戦いの予感
毒の吸出しが終わると、ステータスウィンドウが表示された。新しいスキルを習得したらしい。
──《毒素吸収》
もう解説がいらないくらいそのまんまだな。
でも都合いいや。
考えてると、フェリスとチョビが目を覚ます。
「うっ……?」
「毒が、消えた……?」
不思議そうな顔を見せる二人。
「あれだけの毒なのに、全然体力が消費して、ない……?」
まぁそりゃそうだろう。俺は毒素を吸い取って毒を引き受けただけだ。むしろ魔力を循環させてる分、ちょっと活性化してるかもしれない。
いや、とにかく今は問題はそこじゃない。
「フェリス、チョビ、動けるか」
「は、はい」
「どうしたんだ、兄貴」
ちょっと面食らったような表情になるが、二人はすぐに顔を引き締めた。
「毒の原因は水だ。しかも飲料水とかにも使われてる。いつから仕込まれたか分からないけど、下手したら――いや、下手しなくても、町のみんなが毒におかされてる可能性がある」
「「ええっ!?」」
驚く二人。無理はない。
俺は、ひりつく喉をさすりながら続ける。あれ、ひりつく? ――まさか。
俺は一つの可能性に至りつつも、次の言葉をつむぐ。
「このまま放置しておける毒じゃないってのは、二人も分かってるよな。そして、俺は解毒の方法を見つけたから、それを利用してみんなを助けにいく」
「私たちも協力してってことですね」
「そうだ」
「分かりました。任せてください! フェリス、がんばります!」
「俺もがんばるぜ」
話が早くて助かる。
両手をあげるフェリスに、胸を叩くチョビ。頼りになる。
「けど、そんな簡単にみんなを毒におかせるもんかね?」
「たぶんだけど、可能だと思います」
おばちゃんの疑問に、俺は答える。
「おばちゃん、喉がすごくかわきませんか?」
「……言われてみると、確かに」
「それです」
俺は指をたてながら解説する。
「たぶん、この町全体が、そういう影響を受けてるんだと思うんです」
「影響? そりゃ、呪いか何かってことかい?」
フェリスが魔法で生み出した安全な水を口につけつつ、おばちゃんは訝る。
俺は黙って頷く。
すでに『俺』たちが周囲に散らばって《索敵》しつつ観察もしている。もう町中に倒れている人たちが溢れている状況だ。ほぼ確定と思っていい。
事態は一刻を争う。
俺はフェリスからもらった水を飲み干して立ち上がる。
「とにかく助けにいこう。フェリス、チョビはタッグを組んで、冒険者ギルドの方へ。あそこで倒れてる連中を先に助けたら、少しは助けになるだろ」
「そうですね」
「わかった、すぐにいくよ」
当然二人だけでいかせるのは不安なので、護衛として何人かの『俺』たちもついていく。 今は広範囲に広がって、どんどん助けていくのが急務だ。
問題は助けた人が目覚めた時、喉のかわきを訴えてくるだろうことだ。フェリスの魔力にももちろん限界がある。それの対策を見越して冒険者ギルドからの救助をさせるが、それでも全体をカバーするには至らないだろう。
となると、元凶の解決が必要だ。
これは賭けになる。
あくまで、仕掛けた相手が、白蛇――フォルトにちょっかいをかけたヤツだと仮定しての行動になるからだ。一応、推定できるだけの状況ではあるのだが。
「フォルト」
『む。俺にも何か仕事があるのか?』
「ああ。上空に出て、白蛇にちょっかいをかけてくれ」
俺の提案に、フォルトが首をかしげた。
『どういうことだ?』
「そんまんまの意味だよ。今回の犯人が白蛇だった場合、フォルトの呼びかけに応じるだろうからだ。もし違ったとしても、主犯格が出てくるように仕向けてほしい」
一応の保険はかけておく。
『……つまり、俺様がそいつと戦え、と?』
「そうだ。ドラゴンであるお前がそうそう負けるはずがないだろ? 元凶をとっとと潰す方がさっさと解決するからな、色々と」
『なるほど。任せろ』
実に好戦的な笑みを浮かべて、フォルトは外に出ると、翼を広げて上空へ飛んだ。俺もそれについていく。おばちゃんは当然留守番である。
見る間にフォルトはそのサイズを本来の姿へと戻していく。
そして。
『グォオオオオオオオオオオオオオンッ!!』
ドラゴンの咆哮が響き渡った。
空震さえ呼び起こす魔の声は、周囲を痺れさせる。
『このような浅ましくみすぼらしい真似をするグズよ! 俺様と勝負しろ!!』
ドラゴンの魔力のこもった声は、それだけで破壊力がある。
当然、白蛇にも届いていることだろう。
『それとも、陰で裏でコソコソしかできないから、出てもこれないか? なんとも情けないことよ! その身に宿った神性はただのおためごかしか!』
煽るだけ煽る言葉。
俺はそれを耳にしつつも、道端で倒れている人の毒素を吸い上げていく。
一人ひとりを相手にしてたら時間がもったいないな。一気にやるか。どうせいくら毒を吸っても、もう俺にはきかないんだし。
俺は形状変化させ、指を肥大化させながら各々に伸ばしていく。
ぐっと意識を集中させて毒素をどんどんと吸い上げていく。町中に散らばった『俺』たちも同じようなことをしている。
とにかく今は助けていかないと。
『キサマ……劣等種の分際で、この私を愚弄するか!』
救助に専念していると、上空で声がした。
見上げると、フォルトの詰め寄っていく、一つの影。
そのフォルムは明らかに蛇。だが、その大きさはフォルトさえ凌ぐものだった。って、大蛇とか、そんな次元じゃなぇだろ!
だが、フォルトはそんなのお構いなしとばかりに悠然と笑む。
『ほう、この俺様を劣等種と呼ぶか』
『当然であろう。我は神の化身ぞ』
そう昂る蛇は、白い肌を輝かせた。
『何よりも、この我の呪いを受けている状態で、キサマがこの我に勝てるはずがない。その程度も分からずに吠えるとは、劣等の何ものでもあるまい!』
『はっ。そんなもの、やってみなければわかるまい』
『下らぬ強がりだ。そんなにその身を滅ぼしたいのであれば、叶えてくれようぞ!』
白蛇は怒り猛ると、その牙を剥いてフォルトへ襲いかかる。
空中を這うように、だが、素早く。滑らかに。
動きの読みづらい軌道だ。
『下らぬなっ!』
だが、フォルトが上回る。
全身を炎で纏って防御を取り、むしろ白蛇へ突っ込んでいく。
『たかだか炎程度でっ! 《火消しの呪咆》!』
白蛇が魔法を発動させる。直後、フォルトの全身を包んでいた猛火が消えた。
隙をついて、白蛇はフォルトの腕に咬みつく。
――だが。
フォルトの硬すぎる皮膚には届かない。
それを示すように、フォルトはその腕を振り回し、白蛇の牙を強引に外した。
『いっただろう。その程度では俺様の皮膚一枚傷付けられん!』
叫ぶように猛り、フォルトは自らの身体を激しく動かし、空気の乱れを作り出す。
熾烈な戦いが、始まった。
上空で、幾つもの衝撃音が重なる。
「今は治療に集中集中」
観察しつつも、俺はどんどんと町の人たちを助けていく。
まずは人命救助。
その後、フォルトに参戦すればいい。そこまでは持たせてくれるはずだ。
「さぁ、一気に吸うぞ」
俺と『俺』たちは、加速度的に町の人たちを助けていった。
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