起死回生のアイデアと戦闘
「うぐ……」
「ううう……」
「あれ、熱が……」
「もう苦しく、ない?」
毒素を吸い終えて、俺は手を引っ込めていく。
次々と道端に倒れたみんなが起き始める。みんなそれぞれ毒に侵された時間が違うので、消耗具合も異なってる。割とすぐに動けそうな人も多い。
けど、何がどうなって倒れてしまったのは分かってないようだ。
「動ける人は動くのが辛い人をサポートしながら、冒険者ギルドへ! そこで水を配ってるから! 絶対に町の水とかは飲むなよ! 毒だからな!」
俺はそう言い残して、次の角を曲がり、また倒れている人たちへ形状変化させて手を伸ばしていく。悪いけど、返事をまってる余裕はないし、詳しく説明はしてやれない。
「お、おい、アンタ何を……」
それでも追いかけてくる人はいた。そういう奴等には仕方ないので軽く説明する。
「解毒だよ。町に毒がばら撒かれたんだ」
「ど、毒って……!」
「あんたもついさっきまで倒れてただろ。それと、上空見てみろ」
口が荒くなるのは、そこまで気が回らないからだ。
見上げさせると、そこではフォルトと白蛇が激しい戦闘を繰り広げている。音がやってこないのは、フォルトが結界を展開したからだ。
けど、確かに激しい戦闘は行われている。
巨大なドラゴンと、それを上回るサイズの白蛇との激突。
音がこなくとも、凄まじいものがある。
「ひぃいっ!?」
「分かったなら、早くいってくれ。少しでもみんなを助けるためだ!」
「わ、わわ、わかった!」
慌てて逃げていく住民たち。それでいい。
俺は滲みでる汗をぬぐって、次の人たちを助けるべく、形状変化させる。手あたり次第、見つけ次第だ。……けど。
さすがに規模の大きい町だけあって、キリがないぞ。
俺たち全員でかかってるけど、まだまだ倒れている人の方が多い。
俺はちらりと上空の戦闘を観察する。
フォルトは炎を吐き、雷鳴を轟かせ、暴風を撒き散らして氷を生み出す。
おそろしいまでの多芸だが、その全てを白蛇はさばいていく。どっちに余裕があるか、なんて明白だった。
それでも戦闘にのめりこんで楽しんでいる様子のフォルトは肝が据わっている。
気力での戦いなら負けてない。でも、白蛇が本気でフォルトを殺しにかかったら、長時間はもたない。それは、戦いになれてない俺でも分かった。
だからこそ、白蛇はなぶり殺しを選んでいるのだろう。
じっくり、じわじわとフォルトを弱らせて、絶望させる。意地の悪い戦いだ。
「くそ……」
そのいたぶる時間もそう長くは続かない。
フォルトの全力戦闘可能時間が短いからだ。フォルトは今呪いを受けていて、食べ物からでしか魔力を補給できない。戦闘中に摂食なんて無理だ。いくらドラゴンとはいえ、補給する手段がなければ、いずれ力尽きる。
そのタイムリミットまでに、町の人たちを助けられるかどうか。
これは賭けだ。
俺にはその正確な時間が分からない。だからこそ、不利な賭けを強いられている。
『このままじゃ間に合わない可能性が高いよ、マスター』
『どういうこと?』
『ギルドの連中を助けたんだけど、その中に《分析》スキル持ちがいて、上空の戦闘を分析してもらったんだけど、かなりの確率で、五分以内に戦闘が終わるそうなんだ』
グッジョブ! といってやりたいが、なんとも悪いお知らせである。
『マジか。フォルトはドラゴンだぜ?』
『けど、加速度的に魔力が消費されていってるみたいだ』
ってことは、フォルトのやつ、かなり無理してるのか。
お願いしたのは俺なので、もちろん責任は俺にある。フォルトを見殺しになんてできない。くそ。白蛇から先に始末するか?
『それだけじゃないよ、マスター。毒も変化してるようだ』
『こっちはチョビとフェリスの解析なんだけど、変異していってるみたいだ』
「なんだって?」
そんな思考を遮るように(たぶん、『俺』たちは分かってたと思う)報告が入った。
嫌な予感どころの騒ぎじゃねぇぞそれ!
『このまますると、一〇分で《猛毒》に発展する。そうなったら、本格的にヤバい』
――ぎりっ。
歯ぎしりを、俺は止められなかった。
冗談じゃない。《猛毒》なんて、下手しなくても、一時間もしないうちに死に至るとんでもない状態だ。
そうなったら、手がつけられない!
ふざけんなよ。
俺は、俺たちは三〇〇人もいるんだぞ。それなのに、助けられないって、どういうことだ。ふざけんな、ふざけんな!
頭に血がカッと上昇してきて、俺は我慢する。
ダメだ。今ここで冷静さを失ったら、余計に相手の思うツボだ。
俺は何度も頭をふって、考える。
「このまま地道に助けていっても犠牲者は出る……だったら、一度で全員を助けるしかない……となると、巨大化か何かでもしないと……」
――可能、かもしれない。
独りごちながら、俺は可能性に気付く。
すぐにスキルウィンドウを開いて、ねらい目のスキルを見つけた。ほとんど同時に、『俺』たちが集結を始める。
今は、コレに賭けるしかない!
俺は即座に意識を高める。
魔力を使い、全身を形状変化させながら巨大化していく。俺の姿は、魔力を使えばサイズ調整可能なのだ。今までは小さくする方向で使ってたけど、こうやって巨大化もできる。
でも、それも限界はやってくる。
そこで、である。
同じように巨大化した『俺』たちが走ってきて、俺にとびついてきた。
「――《同化》!」
俺はひっつかれると同時にスキルを発動させ、『俺』たちと合体する。
すると、一気にサイズが増えた。同時にまた巨大化が可能になって、俺は更にサイズアップしていく。
おお、と、周囲でどよめきが走った。
助けて目覚めた人たちが、いきなり大きくなった俺にビビっているのだ。
「な、なんだ、あれ……!」
「でっけぇ……!」
「あれ、俺たちを助けてくれた亜人族じゃねぇか……」
説明してやる時間はない。とりあえず俺は、みんなや町の被害が出ないようにするため、魔力を使って空へ浮かぶ。『俺』たちも同じ考えのようだ。
次々と合体してくる『俺』たちに比例して、乗単位で俺は巨大化していく。
全員と合体を終えた頃には、俺はスライム状に変化し、町全体を覆っていた。
――よし、これならいける!
けど、時間が押しているのも事実だ。俺は素早く《索敵》を使い、次々と触手を伸ばしていく。ちょっと周囲からしたら町を侵食しようとしてるみたいで、かなりのホラーな絵面かもしれない。
でも、これしかないからな!
「よし、接続……完了っ!」
無数に伸びた触手は町にいる人たち全員を捉えた。
知覚して、すぐに俺は《毒素》の吸出しを急速に行う。一気にとんでもない量の毒素が俺の体内に入ってくるが、全て無毒化させた。
『――バカなっ!?』
そんな様子を見て、驚愕したのは白蛇だった。
っていうか、声が届いたってことは、結界が解除されたのか。
妨害があるかなと思ってたけど、フォルトが予想以上に頑張ってくれていたらしい。あとで美味しいご飯を食べさせてやらないとな。
内心で決めつつ、俺は白蛇に注目する。
これで住民は助かった。
後は――コイツをぶっ飛ばすだけである。
『はっはは、はははははは! さすが我が主よ! こんな短時間で、本当に町の住民たちを全員助けてみせおった! 真の勇者よ!』
大笑いをあげたのは、ボロボロになったフォルトだ。もう飛んでいるのもやっとって感じである。
勇者とかそんな器じゃないので、その褒め言葉は無視する。
「おい、そこの蛇! なんでこんなアホみたいなことをしたんだ!」
声を張り上げて問い詰める。
『はっ! この町の住民どもを喰らい、我が神としての威厳を示そうとしたまで!』
「……本当にアホだった!」
『貴様、言うにことかいて本当にアホだったとはどういうことだ!』
思わずツッコミをいれてしまうと、白蛇は蛇な顔を赤くさせて抗議してきた。
いや、だって。
「神の威厳を示すも何も、全員殺したら意味ないだろうし、ここはかなり大きい町だから、そんなことになったら色んなとこから討伐隊がくるぞ」
俺の現実的な意見に、白蛇は一瞬だけ目を点にさせた。
『……ふん! そうだとしても、全員仕留めてやるまでよ! そう、貴様のようにな!』
声をはりながら、白蛇は俺に向けて口を開け、そこに光を収束させた!
うげ、仕掛けてくるつもりか!
次回の更新は明日か明後日です。
応援、どうかお願いします!




