第21話・まるで正月の親戚集まりで誰が誰の誰か解らない現象が営業でもあるようで
パラノメールの街を徒歩で移動する。馬車ばかり使っては身体が鈍る、身体の鈍りは心の甘えとの事で、近場での馬車使用がお父様によって禁じられた。乗る機会が減った事で一番ショックを受けていたのはシンシアだった。彼にとって馬車の手綱を握れないというのは、車を運転出来ない車好きのおじさんみたいな心境なのだろうか。
しかしまぁ、ちょうどよかった。どこかのタイミングで、クリスティーナに街を案内する必要があったのだし、丁度良い。
俺とクリスティーナが並んで歩き、その後ろにサーシャとシンシアが控えている状態。因みに俺は普段通りの装いで、クリスティーナはカツラを目を閉じて盲目のフリ、サーシャはカツラとサングラスで、各々が髪と目を隠している。ついでにシンシアも、フード付きの外套とバンダナで顔を隠している。嘘偽りのない顔が見えているのは俺だけだ。何この集団、怪しい。
それにしても、
「まぁまぁ……、なんというか、改めて見ると荘厳な街並みなのね。あまりイメージに合わないというか……少し予想外だったわ」
と、目を閉じて真っすぐを向いたままのクリスティーナが言うもんだから、少し驚く。彼女の魔眼をもってすれば当然の状態ではあるのだが、そのリアクションに対して、慣れるのに時間が必要かもしれない。
「そうかな。俺としてはファラン家のイメージ通りなんだけど……。お父様とか、スレイン兄様なんかとはイメージぴったしじゃない?」
クリスティーナは少しだけ唇を尖らせたが、しかし、すぐに何かを思いついたかのように破顔する。
「私にとってファラン家のイメージってアルメルだったから、その発想は無かったわ。そうよね、ファラン家のイメージと言ったら、普通はダグラス様やスレイン様になるわよね」
今の家長と、家督を継ぐ長男。それが家のイメージなのは間違いないだろう。
「まぁ、ファラン家は本来武闘派だからね。穏健派のルーサー家が知らないのは普通の事だし、ファラン家の名前を知ったのが俺の開発品経由なら、そういう風になるのも仕方ないんじゃないかな」
そうこう話しているうちに、目的へ着く。
一見すると、周りの家と変わらない、普通の石造りの家。ただし、周りより大きな煙突がある。
「ここは?」
クリスティーナが問う。
「知り合いの店だよ。と言っても、数年ぶりに会うんだけど」
言いながら扉を開ける。そこに居たのは、
「らっしゃーせー。おっと、新顔さん……じゃねぇな、サングラス付けた嬢ちゃん、もしかしてあん時の子か?」
筋骨隆々で背丈も筋肉も態度も色々と大きな女性だった。
現代で言うタンクトップみたいな薄着。所々火傷跡は傷跡がある腕や顔。額には特性のサングラスが装備されていた。
「んで解った、真ん中のあんた、ファラン家のあれだろ、アルフレッド! いやぁ、数年前から変わらねぇな!」
豪快な口調で豪快に間違える豪快な女性に、思わず苦笑する。
だが、そうか、彼女と関係があったのは3~4年前。当時6,7歳だった俺と、10歳くらいだったアルフレッド兄。そして現在11歳の俺。俺がアルフレッド兄に似て育ったなら、彼女が俺をアルフレッド兄と見間違えるのは、自然な事かもしれない。
「惜しい! 俺のほうですよ。アルメル」
「おいおいマジかよ! めっちゃ久しぶりじ…………おい、あの小うるせぇメイドは居ねぇだろうな」
「居ませんよ。嫌がると思って連れてきませんでした」
ニコヤカに答えると、彼女は安堵のため息を吐く。
「ねぇアルメル? 紹介してもらってよろしいかしら?」
ふと、クリスティーナが裾を引っ張って来た。勿論、と、ひとつ咳払いをして、俺は3人に向かって、彼女を紹介する。
「ケイシー・ハッシュバル。サングラス開発は彼女無しでは絶対に成し遂げられなかった。そう言えるくらいに重要な役割を担ってくれた、サングラス開発の立役者さ」
「!?」「!?」
クリスティーナとシンシアが目の色を変える。いや、目の色は変わってない。クリスティーナに至っては開眼すらしていない。比喩を間違えた。とにかく、驚愕と、他にも、何か裏がありそうな、大きなリアクションだった。
驚いて言葉が出て来ない2人の変わりに、サーシャが言う。
「久しぶり。よく解ったね」
テクテクと歩み寄りながら言うサーシャ。ケイシーはサーシャの肩を軽くとは言えない力加減でバンバンと叩き、言う。
「お前、2人居たろ? もう1人のほうは最近どうだ」
お前、2人居たろ、という表現だけなぞるとめちゃくちゃインパクトのある面白い言葉なのだが、その真意はただの「双子だっただろ? もう1人はどうした?」的な意味になると思う。
「メルヘンラーク」
「へぇ。知らねぇ。街? 国?」
「魔法学校がある場所。知らない?」
「知るわけねぇだろ、装備を打つ以外の事に興味なんてねぇよ」
楽し気に話す2人。久しぶりの再会であり、サングラス開発を成功させてくれた恩人なので俺も雑談の順番待ちをしていたところで、後ろから鼻をすする音が聞こえてきた。
え、誰か泣いてる? と思い振り返ると、まさかのシンシアが涙を流していた。
「し、シンシア……? どうしたの?」
聞くが、シンシアは首を横に振って、涙を拭く。ほんの数秒のみの涙。そのあとは気を取り直して真面目な面持ち。なんだったのだろうか。
次にリアクションしたのはクリスティーナだった。
「サングラス開発の重要な役割を担った、というと、何をなさった方なのかしら?」
と。
俺は答えた。
「全部だよ。俺が提案したサングラスの初期案。それの問題点を修正して、改善策を提案してくれた。サングラスは、発想こそは俺のものだが、開発は彼女によって成されたと言っても過言じゃない。そう言えるくらい、全部をやった人だ」
クリスティーナとシンシアは動揺する。何を思ったのかは知らない。それでも、まさかこんな隠れた影の偉人みたいな人が現れたら困惑もするだろう。
そして、この中で最も動揺していない人が、俺の頭を軽く小突いた。
「ばかやろう。あたしは『思いつく』って事をしてねぇ。物作りは『思いつく』のが全ての始まりだ。お前の初期アイデアや改善案の試作が無くちゃサングラスは出来なかった。あたしやお前の言う通りに従ってくれる他の職人が居なきゃ出来なかった。全部あたしがやったって評価はな、協力者全員に失礼だ。二度とすんな」
説教だ。
本当なら、マイナスの感情を抱くべきなのかもしれないが、俺の心はほっこりしてしまった。3~4年経っても、彼女は変わらない。
職人のプロ故に事実しか語れないケイシー。
営業のプロ故に誇張や歪曲を使えちゃう俺。
ああ、汚さを知った俺に誠実さを教えてくれるようでマジでケイシーなんなのこいつ。個人的に雇いたい。……諸事情あって絶対にスレイン兄に止められるけど。あと多分ウェインにも止められる。ほな無理かぁ。
「解った、二度としません。その変わりケイシー、ひとつ、依頼があるんですが、どうですかね?」
「何が変わりだっつうの。ここに来た時点で依頼はあっただろうがよ。で、なんだ? サングラス作りみてぇな派手な開発なら、今すぐには手伝えねぇぞ」
「なら大丈夫ですね。今回開発したいのは、農作物を魔物化させないための開発なので、はっきり言ってサングラス開発より遥かに超絶ど派手な開発ですから、ただの派手な開発とは違います」
「いやいや、それなら余計に、すぐには無理だって――いや、なんだって?」
「はい、農作物を魔物化させないための開発です。どうしました? 動揺して」
「するだろう、動揺のひとつやふたつ。農作物を魔物化させないための開発? そんなん、世界が変わる大発明だろうが。出来るわけねぇだろ」
とケイシーが言うので、俺は室内を一瞥した。
まずひとつ。
「額にあるサングラス。常備しているという事は活躍してるみたいですね。どうですか、火を使う鍛冶師にとって、火の眩しさを緩和出来る道具は、世界が変わったのでは?」
因みにこれは、今から話す事は、詭弁だ。殆ど詐欺みたいな話術である。
「作業場の真ん中に魔法灯がありますね。今まではどうしてたんですか? 夜には精密な作業が出来なかったのに、魔法灯ひとつで、夜でも精密な作業が出来るようになって、世界が変わったのではありませんか?」
詐欺みたいな手法だが、営業のスキルとしては、ままあるスキルだ。
大げさな比喩で、小さな事を実感させる話術。
「――世界を変える事は、そんなに難しくない」
呆然と俺の言葉を聞くケイシーを、俺は心の底から騙す。
「また一緒に世界を変えよう。君の力と、名前が必要だ」
ToDoリスト
・既存の農業の問題点の発見及び改善。 ←now
・場合によっては問題解決のための装置開発。 ←now
・生産量を増やすための土地と人員確保。
・場合によっては効率化のための道具開発。
・場合によっては調理器具の改善。
・新料理開発。
・新料理のレシピ拡散。




