番外編・奪われた晩餐会2
状況は膠着する。
私の突然変異の力によって人質となった野盗1人と、負傷し身動きが取れない野盗が4人、死んだのが1人。残った戦力は3人。こちらにはシンシアを前衛に、後衛として私とアルメルが居て、奇襲出来る位置にサーシャも居る。状況はどう転んでも有利。
それが解らないほど落ちぶれた野盗なのか、と訝しむこと数秒、敵の頭らしき男が、全員に合図を送った。
「……引くぞ。そいつを解放する条件はなんだ」
そいつ、とは、私が身体の一部を操っている人質の事だろう。私は後ろの人質に簡単に伝える。
「今、足は自由のはずですわ。自分の足で向こうまで移動なさい」
「え、うぐ……、兄貴、すまねぇ」
自分で自分の喉元に刃を突きつけながら、恐怖に顎を震わせながら、野盗は私の言葉に従う。
その間に負傷した野盗も、他の野盗が回収する。
「……そいつはどうすりゃいい」
次に顎で示したのは、アルメルの後ろで息絶えている野盗の死体。私の力で、野盗の手で殺させた、野盗の死体だ。
「どうしたいのかしら?」
問うと、頭らしき人物は答える。
「回収だ。そっちで埋葬してくれるっつうなら話は別だが、盗賊風情でも仲間なもんでな」
「その情を、少しでも他の村人たちに分ける事は出来なかったのかしら?」
「情で飯が食えるのは、てめぇらみてぇな上流階級だけだろうがよ。こちとら装備のひとつも惜しい貧乏盗賊でな。回収させてくれんのか、くれねぇのか、どっちだ」
「それもそうね。差し上げるわ。ほら」
私が操れるのは1人の一か所のみだ。だから、立たせ、歩かせる、という操作は出来ない。だから、腕を動かして、地面を這うようにして、その死体を野盗達の元へ向かわせる。
「ひぃいい!!」
と、野盗の数人がその光景に恐れおののく。アルメルも一緒に悲鳴を上げていた。
「……化け物が」
野盗の頭らしき人物が呟く。同意見だ。私も私を化け物だと思っていた。でも、上には上が居る。私以上の化け物を目の当たりにして、私は人間に戻れた。でも、その感情は、肩書は、自己評価は、自分の中にだけあれば良いものだ。だからこそ答える。
「化け物が怖かったら、この村に危害は加えないことね」
怪我人と死体は回収し、舌打ちだけをその場に残して、野盗達は撤退する。
「クリスティーナ、彼らを生かしてくれてありがとう」
と、今まで喋らず現場を任せてくれていたアルメルが言う。アルメルなら、殺したくはないのだろうなと思い、アルメルに刃を向けた人間を除き、生かした。その選択は正しかったようで、ひとつ安心した。
「でも、甘いと思うわよ。野盗を生かせば、他の村が襲われるだけだわ」
その問いに、アルメルは意外にも、笑って答えた。
「じゃあ、それを確かめに行こう」
と。
―――――(◇◆◇◆◇)―――――
背後を取っていたサーシャによる野盗の追跡。これは想定の範囲内。予想外だったのは、私とシンシア、アルメルも、サーシャとは別で野盗を追っているということだ。
野盗も勿論背後を気にしながら撤退をしているが、サーシャは殆ど並走しているため、背後を気にするだけでは気付けない位置取りで追跡をしている。私達は、勿論私の能力を使えば、森の中の追跡は容易い。木々は相当茂らない限り私の魔眼における障害物には含まれないため、かなり先まで透過出来るのだ。
そして、追跡すると小さな洞窟に辿り着く。
「おお、やっぱりこういう時、盗賊ってこういう場所を拠点にするんだ」
と、アルメルが隣で関心している。アルメルが居たという異世界でもこれは定番なようだ。
「盗賊というか、冒険者も、傭兵もっすね」久しぶりにシンシアが口を開く。「壁と天井を作るって案外難しいんで、洞窟が見つかったら真っ先に拠点候補っすよ。雨風凌げるだけで天国っすから」
「へぇ、なるべくしてなってる、って感じなんだね」
ウキウキした様子のアルメル。野盗が逃げ込んだ拠点の目の前に居るというのに、どうしてこうも楽しそうなのだろう。と首を傾げているところに、私達の存在に気付いたサーシャが姿を現す。私には見えていたけれど、シンシアとアルメルには見えない位置取りだっただろう。
「私、役立たず?」
と、サーシャが不服そうに唇を尖らせ、私を見る。私の能力で容易く追跡出来てしまったため、サーシャがショックを受けているようだった。
そんなことはない、と伝えるために何を言おうか考えていたら、私より先にアルメルがフォローを入れた。
「まさか。サーシャにはこれから役に立ってもらうよ。サーシャもクリスティーナも、サングラスはしっかり――うん、常備しているね」
私とサーシャの状況を見て、アルメルは自己完結する。
「クリスティーナ、中の状況は見れる?」
「? ……ええ、怪我人の治療中よ」
「良いねぇ、悪くないよ。……応急処置が終わったら教えて」
「? ……ええ、わかったわ」
魔眼で透視し、中を監視する。応急処置の完了まで、もう少し時間が掛かりそうだ。
「因みになんだけど」アルメルがもうひとつ、ついでに、というような口調で、しかし、それこそが本命の質問であると匂わせる言い方で、私に確認する。「物資のほうはどうかな」
つまり、この拠点の中に金目の物や食料が豊富かという質問だろう。私は思ったままに答える。
「ジリ貧よ。襲う価値があるとは思えないわ」
その答えが解っていたからか、願っていたのか、アルメルの表情はイヤらしく緩む。そして言う。
「――そうか、それは良かった」
と。
負傷者の無事を喜んでいるようには見えない。その表情はこう語っている。『計画通り』と。
応急手当が終わった事を確認した。
「終わったわよ、アルメル」
「ありがとう、クリスティーナ」
そんなやり取りをした後に、アルメルが洞窟の入り口に手を置いている事に気付く。いつからだろう。待機中ずっとそうしていたような気もする。
アルメルが私とサーシャを交互に見てから、
「クリスティーナ、サングラス、付け直してもらっていいかな」
「わかったわ」
洞窟内監視のために額にズラしていたサングラスを付け直す。サーシャは最初からサングラスを装着している。
「シンシアは、俺が合図するまで目を閉じてて」
「了解っす」
シンシアが目を閉じる。
そして、
洞窟内部が、真っ白に、強く、強烈に光った。サングラスをしていても視界が奪われるほど強烈な光と、洞窟内部から響く悲鳴。
光魔法。
ただ、光るだけの魔法。
それでも、私も以前、アルメルのこれによってアルメルとの決闘に負けた。それほど、使いどころによっては勝敗を決める魔法だ。
「さぁ、サーシャ、ちょっと、中を無力化してきてもらっていいかな。殺さないように、ね」
アルメルの狙いは、未だに解らない。




