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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第4章・トイレは三大欲求にも並ぶので

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第1話・ずっと耐えられなかったので

 城郭都市パラノメールを出てイディムの森へ向かい、パラノメール山脈に沿う田舎道をしばらく進む。馬車が走れる程度には整備された道をしばらく行き、その村に到着した。


 森の中にあるからもっと小さな集落かと思っていたが、100人前後の規模はありそうだ。森が途端に開けて険しい岩山と普通の山に挟まれ、その双方から流れる川が村の湖で合流している。その湖から扇のように小川を形成し、その小川に沿って田畑が作られている。


 古いが、美しい村だった。


 そんな村の象徴でもある湖の前で、俺は、1人の杖をつく年寄りと握手を交わした。


「これからこの村の運営のお手伝いをさせて頂きます、アルメル・オース・ファランです」


 年寄りは俺の手を優しく握り返すと、悪戯っぽく笑った。


「セルト村の村長、ファム・セルトです。手伝いと言わず指揮ってくだされ。跡取りが都会に逃げてしまって、次の村長がおりませんでなぁ」


 そう、この村は、これから俺の村となる。


 お父様との約束だった、15歳になったら村をやる、というのが、この場所だったのだ。自然に囲まれて資源は豊富。環境も整っている。思っていたよりも素晴らしい場所だと驚いたが、なるほど、そういう事かと納得した。


 長の跡取りが居ないとなると、ならば次はどの家が村の代表になるか決める必要が出てくる。そしてそれが、争いの種になることもある。それで次のリーダー選びに困っている場所にあえて、権力を持つ組織が介入して「こいつをリーダーにしなよ」と、責任者を提供する。


 良く言えば「渡りに船になる適材適所」だが、現代日本風に表現すると「天下り」である。


 もしも次に村長の座を狙っている人間が居たら、恨まれるだろうし、恐ろしい話だが……


「どこの馬の骨とも知らない人間に、いきなり村は任せられないでしょう。村の運営に積極的な人と協力関係を築きたいのです」


 素直にそう言うと、返って来たのは予想外の言葉だった。


「村の責任者になりたいなんていう目立ちたがり屋はね、都会へ行って冒険者になりたがるんですよ」


 苦笑と共に提示された情報。確かに、言われてみればそうだ。現代日本で言う、野球選手だの配信者だのインフルエンサーになりたがるみたいなものか。


「そういった苦労もあるんですね」


 都会に住んでいると、田舎に住む人の苦労は想像つかない。逆もまた然り。そういえば、日本でもそうだったなぁ、と思わず苦笑すると、逆に村長がおおらかに笑った。


「当たり前すぎて苦労だと思いませなんだ。そういう物なんですよ、アルメル様」


 そう言いながら、村長はなんと、杖の柄を外し、刃を見せつけて来た。仕込み杖というやつだ! 映画で見た事ある。


 その刃はすぐに仕舞われる。なんとなくその流れで解った。この村長も、若い頃に冒険者を目指したのだと。


 自分も冒険者に憧れたから、冒険者に憧れる若者を止められない。そこに、次の責任者という生贄が来てくれたわけだ。これは、お父様の人事の才能を称賛すべきだろう。狙っていたんだろうなぁ。


「アルメル、そろそろ私もご挨拶をしてもいいかしら?」


 俺の左後ろに控えていた少女、クリスティーナが順番を急かす。というより、場を整えてくれたと思うべきだろう。


「ご紹介します、俺の妻、クリスティーナです」


 そう言って掌で指し示す、()()()()()()()()()の少女は、うやうやしくお辞儀をしてみせた。


「ご紹介にあずかりました、クリスティーナ・ルーサー・ファランですわ」


 続いて他のメンバーも、と行きたいのが本音ではあるが、この世界の社交場において、使用人達は本来、名乗る立場に無い。なので、後ろに居る2人も、本来なら紹介は不要だ。……本来なら。


「こちらは、この村、セルト村防衛の要として働いてもらいます、シンシアです」


「ご紹介どうもっす。元ディーゼル傭兵団副団長、現ファラン開発局私兵団の団長、シンシアと申します」


 名乗る立場に無いのなら、組織を作り、立場を与えれば良いのだ。


 俺は、趣味の同人活動に近かった開発を、仕事として成立させるため、組織を立ち上げた。元々が営業職だったので商会も良いかと思ったが、今やりたいのは営業じゃない。だから、人口減少改善(見込み)の報酬として、ファランの名を借りた組織の発足をする事にした。それが、ファラン開発局である。


 その上で、シンシアにはその開発局私兵団の団長を名乗ってもらっている。悲しい事に正社員は1人しか居ないので、強制的に団長となる人事である。


 そして。


「こちらは、俺の右腕、サーシャです」


「ファラン開発局、副局長、サーシャ・ディーゼル。よろしく」


 と、いう事である。


 勿論、俺の局長で残る人材はサーシャのみなので名ばかりの副局長だが、社会的に見ると評価せざるを得ない名前だろう。魔法灯、サングラス、トランプ、無魔力空間装置、トマトソースのパスタを10年で開発したという事になっている、アルメル・オース・ファランが立ち上げた組織の副団長だ。こういった場において、名乗るに値するだろう。


 諸々が諸々に挨拶を済ませる。


 そして、居住地へと案内されたのだが、


「…………広いですね」


「……広いじゃろぉ」


 この村には不釣り合いに大きな豪邸だった。


 いや、居住地が豪勢なのは嬉しい事だ。元マンション暮らしの俺やら、元傭兵暮らしのシンシアやサーシャはともかく、公爵家出身のクリスティーナはそうもいかないかもしれない。


 が、問題は適正では無い。


「……なんでこんなに贅沢な屋敷なんですか?」


 俺が問うと、村長が答えた。


「何年も前から、ダグラス様主導で建築されてましたよ」


 と。


 俺がここに来ると決まった時点で、お父様がこれを建てさせていたらしい。隠れ親馬鹿である。


 屋敷の位置は、岩山にも山にも入れる、丁度隅っこであり、各所から流れる川の川上。水の重要度を理解していたからそこを抑えたのか、もしかしたら、俺がやりたい事のひとつを、又はやらせたい事のひとつが、たまたま合致していたのか、その辺りは深くは解らない。


 だが、


「最高です、お父様」


 思わず呟く。本当に、最高の立地だ。


「それでは、これからもよろしくお願いしますね、アルメル様」


 と、案内を終えたとばかりに去ろうとする村長。


「荷解きはこっちでやっときますよ」


 と、雑用を買って出るシンシア。


「アルメル、クリス、村の見回り、必要。護衛、私」


 と、お目付け役を買って出るサーシャ。


「良いわね、アルメル、お言葉に甘えましょ?」


 とか言いつつ、村の視察をしたいのだろう。今後のための観察を提案するクリスティーナ。


 だが、本当に申し訳ない。こればかりは、強権を振るわせてもらう。


「ごめんねみんな。やることはもう決まってる」


 俺は、この世界に来てから、ずっと、ずっとずっと、耐えられない事があった。絶対にいつか変えてやると思いつつも、いきなりパラノメールで始めるのは無理難題だったため、心のどこかで諦めていた開発。


 それでも、物心がついた瞬間から、明確に、絶対に、必ず、必ず、必ず成し遂げて見せると思っていた開発がある。


 それを、今、この今、この瞬間から、始める。


 それほどまでに、物心着いた瞬間から、いつかやると決めていた開発。


「荷解きは手が空いた者から進めよう。この瞬間より、ここ、セルト村の――上下水道開発に取り掛かる」

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