃひゃひゃ!」
久しぶりに母のアイアンクローを喰らって俺は悲鳴を上げた。
ともあれ、俺はおっとりな感じの巨乳美女が良いと父に伝えておいた。
これでいずれ魔王軍から俺のお嫁さん候補がやって来て、俺と顔合わせをすることになるだろう。
「うへへ。楽しみだなぁ」
「……やっぱりアトゥムも偏見とかないんだな」
父は呆れていたけど。
「相手が巨乳美女なら魔王軍だろうと気にしません!」
「そ、そうか」
父は深く嘆息していたけど、幸せな未来を妄想する俺には届かなかった。
◇◇◇
今日も今日とて属性のレベルを上げる俺は、そろそろ17歳になる。
「むぅ。お母さんがお父さんと出会って結婚したのは18歳の頃だったのに、アトゥムちゃんは17歳でお見合いなのね」
「ふふん。悪いね、母さん」
「…………」
「いひゃい!」
ちょっとだけ優越感を出したら頬を抓られた。
まぁ、お見合いしたからと言って結婚までいくとは限らないんだけど。
「それより、お見合いっていつ頃になるのかな?」
「お父さんが今、極秘の連絡手段でやり取りをしているから、それで話が纏まったらかしらね」
「……時間掛かりそう」
話に聞く魔王軍の領土は国をまたいだ先だ。
連絡手段が手紙しかないならそれなりに時間が掛かるだろう。
それまで少しでも属性のレベルを上げておこうかな。
「よっと」
俺は練習がてら影空間に飛び込んで、部屋の中の別の影に移動して飛び出す。
母によって影移動と命名されたこれは大分慣れて来た。
「ほいっと」
次いで適当な小物を影の中に放り込む。
これも母によって影収納と命名され、それも大分使えるようになって来た。
「影魔法は移動や収納に便利だけど、意外と攻撃にも使えるのよねぇ」
そう言って母は自分の影から複数の影の槍を出して見せる。
「目視出来る影があるなら何処からでも出せるから、これは不意打ちにピッタリよ」
「おうふ」
なんて暗殺向きの魔法なんだろう。
しかも影に潜りながら使えるから正体がバレる心配もない。
俺も母の真似をしてやってみるが、俺は影の槍を1本か2本しか出せなかった。
「難しいよ、母さん」
「練習あるのみね」
まだまだ母の域は遠そうだ。
◇◇◇
どうやら父は魔王軍・諜報課の第1分隊というところに所属していたらしい。
「それって凄いの?」
「一応第1分隊はエリートという扱いだったんだぞ」
「へぇ~」
それで母のパーティでも活躍出来たんだ。
「というか母さんって、どんな冒険者だったの?」
「「…………」」
何気なく尋ねたら父と母は同時に沈黙した。
「え? あれ? どうしたの?」
「アトゥム。世の中にはな、知らない方が幸せなこともあるんだぞ」
「ア……ハイ、ゴメンナサイ。モウキキマセン」
どうやら冒険者時代の母は相当やんちゃをしていたようだ。
「あれ? でも悪意はなかったんだよね?」
「そうだね。悪意はなかったんだ。悪意は」
「…………」
うん。本当にこれ以上は聞かない方が良さそうだ。
魔王軍には本当にいくつもの部隊が存在するそうだ。
メインとなるのは当然のように防衛部隊で、第1~第9まで存在し、それぞれに百人単位の兵が配属されており、その全てが冒険で言うAランクに匹敵する力を持っている。
それに加えて父の所属していた諜報課のように外部に派遣されて諜報活動をメインにしている部隊も存在し、各国の状況を把握することに努めている。
ちなみに諜報課で外に出ている者の大半は冒険者として活動しており、その全てがAランクからBランクになっているそうだ。
「冒険者なら誰でもなれるしね」
「それもあるが、外で生活していくには稼がないといけなかったからな」
「ああ、それもあるか」
魔王軍の貨幣がどうなっているのかは知らないが、普通に外で生活しようと思ったら金が必要になる。
その為の手段として冒険者は都合が良かったわけだ。
「というか寿命の違いとかはないの?」
「ん? 別に魔王軍に所属しているからと言って長寿という訳じゃないぞ。お父さんは今年で38歳だが、見た目も年齢相当だろう?」
「確かに」
父は普通に中年の見た目をしている。
「寧ろ、お母さんの方が年齢と見た目が釣り合っていないと思うぞ」
「それはそう」
母は今36歳の筈だが、20代でも通用する見た目をしている。
あれこそまさに年齢詐欺だ。
「ちゃんとお手入れしているもの。こういうのは日々の地道な努力が物を言うのよ」
「そっすか」
どういう手入れをすれば年齢詐欺レベルの若さを維持出来るのだろう?
「それより魔王軍ってお堅い感じなの? それとも緩い感じ?」
「それは……所属する部署によるな。常に前線で戦うことになる防衛部隊は緊張感が漂っているが、諜報課は情報収集がメインだから、あんまり緊張感とかはなかったな」
「ふぅ~ん」
どうやらガチガチの対応はしなくて良さそうだ。
「ちなみに母さんと結婚した時になんか言われた?」
「……正気かって言われたな」
「やっぱ人間と結婚するのって異端なの?」
「いや、そんなことはないぞ。捕虜となった農民と結婚する頻度はそれなりに高かったし、そもそもお父さんの片親は現地の農民だしな」
「あぁ~、そういう感じなんだ」
そういや魔王軍は少数民族だって言ってたっけ。
「あれ? ならなんで母さんと結婚する時に正気を疑われたの?」
「……当時からお母さんの実力は魔王軍にも知れ渡っていたからな」
「おうふ」
こんな化け物を嫁にするとか正気か? って意味か。
「どういう意味かしら?」
「「ナ、ナンデモアリマセン」」
我が家のヒエラルキーは相変らず母がトップのままだ。
◇◇◇
2ヵ月程で先方と連絡のやり取りに一段落がついたのか、俺がお見合い相手に会う日時が決定された。
「そわそわ、そわそわ」
そして俺は現在、見合いの相手を待ってソワソワしていた。
「分かりやすくソワソワしているわねぇ」
「余裕があるように見えるけどな」
実際、俺は緊張しているが、同時に楽しみでもあったのだ。
そうしてソワソワしながら待っていると――ついに玄関の扉がノックされて来客を告げる。
「き、来た!」
「落ち着きなさい。あなた」
「ああ。どうぞ、開いていますよ」
父が許可を出すと扉を開けて3人の人物が家に入って来る。
その3人は正体を隠す為か全員が全身がスッポリと入るローブを身に着けており、顔も隠れていて性別も判断出来なかった。
「失礼する」
その3人の内の1人が前に進み出て、身に着けていたローブを脱ぎ捨てる。
「私はハーリット軍・諜報課、第1分隊の副隊長を務めているアイギスだ」
「あぁ~。アトゥムです、どうも」
一応、挨拶は返したが――なんか違う。
このアイギスと名乗った女性は長身の女性であり、確かに美女ではあるのだが釣り目で気が強そうだし、年齢も明らかに俺より10歳くらい上に見えるし、何より――胸部装甲は慎ましかったのだ。
(話が違う)
明らかに俺が指名した女性とはタイプが違ってガッカリしていたのだが……。
「ちっ」
その女性は舌打ちすると共に俺の魔力を精査して来た。
「む」
だが俺の第2防壁を破ることが出来ずに精査は失敗に終わる。
「なん……だと」
「…………」
なんだか俺を舐めているようなので今度は逆に俺から女性に精査を仕掛ける。
「む。くっ……!」
女性は抵抗しようとしたようだが、あっさりと第2防壁を突破すると魔力の詳細を測れてしまった。
(それなりに魔力量は多いが……俺の3分の1くらいだな)
ハッキリ言って、あまり強い魔法使いという感じはしない。
「未熟だな」
「なっ……!」
俺が正直に告げると、女性は悔しそうに歯噛みして俺を睨みつけて来た。
「止めよ。お前の魔力制御が未熟だったのは厳然たる事実だ」
「……師父」
女性が視線を向けると、その人物はローブを脱ぎ捨て――中から老人が姿を現す。
「ワシはハーリット軍・諜報課、第1分隊の隊長を務めているメルビスというものだ。弟子の不始末をお詫びする」
どうやらハーリット軍というのが魔王軍の正式名称のようだ。
しかも第1分隊ということは父の所属する部隊の隊長ということになる。
「どれ」
「む」
そんな分析をしている内に老人からも魔力の精査を受ける。
女性よりは大分魔力制御が優れていたようで俺の第3防壁まで突破されて、第4防壁で何とか食い止めることが出来た。
「なんと」
その事実に老人は驚いていたが――正直、危なかった。
俺の魔力制御能力では第4防壁までしか張れていなかったので、もう少し老人の魔力制御が優れていたら突破されるところだった。
「流石はアルメリア様の御子息。ここまで魔力制御に優れているとは思わなかったわい」
「まぁ、余裕かな」
俺は見栄を張ったが……。
「ギリギリだったのにねぇ。もうちょっと魔力制御が優れていたら突破されていたわねぇ」
「むぅ。バラさないでよ」
母にあっさりと暴露されて苦情を出す。
「でも問題はないでしょう。今はまだこの程度だけど、アトゥムちゃんはまだまだ発展途上なのだから。対して、あなたは今以上の成長は期待出来ないわね」
「……痛いところを突かれるのぉ」
確かに俺はまだ未熟だと自覚しているが、この老人は既にピークを過ぎているので成長は期待出来ない。
老人は確かに熟練の魔法使いかもしれないが、時間は俺の味方だ。
「やれやれ。歳は取りたくないもんじゃのぉ」
老人は肩を竦めて嘆息した。
「改めて、突然の無礼を謝罪しよう。許可なく魔力の精査を行うなどマナー違反じゃった」
「……申し訳ありませんでした」
老人が頭を下げたことで女性の方は渋々とではあったが頭を下げる。
「というか今日は俺のお見合いだって聞いていたんだが?」
「それはアイギスが納得しなくてのぉ。本当にこちらがストッパーを付けなければならないほどの脅威なのかと懐疑的で、どうしても確かめると言って聞かんかった」
「ははぁ」
つまり、今の茶番は、この女性の独断の行動だったわけか。
「どうしよっか?」
俺にはどうすれば良いのか判断が付かず、母に尋ねてみる。
「そうねぇ。いっそのこと魔王軍相手に大暴れしてみる?」
「や、止めてくだされ! 貴方が言うと冗談では済まなくなるぞ!」
どうやら今でも母の暴れっぷりは魔王軍にとっても脅威であるらしく、老人は本気で狼狽えていた。
「あら。あの時の私よりも今のアトゥムちゃんの方が確実に戦力は上よ。本気で魔王軍が壊滅してしまうかもしれないわね」
「母さん。俺は昔の母さんは兎も角、今の母さんに勝てる気しないんだけど」
「うふふ」
昔の母と今の母では魔法のストックに違いがあり過ぎる。
ハッキリ言って、空を飛びながら広範囲に雷を落とすだけで大抵の敵は殲滅出来てしまう。
「なんと」
老人もそれに気付いたのか、改めて母の脅威を認識したようだ。
魔王軍がどの程度の戦力なのか知らないが、母なら確実に1日で魔王軍は壊滅だ。
「くっ……!」
それがハッタリではないと気付いたのか、女性の方も身震いして歯を食いしばっている。
「お待ちください」
そこに今まで沈黙を守っていた3人目が顔を隠していたフードを脱ぎながら前に出て来る。
「わたくしはハーリット軍・諜報課、第4分隊に所属しているサーリセイナと申します。今回のお見合いの当事者ですわ」
「おぉ~」
フードの下から現れたのは儚げな雰囲気を持った淡いピンクゴールドの髪をしたかなりの美少女だった。
年の頃は15~16歳くらいで、穏やかそうに見える。
「…………」
俺の視線に気付いたのか、彼女は纏っていたローブを恥ずかしそうに脱ぎ捨てる。
「おぉ~!」
そこには服の上からでも分かる、ウチの母よりも大きな胸部装甲が隠されていた。
なんという巨乳。
DとかEのレベルではなく、確実にFとGの領域だった。
「その……あまり見られると恥ずかしいですわ」
「GOOD!」
俺は思わず親指を立てて……。
「あいて!」
母に頭をひっぱたかれた。




