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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第3章・食糧事情が問題だったので

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第22話・ワクワクしちゃうようで

「エレメントのコアが、土魔法で作った土壁の中の魔力も吸ってしまうというのなら、対策はシンプルだ」


 ケイシーを交えて事情を説明した上で、俺は言った。


「コアが魔力を吸収する範囲をガラスにするのね」


「クリスティーナ、大正解。天才」


「ふふ、悪い気はしないわね」


 ガラスの窓を作るのだ。その真ん中にエレメントのコアを設置する。ガラスならば、魔力が込められているか否かは関係なく魔力を通さないため、エレメントのコアと接触していても問題はない。


 しかし、そうなると工夫、というか、どうしても職人の技術が必要になる。


 ケイシーさんが考えながら言った。


「ガラスとコアの接着と、ガラスと土壁の接続はなんとかしねぇといけぇな」


 そう、問題はそこ。と、もうひとつある。


「それと、極めて正確な寸法が要る。エレメントのコアが実際どれくらいの距離の吸収をするのか。元が生命である以上は個体ごとに違うはずだから、ひとつひとつを計測する方法を安定させたい。何かアイデアはないかな」


 その問いに提案したのはシンシアだった。


「計測用の土の壁でやればいいんじゃないすか。壁が崩れちまったのを、意図的にやらせて、その穴を計測する」


 少し想像する。うん、問題無さそう。


「シンシア、採用!」


 土の壁を作る事自体は簡単だ。土魔法は妖精魔法の入り口であり基礎。独学でも習得可能な範囲だ。なにより俺の負担でカバーできるのは大きい。他の人には他の仕事を割り当てられる。


 ふと、ケイシーが言った。


「しかし、土壁が崩れたって事を考えると、柱と梁が無ねぇと話になんねぇな」


「ケイシーさん、その通りなんです!」


「人によって口調変えるの面倒だろ。私にも素でいいぞ」


「いいの? 助かる!」


 違う話題が挟まってしまったが、すぐに話を戻す。


「土魔法自体は、防御魔法にも使われるほど耐久性が高い。だから壁や天井自体は問題無いのだけど、問題なのはガラスだ。ガラスは土壁の重さに耐えられない。そうなると、ガラスを重さや硬さ、()()()()()()()()()()()から保護する仕組みが必要になるんだ」


「私は武器職人だぞ、相談相手間違えてねぇか?」


「魔物の素材に関する知識はケイシーが強いと思ってね。それと、信頼出来る技術者の紹介も合わせて、ケイシーにお願いしたいと思ったんだ」


「なるほど……こっちの仕事、多くねぇか」


 確かに、ガラス保護対策と建築家、ガラス職人の仲介だ。やる事は多い。でも、


「大丈夫、皆多いから」


 にこやかに答える。前世で培ったブラック企業の経験を舐めてはいけない。過重労働、皆がそうなら仕方ない。


「それに、前回の半年以内に必要だからって話でも無い。このプロジェクトはどう足掻いても数年掛かる。仕事の合間に進めてくれたら助かる」


「ああ、そんな感じで良いのか。ならまあ、ぼちぼち進めさせてもらうわ」


「ただ……」


「?」


「この開発は、食糧事情を大きく変えるための開発だ」


「…………ああ、魔物化の抑制ってのはそういう事か」


 ケイシーも、作物が魔物化する事情は知っていたらしい。すぐに理解を示した。


 俺はプレゼンを開始する。


「より貧しい者にも食料が行き届くようにしたい。生活困難者が減れば減るほど、結婚出来る者も増え、出産出来る者も増え、人口が増える」


 俺は続ける。


「より美味しいご飯を作れるようにしたい。例えば普通なら食べるトマト。すり潰してニンニクと混ぜて塩を振ってハーブも添えて、それをお肉に掛けて食べるんだ。普通なら考えられない、贅沢な使い方だ。でも生産が増えれば、贅沢ではなくなる。そうやってご飯の種類を増やして、美味しくすれば、人々の毎日が潤う」


 ケイシーとシンシアが想像して唾を飲んでいた俺は続ける。貴族階級ではパーティーとかで挑戦的な贅沢品が出てくる事は勿論あるが、一般家庭にそれらが出回る事は無いだろう。


「毎日が潤えば幸福度が上がる。幸福度が上がれば将来への不安は薄れる。将来への不安が薄まったなら、子育てだって安心できる。安心できるから、人口が増える。人口が増えれば、街が潤う」


 そこでようやく、ケイシーが口を挟む。


「絵空事だ。食料の生産量が増えるだけで、そんなにうまくいくわけねぇ」


 イメージ出来ないのだろう。その通り、これは理論的な話ではない。俺の経験則だ。


「うまく行く。必ずだ」


 確かに、ご飯が安定するだけでそんなにうまく行くか、というのは、正しい疑問だ。食べ物が安定して、美味しかった前世の現代であっても、争いは起きていたし、人口は減っていた。人口の増減はそんなにシンプルな事では無い。


 だが。


 この世界に生きる者には実感は無いだろう。


 現代日本に生きる者にも想像はつかない。俺だって、最近まで解っていなかった。


 この世界の食糧事情はマイナスなのだ。


「満足に食べられない人間が、多く居る。この満足に食べられない人というのは、当然、満足に食べられないのだから、それ以上の事も望めない。娯楽も、将来も。そのマイナスを改善すれば、少なくともその人達が未来を望めるようになれば、その分だけ人口のプラスが発生する。だから、この開発が成功すれば、必ずうまくいく」


 ケイシーは考えた。


 そして、現代の倫理観ならば許されなかったかもしれない発言は放つ。


「――資源が豊富なパラノメールでさえ食うに困る人間の子孫を反映させて、本当に街が潤うのか?」


 ブラックな労働環境には慣れていたが、ハラスメントはあまり無い会社で勤めていたからか、その攻撃的な発言が、ひどく心臓を貫いた。


 みぞおちの少し上が焼けるような熱を帯びたような錯覚が俺を襲う。それほどに、衝撃的な発言だった。


 ようはケイシーはこう言いたいのだ。


 仕事が不得意な人間を増やして、どうするのか、と。


 現代ではとうに過去の遺物と化していた、優性思想というものだ。


 許されざるものだ。……などというのは、現代の常識であり、中世の非常識だ。


 とくに、そう、ケイシーにとっては、その考えは当然だろう。


 ハッシュバル家。


 姉であるケイシー・ハッシュバルは、優れた肉体、本能的に高い知能でもって、30代でこの街の職人代表をやっている。


 弟であるジャン・ハッシュバルは、王国の盾と呼ばれるこの地、パラノメールの騎士団団長を務めている。今はどうか解らないが、3年前の段階ではスレイン兄より強かったという。天才の血筋。


 そんな優れた血筋だからこそ、実感しているはずだ。血筋は能力に関係があると。


 そして、その思想に否を唱える資格は、ファラン家には無い。長男スレイン、次男アルフレッド、三男アルメル。全員が結果を残しているし、幼少期から片鱗を見せていた。血筋は能力に関係ないと言う資格を、この身体は持たない。


「問題ない」


 そこで割って入って来たのは、今まで黙って聞いていたサーシャだった。


 全員の視線がサーシャに集まる。サングラスで隠れているため表情は見えないが、いつも通り無表情で、無関心そうなジト目でこちらを見ているのだろう。


 そしてサーシャは言う。


「勉強の普及で、底上げ、可能」


「!!」


 衝撃だった。盲点だった。


 いや、いつだか考えていたはずだった。この世界にも慣れた事で、いつの間にか忘れていた。


 サーシャは続ける。


「食料事情改善する。子供を働かせる必要性が減る。子供に勉強させる時間増やせる。子供の能力は上がる」


 と。


 元傭兵で戦闘や生きる術を叩きこまれた上に、ここファラン家に預けられた瞬間に魔法の勉強をやらされて苦労したサーシャ。あの魔法の勉強を散々嫌がっていたあのサーシャが、子供に勉強させるというのだ。これにこそ意味がある。


 勉強して知識を身に着けるのが嫌いではない俺が「勉強は必要だ」と言うのと、勉強が嫌いで嫌がっていたサーシャが「勉強は必要だ」と言うのとでは、まるで意味が違う。


 俺が、俺なりに考えをまとめる。


「お父様の依頼なんだから、ファラン家からも金は持ってこれる。俺も出し惜しみはしない。信頼出来る農家にこれを安価での販売、又は提供をしてパラノメールの食糧事情を改善。食料品が安く手に入るようにする事で、子供達が仕事の手伝いをする必要性も減る。その代わりに、教育を受けさせる事を義務付ける()()()()()()を導入。これによって、1人1人のマンパワーも向上する!」


 独善的かもしれない。絵空事かもしれない。机上の空論の域を出ない。


 それでも俺は、ケイシーに手を伸ばす。


「明るい未来が見えてきたんじゃないかな!」


 と。


 ケイシーは「ったく」とどこか悔しそうに笑い、額のサングラスに触れ「明るすぎて失明しそうだっての」とぼやく。


 そしてすぐに俺の手を取った。


「仕事は続けるが、優先度高めで取り掛かってやる。世界を変える。楽しそうじゃねぇの」


 正直俺も、ここまでの話になると思っていなかったので、ワクワクしていた。

ToDoリスト


・既存の農業の問題点の発見及び改善。 ←now

・場合によっては問題解決のための装置開発。 ←now

・生産量を増やすための土地と人員確保。 

・場合によっては効率化のための道具開発。

・場合によっては調理器具の改善。

・新料理開発。

・新料理のレシピ拡散。

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