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襲撃と治癒と

5000PV突破しました。

 お金がない。

 現実世界だと、俺はかなりの貯金があったんだけどなぁ。ブラック企業勤めをなめてはいけない。私生活がないに等しいので、少ない給料でもガンガン溜まっていくのである。

 なんて現実逃避している場合じゃあない。


「どうする? 俺もお金なんてねぇぞ」

「……そういえば。召喚してそのまま里にこられましたものね……」

「俺はタダ働きさせられてたからなぁ」


 ――やっばいな、これ。

 俺は直感で悟ると、すぐに行動へ移す。この場合でいえば、とりあえず脱出である。

 情けないながら、俺たちはこそこそと列から離脱。

 近くの草原で座り込んだ。


 こういう時は作戦会議。それに限る。


 当然『俺』たちにも出張ってきてもらう。

 思考回路は同じだけれど、同じ思考回路だからこそ高速化できるのだ。後、偵察。

 とりあえず現場からの脱出を最優先したので、実際に町へ入るのにいくらかかるか確認できていなかったのだ。なんとも恥ずかしい。


「とりあえず、どうする?」


 あぐらをかいで、俺は膝を叩く。

 困り顔はフェリスだった。


「どうしましょう……」

『とにかく、お金を稼ぐ方法ってことでしょ?』

『やるとしたら、どっかで依頼受けるってのが基本になるんじゃないの?』

「いえ」


 すぐに『俺』たちが提案するが、フェリスが気まずそうに小さく首を横に振った。


「冒険者ギルドを通さない依頼は違法です」


 俺たちはその冒険者ギルドに登録しにきたんだけどな!


「もし見つかったら、まずギルドに登録できなくなりますね……」

「だろうなぁ……」

『金を稼ぐとしたら、どんな方法があるんだろうな』

『簡単な商売とかは?』

「小売り商売をするなら、何かしらの商協会に所属して許可と身分証明を受ける必要があります」


 そして当然、そのためには町に入らないといけないワケだ。


『だろうなぁ……』

『軽く無理ゲーでは』

『他に稼ぐ方法があるとしたら……誰かに雇われるってトコか』

「そうですね、町へ入るのに税金を取らないような小さい町か村で、なら……」

『でもそういう場所って需要あるの……?』


 おそるおそる訊くと、フェリスは首を横に振った。ですよね。


「後は、許可を取ってる行商人が交渉してくる場合、か?」

「そうですね。その場合、受け手に許可は必要ありません」

「けど、そんな行商人が売ってくれって言ってくるようなもん、持ってるか?」


 当然、全員が頷くはずがない。

 行商人が飛びついてくるとしたら、希少な鉱物とか薬とか、あとは宝石類とかか。

 んなもん持ってるワケねぇし。


「これは割と詰んでる状況か?」


 けど、ここをなんとかしないと前に進めない。


「何か、何か打開策は……」


 ぐっと思考を潜らせようとした、その時だった。

 ――音が、聞こえた気がした。

 空耳か? と思ったが、チョビやフェリスはもっとハッキリ聞こえたらしい。フェリスは全身で警戒を露わにし、チョビは縮こまり、あからさまにガタガタと全身を震えさせる。


「おい、どうした?」


 俺はちょっと困惑して声をかけると、フェリスが俺に飛びついてきた。

 尋常じゃない怯え方だ。

 異変は二人だけじゃあなかった。

 行商人たちが連れている荷馬たちが叫び、周辺から鳥たちが逃げていく。一気に気配という気配が遠ざかっていくせいで、人間たちにもその異様な状況が伝播していく。


『マスター、上だ!』


 咄嗟に《索敵》スキルを全開にしていたらしい何人の『俺』たちが上空を指した。ただならぬ様子に見上げると。


 ――それはいた。


 巨大な、流線形なのに刺々しいフォルム。爬虫類にしか見えない、けど、鋼鉄より硬いだろうと容易に想像できる鱗。禍々しい、悪魔のような羽根。この世の全てを噛みちぎるんじゃないだろうかと思うような、鋭い牙に、睨まれるだけで殺されそうな瑠璃色の双眸。

 こ、これって。

 俺は顔をひきつらせた。


 ――ドラゴンだ。


 うっわぁ。マジか。マージーか。

 アニメとか小説とか漫画とか、そういった世界のモノの象徴が、今。


『グルゴアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


 めっちゃ吠えた。

 ってえええええええええっ!?

 咆哮が暴風になりやがった!?

 俺は慌ててフェリスを抱きしめ、チョビを引っ掴む。同時に両足を形状変化させて地面につき刺し、『俺』たちと同化して更に固める。


 ギリギリ、間に合った!


 目をとじた瞬間、暴風が襲ってくる。

 ごう、と耳が圧迫されて、潰されてしまいそうになった。


 うおお、きっついな!


 小さい頃、台風が直撃する真っただ中、外に出たことを俺は思い出していた。

 あの時もぶっ飛ばされそうになったなぁ。

 なんて感慨にひたってる場合じゃない!

 必死に耐えていると、俺のすぐ真上をドラゴンが通過していった。


「きゃあっ!」


 また風圧が襲ってきて、フェリスが必死にしがみついてくる。


「な、なんなんだ……!?」

「フォートドラゴンだ!」

「な、なんでこんなところに!」


 暴風の中、焦った人々の声が入ってくる。


「ドラゴン、か……」


 風がようやく収まる。

 落ち着いたタイミングで俺は同化を解除し、元の姿に戻る。ゆっくりとフェリスを離してあげると、服に皺がよるくらいに強く握りしめていて、その手には汗がびっしょりだった。

 うわ、顔色も真っ青だ。


「フェリス、大丈夫か?」

「え、あ……はい」


 なんとかフェリスは笑顔を作るが、耳がぺったんこである。

 ドラゴンって、こんなに恐怖を撒くものなのか。っていうか、まぁ当然か。


 完全感覚共有で、すぐに調査へばらけた『俺』たちから情報がもたらされる。


 というか、俺の周囲だけでも被害の状況が分かる。

 草木は薙ぎ倒され、人も馬も荷物もバラバラだ。本当に容赦がない。一応、『俺』たちからの情報では死者はまだいないようだが、怪我人はかなり出ているようだ。


「こりゃ、ほっとくワケにはいかない、か」

『そうだよね』

『じゃあバラけるってことで』

『でもこれだけ俺たちがいたら怪しまれねぇか?』

「そこは、分身か何かってことで。魔法でそれっぽいのあるだろ」


 確認の意味をこめてフェリスを見ると、フェリスはこくこくと頷いた。


「た、確かにありますっ」

「じゃあ、そういう手筈で。一気に治癒するぞ」

『『おうっ!』』


 俺はすっとルームキーをスラッシュし、残りの『俺』たちを呼び出す。

 さて、と。

 俺は近くで荷物ごと横倒しになっている荷馬を助けおこす。


「ケガしてるな、任せろ」


 俺は声だけでなく、テレパスも使って語りかける。

 どうやら馬に通じたらしい。馬は大人しくしたが、後ろ左脚を庇うように持ち上げていた。あ、これ、折れてる?


 馬の骨折ってヤバいって聞いたことがある。


 俺はすぐに《治癒粘液SSS》を使うことにした。

 そっと手を宛がい、じわっと手のひらから粘液を出す。

 淡い光が生まれて、骨折部分が修復されていく。おお。さすが最高ランク。あっという間に治っていくぞ。

 俺は確かな手ごたえを感じてから、そっと手を離した。


「よし、これで大丈夫だ」


 ぽんぽんと撫でてやると、馬は嬉しそうに鳴いた。

 次は、地面に倒れこんでるこの馬の主っぽい人だな。中年の親父だ。こっちはあちこち打撲してるし、腕がぽっきり明後日の方向に向いてる。

 み、見てるだけで痛々しい。


「大丈夫か? 今治してやるからな」

「う、うう、い、痛ぇよぉ……」


 意識も朦朧としているらしい。

 俺はすぐに中年の親父に手を翳し、《治癒粘液SSS》を実行する。

 光はきらきらと降り注ぎ、これもすぐに怪我を治していく。十秒と待たずに、腕の骨折も全身の打撲も完全に治癒した。


 おお、これ、本当に強力なスキルなんだな。


 ぱっ、と、呻いていた中年の親父の顔が変わる。

 痛みが消えたからだろう。


「お、おお、おおおおっ?」

「大丈夫か?」

「あ、ははい! あなた様が治してくださったので……?」

「まぁそういうことかな」

「す、すごい! 怪我どころか、ずっと苦しめられていた腰痛も治っておる! あなた様は聖人か何かですか!?」

「いやそんな大したことは……あれ?」


 俺はさっと寒気がした。

 これ、もしかして、なんかとんでもないことしちゃってる?


次回の更新は明日です。

応援、よろしくお願いします。

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