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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第5章・真☆風呂回が挟まるようで

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第7話・戦地は混迷なようで

 シンシアとオヌシが見張りを制圧している最中に扉を開けて中に入ろうと思っていたのだが、シンシアのほうが早かった。俺が名乗っている最中に、見張りの1人を無力化した上で扉に手をかけて、俺からの合図を待っていた。


 無言のシンシアに無言で頷くと、シンシアは片手で武器を構え、扉を開け放つ。


「失礼する」


 そう告げながら中へ入ると、そこでは、まず3人の男が、豪華な革張りの椅子を取り囲んでいる。その椅子の後ろには、身を隠しているつもりなのか、椅子を盾にしているつもりなのか、目より上と指先だけが見えている、おそらく少女が居た。見えている範囲が狭いため、年齢までは分からない。


 椅子を取り囲む男の中で最も年齢が高く、身なりが良く、体型もふくよかな者が、こちらを見て目を細めた。


「取り込み中ですが?」


 その言葉に続き、男3人の中で最も体格が良い男がこちらへ歩み寄る。坊主頭にサングラス。威圧感はかなりのものだ。


「その物騒なもの、仕舞え。痛い目見たくなかったら」


 剣を構えるシンシアに臆する事なく、坊主頭は壁に立てかけてあった(こん)を手に取る。


 棍? パラノメールでは見た事が無い武装だ。剣術が盛んな事もあり、わざわざ刃の無い武器で戦うという発想にあまりならないのだと思う。


「……………………」


 シンシアは無言のまま、坊主頭と俺の間に立ち位置を調整する。間違っても俺達へ攻撃が仕掛けられないように、という事だろう。


 対して俺達の背後はというと、オヌシが入口前で、見張りが中に来ないように場を抑えていた。


 悪くない判断ではあるが、俺は指示を出す。


「オヌシ。お前もこっちに来い。そこは俺が塞ぐ」


「あ? ……ああ、そういう」


 察したオヌシが数歩駆けて中へ入ったため、外の土を操り、壁を作って入口を塞いだ。


「随分な手際の良さですな」


 身なりの良い男が、気味の悪い営業スマイルを浮かべた。悪意というか、狡猾さというか、そういうものを隠す気も無さそうな、そういう類の営業スマイル。


 そして、こちらへ数歩歩み寄る。と言っても、坊主頭よりは前に出ない程度だ。坊主頭は護衛なのだろう。その距離感も妙に厭らしい。


「そちらも、女性1人を相手に、随分と手の込んだ真似をする」


 土の壁を作ったのと合わせて、いくつかの土塊を操って身の周りに浮かせて配置する。シンシアが坊主頭、オヌシがもう1人の護衛を相手にするとなれば、当然、俺があのふくよかな男の相手だろう。


「手の込んだ? 女性? はっはっは、何を仰る。我々ゼグズビー質店にとって、商売相手に性別は関係ありません」


「それで、女性1人を相手に男3人で取り囲み、外にも見張り2人を配置。商売相手に向ける仕打ちではないな」


「金貸しの商売相手は金の貸し借りをする相手の事。貸した金を返さない者には、多少強気で行かねばならんのですよ」


 そこまで話して、話は止まる。


 そして、止まった話の代わりに、状況が動き出す。


「ゼグズビー、手心は加える。痛い目に合わせよう、少しくらい」


 と、坊主頭のサングラスが言う。


 すると、ゼグズビーと呼ばれたふくよかな男は笑顔で言う。


「そうだな。建物は壊すなよ、レオ」


 その言葉を合図に、レオと呼ばれた坊主頭がシンシアに迫り、棍を横なぎに振るう。


 シンシアは即座に反応し、剣の背で少しだけ上に弾きながら、最小限屈むのみで回避する。


 だが、棍の特徴は、刃が無い変わりに全面が等しい威力を持つ鈍器となる所にある。弾いた勢いもあり、棍の()()()が勢いを増してシンシアに迫る。


 そして、鈍い音が部屋に響いた。


 吹き飛ぶシンシア。棍を振るい終え、残身に入るレオと呼ばれた坊主頭。


 床に数回転がった末に、シンシアはそのまま立ち上がった。まるで、今の回転はわざとやった側転ですよとでも言いたげなほどにスムーズな受け身。


 強い。


 たった一連のやり取りで、そう思った。シンシアが、一撃を食らった? しかも、かなり重いやつを?


「シンシア!」


 考えてみれば当たり前だが、シンシアとて最強では無い。強敵と出会えば苦戦もしよう。そう思い知り、つい名前を呼ぶが、当のシンシアは無言のまま、さも当然のように、俺のほうに「待て」と言わんばかりのハンドサインを送る。それをした後に、シンシアはその手にも武器を持ち、双剣の構えを取る。


「……ん?」


 ゼグズビーと呼ばれたふくよかな男が、ふいに首を傾げる。


 だが、構わず状況は動く。


「強いな、お前。喰らってないだろ、今の攻撃」


 と、どこか嬉しそうにレオが言う。


「…………」


 シンシアは答えない。


「おい、あれおっさんまずいんじゃねぇか。俺も加勢したほうが良いのか!?」


 と、オヌシが焦りで声を荒げる。


「そうよ、アルメル、今の一撃、流石に心配だわ。私も加勢を」


 と、クリスティーナまで言い始めたので、俺は言う。


「ダメだ、特にクリスティーナ、君はまだ動かないで。多分、問題無い」


 確かに、心配になる音はした。だが、棍での攻撃で吹き飛ばされるというのは、かなりの事態だ。少なくとも、骨の1本や2本は折れていなければおかしい。だが、シンシアは立ち直しており、どう見ても五体満足だ。では、何故あんなに吹き飛んだのか? 吹き飛ばされたのではなく、自ら吹き飛んだためだ。


 何故? 攻撃の威力を減らすために。


 おそらく回避しきれず攻撃も喰らっているだろうが、回避行動のために地面を蹴った音だった可能性もある。今は、シンシアが大丈夫だと示すそのリアクションを信じる他に無い。


「んんんん!?!?」


 ゼグズビーがなにやら不思議なリアクションをしているが、今は構っていられない。


 もしもシンシアがレオに敗北したとしても、光魔法とクリスティーナの魔眼を駆使すれば、クリスティーナの魔眼がバレないようにこの場を制圧する事は可能だ。


 坊主頭は丁寧にサングラスまでしているため、光魔法での制圧は出来ない。それでも、周りの目撃者の目を潰した上で、クリスティーナの魔眼で操ってしまえば、どうとでもなる。


 戦況は、問題なくこちらの有利だ。


 と、思った、その瞬間。


「破!!!!」


 レオが叫んだ。いや、雄叫びか、あるいはそれを、ハカと表現する者も居るだろう。そういう発声。


 その声が、()()()()()()俺達の鼓膜と全身を揺らした。


 その声に当てられ、俺は浮足立つ。振動のせいで動きも鈍っている気がする。


 なんだこの声は。なんだこの異常な声圧は。


 誰もがその声によって身動きが取れなくなった状況で、しかし、発した本人、レオだけが動けた。


 レオは、棍を振り上げ、シンシアの頭部目掛け、振り下ろし――停止した。


 不自然な寸止め。それもそのはず。


「な!? どうなってる!!」


 振り下ろそうとしていた本人が、身体が動かない事に驚いているのだから。不自然な状況に決まっている。


 そう、レオの停止は、クリスティーナの魔眼によるものだ。


 その隙に、シンシアが殺意の無い袈裟斬りを行うものの、それはバックステップで回避される。


 強い。このレオという男、本当に強い。


 だが、それだけでは無い。今の力はなんだ?


「なんだ、今の力は」


 と、声に出して聞いたのは――レオだった。


 クリスティーナの魔眼に対する問いだろう。


 だが、


「それはこちらの台詞だな。今の力は、なんだ」


 と、俺も問う。


 しかし当然、返答は無い。


 あいつは危険だ。全力で倒す必要がある。


 そう判断し、お互いがより深く、構えを取る。


 クリスティーナと俺でレオをかく乱している内にシンシアとオヌシでもう1人の護衛を制圧。その後、4人でレオを無力化する。これが最も確実な勝ち筋。


 そう、決意を固めたと同時に、


「おおおおおまああああちいいいいくううううだああああさあああああれええええええええええ!!!!」


 その奇声が、室内に響き渡った。いや、近隣住民にも響いた事だろう。


 その僅か後に、俺達とレオの間に、やたら小さい何かが転がり込んできた。それは――土下座体勢のゼグズビーであった。


「…………」


 敵が丸まって土下座している、という状況に、思考が止まる。


 だが、すぐに「こういう罠かも!」と思い至り、気を引き締めて


「お待ちくだされお待ちくだされお待ちくだされ、本当に、本当に! ホンットウにっ!! 申し訳ございまえんでしたああああああああ!!」


 引き締まんねぇよ、この状況。


 だってゼグズビーさん、土下座だけじゃない。涙と鼻水垂らしながら謝罪してるんだもの。


 どうしたの、この人。


「気付きませなんだ! 気付きませなんだ、どうかご容赦を! アルメル・オース・ファラン様、並びにその妻、クリスティーナ・レイ・ルーサー様! あなた様方と事を構えるつもりなど微塵も、微塵もございません! 何かの間違いだったと思って、何卒ご容赦を!」


 言われてみれば、門番には名乗ったけど、こっちには名乗ってなかった。これは、俺の不手際だ。頭に血が上っていたせいで、申し訳ない事をした。


 つまり、ゼグズビー質店は、俺が最初に名乗っていれば抵抗はしなかったらしいという事がこの時点で分かったわけだが……。


「それなら、ひとまずは説明をしてもらいましょうか? この状況はいったい……」


 言いかけて、俺の言葉が止まる。異臭がしたためだ。


 硫黄の匂いに近い。すぐさま毒だと認知する匂いでは無いが、不快な匂いが部屋に充満している。


 罠か! と思い、匂いの元を探して部屋を見回したら……その……なんというか……。


 …………椅子の後ろに隠れていた女性が、仰向けに倒れて、目を回して気絶して、そのついでに、失禁していた。


「…………」


 一同、絶句である。


 なに、このカオス。


「あの……」俺は少々恐縮になりながらも、尋ねた。「――どうなってるの、この状況」

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